神経発達症とは?発達障害との違いは?【専門家監修】

ライター:発達障害のキホン
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神経発達症とは、情動・学習・自己コントロールなどに影響する脳機能の障害を示す概念です。神経発達症は、これまでの「発達障害」の疾患概念と大きく重なっていますが、厳密にはそれよりも少し範囲の広い言葉です。本記事では、神経発達症という言葉の意味と使用法から始めて、原因・診断・治療法などについてもわかりやすく解説します。

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監修: 井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授
LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
ABA(応用行動分析学)をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のためのさまざまなプログラムを開発している。
目次

神経発達症とは?

神経発達症(neurodevelopmental disorder)は、情動・学習能力・自己コントロール・記憶といったさまざまな知的活動に影響する、脳機能の障害を示す概念です。

この言葉は、米国精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)に採用されたことで、広く知られるようになりました。

『DSM-5』の日本語版では、「神経発達症群/神経発達障害群(neurodevelopmental disorders)」という形で使われています。「神経発達症」と「神経発達障害」が併記されている歴史的経緯については、「DSM-5」の記事をご覧ください。

以下、この記事では「神経発達症」で統一します。
DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル第5版)とは?概要、作成目的、ICDとの違いを解説しますのタイトル画像

DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル第5版)とは?概要、作成目的、ICDとの違いを解説します

神経発達症に含まれる障害

神経発達症には、いくつかの診断が含まれます。『DSM-5』では、以下のような診断がまとめて神経発達症と呼ばれています。

・知的能力障害群(知的障害)
・コミュニケーション症群/コミュニケーション障害群(吃音など)
・自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害
・注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害
・限局性学習症/限局性学習障害(ディスレクシアなど、いわゆる「学習障害」)
・運動症群/運動障害群(発達性協調運動障害、チックなど)
・他の神経発達症群/他の神経発達障害群

どうして、これらの障害がすべて「神経発達症」という一つの疾患概念にまとめられるのでしょうか。

それは、これらの診断は別々のものではなく、神経の機能不全という共通の原因を持つ連続的な障害なのだという考え方に基づいています。「神経発達症」という言葉は、そうした連続的な障害の全体を指すための言葉です。近年、この考え方が広まりつつあります。

神経発達症と発達障害は、どう違うの?

結論から言えば、「神経発達症」は「発達障害」よりも広い範囲を指す言葉だと言ってよいでしょう。

まずは発達障害について説明します。

日本での「発達障害」の定義として、「発達障害者支援法」の中で使われている定義がよく知られています。それによると、発達障害とは「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠如多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」です。
発達障害者支援法|文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/main/1376867.htm
「政令で定めるもの」とは、ここでリストアップされたもの以外の「心理的発達の障害並びに行動及び情緒の障害」です。
その範囲としては、WHOの定める当時のICD-10(疾病及び関連保健問題の国際統計分類 第10版)にしたがってF80からF98を示しています。
発達障害者支援法施行規則|文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/main/1377452.htm
「発達障害」という言葉の範囲は、それほどはっきりと決まっているわけではありません。実際には、リストアップされなかった障害も、必要に応じて「発達障害」に含められてきました。

こうした多くの障害を、発生原因に注目してグループ化しなおすために持ち出されたのが「神経発達症」という言葉です。
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発達障害とは?特徴・症状・分類や診断方法について【専門家監修】

神経発達症の原因は?

神経発達症は「親の育て方」のせいではない

神経発達症のひとつである自閉スペクトラム症に関しては過去に親の育て方が原因とされるという考え方が主流だった時期もありました。

自閉症研究のパイオニアであるレオ・カナーも、はじめは自閉スペクトラム症の原因が母親の育て方にあると考えていました。すなわち、母親が子どもに愛情を十分に注げなかったとき、子どもの情緒的発達に悪影響が出て自閉スペクトラム症になる、という見方でした。この考え方は「冷蔵庫マザー」と言う象徴的な言葉と共に広まりました。
Leo Kanner, ‘Autistic Disturbances of Affective Contact’, Nervous Child 2 (1943): 217–50.
http://www.neurodiversity.com/library_kanner_1943.pdf
「冷蔵庫マザー」論は、およそ1970年代までは一世を風靡していました。このことにより、自閉スペクトラム症の親たちは長く批判され責められてきました。しかし、その後はこの見方は多くの専門家によって否定され、またカナー自身もこの見方を自ら放棄しました。

そして、自閉スペクトラム症をはじめとする障害の原因は、親子の情緒的関係にあるのではなく、子どもの神経発達のありかた(さらには、その発達を方向づける遺伝学的性質)にあるのではないかという考えが広まり、現在の研究につながっています。DSM-5でも、おおむねこの考え方が採用されています。
次ページ「実際の診断・臨床の場面における神経発達症」

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