小児期崩壊性障害とは?症状・原因・治療法・療育法は?他の障害との違いは?

小児期崩壊性障害とは、それまで明らかに定型発達していたのに突然、成長の過程で覚えた言葉や排泄能力などを失い、最終的には知的障害を伴った自閉症のような状態になる障害です。
小児の0.005%に発症するまれな障害であり、発症前までは元気に成長するため、戸惑うご家族も多くいらっしゃいます。この記事ではその特徴や原因、類似している障害との比較を紹介します。

小児期崩壊性障害とは?
ヘラー症候群、幼児性認知症、崩壊性精神病、共生精神病とも呼ばれるこの障害は、小児の0.005%に発症するまれな障害であり、男性に多いとされています。
広汎性発達障害が含む5つの障害とは、自閉性障害(自閉症)、アスペルガー症候群、レット障害、小児期崩壊性障害、PDD-NOS(特定不能の広汎性発達障害)を指します。
しかし、2013年に出された、この診断基準の改訂版である『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)において、小児期崩壊性障害は自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害というカテゴリに包括されました。
そのため、現在は小児期崩壊性障害という診断名が下されることは少なくなりつつあります。
とはいえ、すでにこの名称で診断を受けた人も多いこと、行政などで小児期崩壊性障害の名称を使用している場合も多いことから、本記事では『DSM-Ⅳ-TR』において定義されている小児期崩壊性障害についてご説明します。
小児期崩壊性障害の定義
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4260118897小児期崩壊性障害の基本的特徴は,少なくとも2年の見かけ上正常な発達の期間に引き続く,多くの領域の機能における著名な退行である(基準A).見かけ上正常な発達は,年齢に相応した言語的および非言語的コミュニケーション,対人関係,遊び,適応行動に示される.生後2年以降(しかし10歳以前に),子供は,以下の各領域の少なくとも2つにわたり,以前に獲得した技能の臨床的に明らかな喪失を示す:表出性または受容性言語,対人的技能または適応行動,排便または排尿のコントロール,遊び,または運動技能(基準B).最も典型的には獲得された技能はほとんどすべての領域で失われる.
この障害をもつ者は,自閉性障害をもつ者に広く観察される,対人的およびコミュニケーションの欠陥と行動的特徴を示す(82頁参照).対人的相互反応(C1)およびコミュニケーションにおける質的障害(C2),限定的,反復的,常同的な行動,興味,活動の様式(基準C3)がある.障害は他の特定の広汎性発達障害または統合失調症ではうまく説明されない(基準D).この状態は,ヘラー症候群,幼児痴呆,または崩壊性精神病とも呼ばれてきた.
参考文献:高橋三郎ら/訳『DSM‐IV‐TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』2003年 医学書院/刊
小児期崩壊性障害は、他の診断基準ではどう扱われているの?
ここでは、小児期崩壊性障害に相当する症状が、別の診断基準ではどう診断されるのか紹介します。
・『DSM-5』における小児期崩壊性障害
『DSM-Ⅳ-TR』の改訂版であり、2013年に発行された『DSM-5』において、小児期崩壊性障害は自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害というカテゴリに変更されています。
世界保健機関(WHO)が定める『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)(※)(以下、本文中の表記は『ICD-10』とする)という診断基準では、『DSM-Ⅳ-TR』における小児期崩壊性障害は「他の小児期崩壊性障害」というカテゴリーに相当するとされています。
『ICD-10』で言われる「他の小児期崩壊性障害」の概念・診断基準と『DSM-Ⅳ-TR』における「小児期崩壊性障害」の概念・診断基準はほとんど同じとされています。
※ICD-10について:2019年5月、世界保健機関(WHO)の総会で、国際疾病分類の第11回改訂版(ICD-11)が承認されました。日本国内ではこれから、日本語訳や審議、周知などを経て数年以内に施行される見込みです。

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小児期崩壊性障害の3つの特徴
1. 発症時期は2歳から10歳までの間で、それまでは明らかに正常に発達する
2. 発症後、それまでの成長で覚えたことを喪失していく
3. 発症後は自閉症と似たような症状を示す
という3つの特徴があります。
以下において、小児期崩壊性障害の3つの特徴についてそれぞれ説明します。
1. 発症時期は2歳から10歳までの間で、それまでは明らかに正常に発達する
小児期崩壊性障害は、2歳から10歳までの間に発症します。発症までは、言語的および非言語的コミュニケーション、対人関係、遊び、社会適応における年齢に相応した正常な発達が続きます。つまり、定型発達の子どもと同じように順調に成長していくのです。
2. 発症後、それまでの成長で覚えたことを喪失していく
発症後、成長の過程で覚えた能力を失います。以下の能力のうちの2つ以上を失うとされています。
・言葉の使用と理解
・対人的技能または適応行動
・排便または排尿の機能
・遊び
・運動能力
発症の前兆として、よく動いたり、イライラしたり、不安になったりすることがあります。また、言語やその他の能力の喪失の兆しや、周りの環境に対する興味、関心が薄くなることもあります。
これらの能力が失われていく期間は、多くの場合数ヶ月で止まります。その後は、能力が失われた状態が一生にわたり続きます。しかし、脳や神経の病気もある場合には、これらの能力は失われ続けるとされています。
3. 発症後は自閉症と似た症状を示す
小児期崩壊性障害は発症後に、以下に説明する自閉症(『DSM-Ⅳ-TR』では「自閉性障害」)にみられる3つの特徴のうち少なくとも2つの特徴が当てはまるとされています。
(1)対人的相互反応における障害
・目と目で見つめ合う、顔の表情、体の姿勢、身振りなどの非言語的な行動ができない
・他人と満足のいく関係を築けない
・対人的ないし情緒的な気持ちのやりとりの困難
・他人の気持ちの共感・理解の困難
(2)コミュニケーションの障害
・話し言葉の発達の遅れ、または完全な欠如
(身振りや物まねのような代わりのコミュニケーションの仕方により補おうという努力を伴わない)
・会話の頻度が高い場合、他人と会話を開始し、継続する能力の明らかな障害がある
・常同的で反復的な言語の使用または、独特な言語
・発達の水準に相応した、変化に富んだ自発的なごっこ遊びや、社会性をもったものまね遊びの欠如
(3)運動性の常同症や衒奇症(げんきしょう)を含む限定的、反復的、常同的な行動、興味、活動の型
・特定の習慣や儀式にかたくなな興味をもつこと
・特定の対象に持続的に熱中すること
・芝居じみた挨拶や身振りを繰り返すこと
・複雑な全身の動きを続けるなど、型にはまった同じ運動を不自然に繰り返すこと
小児期崩壊性障害の原因
現状では、脂質代謝異常や結節性硬化症など、さまざまな疾患と関連があるのではないかと考えられています。

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小児期崩壊性障害と似ている障害
・小児統合失調症
統合失調症は妄想や幻覚などの症状が続く疾患です。ほとんどが思春期以降の発症ですが、まれに幼いころに発症することがあります。小児統合失調症の症状にも感情的な反応の欠如が見られるなど、小児期崩壊性障害と似ている症状が見られることがあります。
・認知症
小児期崩壊性障害と似ている障害として、成人期における認知症があげられます。しかし、小児期崩壊性障害は、頭部外傷などの身体的な要因が原因ではないこと、技能喪失の後ある程度の回復がみられること、自閉症に典型的にみられる特徴がみられることなどの点において認知症とは異なっています。
・自閉症
小児期崩壊性障害にも自閉症のような症状がみられます。しかし、自閉症も発達の遅れがみられるとはいえ、一度獲得した技能を失う退行は見られない点において異なっています。
小児期崩壊性障害かな?と思ったら…
相談窓口
・児童発達支援事業所
・発達障害者支援センター
・児童相談所
など
児童相談所などでは無料で知能検査や発達検査を受けられることも多いので、児童相談所で相談するパパ・ママも多くいます。まず身近な相談センターに行って、診断をすすめられたら、そこから専門医を紹介してもらいましょう。自宅の近くに相談センターがない場合には、電話での相談にのってくれることもあります。
以下のリンクにおいて全国の発達障害者支援センターを検索できます。

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医療機関
小児期崩壊性障害の診療が可能な診療科は、小児科、精神科、児童精神科、小児神経科、心身医療科、心療内科、発達障害外来など、病院により様々な名前となっています。
どの病院に行けばいいか少しでも迷った場合は、まずは市町村の窓口や都道府県等の発達障害者支援センター等の相談窓口に電話で相談することをおすすめします。
発達障害の専門機関は他の病気に比べると少ないですが、発達障害者支援法などの施行によって年々増加はしています。
以下のリンクは発達障害の診療を行える医師の一覧です。この他にも、児童精神科医師や診断のできる小児科医師もいます。担当者との相性も大切なので、納得のいく医療機関を選ぶようにしましょう。
本人や保護者に対する問診(面接)や行動観察、家族・学校の先生による提供情報の精査などを行う他、専門機関によっては筆記や口頭質問などを通した知能検査や発達検査などを実施する場合もあります。こうした様々な情報を総合的に評価して、診断がくだされます。検査は複数回に分けて行なわれたり、慎重に経過を見ながら行われるため、一度の受診ですぐに診断されることはあまりありません。
知能検査は、田中ビネー知能検査Ⅴ(ファイブ)やウェクスラー式知能検査(3歳10ヶ月〜7歳1ヶ月の幼児の場合は「WPPSI」、5歳から16歳11ヶ月の子どもは「WISC」、16歳以上の成人の場合は「WAIS」)などの検査を受けることによって検査結果がでます。特性の現れ方や発達段階などを評価するため「CARS」や「新版K式発達検査2001」、「PEP-R」などを行う場合もあります。
・診断に必要な準備や持ち物
初診時に必要な物として保険証、子どもであれば母子手帳などがあります。服用中の薬などがあれば、お薬手帳なども持っていくとよいでしょう。また、生育や発達歴についての問診がありますので、言葉を話し始めた時期や日常生活での困りごとなどをメモして持っていくと質問に答えやすいかもしれません。
発達外来などの専門機関によっては保育園や幼稚園の連絡帳、小学校の通信簿やホームビデオなどを参考にする場合もあります。事前に問診票をプリントアウトして持参する機関もありますので、専門機関の公式ホームページをチェックしたり、予約時に電話にて必要な持ち物を問い合わせてみてください。

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小児期崩壊性障害は治療できるの?
療育
療育は何歳からでも始めることができ、なるべく早くから通うことが推奨されます。療育とは、以下のように定義されています。
出典:http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/prdl/jsrd/rehab/r055/r055_018.html療育とは医療、訓練、教育、福祉などの現代の科学を総動員して障害を克服し、その児童が持つ発達能力をできるだけ有効に育て上げ、自立に向かって育成することである。
出典:療育と教育の接点を考える|障害保健福祉システムHP
薬物療法
薬物療法は、症状を一時的に抑えるためのものであり、症状が軽減している間に、教育や支援をあわせて行うと効果的であるともいわれています。

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小児期崩壊性障害の場合、障害者手帳は取得できるの?
・療育手帳
小児期崩壊性障害と診断されただけでは療育手帳付与の対象とはなりません。しかし、療育手帳を申請し、知的障害があると認められた場合は療育手帳が取得できます。

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小児期崩壊性障害は発達障害者支援法第二条において発達障害に指定されていて、さらに発達障害は精神障害に含まれます。そのため、小児期崩壊性障害により長期にわたり日常生活又は社会生活への制約があると認められた場合は精神障害者保健福祉手帳を受けることができます。

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まとめ
しかし、小児期崩壊性障害は他の広汎性発達障害と同じく、早期発見と早期療育、通院治療等を通した支援が可能です。
お住まいの地域の発達障害者支援センターなどの相談窓口や医療機関では、お子さんのことだけでなく、ご家族の方のためのアドバイスも専門家からもらうことができますので、お子さんの発達の仕方に何か違和感を覚えた段階で連絡をとることをおすすめいたします。
悩みや疑問を解消し、お子さんの特性を理解することで、適切な支援方法を探していきましょう。

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