神経発達症とは?発達障害との違いは?【専門家監修】

ライター:医師・専門家監修|発達障害・支援のキホン
神経発達症とは?発達障害との違いは?【専門家監修】 のタイトル画像
出典 : http://amanaimages.com/info/infoRF.aspx?SearchKey=10567000972

神経発達症とは、情動・学習・自己コントロールなどに影響する脳機能の障害を示す概念です。神経発達症は、これまでの「発達障害」の疾患概念と大きく重なっていますが、厳密にはそれよりも少し範囲の広い言葉です。本記事では、神経発達症という言葉の意味と使用法から始めて、原因・診断・治療法などについてもわかりやすく解説します。

監修者井上雅彦のアイコン
監修: 井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授
LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
ABA(応用行動分析学)をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のためのさまざまなプログラムを開発している。
目次

神経発達症とは?

神経発達症(neurodevelopmental disorder)は、情動・学習能力・自己コントロール・記憶といったさまざまな知的活動に影響する、脳機能の障害を示す概念です。

この言葉は、米国精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)に採用されたことで、広く知られるようになりました。

『DSM-5』の日本語版では、「神経発達症群/神経発達障害群(neurodevelopmental disorders)」という形で使われています。「神経発達症」と「神経発達障害」が併記されている歴史的経緯については、「DSM-5」の記事をご覧ください。

以下、この記事では「神経発達症」で統一します。
DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル第5版)とは?概要、作成目的、ICDとの違いを解説しますのタイトル画像

DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル第5版)とは?概要、作成目的、ICDとの違いを解説します

神経発達症に含まれる障害

神経発達症には、いくつかの診断が含まれます。『DSM-5』では、以下のような診断がまとめて神経発達症と呼ばれています。

・知的能力障害群(知的障害)
・コミュニケーション症群/コミュニケーション障害群(吃音など)
・自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害
・注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害
・限局性学習症/限局性学習障害(ディスレクシアなど、いわゆる「学習障害」)
・運動症群/運動障害群(発達性協調運動障害、チックなど)
・他の神経発達症群/他の神経発達障害群

どうして、これらの障害がすべて「神経発達症」という一つの疾患概念にまとめられるのでしょうか。

それは、これらの診断は別々のものではなく、神経の機能不全という共通の原因を持つ連続的な障害なのだという考え方に基づいています。「神経発達症」という言葉は、そうした連続的な障害の全体を指すための言葉です。近年、この考え方が広まりつつあります。

神経発達症と発達障害は、どう違うの?

結論から言えば、「神経発達症」は「発達障害」よりも広い範囲を指す言葉だと言ってよいでしょう。

まずは発達障害について説明します。

日本での「発達障害」の定義として、「発達障害者支援法」の中で使われている定義がよく知られています。それによると、発達障害とは「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠如多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」です。
発達障害者支援法|文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/main/1376867.htm
「政令で定めるもの」とは、ここでリストアップされたもの以外の「心理的発達の障害並びに行動及び情緒の障害」です。
その範囲としては、WHOの定める当時のICD-10(疾病及び関連保健問題の国際統計分類 第10版)にしたがってF80からF98を示しています。
発達障害者支援法施行規則|文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/main/1377452.htm
「発達障害」という言葉の範囲は、それほどはっきりと決まっているわけではありません。実際には、リストアップされなかった障害も、必要に応じて「発達障害」に含められてきました。

こうした多くの障害を、発生原因に注目してグループ化しなおすために持ち出されたのが「神経発達症」という言葉です。
発達障害とは?特徴・症状・分類や診断方法について【専門家監修】のタイトル画像

発達障害とは?特徴・症状・分類や診断方法について【専門家監修】

神経発達症の原因は?

神経発達症は「親の育て方」のせいではない

神経発達症のひとつである自閉スペクトラム症に関しては過去に親の育て方が原因とされるという考え方が主流だった時期もありました。

自閉症研究のパイオニアであるレオ・カナーも、はじめは自閉スペクトラム症の原因が母親の育て方にあると考えていました。すなわち、母親が子どもに愛情を十分に注げなかったとき、子どもの情緒的発達に悪影響が出て自閉スペクトラム症になる、という見方でした。この考え方は「冷蔵庫マザー」と言う象徴的な言葉と共に広まりました。
Leo Kanner, ‘Autistic Disturbances of Affective Contact’, Nervous Child 2 (1943): 217–50.
http://www.neurodiversity.com/library_kanner_1943.pdf
「冷蔵庫マザー」論は、およそ1970年代までは一世を風靡していました。このことにより、自閉スペクトラム症の親たちは長く批判され責められてきました。しかし、その後はこの見方は多くの専門家によって否定され、またカナー自身もこの見方を自ら放棄しました。

そして、自閉スペクトラム症をはじめとする障害の原因は、親子の情緒的関係にあるのではなく、子どもの神経発達のありかた(さらには、その発達を方向づける遺伝学的性質)にあるのではないかという考えが広まり、現在の研究につながっています。DSM-5でも、おおむねこの考え方が採用されています。
児童支援最大化バナー
PLUSバナー

実際の診断・臨床の場面における神経発達症

実際の診断では、「自閉スペクトラム症」や「限局性学習症」といった言葉が使われていて、「神経発達症」よりも細かい診断がなされます。これは、「神経発達症」という言葉でいくつかの障害をまとめるという考え方がまだ新しく、今まで使われてきた言葉が浸透しているためであると思われます。

しかし、2013年に『DSM-5』が発表されてから数年が経ち、「神経発達症」という言葉も徐々に広まりつつあります。これから先は、診断の中で「神経発達症」が使われていくかもしれません。
もともと、『DSM-5』は精神科医の診断マニュアルとして使われています。また、精神科医が実際に使うことを通して問題点を発見し、改訂することによって、精神医学の発展が目指されています。

「神経発達症」のような言葉を使って障害をグループ分けすることには、精神医学を単なる精神科医の「カン」ではない体系的なものにする上で大きな意味があります。

いくつかの障害に共通点があることが分かれば、それに対するアプローチを考えるにあたって大きなヒントになります。

神経発達症は治るの?

医学的治療

神経発達症には、根本的な治療法はありません。

近年の研究によって、神経の発達阻害を引き起こす因子がいくつか特定されつつあります。しかし、これは神経発達症の原因の一部が分かるにすぎません。また、研究のレベルで分かったことが臨床の現場に応用されるまでには、さらに多くの研究が必要になります。

症状を軽くするには?環境調整、療育とトレーニング、薬物療法

「治す」ことは難しいですが、症状や困難を軽くすることはできます。その具体例として、ここでは3つの例を挙げます。

1.環境調整
本人の能力や特性に合わせて、接し方・環境・ルール・課題を変えることができれば、障害のある子どもが感じる困難は軽くなります。これまでも行われてきた「合理的配慮」は、神経発達症のある子どもにももちろん有効でしょう。「神経発達症」には様々な障害が含まれていますので、合理的配慮を考える上では、一人ひとりの特性に合わせるということが一層重要になります。
合理的配慮とは?考え方と具体例、合意形成プロセスについて【専門家監修】のタイトル画像

合理的配慮とは?考え方と具体例、合意形成プロセスについて【専門家監修】

2.療育とトレーニング
本人の特性に合わせてトレーニングを行い、子どもが認知や行動についての能力を習得できれば、社会生活において感じる困難が軽減されます。この療育についても、今まで行なわれてきたものが同じく有効でしょう。
ソーシャルスキルトレーニング(SST)とは?支援の対象、方法、気をつけたいポイントについて【専門家監修】のタイトル画像

ソーシャルスキルトレーニング(SST)とは?支援の対象、方法、気をつけたいポイントについて【専門家監修】

PECSとは?絵カードによるコミュニケーション支援の効果と内容、対象者まとめのタイトル画像

PECSとは?絵カードによるコミュニケーション支援の効果と内容、対象者まとめ

【専門家解説】ABA(応用行動分析)の基本は?ABC分析、事例を基にした実践例、家庭でできることのタイトル画像

【専門家解説】ABA(応用行動分析)の基本は?ABC分析、事例を基にした実践例、家庭でできること

3.薬物療法
神経発達症に関連するいくつかの症状は、投薬によって症状を抑えることができます。重要なことは、投薬によって神経発達症そのものを治療できるわけではなく、症状を緩和することと、症状によって生じる不利益を避けることを狙っているということです。投薬による症状緩和についても、これまでと同じように、主治医の先生によく相談することをおすすめします。

ここまで見て分かるように、神経発達症に対する向き合い方は、基本的にこれまでの発達障害と大きく変わりません。変わったのは、精神科医が使う診断マニュアル(DSM-5)で使われる名称にすぎません。

神経発達症という名前がつくことそれ自体で、障害のある子どもたちの症状が変わったり、困りごとが軽くなったり重くなったりするわけではありません。このことは、神経発達症について考える上で、非常に重要な点です。

おわりに

「神経発達症」という耳慣れない言葉に戸惑っている方は、少なくないでしょう。たとえば、お子さんに自閉スペクトラム症があって、そのお子さんの障害を説明するとき、「自閉スペクトラム症」「発達障害」「神経発達症」をどのように使い分ければ良いのでしょうか?

重要なことは、障害の名前が変わっても、子どもたちの症状や困りごとまで変わるわけではないということです。とりわけ、発達障害は一人ひとり症状が少しずつ違うということが、これまで知られてきました。神経発達症という言葉が登場しても、そのことは同じです。一人ひとりの特性と能力に合わせたサポートが求められます。

精神医学はまさに発展の途上にあり、今後も多くの言葉が新たに広まることが予想されます。その新しい専門用語は、実際のサポートにあまり関係ない場合もあれば、サポートのあり方を大きく変える場合もあるでしょう。簡単ではありませんが、こうした見極めが大切です。
イラスト図解 発達障害の子どもの心と行動がわかる本
田中康雄 (監修)
西東社
Amazonで詳しく見る
知的障害(知的発達症)とは?「IQ」の基準や分類、「適応機能」との関係などを解説!【専門家監修】のタイトル画像

知的障害(知的発達症)とは?「IQ」の基準や分類、「適応機能」との関係などを解説!【専門家監修】

吃音(きつおん)とは?吃音の3つの種類や症状、原因、治療法について詳しく解説!【専門家監修】のタイトル画像

吃音(きつおん)とは?吃音の3つの種類や症状、原因、治療法について詳しく解説!【専門家監修】

【専門家監修】ASD(自閉スペクトラム症)の子どもの0歳~6歳、小学生、思春期まで年齢別の特徴、診断や治療、支援、接し方などのタイトル画像

【専門家監修】ASD(自閉スペクトラム症)の子どもの0歳~6歳、小学生、思春期まで年齢別の特徴、診断や治療、支援、接し方など

【専門家監修】ADHD(注意欠如多動症)の3つのタイプとは?「不注意」「多動・衝動性」「混合」それぞれの特徴を解説のタイトル画像

【専門家監修】ADHD(注意欠如多動症)の3つのタイプとは?「不注意」「多動・衝動性」「混合」それぞれの特徴を解説

LD・SLD(限局性学習症)とは?症状や特徴、診断方法について【専門家監修】のタイトル画像

LD・SLD(限局性学習症)とは?症状や特徴、診断方法について【専門家監修】

【専門家監修】まばたき・咳払い、癖かチック症か?見分け方・原因・治療法を解説のタイトル画像

【専門家監修】まばたき・咳払い、癖かチック症か?見分け方・原因・治療法を解説

特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)とは?診断・支援方法は?【専門家監修】のタイトル画像

特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)とは?診断・支援方法は?【専門家監修】

子どもの癇癪(かんしゃく)とは?癇癪を起こす原因や発達障害との関連は?しんどいときの対応方法、相談先まとめ【専門家監修】のタイトル画像

子どもの癇癪(かんしゃく)とは?癇癪を起こす原因や発達障害との関連は?しんどいときの対応方法、相談先まとめ【専門家監修】

大人の癇癪(かんしゃく)とは?感情のコントロールができない…発達障害との関連は?【専門家監修】のタイトル画像

大人の癇癪(かんしゃく)とは?感情のコントロールができない…発達障害との関連は?【専門家監修】

児童支援最大化バナー
PLUSバナー


年齢別でコラムを探す


同じキーワードでコラムを探す



放課後等デイサービス・児童発達支援事業所をお探しの方はこちら

放課後等デイサービス・児童発達支援事業所をお探しの方はこちら

コラムに対する投稿内容については、株式会社LITALICOがその内容を保証し、また特定の施設、商品及びサービスの利用を推奨するものではありません。投稿された情報の利用により生じた損害について株式会社LITALICOは一切責任を負いません。コラムに対する投稿内容は、投稿者の主観によるもので、株式会社LITALICOの見解を示すものではありません。あくまで参考情報として利用してください。また、虚偽・誇張を用いたいわゆる「やらせ」投稿を固く禁じます。「やらせ」は発見次第厳重に対処します。