合言葉は「あ・し・た・あ・お・う・よ」

―学校での関わりに悩む、スペシャルタレント気質の子どもたちに対して、家族はどんなことができるでしょうか?

お子さんが学校でいじめに遭ったり不登校になったりすると、お母さんたちは不安になると思います。しかし、子どもたちの豊かな才能に目を向けて、不安ではなくわが子の「ファン」になってあげてください。家族みんなが、その子の応援団になるのです。

私のところに相談にいらっしゃるお母さんたちに対して、「あ・し・た・あ・お・う・よ」という言葉を紹介しています。「あいしている」「しあわせ」「たのしい」「ありがとう」「おかげさま」「うれしい」「よかった」この言葉を、お子さんにたくさんかけて、抱きしめてあげてください。すると、お子さんのエネルギーはみるみる回復していきますよ。

―子どもがパニックになった時や、自傷行為をする時はどうしたら良いですか?

自傷行為をしていたら、そのことを否定せず黙って抱きしめてあげてください。自傷行為は、うまく自分の思いが伝わらないという負の感情が蓄積して起こるものです。突然起こるものではありません。まずはしっかりとお子さんの気持ちに向き合い、丁寧に受け止めてあげることが大切です。

大好きなお母さんに否定されることほど悲しいことはありません。通常、私たちは5歳くらいからの出来事を記憶していると言いますが、スペシャルタレントの子どもたちは記憶力が良いため2~3歳頃から記憶をしているようです。そのため、親に否定された経験も明確に覚えているのです。

パニックが長時間続くこともほとんどありません。物を壊したり怪我をしたりしない限りは、止めずに見守ってあげましょう。落ち着いてから、「暴れるほど悲しかったんだね」と受け止めてあげてください。
森薫(もりかおる)先生 学びリンク総合研究所所長
Upload By 佐藤 愛美(ライター)
―自傷行為やパニックが起こっても、否定の言葉をぶつけるのではなく、まず子どものことを受け止める。とても大切だと思います。でも、お母さんたちが「子育てを正しくやらなければ」というプレッシャーに日々さらされていると、難しいですよね。

そうですね。かつての日本には地域の中にたくさんの子どもたちがいて、未婚の若い女性でも子守り体験を通して将来のリハーサルをする機会が多かったのです。

お母さんのお乳が出なければ地域の人が代わりにお乳を与えてくれたし、産後すぐに働きに出ても、おじいちゃんやおばあちゃんが子守りをしてくれるのが当たり前でした。

そのため、現在のようにお母さんが子育ての責任をすべて一人で背負うことはなかったのです。この時代は、「子どもなんて少し変わっていて当たり前」と思われていたし、思春期の早い時期に社会に出ることが多く、18歳まで同級生の集団の中に身を置く必要もありませんでした。思春期のストレスも少なくて済んだのではないでしょうか。

スペシャルタレントの気質を持った人たちも、周りに合わせることなくのびのびと生活できていたんです。

しかし現在は、社会全体が評価主義によって動いています。小さい頃から偏差値や内申点で評価され、高学歴が求められ、大企業に就職する人々がエリートと呼ばれています。子育てすら、自分を評価するための材料になってしまっているのです。お母さんたちは人並みに育児ができなければ評価されず、公園デビューをする時もマニュアルが必要になっています。このような社会背景の中で、集団に馴染めない子どもを育てるのは非常に苦しいことでしょう。

頑張り屋さんのお母さんは、自分で自分にOKを言おう

―評価主義社会の中に立たされたお母さんたちは、どうしたら心の余裕を持って子育てができるでしょうか。

私は、相談に来たお母さんたちにまずこう言います。

「よく頑張ってきましたね、お母さん。本当に頑張り屋さんですね」

評価主義社会の中で認めてもらおうと必死になってきたお母さんたちは、「頑張っているね」という言葉をずっと求めているんです。しかし、大人になってしまうとなかなか褒めてもらえる機会はありませんよね。だから、「I am OK!」と自分で自分を褒めてあげることが大切です。

洗濯物の干し方がうまい、畳み方なんか最高!って。自分はこんなふうに頑張っている、こんな良いところがあると、自分に「OK」を与えてあげてください。すると子どもに対しても「あ・し・た・あ・お・う・よ」の言葉を与えられるようになります。

―お母さん自身が、まず自分に「OK」を…大切な視点ですね。一方で一つ気になるのが、スペシャルタレントと呼ぶと、「天才児」のようなニュアンスで捉える人もいるのではないかということです。そうなってしまうとやはり評価主義の中でプレッシャーに感じるお母さんも出てくるような…

優れた才能を持っている子はたくさんいますが、「天才児」というニュアンスとは少し違いますね。

私は面談の中でよく保護者に対して「この子が何をしている時がいちばん幸せそうでしたか?」と聞いています。すると、これまでの我が子の姿を思い返しながら、絵を描くことや人形を作ること、小さい頃はダンスに興味を持っていたなど、色々な話が出てきます。実はこれが、未来に繋がる資源(リソース)なんです。

中には「うちの子には何も才能がない!」と嘆く方もいます。しかし、一つの物事にとことんこだわり、嘘がつけなくて優しいという素晴らしい資源にもっと気づいてほしいのです。この気質はスペシャルタレントの子だけが持った、特別な才能ではないでしょうか。

不登校児が学校生活に戻らなくても良いルート作りを目指して

「発達障害」と呼ばないで。学校に馴染めず苦しむ子どもたちに眠る”スペシャルタレント”を育もうの画像
出典 : http://amanaimages.com/info/infoRF.aspx?SearchKey=10132009286
―スペシャルタレントの子どもたちが個性を伸ばせる進路には、どのようなものがありますか。

不登校の子がいちばん苦しむのは、「いつかは学校に戻らなければいけない」というプレッシャーです。学校の先生も、スクールカウンセラーも、教育相談所も、そして親ですら彼らが早く学校へ戻るように促します。この子たちは、心身ともにぼろぼろになりながらやっとの思いで学校を抜け出したのに、こんなに辛い要求はありません。

今の日本に必要なのは、“学校に戻らなくても良いルートづくり”なのではないかと私は考えています。具体的には、家庭でパソコンやタブレットを使って勉強ができるホームスクールや、通信制の高校、フリースクール、そして先ほども紹介した、海外留学が当たり前に選べるようになるといいですね。

―スペシャルタレント気質を持った子が大人になった時、自分の特性を活かせる仕事に辿り着くためには、周囲の大人はどんなサポートをすれば良いでしょうか。

その子たちの個性を潰さず、スペシャルタレントとして尊重することです。現在活躍しているスポーツ選手の多くが「小さい頃に自分のやりたいことをやらせてくれたから今がある」と語っています。普通科の学校や目の前の成績ばかりに囚われることなく、その子が夢中になれるものを一緒に発見し、色々な体験をさせてあげてください。

苦手なことを人並みにしようと何十年も努力するより、自分の得意なことを活かして活躍したほうが幸せではないでしょうか。苦手なことは、他の人に任せたり手伝ってもらったりしても良いのです。私が今、老眼鏡を使って文字を読んでいるように、便利な道具を使えばできるようになることもあります。
森薫(もりかおる)先生 学びリンク総合研究所所長
Upload By 佐藤 愛美(ライター)
―最後に、森先生が今後取り組んでいきたいと考えていることがありましたら、教えてください。

スペシャルタレントの子どもたちと一緒に農業体験ができる場所づくりをしていきたいと考えています。田んぼで自由に走り回り、泥を投げ合い、ありのままの自分を認めてもらえる場所です。

農業をしている大人の手伝いをし、自分の得意なことや不得意なことに向き合っていく中で、自分に対する肯定感を育めるのではないでしょうか。親や教師が“普通の”進路に固執せず、可能性を広げる場所を作ってあげることで、この子たちの活躍の幅はきっと広がるはずです。

―ありがとうございました。

編集後記

集団生活を苦手とする子どもたちの気質を「神様からもらったプレゼント」と言う森先生。苦手を克服する従来の教育から、得意なところを伸ばす新たな教育へのシフトを目指し、一人ひとりが自分を大好きになれる場所づくりが進んでいます。

(佐藤愛美)

森薫(もりかおる)先生の著書

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Upload By 佐藤 愛美(ライター)
『未来に輝け! スペシャルタレントの子どもたち 不登校・ひきこもりの解決方法』 2013年、学びリンク
http://manabilink.co.jp/%E5%87%BA%E7%89%88/%E6%9C%AA%E6%9D%A5%E3%81%AB%E8%BC%9D%E3%81%91%EF%BC%81%E3%82%B9%E3%83%9A%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%AB%E3%82%BF%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%88%E3%81%AE%E5%AD%90%E3%81%A9%E3%82%82%E3%81%9F%E3%81%A1%E3%80%80/
「発達障害」と呼ばないで。学校に馴染めず苦しむ子どもたちに眠る”スペシャルタレント”を育もうの画像
Upload By 佐藤 愛美(ライター)
『子どもと夫を育てる 「 楽妻楽母」力‐不登校・引きこもり・夫婦のすれ違い、すべて解決!‐』 2015年、学びリンク
http://manabilink.co.jp/%E5%87%BA%E7%89%88/%E3%80%8E%E5%AD%90%E3%81%A9%E3%82%82%E3%81%A8%E5%A4%AB%E3%82%92%E8%82%B2%E3%81%A6%E3%82%8B-%E3%80%8C-%E6%A5%BD%E5%A6%BB%E6%A5%BD%E6%AF%8D%E3%80%8D%E5%8A%9B%E3%80%8F-%E4%B8%8D%E7%99%BB%E6%A0%A1/
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