素行障害(素行症)とは?症状や原因、発達障害との関連は?【専門家監修】

ライター:発達障害のキホン
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素行障害(素行症)とは、その年齢における社会規範に反する行為のいずれかが半年以上あり、かつ1年の間にそうした行為が複数みられる状態です。ADHD(注意欠如多動症)の二次障害として発症することもある素行障害(素行症)について、症状から周囲の対応法まで詳しくまとめました。

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監修: 藤井明子
小児科専門医
小児神経専門医
てんかん専門医
どんぐり発達クリニック院長
東京女子医科大学大学院修了。東京女子医科大学病院、長崎県立子ども医療福祉センターで研鑽を積み、2019年よりさくらキッズくりにっく院長に就任。2024年より、どんぐり発達クリニック院長、育心会児童発達部門統括医師に就任。お子様の個性を大切にしながら、親御さんの子育ての悩みにも寄り添う診療を行っている。 3人の子どもを育児中である。
目次

素行障害(素行症)とは?診断基準って?

素行障害(素行症)とは、その年齢における社会規範に反する行為のいずれかが半年以上あり、かつ1年の間にそうした行為が複数みられる状態です。※素行障害の読み方は「そこうしょうがい」、素行症は「そこうしょう」と読みます

社会規範に反する行為の例として、いじめ・喧嘩など人や動物に対して危害を加える行為、放火や他人の所有物の破壊行為、詐欺や不法侵入及び万引きなどの窃盗行為、13歳未満での夜間外出や家出・学校をさぼりる行為などが挙げられます。
診断にあたっては、こうした行為が、社会生活において障害を起こしているかが確認されます。

なお、10歳になるまでに特徴があらわれている場合を児童期発症型、10歳以降に症状があらわれた場合を青年期発症型と分類します。18歳以上(大人)の場合は反社会性パーソナリティ障害(反社会性パーソナリティ症)の基準を満たさない場合に限り診断されます。

※素行障害は現在、「素行症」という診断名となっていますが、最新版『DSM-5-TR』以前の診断名である「素行障害」といわれることが多くあるため、ここでは「素行障害(素行症)」と表記します。

年代別の素行障害(素行症)の分類、ADHD(注意欠如多動症)との関連は?

素行障害(素行症)には3種類あり、発症した年齢によって種類が分けられます。
◇児童期発症型
児童期発症型の素行障害(素行症)は10歳までに発症するとされています。児童期発症型は、女児よりも男児のほうが多く、相手に対して暴力的になることや、対人関係に困難さが生じることがあります。

また児童期発症型の素行障害(素行症)の場合、小児期早期に、反抗挑戦性障害(反抗挑戦症)の診断がされている場合が多いと言われています。早期の発症は、行動上の問題が続きやすい傾向があります。
◇青年期発症型
青年期発症型の素行障害(素行症)は、10歳になるまでに素行障害(素行症)の症状が見られないことが診断の条件です。成人後は、不適切な行動が消失しやすいと言われています。
◇特定不能の発症年齢
素行障害(素行症)の基準は満たしているが、発症年齢が10歳より前か後か分からない場合には、「特定不能の発症年齢」とされます。

ADHD(注意欠如多動症)との関連は?

ADHD(注意欠如多動症)の子どもの中には、多動や衝動性といった特性による言動が、その場の状況としては不適切な行動と捉えられることもあります。しかし、その行動自体が社会的なルールに反したり、他者の権利を侵害するようなものではないと考えられるため、通常は素行障害(素行症)の診断を満たすことはないと言われています。

一方で、素行障害(素行症)の子どもは、ADHD(注意欠如多動症)を併存することがあります。最初に素行障害(素行症)と診断された子どもの多くが、経過中にADHD(注意欠如多動症)も有するという研究結果もあります(Cant-well and Baker 1989)。
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ADHD(注意欠如多動症)の3つのタイプとは?【専門家監修】

素行障害(素行症)の主な原因

素行障害(素行症)の原因は、生物学的、心理学的、社会的要因、および発達上の要因が、複雑に絡み合っていると考えられています。

生物学的要因

素行障害(素行症)の生物学的要因としては、遺伝やホルモン因子、神経伝達物質の機能不全などさまざま考えられます。素行障害(素行症)における感情や行動の調整の難しさは、このような生物学的要因を含め、多数の要因が関連していると言われています。

例えば、素行障害(素行症)における遺伝的な要因は、まだ十分に解明されていはいないものの、少なくとも何らかの影響があると考えられています。一方で、子どもは大人よりも生活していく場や家庭・学校などを自分で選択することが難しいため、児童期・青年期の素行障害(素行症)は、心理学的・社会学的要因が強いのではないかという見方もあります。

また、ホルモンの変化が特に青年期の子どもの行動に影響を及ぼすことはよく知られています。例えばテストステロンが高い場合、より怒りっぽくなり攻撃的な行動を起こしやすくなることを明らかにした研究などもあります。

また、素行障害(素行症)のある少年について、デヒドロエピアンドロステロンおよびコルチコトロピン濃度が上昇しているという研究結果もあります。

その他にも、神経伝達物質の機能不全や自律神経系機能の低下など、さまざまな要因が考えられます。ただし、これらの精神生理学的な所見は、素行障害(素行症)の診断基準ではありません。診断は、原因に関係なく、行動基準に基づいて行われます。

環境要因

環境要因としては、家族に関する要因や地域や仲間関係、社会的立場などが考えられます。

例えば、以下のような要因が関連していることがあります。
・親からの拒絶や、育児放棄(ネグレクト)
・厳しすぎるしつけ
・身体的虐待、性的虐待
・仲間からの拒絶や非行グループとの関係
・地域で社会的に不利な状況にある、暴力にさらされる など

「反社会性パーソナリティ障害(反社会性パーソナリティ症)」との違いはあるの?

反社会性パーソナリティ障害(反社会性パーソナリティ症)は、他者の尊厳を軽視し、自分勝手な都合で衝動的(または無計画)に権利を侵害するような言動を繰り返すパーソナリティ障害(パーソナリティ症)です。社会的なルールや法律に反する行動をする、自分の利益のために繰り返し嘘をつく、自分や他者の安全を考えない、自分の行動で相手を傷つけても無関心である、計画性がなく衝動的で暴力を繰り返す、というような特徴のうち複数があてはまることが基準の一つです。対象者が18歳以上であり、かつ15歳以前に素行障害(素行症)を発症している場合に限り診断されます。またここでの反社会的な行動は、統合失調症や双極性障害(双極症)によるものではありません。

「素行障害(素行症)」と「反社会性パーソナリティ障害(反社会性パーソナリティ症)」の大きな違いは発症年齢にあります。素行障害(素行症)は10歳以下の場合も含まれますが、反社会性パーソナリティ障害(反社会性パーソナリティ症)の対象は、18歳以上とされています。18歳以上の場合は、反社会性パーソナリティ障害(反社会性パーソナリティ症)の基準を満たさない場合に限り「素行障害(素行症)」と診断されます。

「行為障害」との違いはあるの?

医療機関では、2023年に出版されたアメリカ精神医学会の『DSM-5-TR』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版改訂版)や世界保健機関(WHO)の『ICD-10』の基準を用いて診断されます。

「素行症」とは『DSM-5-TR』で主に用いられる疾患名です(本コラムはこれに照らし合わせ記述しています)。

※素行障害は現在、「素行症」という診断名となっていますが、最新版『DSM-5-TR』以前の診断名である「素行障害」といわれることが多くあるため、ここでは「素行障害(素行症)」と表記します。

これに対し、『ICD-10』では主に「行為障害」という疾患名が用いられていますが、診断基準や原因などに大きな差はありません。

しかし『ICD-10』は、「行為障害」の下位項目に「反抗挑戦性障害(反抗挑戦症)」を含めている点が、『DSM-5-TR』とは大きく異なっていると言えます。以下が『ICD-10』の行為障害に含まれる下位分類の例です。

1. 家庭限局性行為障害:
家庭や家族に対して、単に反抗的や挑戦的ということにとどまらない非社会的または攻撃的な行動を含む行為障害のことです。

2.非社会化型<グループ化されない>行為障害:
非社会的または攻撃的な行動が続いており、他の子どもとの関係が明らかに乏しいことが特徴です。

3. 社会化型<グループ化された>行為障害:
非社会的または攻撃的な行動が続いており、仲間グループにとけこみ、仲間との関係が正常範囲内であることが特徴です。

4. 反抗挑戦性障害(反抗挑戦症):
反抗挑戦性障害(反抗挑戦症)とは、通常は低年齢の子どもに見られ、家族や先生、友だちなどに対し非常に挑戦的であることが特徴ですが、非行や極端な非社会的行為は含まれません。親や教師など目上の人に対して拒絶的・反抗的な態度をとり、口論をしかけるなどの挑戦的な行動をおこしてしまう疾患です。
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反抗挑戦性障害(反抗挑発症)とは?ADHDとの関係性など【医師監修】

反抗挑戦性障害(反抗挑戦症)は『DSM-5』では独立した疾患として扱われていますが、『ICD-10』では行為障害に含まれます。
第Ⅴ章 精神及び行動の障害(F00-F99)|厚生労働省ホームページ
https://www.mhlw.go.jp/toukei/sippei/dl/naiyou05.pdf

素行障害(素行症)の治療法

素行障害(素行症)の治療法として主に認知行動療法、ペアレントトレーニング、薬物療法などさまざまな方法が挙げられます。効果的な素行障害(素行症)の治療のためには、多方面への取り組みを継続的に行うことが必要だと言われています。また、素行障害(素行症)の行動様式が現れていたとしても、その要因や併存症の有無等は一人ひとり異なるため、一部の子どもに有効な取り組みがすべての子どもに有効とは限りません。

以下に素行障害(素行症)の代表的なアプローチを紹介します。

認知行動療法(問題解決技法のトレーニング)

素行障害(素行症)の子どもに対する認知行動面へのアプローチとしては、反社会的行動の背景にあると考えられる「認知面」に焦点が当てられることがあります。

一般的には、モデル作成、リハーサル、ロールプレイングおよび、自分自身と対話などが行われます。

ペアレントトレーニング

ペアレントレーニングとは、保護者が子どもとより良い関わりができるための保護者向けプログラムです。例えば、素行障害(素行症)に対応するためのスキルとして、保護者と子どもが良好なコミュニケーションをとるためのコツや子どものよい行動を褒める関わり方を学ぶこと等をします。

日本でペアレントトレーニングを研究・実践する専門家たちにより開発された「基本プラットホーム」の中には、以下のような要素が含まれています。

【コアエレメントの要素の例】
・子どものよいところを探し、ほめる
・行動理論にもとづく行動理解(ABC分析)
・環境調整
・子どもが達成しやすい指示
・子ども不適切な行動への対応 など
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薬物療法:

素行障害(素行症)においては、併存症が起こりえるため、別の症状がはっきりと特定され薬物療法が行われた場合、それによって行動的な問題が顕著に消退する場合もあります。

また向精神薬は素行障害(素行症)の治療に対する有用性がまだ明らかにされていませんが、一部の薬物は素行障害(素行症)の症状、特に攻撃性の治療に使用されることがあります。
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