共感覚の判断法

共感覚は、「本人がどのように感じているのか」に重きがおかれてきたため、客観的に測定することが困難だとされていましたが、次第に、共感覚かどうかを客観的に測る手法が確立されてきました。

ここでは、もっとも一般的な共感覚である、文字を見たときに色を感じる共感覚を例にして、主な3つの手法を紹介します。

一貫性を量るテスト

共感覚には一貫性があり、時間が経過してもその感覚に変化はほとんど起こりません。検査の日の天候や、本人の調子などに左右されるときには、共感覚の可能性は低いと思われます。

そのため、例えば文字に対して色を感じる共感覚があるかどうかを確かめるために以下のような手法が用いられます。

膨大な色のパターンがある虹色のパネルから、今まさに見えている色を選択してもらいます。そこから期間をおいてから、また同様に同じ文字を見せて色を選択してもらい、前回選んだ色とどれだけ近いかを調べます。

記憶力が優れている人の場合、以前に選択した色を覚えているだけだという批判が考えられますが、「赤」「青」「黄」と答えるのではなくパネルの膨大の色から選んでいるため記憶力だけで答えるのは非常に困難です。

同時性を量るテスト

共感覚は「bは、なに色に見える?」という問いに対して、「(blueのbだから)青かな」と答えたり、「そう言われると、白っぽく見えるかな」というような考えて出てくるものではなく、無意識に、理由もなく起こる(=同時性)ものだと考えられています。

そのため「bはどんな色?」のような質問に対して回答するまでの時間は、共感覚の人は短くなる傾向があります。

実際に行われる検査には、この同時性を正確に測るために、わざと色つきの文字を見せてそれがどんな色がついているかを質問するものがあります。共感覚でない人は、そのまま色を答えればいいので回答時間が短くなりますが、共感覚の人は文字に実際についている色と文字から思い浮かぶ色が混同して、答えるまでに時間がかかってしまいます。

神経活動を計るテスト

わたしたちの脳では、文字を読むときに活発になる領域と色を見たときに活発になる領域が分かれています。多くの人は、文字を読むときに、色に関する脳の領域が活発になることはありません。しかし文字に色がついてみえる共感覚の人は、文字を読むだけで色に関する脳の領域も活発になることがあります。

文字を読んでいるときに、色を見たときに活発になる領域が反応しているのかどうかを特殊な機械を用いて測定することで共感覚かどうか確かめることができます。

共感覚かどうかの区別にあたっては、一貫性があるか、同時性があるか、神経活動はどうなっているのかという観点が大切になってきます。
参考:共感覚から見えるもの アートと科学を彩る五感の世界
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共感覚の原因

脳は視覚情報や聴覚情報などを、それぞれ別の領域で処理していますが、共感覚の人はこの領域同士の結びつきが強い傾向にあることがわかりました。この結びつきの強さの理由には、複数の仮説が考えられています。

ヒトは様々な情報を脳の別々の領域で処理していますが、最終的には処理した情報を集めなければいけません。たとえば、「りんご」であれば「赤い球体」という視覚情報と「甘くておいしいもの」という味覚情報を合わせて記憶する必要があります。

もし、この情報が統合されていないと、りんごを見たときにも、視覚情報から食べられるのかどうかを判断できず、毎回一口食べてから過去の経験に照らし合わせて食べられると判断することになります。

ヒトの脳は、多様な情報を処理するために各領域でそれぞれの情報を処理するように発達していきます。しかし、各領域の分化が進み過ぎると情報を統合することができなくなるため、領域同士の結びつきをちょうどよくしなければいけません。

共感覚の人は、そうでない人に比べてこの領域同士の結びつきが強いです。共感覚のメカニズムについてはいまだに解明されていないことも多いですが、いくつかの仮説が提唱されています。

結合が多い

1つ目の仮説はそれぞれの領域を結ぶ配線の数が多いために、結びつきが強くなっているという考え方です。

新生児は、脳の領域同士の結びつきが過剰な状態で生まれてきます。多くの人は、過剰な結びつきを減らしますが、共感覚の人は過剰な結びつきを減らしきれていないのではないかと考えられています。

抑制が少ない

2つ目の仮説は、それぞれの領域を結ぶ配線の数に違いはないが、本来かかるはずの抑制がかかっていないために共感覚が起こるという考え方です。

私たちは、脳の領域同士の配線を持ってはいますが、それをオンオフに無意識のうちに切り換えているという考えに基づいています。

可塑性が少ない

3つ目の仮説は、一度ついた結びつきがなかなか元に戻らないという考え方です。可塑性とは、一度変化したものの元に戻りやすさのことです。

脳の領域の結びつきは、同時に活発になったときに強くなります。

そのため「赤色で書かれた2」を見ると、2に対してなんとなく赤のイメージがつきます。しかし、多くの人はその後にさまざまな色のついた2を見たとしても、なにか1つの色に対して強いイメージが残ることはありません。

可塑性が少なく、ある特定の結びつきが残ってしまった結果、共感覚になる可能性があります。
参考:脳のなかの万華鏡---「共感覚」のめくるめく世界
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共感覚と自閉症スペクトラム

これまで、共感覚と自閉症スペクトラムを長年研究していた専門家のあいだでは、一般的に共感覚と自閉症スペクトラムには関係がないとされていました。

しかし、ケンブリッジ大学のチームが2013年に、「自閉症スペクトラムのある人は定型発達の人に比べて、共感覚のある割合が高い」と報告しました。

ケンブリッジ大学のチームの見解では、自閉症スペクトラムと共感覚には、「脳の領域同士の結びつきが過剰である」という共通性があるために、自閉症スペクトラムである人の中に、共感覚である人が多いのではないかとしています。

今回の発表チームのメンバーであるSimon Fisher教授は、この発見によって、自閉症スペクトラムと共感覚が発生するメカニズムを探るヒントになると考えています。

自閉症スペクトラムと共感覚がどちらも「脳の領域同士の過剰な結びつき」から生じているとすれば、「自閉症スペクトラムと共感覚を同時に引き起こす遺伝子」や、「脳がどのように結びつきを形成するのか決めている遺伝子」を探すという方向性が提示されたことになるからです。

このように、自閉症スペクトラムと共感覚はそれぞれ遺伝的な側面があると考えられ、現在どの遺伝子が原因なのか研究されています。しかし、未だ遺伝子の特定には至っていません。
ASD(自閉スペクトラム症)の幼児期~思春期の特徴、診断方法、治療や療育方法を解説【専門家監修】のタイトル画像

ASD(自閉スペクトラム症)の幼児期~思春期の特徴、診断方法、治療や療育方法を解説【専門家監修】

【参考】Simon Baron Cohen ”Is synesthesia more common in autism?” | Molecular Autism
https://molecularautism.biomedcentral.com/articles/10.1186/2040-2392-4-40
次ページ「共感覚は後天的に獲得できるのか」

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