ビジョントレーニング®とは?「見る力」と学習障害(限局性学習症)との関わりは? 【専門家監修】

ライター:医師・専門家監修|発達障害・支援のキホン
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出典 : http://amanaimages.com/info/infoRF.aspx?SearchKey=11017016630

ビジョントレーニング®とは、ものを目で捉える力を高め、見たものを正しく認識したり、体を自分のイメージ通りに動かしたりする機能を高めるトレーニングです。黒板を写すのが遅い、文章内の同じ行を何度も読んでしまう、ボール運動が苦手…これらの問題はビジョントレーニング®を行うことで軽減できる可能性があります。ここでは私たちがものを見る仕組みから、ビジョントレーニング®を受けられる場所などをご紹介します。

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監修: 増本利信
九州ルーテル学院大学大学院 人文学研究科 障害心理学専攻 准教授
公立学校教諭を経て現職。学校現場では通常学級をはじめ特別支援学級、特別支援学校、LD/ADHD等通級指導教室にて支援にあたった。学校生活において困難さのある児童への支援のあり方について現場の経験知を元に研究を重ね、未来の教員を育成している。
目次

ビジョントレーニング®とは

ビジョントレーニング®(一般社団法人ビジョントレーニング協会/商標許諾番号:C260109001)とは、両眼の動きを改善させ、より良く機能させるためのトレーニング方法です。総合的な眼の機能向上によって、生活や学習上の問題の改善やスポーツのスキルアップなどを目的としたものです。
一般社団法人ビジョントレーニング®協会公式サイト
https://vision-training.org/
私たちは普段目でものを見て生活をしていますが、「見る」ということは、視力以外にもさまざまな機能を使用します。例えば、自由自在に目を素早く動かしたり、目から取り込んだ情報を正しく頭で処理したり、またそれらの情報に合わせて体の動きを調節したりするなどです。これらの正しくものを見るために必要な機能を高めるのがビジョントレーニング®です。

ビジョントレーニング®は50年以上前のアメリカで発祥したトレーニング法で、日本でも導入されつつあり、LD(学習障害/限局性学習症)やADHD(注意欠如・多動症)のある子どもたちの諸問題の改善・克服から、プロスポーツ選手のパフォーマンス向上に至るまで、多くの人々に用いられています。

ビジョントレーニング®にはさまざまな効果があるといわれています。結果に個人差はありますが板書転記や本読みのスピードがあがった、計算のケアレスミスが減った、漢字を覚えることができるようになったという報告があります。

子どもの困りごと、もしかして「見る力」の弱さが原因かも?

「見る力」に弱さがあることによって起こる困りごととして、以下のようなことが挙げられます。

・板書をノートに書きとることが苦手
・模様や記号を写し描くことが苦手
・本を読むとき文字や行を読み飛ばしてしまう
・定規の目盛りがうまく読めない
・漢字がなかなか覚えられない
・計算の筆算で間違うことが多い


ビジョントレーニング®はこれらの問題に対し、「見る力」を高めることで解決しようとするアプローチ法なのです。

そもそも「見る力」ってどういうこと?

見る力の図
Upload By 医師・専門家監修|発達障害・支援のキホン
「見る力」すなわち「ビジョン」とは、いわゆる視力のことのみを指しません。私たちが「ものを見る仕組み」全体のことを示しています。

ビジョンとは、視力に関係する機能よりはるかに幅広く複雑なものです。「ただ単にものを見る」ための視覚のシステムは生まれたときにはほぼできあがっていますが、ビジョンは発達とともに身についていくものです。

私たちは、運動や学習、生活の場面などあらゆる場所で目を使っていますが、ビジョンは大きく分けて「眼球運動」、「視空間認知」、「目と手の協応」という3つの構成要素があります。

眼球運動

ものを目で追ったり、視線をすばやく動かしたり、両目を寄せたり離したりするのが眼球運動のはたらきです。このはたらきは「入力」の部分にあたり、目の動きが適切に行えることで、情報を効率よく目から取り込むことができます。
眼球運動には、さらに3つの種類があります。
◇「滑動性眼球運動(追従性眼球運動)」
見ているものの動きに合わせて滑らかに、動いているものと同じ速さで眼球を動かすことです。

【例】
・本に書かれた文字を目で追う
・動いているものを目で追う
・ひとつのものに焦点を絞って見つめ続けたりする

◇「衝動性眼球運動」
一点から別の一点へ視線をすばやくジャンプさせる眼球運動です。この眼球運動は、多くのものの中から必要な情報を早く、正確に見つけるために必要なはたらきです。

【例】
・黒板とノートを交互に見る
・人ごみの中から探している人を見つける
・本を読む際、次の行に移る

◇「輻輳・開散運動」
私たちは両目を使って対象物の距離感や立体感をつかんでいます。そのとき、ものとの距離に合わせて、左右の目を寄せたり離したりしています。近い対象を見るために目を寄せる場合を輻輳運動、遠い対象を見るために目を離す場合を開散運動といいます。

これら3つの眼球運動が正しく機能することにより、情報を目から取り入れる「入力」という第1ステップが完了します。

視空間認知

第1ステップで「入力」された視覚情報は脳へ伝わり、「情報処理」という第2ステップへと引き継がれます。この情報処理のことを視知覚認知といいます。

視知覚認知は、目から入った情報を脳で処理し理解する能力です。見えた対象を空間の一部ではなく、全体像として把握するはたらきがあります。ただの点や線だった情報が、一つの形として具体的にイメージすることができるのはこのためです。

視知覚認知のはたらきには主に以下の5つがあります。
・見たい対象と背景を区別する
・形や色を見分ける
・物の大きさや色に惑わされずに同じ「形」を認識する
・空間的な位置を把握する
・図形の形や並び方を覚える

くわしくは以下の記事をお読みください。
視空間認知とは?発達障害との関連についてのタイトル画像

視空間認知とは?発達障害との関連について

目と手の協応第1ステップで情報を目で見て、第2ステップで脳の中で認知された情報をもとに、私たちは体を動かします。これは、「入力」「情報処理」の次のステップの「出力」にあたります。

目と手の協応

「目と手の協応」とは、視覚のはたらきと体の動きを連動させることです。例えば「ボールで遊ぶ」ことを例にあげて考えてみましょう。

1.転がってくるボールを目でとらえて、目で追う(入力)
2.ボールが到達する位置とタイミングを脳が把握する(情報処理)
3.目で追いながら体を動かして、手を伸ばしてキャッチする(出力)

このように、私たちの体は視覚の情報をもとに効率よく動いています。私たちは、これらの一連の動きを普段意識することなく行っています。ボール遊びが練習や経験によって上手になるように、このような「見る」と「動く」という能力のつながりは、心身の発達にともない、活動を通して向上するものです。
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LD(学習障害/限局性学習症)のある子どもにビジョントレーニング®は有効?

LD(学習障害/限局性学習症)とは、知的発達に遅れがないものの、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」力のうちいずれか、または複数で習得、使用に著しい困難を示している状態のことです。暗記や理解する機能などに困難があると思うかもしれませんが、実は「見る力」の弱さが原因となっている場合があることが分かってきました。

例えば、「教科書を読むのが苦手な子ども」について考えてみましょう。

教科書に書いてある文字を追うためには、眼球運動の力が関わっています。眼球運動がすばやく、正確にできないと、読みとばしが増えたり、読んでいる場所を見失ってしまったりして読書効率が落ちてしまうことがあります。
また、見る場所は合っていても、文字の形を正確に素早く認識することができないと音声化する際にたどたどしくなってしまいます。
もちろん、同じ場所や近い距離にある文字をずっと見ているのが苦手な場合には、長時間読んでいると疲れを感じ、意欲が低下するかもしれません。

このほかにも「見る力」を含む複雑で多様な力を総動員させながら、子どもたちは学習活動を行っています。勉強が苦手な子どもに、実は「見ること」や、「見た情報をもとに体の動きを制御する」ことの困難さがないかを丁寧に把握することが大切です。

だからこそ「見る力」の弱さが原因の場合、そのフォローをせずに、ひたすら音読や書き取りの練習だけを積み重ねても効果が出にくいことがあるのです。

しかし、LD(学習障害/限局性学習症)のある子どもは、「頑張りが足りない」「やる気がない」などと個人の意志や努力不足と勘違いされてしまうことが少なくありません。それが積み重なると、自己肯定感や学習意欲も低下してしまいます。

そのため、ビジョントレーニング®によって目の働きを高めることは重要です。併せて、文字を大きく、分かりやすい字体にしたり、スリット状にした厚紙等で文章の見える行を少なくしたりするなど、読みやすい環境を整備することで、LDのある子どもの困難の解決につながる可能性がより期待されます。トレーニングと環境調整の両面から支えていきたいところです。

ビジョントレーニング®はどこで受けられるの?

ビジョントレーニング®はどのような人によって行われているのでしょうか。この章では、ビジョントレーニング®を行う人や、取り入れている場所についてご紹介します。

ビジョントレーニング®は、療育施設やスポーツジム、視覚に特化した民間のトレーニングセンターなどで受けることができます。また、専門家に指導を受けるなどしてスキルを身につけた学校の先生が、通級指導教室や特別支援学級で指導されることも多くなりました。学校によっては、全校や学級全体での取り組みも報告されるようになっています。

また、ビジョントレーニング®の専門家として「オプトメトリスト」という資格を有している方がいます。「オプトメトリスト」はアメリカや中国、フィリピンなど多くの国で国家資格とされていますが、国内ではこれまで民間資格として位置づけられ「認定眼鏡士」とも呼ばれてきました。「認定眼鏡士」は、各地の眼鏡店を中心に働いておられますので地域の情報をご確認ください。また、「認定眼鏡士」は2022年度より国家資格「眼鏡作製技能士」へと移行するということで、更なる発展が期待されます。

このようにビジョントレーニング®を受けることができる場所は増えつつあります。学習場面に特化したものや、スポーツに活用できるように工夫されたものなど、さまざまな形態があります。目的に沿った場所を選ぶようにしましょう。

まとめ

私たちは普段目でものを見て生活をしていますが、「見る」ということは、視力以外にさまざまな機能を使用します。また「見る力」に弱さがあることによって、学習における困難につながることもあります。

子どもの読み書きの困難の裏側には、視覚機能の問題が隠れているかもしれません。さまざまな可能性に目を向け、原因を探っていくことが大切です。
学習につまずく子どもの見る力―視力がよいのに見る力が弱い原因とその支援
奥村 智人 (著), 若宮 英司 (著), 玉井 浩 (監修)
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LD,ADHD&ASD 2022年 04月号 (「見る力」を育む「ビジョントレーニング」―概論・アセスメント・指導の実際―)
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