青年期を迎えた自閉症の息子。生きる力をつけるための“小さなハードル”を

ライター:立石美津子
青年期を迎えた自閉症の息子。生きる力をつけるための“小さなハードル”をのタイトル画像
出典 : http://amanaimages.com/info/infoRF.aspx?SearchKey=07800070719

障害のある子どもを育てる人の中には「少しでも自分でできることを増やさないと」「将来の自立のために、あれもこれもできるようにさせないと」と考える人もいます。

けれども、越えられない高いハードルばかり与えていると、子どもはやる気も自信も失ってしまうことがあります。では、子どもの力を育む最適なハードルとはどんなものなのでしょう。

”期限切れの定期券”が教えてくれた息子の成長

『子どもも親も幸せになる 発達障害の子の育て方』著者の立石美津子です。

息子は中学の頃、特別支援学級がある学校に通うため、一人で電車通学をしていました。3ヶ月分の定期を購入していましたが、ある時、うっかり期限が過ぎていることに気付かず、登校させてしまいました。

息子は帰宅するなり、「お金使った」と言いました。お財布には常に400円ほど入れていたのですが、それを使ったようでした。顔を見ても泣きはらした涙の跡がありませんでしたから、パニックにはならなかったようです。

期限切れの定期で改札を通れば、ピピーッと警報音が鳴ります。聴覚過敏のある息子にとって、聞きなれない音は恐ろしかったでしょう。さらに、駅員に注意されもしたでしょう。それでも、落ち着いてお財布からお金を出せたのだと思います。

これは「自閉症である息子にとってはかなりの成長だ」と感じました。

過保護から卒業しよう、と決めた

私は「息子がパニックを起こす状況を避けよう避けようとしていた幼児期、小学校時代はもう終わったのだ」、「細やかな配慮をし“この世は安全なんだ”という安心感を持たせることは今までずっと続けてきたのだから、心は安定しているはず」と思うようになりました。

そして、「これからは、予測しない事態を乗り越える経験をさせる年齢に差し掛かっているんだ。」と気づき、「過保護、過干渉の代表である“危険物がないか子どもの頭上を旋回するヘリコプターペアレント”、“障害物を取り除く除雪車のようなスノウプラウペアレント”にならないように気を付けよう」と決めました。

スーパーの中にもある、様々なハードル

「息子はこれから、どんな力を身に付ける必要があるんだろう?」そう考えたとき、日常生活の中で欠かすのとのできない、スーパーマーケットでの買い物が思い浮かびました。 

買い物の場面でも、乗り越えなくてはならない様々なハードルがあります。そこで、思いつくものをまず書き出してみました。

① 店までの道のり、信号機が緑になったら渡る
② 消費期限や賞味期限を見て商品を選ぶ
③ ②の中でも、より新しい商品選ぶ
④ レジ前の列に並ぶ
⑤ お店の人と会話する
⑥ 財布からお金を出す
⑦ お釣りをもらう
⑧ 袋に詰める

この8点の中で、できていること、できていないことに分けてみました。

○ 信号機が緑になったら横断歩道を渡る
× 消費期限、賞味期限を見て商品を選ぶ
× より新しい商品を選ぶ
○ レジ前の列に並ぶ
× お店の人と会話する
△ 財布からお金を出す
△ お釣りをもらう
○ 袋に詰める

×はなかなかできそうもないので後回しです。今の息子の能力では超えられない高すぎるハードルだからです。△を〇にするのがまずクリアすべき課題です。
ライフバナー

チャレンジさせたい”小さなハードル”をあえて作る

(△財布からお金を出す)
細かい計算は難しくても、110円の物を買うのに100円玉と10円玉を出すことは、なんとかできていました。何度か繰り返すうちにできるようになるでしょう。

(△お釣りをもらう)
お釣りは自分が計算できなくても、大きいお金を出せば、店員さんが渡してくれます。お釣りの引き算ができなくても大丈夫です。

△の課題は、なんとかクリアできそうです。では、次のハードルは?それは、例えば”お金が足りなくても適切な対応ができる”などといった、予測していない事態への対応です。

通学定期の期限が切れたときパニックにならず対応ができたのですから、越えられるハードルだと考えています。

「150円の牛乳を買ってきてください」と伝え、財布には100円しか入れておかない、そんな状況をわざと作ろうと計画中です。予測していなかった事態に対応できるようになってほしいからです。

お金が足りなかったら、息子は一体どういう行動をとるか想像してみました。

①店でお金が足りないと店内で暴れて、いつまでも帰ってこない
②泣きながら家に帰ってくる
③「お金なかった」と言い、何も買ってこないで普通の顔をしている

この社会で生きていく力をつけるために

まだ生まれて数年の幼児期、小学校低学年のうちは、越えられないハードルを与えてパニックを起こさせる状況はできるだけ避け、「この世は安心なんだ。お母さんは僕が嫌がることはしない」と体験させることが大切だと思います。

こうして絶対的な安心感を確立させた上で、成人する年齢に近づくにつれ、自分の力で小さなハードルを越える経験を通して、自信を付けていってほしいと思います。

世の中は不測の事態が起こるもの。幼児期は、いつも通る道路が工事中で「迂回してください」の看板があっても迂回できず、危険な道でも通り抜けようとしていました。

そして、工事のおじさんに叱られ、パニックを起こしていました。でも、今は大丈夫です。

17歳になった息子に対して本人に合ったハードルにチャレンジさせたいと考えています。そして、自分の力で乗り越え、自信をつけて、生きていく力をつけていってほしいと思っています。 

立石流 子どもも親も幸せになる 発達障害の子の育て方
立石 美津子
すばる舎
Amazonで詳しく見る
私が自閉症の息子を冠婚葬祭に出席させたいと願う理由。初めての結婚式を経験して…のタイトル画像

私が自閉症の息子を冠婚葬祭に出席させたいと願う理由。初めての結婚式を経験して…

親なきあとのこと、考えていますか? わが子が支援の網の目からこぼれ落ちないためにできること のタイトル画像

親なきあとのこと、考えていますか? わが子が支援の網の目からこぼれ落ちないためにできること

「発達障害のある子どもの自立」就労へ向け準備したいこととは?のタイトル画像

「発達障害のある子どもの自立」就労へ向け準備したいこととは?

ライフバナー


年齢別でコラムを探す


同じキーワードでコラムを探す



放課後等デイサービス・児童発達支援事業所をお探しの方はこちら

放課後等デイサービス・児童発達支援事業所をお探しの方はこちら

コラムに対する投稿内容については、株式会社LITALICOがその内容を保証し、また特定の施設、商品及びサービスの利用を推奨するものではありません。投稿された情報の利用により生じた損害について株式会社LITALICOは一切責任を負いません。コラムに対する投稿内容は、投稿者の主観によるもので、株式会社LITALICOの見解を示すものではありません。あくまで参考情報として利用してください。また、虚偽・誇張を用いたいわゆる「やらせ」投稿を固く禁じます。「やらせ」は発見次第厳重に対処します。