神経発達症とは?発達障害との違いは?概要、分類と症状、原因、周囲の接し方について徹底解説!

神経発達症とは、情動・学習・自己コントロールなどに影響する脳機能障害です。神経発達症は、これまでの「発達障害」の疾患概念と大きく重なっていますが、厳密にはそれよりも少し範囲の広い言葉です。本記事では、神経発達症という言葉の意味と使用法から始めて、原因・診断・治療法などについてもわかりやすく解説します。

神経発達症とは?
この言葉は、米国精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)に採用されたことで、広く知られるようになりました。
『DSM-5』の日本語版では、正式には「神経発達症群/神経発達障害群(neurodevelopmental disorders)」という形で使われています。「神経発達症」と「神経発達障害」が併記されている歴史的経緯については、「DSM-5」の記事をご覧ください。
以下、この記事では「神経発達症」で統一します。

関連記事
DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル第5版)とは?概要、作成目的、ICDとの違いを解説します
神経発達症に含まれる障害
・知的能力障害群(知的障害)
・コミュニケーション症群/コミュニケーション障害群(吃音など)
・自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害
・注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害
・限局性学習症/限局性学習障害(ディスレクシアなど、いわゆる「学習障害」)
・運動症群/運動障害群(発達性協調運動障害、チックなど)
・他の神経発達症群/他の神経発達障害群
どうして、これらの障害がすべて「神経発達症」という一つの障害にまとめられるのでしょうか。
それは、これらの障害は別々のものではなく、神経の発達阻害という共通の原因を持つ連続的な障害なのだという考え方に基づいています。「神経発達症」という言葉は、そうした連続的な障害の全体を指すための言葉です。近年、この考え方が広まりつつあります。
神経発達症と発達障害は、どう違うの?

関連記事
発達障害とは?発達障害の分類・症状・特徴・診断方法はどのようなもの?
結論から言えば、「神経発達症」は「発達障害」よりも広い範囲を指す言葉だと言ってよいでしょう。
日本での「発達障害」の定義として、「発達障害者支援法」の中で使われている定義がよく知られています。それによると、発達障害とは「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠如多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」です。
こうした多くの障害を、発生原因に注目してグループ化しなおすために持ち出されたのが「神経発達症」という言葉です。
神経発達症の原因は?
神経発達症と染色体との関連について研究が進行中
近年とりわけ注目されているのは、神経発達症と染色体との関連です。たとえば、“Handbook of Neurodevelopmental and Genetic Disorders in Children”(編集部訳題『児童期の神経発達症・遺伝子疾患ハンドブック』)(初版1999年)では、個々の障害(自閉症やターナー症候群など、約20件)について、それぞれ神経の発達阻害をもたらす遺伝学的性質に関する研究がまとめられています。
もちろんこの研究は、神経発達症全体の原因を完全に明らかにするものではありません。しかし、原因の一部を明らかにする研究を積み重ねることによって、原因全体の解明に一歩ずつ近づいているということは確かです。

関連記事
発達障害の原因がわかった?!話題の研究チームに詳細を聞いてきた
神経発達症は「親の育て方」のせいではない
自閉症研究のパイオニアであるレオ・カナーも、はじめは自閉症の原因が母親の育て方にあると考えていました。すなわち、母親が子どもに愛情を十分に注げなかったとき、子どもの情緒的発達に悪影響が出て自閉症になる、という見方でした。この考え方は「冷蔵庫マザー」と言う象徴的な言葉とともに広まりました。
そして、自閉症をはじめとする障害の原因は、親子の情緒的関係にあるのではなく、子どもの神経発達のありかた(さらには、その発達を方向づける遺伝学的性質)にあるのではないかという考えが広まり、現在の研究につながっています。DSM-5でも、おおむねこの考え方が採用されています。
実際の診断・臨床の場面における神経発達症
しかし、2013年に『DSM-5』が発表されてから数年が経ち、「神経発達症」という言葉も徐々に広まりつつあります。これから先は、診断の中で「神経発達症」が使われていくかもしれません。
「神経発達症」のような言葉を使って障害をグループ分けすることには、精神医学を単なる精神科医の「カン」ではない体系的なものにする上で大きな意味があります。
いくつかの障害に共通点があることがわかれば、それに対するアプローチを考えるにあたって大きなヒントになります。たとえば、自閉症スペクトラム障害は本人のやる気の問題なのか、それとも親の育て方の問題なのか、はたまた染色体の状態に関係しているのか――これがわかれば、障害のある子どもに対して周囲が何をできるのか、あるいは何をできないのかを知ることができます。
神経発達症は治るの?
医学的治療
近年の研究によって、神経の発達阻害を引き起こす因子がいくつか特定されつつあります。しかし、これは神経発達症の原因の一部がわかるにすぎません。また、研究のレベルでわかったことが臨床の現場に応用されるまでには、さらに多くの研究が必要になります。
症状を軽くするには?環境調整、療育とトレーニング、薬物療法
1.環境調整
本人の能力や特性に合わせて、接し方・環境・ルール・課題を変えることができれば、障害のある子どもが感じる困難は軽くなります。これまでも行われてきた「合理的配慮」は、神経発達症のある子どもにももちろん有効でしょう。「神経発達症」には様々な障害が含まれていますので、合理的配慮を考える上では、一人ひとりの特性に合わせるということが一層重要になります。

関連記事
合理的配慮とは?考え方と具体例、障害者・事業者の権利・義務関係、合意形成プロセスについて
本人の特性に合わせてトレーニングを行い、子どもが認知や行動についての能力を習得できれば、社会生活において感じる困難が軽減されます。この療育についても、今まで行なわれてきたものが同じく有効でしょう。

関連記事
ソーシャルスキルトレーニング(SST)とは?支援の対象、方法、気をつけたいポイントについて

関連記事
PECSとは?絵カードによるコミュニケーション支援の効果と内容、対象者まとめ

関連記事
発達障害の療育のベース「応用行動分析学(ABA)」とは?
神経発達症に関連するいくつかの症状は、投薬によって症状を抑えることができます。重要なことは、投薬によって神経発達症そのものを治療できるわけではなく、症状を緩和することと、症状によって生じる不利益を避けることを狙っているということです。投薬による症状緩和についても、これまでと同じように、主治医の先生によく相談することをおすすめします。
ここまで見てわかるように、神経発達症に対する向き合い方は、基本的にこれまでの発達障害と大きく変わりません。変わったのは、精神科医が使う診断マニュアル(DSM-5)で使われる名称にすぎません。
神経発達症という名前がつくことそれ自体で、障害のある子どもたちの症状が変わったり、困りごとが軽くなったり重くなったりするわけではありません。このことは、神経発達症について考える上で、非常に重要な点です。
おわりに
重要なことは、障害の名前が変わっても、子どもたちの症状や困りごとまで変わるわけではないということです。とりわけ、発達障害は一人ひとり症状が少しずつ違うということが、これまで知られてきました。神経発達症という言葉が登場しても、そのことは同じです。一人ひとりの特性と能力に合わせたサポートが求められます。
精神医学はまさに発展の途上にあり、今後も多くの言葉が新たに広まることが予想されます。その新しい専門用語は、実際のサポートにあまり関係ない場合もあれば、サポートのあり方を大きく変える場合もあるでしょう。簡単ではありませんが、こうした見極めが大切です。
神経発達症に含まれる関連記事

関連記事
知的障害とは?「IQ」と「適応機能」の関係、程度別の特徴や症状、診断基準について解説します

関連記事
吃音(きつおん)とは?吃音の3つの種類や症状、原因、治療法について詳しく解説!

関連記事
自閉症スペクトラム障害(ASD)とは?年代別の特徴や診断方法は?治療・療育方法はあるの?

関連記事
ADHD(注意欠如・多動性障害)の3つのタイプとは?

関連記事
学習障害(LD)とは?学習障害の症状3種類、年齢別の特徴、診断方法について詳しく説明します

関連記事
チック症とは?癖のように見えるチック症状の見分け方と治療法は?

関連記事
PDD-NOS(特定不能の広汎性発達障害)とは?自閉症やアスペルガーとの違い、診断・支援方法は?
この記事に関するキーワード

あわせて読みたい関連記事

発達障害の原因は?広汎性発達障害/自閉症スペクトラム・ADHD・学習障害それぞれ原因に違いはあるの?

集団生活での困りごと、どう対応したらいい?発達が気になる子の支援のヒントがもらえる5冊を紹介
この記事を書いた人
発達障害のキホン さんが書いた記事

放課後児童クラブ(学童クラブ)を発達障害のある小学生は利用できる?特性への配慮はある?利用方法、放課後等デイサービスとの違いなどを解説

1歳半健診で発達の遅れが気になったら?経過観察と言われたらどうする?発達障害の可能性も?相談できる専門機関や発達支援を紹介

メラトベルとはどんな薬?自閉スペクトラム症のある子どもなどに処方される睡眠障害の改善薬メラトベルの効果や副作用などを詳しく解説!
