オキシトシンとは。ホルモンの働きや自閉症スペクトラムの新薬開発に向けた研究動向などを紹介【精神科医監修】
ライター:発達障害のキホン
「幸せホルモン」とも呼ばれるオキシトシンは出産時の分娩や授乳を助ける働きなどがありますが、近年、自閉症スペクトラムの治療に有効ではないかと注目されています。多くの研究者が実験を行う中で、自閉症スペクトラムの代表的な特性である社会性やコミュニケーションの障害が改善したとする報告も。本記事ではオキシトシンの効果や働き、研究成果、今後の見通しなどを解説します。
監修: 山科満
中央大学文学部教授
精神科医から文系の大学教員となって,発達障害傾向ゆえに不適応に陥っている若者の多さに驚き,発達障害と本腰を入れて向き合うようになった。
オキシトシンとは?
オキシトシンとは、人間の脳から出るホルモンの一つです。ホルモンとは、体の働きを調整する役割を果たすもので、血液中にある物質です。
オキシトシンは、出産時においては子宮を収縮する作用があり、陣痛をうながす役目を持っています。子育てにおいては、授乳時にオキシトシンの分泌が増加し、乳腺を刺激して母乳を出すように働きます。また、赤ちゃんも抱っこされて乳首を吸う際にオキシトシンが分泌されます。母子の関わり合いの中で、ともにオキシトシンの分泌が促進されていくのです。
また、オキシトシンは出産や子育てだけではなく、男女の愛情にも関わっていることが分かってきています。男女の営みの際には、子宮頸部を刺激することでオキシトシンの分泌がおきます。それにより、親密感が促進されるといわれています。
また、信頼関係の構築や共同作業にも効果的であるようです。スキンシップからもオキシトシンの分泌が促進されることから、一部では「幸せホルモン」ともいわれています。
妊娠出産に関わっていない女性、また男性にもこのホルモンが分泌されることが、近年の研究で明らかになってきました。オキシトシンによって対人交流や親密感が上がることは、人間に本来備わっている機能であるともいえるでしょう。
オキシトシンは、出産時においては子宮を収縮する作用があり、陣痛をうながす役目を持っています。子育てにおいては、授乳時にオキシトシンの分泌が増加し、乳腺を刺激して母乳を出すように働きます。また、赤ちゃんも抱っこされて乳首を吸う際にオキシトシンが分泌されます。母子の関わり合いの中で、ともにオキシトシンの分泌が促進されていくのです。
また、オキシトシンは出産や子育てだけではなく、男女の愛情にも関わっていることが分かってきています。男女の営みの際には、子宮頸部を刺激することでオキシトシンの分泌がおきます。それにより、親密感が促進されるといわれています。
また、信頼関係の構築や共同作業にも効果的であるようです。スキンシップからもオキシトシンの分泌が促進されることから、一部では「幸せホルモン」ともいわれています。
妊娠出産に関わっていない女性、また男性にもこのホルモンが分泌されることが、近年の研究で明らかになってきました。オキシトシンによって対人交流や親密感が上がることは、人間に本来備わっている機能であるともいえるでしょう。
近年、オキシトシンの研究が進むにつれ、対人交流や親密感の形成が難しい自閉スペクトラム障害のある人に対してオキシトシンを投与することで、他人の感情を読み取る、目を見る、顔を認識するなどといった、対人関係改善のきっかけとなる効果があるのではないかと考えられるようになってきました。
(なお、自閉症スペクトラム障害の原因はいまだ特定されていませんが、何らかの生まれつきの脳機能障害であると考えられています。しつけや愛情不足といった親の育て方が直接の原因ではないとわかっています。)
(なお、自閉症スペクトラム障害の原因はいまだ特定されていませんが、何らかの生まれつきの脳機能障害であると考えられています。しつけや愛情不足といった親の育て方が直接の原因ではないとわかっています。)
ASD(自閉スペクトラム症)の子どもの0歳~6歳、小学生、思春期まで年齢別の特徴、診断や治療、支援、接し方など【専門家監修】
オキシトシンの研究でどんなことが分かってきたの?
この章では、オキシトシンは対人関係の改善のきっかけとなるのではないかとの仮説から、2005年にスイスで行われた研究をご紹介します。
スイスの研究グループは、健康な20代男性58名に臨床実験を行い、オキシトシンの点鼻薬を投与した結果、「他人への信頼」の増加がみられたという研究結果を発表しました。
この研究では、健康な男子大学生を対象として、「信頼ゲーム」というゲームの中で、お金をもつ投資家29名とお金を運用する立場の信託者29名に分けました。さらに、点鼻薬の形をした本物のオキシトシンと偽のオキシトシンに分けて投与しました。
その結果、本物のオキシトシンを投与した人は、45%の割合において、相手への愛着感が増し、信頼・信用し、全額に近いお金を信託者に預けました。一方で、偽のオキシトシンを投与した人は、21%のみ信託者にお金を預けました。この結果を受け、オキシトシンは将来への不安や恐怖を増加させない効果があるのではないかと考えられたのです。
ここで点鼻薬を用いたのは、オキシトシンを鼻から吸引すると、他者の感情の理解などの機能を担っているとされる、内側前頭前野と呼ばれる脳の部位が活性化されるからです。オキシトシンの点滴投与によって、朗読の際の情感の理解困難などの症状が改善したという報告もあります。
このような研究結果から、「オキシトシンは対人関係の改善のきっかけになるのではないか」と考えられ、効果が期待される人に対して、臨床での治験に向けての研究が進められました。
スイスの研究グループは、健康な20代男性58名に臨床実験を行い、オキシトシンの点鼻薬を投与した結果、「他人への信頼」の増加がみられたという研究結果を発表しました。
この研究では、健康な男子大学生を対象として、「信頼ゲーム」というゲームの中で、お金をもつ投資家29名とお金を運用する立場の信託者29名に分けました。さらに、点鼻薬の形をした本物のオキシトシンと偽のオキシトシンに分けて投与しました。
その結果、本物のオキシトシンを投与した人は、45%の割合において、相手への愛着感が増し、信頼・信用し、全額に近いお金を信託者に預けました。一方で、偽のオキシトシンを投与した人は、21%のみ信託者にお金を預けました。この結果を受け、オキシトシンは将来への不安や恐怖を増加させない効果があるのではないかと考えられたのです。
ここで点鼻薬を用いたのは、オキシトシンを鼻から吸引すると、他者の感情の理解などの機能を担っているとされる、内側前頭前野と呼ばれる脳の部位が活性化されるからです。オキシトシンの点滴投与によって、朗読の際の情感の理解困難などの症状が改善したという報告もあります。
このような研究結果から、「オキシトシンは対人関係の改善のきっかけになるのではないか」と考えられ、効果が期待される人に対して、臨床での治験に向けての研究が進められました。
オキシトシンと自閉症スペクトラムに関する研究動向
オキシトシンが対人関係改善のきっかけになりうるという報告を受け、多くの研究者が自閉症スペクトラムに関する議論を交わすようになりました。自閉症スペクトラムは社会性やコミュニケーションの障害が特徴であるため、オキシトシンが自閉症スペクトラムに効果的なのでは?と考え始めたのです。
そして、これらの議論が盛んになるにつれ、自閉症スペクトラムに対するオキシトシンの効果についての研究も数多くなされるようになりました。例えば、目もとから感情を推し量る能力の改善や、協調性のある行動が促進されたという報告です。
また東京大学医学部の研究チームが、18歳から55歳の男性自閉症スペクトラム者18名のうち、9名にオキシトシンを6週間投与したところ、一部の投与しなかった対象者に比べ少しばかり自閉症スペクトラムの特性ゆえの社会性、行動発達、常同行動が改善しているとの研究結果が出ました。
一方で、オーストラリアのシドニー大学の研究チームが、12歳から18歳の自閉症スペクトラム男児50名のうち、26名にオキシトシンを8週間投与しました。こちらの研究では、オキシトシンの投与を受けていない24名の対象者と比べても、自閉症スペクトラムにおける社会性、行動発達、常同行動のいずれにおいても改善されたという結果は出ませんでした。
このように、現段階では研究チームによって、また実験方法、対象人数、評価などによってばらつきがあり、効果についての明確な立証には未だたどり着けていません。またオキシトシンが鼻からどのような経路で脳内に入るのか、判明していません。さらには、適切な投与量や投与期間も分かっていません。オキシトシンの効果は個人の性質によっても異なることや、時には逆の作用をすることもあります。
また、オキシトシン投与時の経過観察における、研究者(定型発達者)と自閉症スペクトラムのある当事者の関係性にも着目する必要があるでしょう。オキシトシンを投与された当事者にどのような効果が出るのかを判断するのは、その研究者自身です。
つまり、「当事者である自閉症スペクトラムのある人が、観察者である定型発達者に視線をよく向けるようになった」ということを研究成果としてよいのかという疑問も残っています。
同時に、これらの研究は、実生活とはかけ離れた環境で行われた実験であり、実際の治療においての結果ではないことを理解しておかなければなりません。
そして、これらの議論が盛んになるにつれ、自閉症スペクトラムに対するオキシトシンの効果についての研究も数多くなされるようになりました。例えば、目もとから感情を推し量る能力の改善や、協調性のある行動が促進されたという報告です。
また東京大学医学部の研究チームが、18歳から55歳の男性自閉症スペクトラム者18名のうち、9名にオキシトシンを6週間投与したところ、一部の投与しなかった対象者に比べ少しばかり自閉症スペクトラムの特性ゆえの社会性、行動発達、常同行動が改善しているとの研究結果が出ました。
一方で、オーストラリアのシドニー大学の研究チームが、12歳から18歳の自閉症スペクトラム男児50名のうち、26名にオキシトシンを8週間投与しました。こちらの研究では、オキシトシンの投与を受けていない24名の対象者と比べても、自閉症スペクトラムにおける社会性、行動発達、常同行動のいずれにおいても改善されたという結果は出ませんでした。
このように、現段階では研究チームによって、また実験方法、対象人数、評価などによってばらつきがあり、効果についての明確な立証には未だたどり着けていません。またオキシトシンが鼻からどのような経路で脳内に入るのか、判明していません。さらには、適切な投与量や投与期間も分かっていません。オキシトシンの効果は個人の性質によっても異なることや、時には逆の作用をすることもあります。
また、オキシトシン投与時の経過観察における、研究者(定型発達者)と自閉症スペクトラムのある当事者の関係性にも着目する必要があるでしょう。オキシトシンを投与された当事者にどのような効果が出るのかを判断するのは、その研究者自身です。
つまり、「当事者である自閉症スペクトラムのある人が、観察者である定型発達者に視線をよく向けるようになった」ということを研究成果としてよいのかという疑問も残っています。
同時に、これらの研究は、実生活とはかけ離れた環境で行われた実験であり、実際の治療においての結果ではないことを理解しておかなければなりません。