育児放棄・ネグレクトの判断基準、ネグレクトを見つけたときに周りの大人ができること【専門家監修】
一般的にネグレクトとは、「幼児・児童・高齢者・障害者などに対し、その保護、世話、養育、介護などを怠り、放任する行為」を指します。本記事では、子どもに対して行われるネグレクト(育児放棄)について、ネグレクトの判断基準やネグレクトの疑いがある子どもを見つけたときに取るべき行動について説明します。
LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
ネグレクトとは?
ネグレクトの定義
厚生労働省によると、ネグレクトは「身体的虐待・性的虐待・心理的虐待とならぶ虐待の一つ」とされています。
またネグレクトは、その背景によって、物理的・経済的条件が整っているのにもかかわらず保護を遺棄する「積極的ネグレクト」と貧困や知識不足などが原因で保護ができない「消極的ネグレクト」とに分けられます。両者とも、親の注意が子どもに向いていないという点では共通していますが、根本的な背景が異なるために解決の方法も変わってきます。
虐待かもと思ったら。判断基準、相談機関など…子どもを救うためにできること
ネグレクトの相談件数
ネグレクトに気付くためのサインはあるの?
一般的に、以下のようなサインが見られる場合、ネグレクトの可能性が考えられると言われています。ただし、これらのサインが見られる子どもすべてがネグレクトされているわけではないので、あくまで一例として参考にしてください。
身体的なサイン
・冬なのに上着を着ていないなど季節はずれな服装をしている
・皮膚がかさかさで目の下に黒いクマがある
・虫歯がある、予防接種を受けていないなど医療的ケアを受けていない明白な兆候がある
・不衛生な住居に住んでいる
・不衛生な身なりをしている
行動面のサイン
・親の監督不行き届きのためにたびたび危険な行為に参加している
・夜遅くまで外で遊んでいるなど、家に帰りたがらない
・空腹のため、食べ物を無理に要求したり盗んだりする
・気だるそうで、何事にも無関心に見える
現実では、断片的な情報しか得ることのできない家庭外の第三者がネグレクトがあるかについての判断をすることは容易ではありません。次章では、どこから虐待といえるのか、厚生労働省が示す虐待の捉え方について解説します。
どこからが虐待になるの?
子どもの側に立って判断する
厚生労働省のホームページでは、虐待を判断する上で有効な考え方として、小児科医・小児精神科医である小林美智子氏の言説が引用されています。
「虐待の定義はあくまで子ども側の定義であり、親の意図とは無関係です。その子が嫌いだから、憎いから、意図的にするから、虐待と言うのではありません。親はいくら一生懸命であっても、その子をかわいいと思っていても、子ども側にとって有害な行為であれば虐待なのです。我々がその行為を親の意図で判断するのではなく、子どもにとって有害かどうかで判断するように視点を変えなければなりません。」(小林美智子,1994)
虐待の法的な定義は?
この児童虐待の防止等に関する法律において、虐待は以下のように定義されています。
(児童虐待の定義)
第二条 この法律において、「児童虐待」とは、保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)がその監護する児童(十八歳に満たない者をいう。以下同じ。)について行う次に掲げる行為をいう。
一 児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
二 児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること。
三 児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による前二号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。
四 児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいう。)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
児童虐待の防止等に関する法律(平成十二年法律第八十二号)|厚生労働省から抜粋
より具体的には、以下のような行為がネグレクトに該当するとされています。
ネグレクト(第3号)
● 子どもの健康・安全への配慮を怠っているなど。例えば、(1)家に閉じこめる(子どもの意思に反して学校等に登校させない)、(2)重大な病気になっても病院に連れて行かない、(3)乳幼児を家に残したまま度々外出する、(4)乳幼児を車の中に放置するなど。
● 子どもにとって必要な情緒的欲求に応えていない(愛情遮断など)。
● 食事、衣服、住居などが極端に不適切で、健康状態を損なうほどの無関心・怠慢など。
例えば、(1)適切な食事を与えない、(2)下着など長期間ひどく不潔なままにする、(3)極端に不潔な環境の中で生活をさせるなど。
● 親がパチンコに熱中している間、乳幼児を自動車の中に放置し、熱中症で子どもが死亡したり、誘拐されたり、乳幼児だけを家に残して火災で子どもが焼死したりする事件も、ネグレクトという虐待の結果であることに留意すべきである。
● 子どもを遺棄する。
● 祖父母、きょうだい、保護者の恋人などの同居人がア、イ又はエ(心的虐待、性的虐待又は心理的虐待*)に掲げる行為と同様の行為を行っているにもかかわらず、それを放置する。
など
子ども虐待の援助に関する基本事項|厚生労働省から抜粋、一部編集、*は編集部註
ただし、どのような種類・程度のネグレクトであったとしても、それが子どもに大きな悪影響を与える可能性が高いということは紛れもない事実です。次章では、ネグレクトが子どもにどのような影響を与えるのかについて見ていきます。
ネグレクトが子どもに与える影響は?
身体的影響
事故に巻き込まれた結果、大きなケガを負ったり、命を落としてしまったりするケースも報告されています。
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知的発達面への影響
心理的影響
また、ネグレクトされた経験がトラウマとなり、長い間苦しむこともあります。
さらに、保護者からの愛情・関心を十分に受けることのなかった子どもは極端に自己肯定感が低いことも少なくなく、自分自身を大切に思えない感情から自傷行為をしたり、自殺を試みたりする確率が高いといわれています。
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ネグレクトを引き起こす要因
虐待をしてしまう状況に陥りやすいリスクに早く気付き、そこに支援の手を差し伸べることが、結果的に子どもを虐待から守ることにもつながります。
保護者側のリスク要因
まず要因の一つとして、親が子どもを受け入れられていないことが挙げられます。残念なことに、望まない妊娠であったり、子どもが何らかの障害や疾患などを持って生まれてきたりしたために、子どもをわが子として受け入れられず、ネグレクトに至ってしまうケースがあるのです。ほかにも、「再婚相手の連れ子だから」という理由で子どもを愛せず、ネグレクトをしてしまう事例も報告されています。
そのほかには、保護者の知識不足がネグレクトの要因となることもあります。育児知識が不足しているために子どもに与えるミルクの量が不適切だったり、子どものケガや病気に対して、例えば病院に連れていくなど適切な対応を取れていなかったりする場合もネグレクトとなります。
また、保護者自身が虐待を受けて育った場合、自分の子どもに対しても虐待をおこなう可能性が高いとされています。
子ども側のリスク要因
養育環境のリスク要因
経済的な困窮のために医療費が払えず、治療を必要とする子ども病院に連れていくことができないケースや、なんとか生計を立てるために保護者が長時間・夜間労働をしている間、子どもが「放置状態」になってしまうケースなどがあります。
孤立した家庭は子育てに関する知識・情報を持たなかったり、そうした情報にアクセスしにくかったりするほか、頼りにできる人がいないために保護者が精神的に追い詰められてしまうなどの理由で、ネグレクトを含む虐待全般が生じるリスクが相対的に高いと考えられています。
ネグレクトされている可能性のある子どもを見つけたら?
児童虐待の通告は国民の義務
速やかな通告がされないと、行政機関も虐待の防止に向けた活動を行うことができず、虐待を受ける子どもの生命や心身に大きなダメージを与える危険性が高くなります。
そのため、虐待の通告は「児童虐待対応において極めて重要」とされており、したがって、児童虐待の防止等に関する法律では以下で示す通り、すべての国民に通告義務を課しています。
(児童虐待に係る通告)
第六条 児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。
2 前項の規定による通告は、児童福祉法第二十五条第一項の規定による通告とみなして、同法の規定を適用する。
3 刑法(明治四十年法律第四十五号)の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第一項の規定による通告をする義務の遵守を妨げるものと解釈してはならない。
また、もし仮に通告の後で虐待の事実がないと判明したとしても、虐待の事実がないことを知りながら故意に虚偽の通告したという場合などを除けば、法的責任を問われることはありません。また、通告した人が特定されるような情報や通告内容が漏れることはありません。
どこに報告すればいいの?
「189」は、児童相談所や市区町村が「いちはやく」児童虐待に対応できるよう設けられた全国の児童相談所の共通ダイヤルです。「189」に電話をかけ、音声ガイドに従うことで最寄りの児童相談所につながります。
また、相談者の氏名や相談内容に関する秘密に関しては口外されないよう定められているため、相談者にとって安心して相談しやすい環境が整えられています。児童相談所の担当者に対して氏名を明かしたくない場合は、匿名での相談もおこなうことができます。
通告は子どもだけでなく保護者も救う
そのような感情を抱くのは自然なことですが、そんなときに知っておいてほしいのは、「児童虐待の通告は、子どもだけではなく、保護者をも救う」ということです。
多くの場合、ネグレクトが起きてしまう背景には「保護者が抱えている何らかの困難」が潜んでいます。ネグレクトをしてしまう保護者は、経済的に苦しい生活をしていたり、自分自身が病気や発達障害、精神疾患などを抱えていたり、子どもをしつける方法が分からなかったりという困難を抱えているにもかかわらず、身近に相談する相手もいなくて、社会的にも精神的にも孤立状態にあることが多いと考えられているのです。
通告によって行政がネグレクトの存在を知ることができれば、それは保護者にとって子どもとの関わり方を見直し、自分自身が抱える困難への対処を行うきっかけとなります。また、貧困や疾患が背景にある場合や子育て方法が分からない場合など、保護者自身への支援につながることもあるのです。
こども家庭庁では「親子のための相談LINE」を開設しています。子育てや親子関係について悩んだときに、子どもや保護者がコミュニケーションアプリを使って相談できる窓口です。そのほかにも社会福祉法人子どもの虐待防止センター(CCAP)など、虐待防止を援助する民間団体などでも相談やグループケアなどのサポートを受けることができます。
まとめ
精神面で例を挙げると、幼児期に保護者との間で愛着を築けなかったり、ネグレクトの経験がトラウマとなったりすることで長期的な影響を与えることが多く、それらの影響が多動性や気分のコントロールに関する障害、対人関係に関わる障害などとなって現れることも少なくありません。
直接的な影響としては、親の注意監督不足によって子どもが事故・事件に巻き込まれて大けがを負ったり命を失ってしまったりする事例が報告されています。
虐待を受けている子どもは、日常的に虐待を受けていながら、それを虐待とは感じていないこともあると言われています。また、小さい子どもは自分でSOSを出すことができません。
ネグレクトされている子どもを救うためには、周りの人が気づき、支援の手を差し伸べることが極めて重要です。もし疑いのある子どもを見つけたら、ためらわずに「189」に相談してみてください。
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