【医師監修】ダウン症の平均寿命は約60歳へ。寿命が延びた理由と成人期、壮年期の暮らしを解説

ライター:医師・専門家監修|発達障害・支援のキホン
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出典 : http://amanaimages.com/info/infoRF.aspx?SearchKey=11017015069

ダウン症のある人は、寿命が短く、高齢期を迎えられないと考えられてきました。しかし現在、寿命が延びていると言われています。

合併症の早期治療など寿命が延びた理由や、健康管理のポイント、成人期以降、地域でどのように暮らしているのかなどについてまとめました。

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監修: 玉井浩
大阪医科薬科大学 小児高次脳機能研究所 LDセンター顧問
大阪医科薬科大学 小児科名誉教授
小児神経学をベースに、小児期から成人期に至るまで医療・教育・福祉にわたる総合的な診療と支援を実践している。また、日本ダウン症協会の代表理事として、家族支援、公益事業や国際連携も行っている。
目次

ダウン症のある人の、現在の平均寿命は?

このコラムで分かること

  • 医療の進歩により、ダウン症の平均寿命は約60歳まで延びており、高齢期を迎える人も増えている
  • 【年代別】乳幼児期から成人期まで、ライフステージごとに気をつけたい合併症と健康管理のポイント
  • 就労やグループホームでの生活など、成人期以降に地域社会で豊かに暮らすための視点
  • 30代以降に課題となることがある「認知機能の低下(退行)」や「親なきあと」に向けた備えについて
2013年のアメリカでの発表によるとダウン症のある人の平均寿命は、今から1960年代ごろまでには10歳前後といわれていましたが、現在は大幅に延び、約60歳に達しています。
2013年のアメリカでの発表によるとダウン症のある人の平均寿命は、今から1960年代ごろまでには10歳前後といわれていましたが、現在は大幅に延び、約60歳に達しています。
(Presson AP, et al. J Pediatr. 2013;163(4):1163-8 )
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参考資料:障害のあるお子さんの暮らし (ダウン症)|こども家庭庁 妊娠中の検査に関する情報サイト
https://prenatal.cfa.go.jp/growth-and-life/living-with-children-21trisomy.html

ダウン症のある人の寿命は、短いと考えられていた

ダウン症のある人の寿命に関して、1975年に発行された書籍には「ダウン症候群の赤ちゃんのうち約20~40%は生後数ヶ月、ないし数年以上いきながらえることはできない」と、記載されていました。

しかし正確には、ダウン症そのものが原因ではなく、1975年ごろの医療水準では、ダウン症の合併症である心疾患や感染症などによって、幼少時に重篤な状態に陥ることが多かったため、寿命も短いと考えられていたのでしょう。
ダウン症候群
D.W.スミス (著), A.A.ウィルソン (著), 長崎ダウン症児研究会 (イラスト)
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ダウン症とは?

通常、ヒトの染色体は22対(44本)の常染色体と2本の性染色体の合計46本の染色体によって構成されています。ダウン症は21番目の染色体が3本あるために起こる先天性の疾患です。

ダウン症は大きく分けて、標準型21トリソミー型、モザイク型、転座型の3種類に分かれます。

「標準型21トリソミー型」(ダウン症全体の約95%)…通常であれば22対(44本)あるはずの常染色体のうち、21番目の常染色体が1本多くなり、2本の性染色体と合わせて47本になることで起こるものです。これは受精時に偶然起こるもので、両親の染色体に変異はありません。

「モザイク型」(ダウン症全体の1~3%以下)…2つの異なる細胞で体が構成されています。21番トリソミーを持つ細胞と21番トリソミーを持たない細胞が一定の割合で混在しているというような状態です。モザイク型ダウン症も、両親の染色体に変異がなくても発生します。

「転座型」(ダウン症全体の約4~5%)…21番目の染色体の1本がほかの染色体(13番、14番、15番、21番、22番など)にくっついたことによって起こります。21番染色体の一部は過剰になりますが、数としては46本の染色体になります。ダウン症全体の約4~5%といわれる転座型の発現率のうちの半分が親に転座染色体保因がある場合、つまり遺伝によって起こります。

ダウン症候群の「染色体異常」そのものを治す方法は現代の医療ではまだありませんが、先天的/後天的に伴う疾患など「合併症」に対する治療法は存在します。

ダウン症の合併症治療とは?

ダウン症のある人の寿命が長くなった大きな要因には、近年、医学の発展によって合併症の発見と治療が、よりきめ細かく行われるようになったことがあげられます。

ダウン症のある赤ちゃんの50%に合併しているといわれる心疾患など循環器系の病気も、早期段階(胎児期〜乳幼児期)でスクリーニング可能になり、乳幼児のうちから手術や治療ができるようになりました。

小児の心臓病を専門に扱う施設も増え、早期の外科治療ができる可能性が高まると共に、手術の成功率も上昇しているようです。

このように、生命の維持に関わる重要な臓器である心臓の疾患が比較的早い時期から治療できるようになったことで、ダウン症のある人の身体的な健康が保たれやすくなりました。つまり、合併症への対応や治療成績の向上が、平均寿命の延長に貢献しているといえるでしょう。

ダウン症のある人は、さまざまな合併症がある可能性がありますが、適切な健康管理と発達支援、そして社会資源の活用などによって、着実な心身の成長と発達が期待できるようになってきました。
参考:「Estimation of the number of people with Down syndrome in the United States」
https://www.nature.com/articles/gim2016127.epdf?author_access_token=yWiuaz_KFRcEHDafdjMLM9RgN0jAjWel9jnR3ZoTv0P6KwggEXKlqNqrIMbMqZoE4hH-MxN8kCJnJHXNbQNYMh5iDjUYIlZ85E7wSCKA5gfKX30JtPxcfib0MnAr3xJZ
出典:downsyndromeinfo.org Down Syndrome A-Z 『Aging & Health』
https://downsyndromeinfo.org/down-syndrome-a-z/#aging-and-health
ダウン症の治療法は?効果的な治療薬は存在するの?合併症の治療、療育、現在進んでいる研究までご紹介します【医師監修】のタイトル画像

ダウン症の治療法は?効果的な治療薬は存在するの?合併症の治療、療育、現在進んでいる研究までご紹介します【医師監修】

ダウン症のある人の、合併症の疾患別健康管理のポイントは?

「長寿を保つためには、健康管理に気をつけなければならない」というのは誰しもあてはまることですが、なかでもダウン症のある人にとっては「合併症の治療と適切な健康管理」が生涯にわたって重要なキーワードになってきます。

■合併症管理とフォローの目安
健診により合併症が認められた場合、適切な管理が必要です。ダウン症のある人に起こりやすいといわれている合併症は以下の通りです(月齢等は目安)。

・先天性心疾患
心室中隔欠損症、心房中隔欠損症など、さまざまな心臓の疾患が合併している可能性があります。新生児期の診察で確認されると、直ちに治療、管理が開始される場合もありますが、経過観察するだけで良い場合もありますので、主治医とよく相談しましょう。

・消化器疾患
十二指腸閉鎖などの消化器官の機能の低下や、肛門がうまく作られず、ふさがった状態で生まれてくる鎖肛などの疾患がある場合があります。治療はすぐに開始され、ほとんどが日常生活を送るのに支障がない状態に管理されます。また、腹筋の弱さや、消化器機能の低下などにより、便秘になりやすいこともあります。特に乳幼児期には服薬などにより排便コントロールが必要な場合もあります。

・血液疾患、甲状腺など
一過性骨髄増殖症などによる白血球等の数値異常や甲状腺機能のほか、血液検査で確認できる疾患の早期発見、治療のために、6ヶ月時、1歳時、以降問題なければ1年ごとに血液検査を受けることが望ましいと考えられています。

・視力・眼疾患
乳幼児期から白内障などの眼疾患の確認のほか、屈折率の測定を行います。乳幼児でも屈折率を測定しやすい機器などのある小児専門の眼科もあります。就学までは1、3、5歳時の眼科受診が推奨されています。

・聴力・耳鼻科疾患
中耳炎、難聴、閉塞性無呼吸などに注意が必要です。新生児期にスクリーニングのための聴力検査を実施し、以降、状態によっては半年から1年ごとにフォローがあります。一般的な聴力検査で測定が難しい場合には、脳波測定による聴力検査を行うこともあります。

・歯科
歯の萌出が認められたら、主治医の勧める歯科などで定期的にフォローが必要です。離乳食の進め方、食べ方の指導などが受けられる歯科もあります。

・泌尿器
男児は、精巣の停留の有無の確認が必要です。また、尿を溜める能力や、排尿に関する機能の問題についても、気になることがあったら相談してみてください。

・整形
外反扁平足などがある場合、靴の中に足をサポートするための特別な中敷きを入れることがあります。

・頸椎不安定性 
だいたい3歳時と6歳時(就学前)に頚椎のX線検査を行うよう推奨されています。
異常が認められれば整形外科でフォローが行われます。
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ダウン症のある人の、年代別健康管理のポイントは?

ダウン症はさまざまな合併症を伴う可能性がありますが、逆に100%の確率で合併する特定の病気というものもなく、そのため健康管理に関しても決まったパターンはありません。一人ひとりに応じた、適切な健康管理を行うことが大切です。

健康管理には、合併症の発見、治療はもちろんのこと、発症するリスクの高い疾患の予防が大切です。

・乳児期・幼児期の健康管理
乳児期までは先天性合併症の発見と発育の細やかな観察、フォロー体制の確立が大切になります。

新生児期から1歳までは1ヶ月ごと、1歳から3歳は3ヶ月ごと、3歳から6歳は6ヶ月ごとの受診がすすめられることが多いようです。ダウン症のある人の成長曲線に則して、発達や日常生活(身辺自立)の経過のチェックが行われます。

・学童期の健康管理
学童期は健康の維持と合併症の予防が大切です。就学以降は1年ごとの受診がすすめられています。偏食や肥満のチェックなども行われます。

・思春期の健康管理
第二次性徴を迎える思春期には、ホルモンのバランスが一時的に崩れることがあるため、心身共に不安定になりやすい時期です。年に一度の受診のほか、体調や精神的な変化について心配なことがあったら、医師に相談してください。

・成人期の健康管理
成人期には健康を維持するための生活習慣の指導、そして、成人期に発症するリスクの高い合併症の予防、早期発見・治療が重要です。

ダウン症のある人の、成人期の生活で重要なポイントは?

寿命が延びたことにより、長い成人期を視野に入れた生涯を通じての発達や生活、生き方を考えることが必要になってきました。ダウン症のある人の「生涯発達」を考えた支援が重要だと考えられています。

学校教育を終え成人したダウン症のある人は、地域の作業所や企業などで働いたり、さまざまな日中の活動を楽しむ施設に通所、入所して過ごしています。またダンス、音楽、スポーツ、書道、絵画などの分野で活躍する人もいます。また、生活の基盤も家庭だけでなく、グループホームなどで家族と離れて暮らす人もいます。

また、成人期には、さまざまな疾患のほかに「肥満」の解消など、生活習慣に関わる問題も健康管理上重要です。しかし、大人になったダウン症のある人について知識を持った内科医はまだまだ少ないようです。

つまり成人期の生活で大切なことは、地域社会の中で仕事や余暇などを楽しみながらいきいきと暮らすことと、適切な健康管理です。現在、生活の幅は広がり、地域生活でのサポート体制も整いつつあります。しかし、健康管理の面ではまだまだ課題があるようです。

ダウン症のある30代以降の人にあらわれやすい、認知機能の低下とは?

平均寿命が長くなってきたことに伴い、近年、多くのダウン症のある人たちが地域の中で元気に暮らしています。しかし、大人のダウン症のある人に関する新たなトピックが注目されるようになってきました。

30代以降、アルツハイマー病と同じ機序によって日常生活の能力や運動能力が低下していると考えられる人がいるのではないか、とする報告がみられるようになってきたのです。ダウン症のある人は、「アミロイド前駆体タンパク遺伝子」という遺伝子が通常よりも多く存在し、その結果、脳の中のアミロイドタンパクが増加してアルツハイマー病と同じような変化を脳内に生じさせるのではないかと考えられているようです。
参考:ダウン症患者における早期アルツハイマー病発症メカニズムの解明(著者:浅井 将、 川久保 昂、 森 亮太郎、 岩田 修永)
https://doi.org/10.1248/yakushi.16-00236-2
現在、ダウン症のある人の認知機能の低下に効果がある治療薬はまだなく、定まった見解もありません。

また、ダウン症のある人の思春期から若年成人期に生じる可能性のある急激な退行様症状(生活機能の低下)と成人期以降の変化についても同じものであるかどうか、研究者のあいだでもさまざまな見解があります。ダウン症のない人とダウン症のある人の機能低下の症状が同じかどうか、認知機能低下の原因は何か、あるいは寿命に関係があるのかなどについて論じるための累計的なデータはまだ乏しく、分からないことが多いのが現状です。

今後、上記の臨床試験の結果がまとめられ、別の角度からの研究がすすみ、すべてのダウン症のある人たちが安心して成人期を迎えられる日がくることを願っています。

まとめ

医学の進歩などにより、ダウン症のある人の平均寿命は長くなりました。適切な治療などを受けることで健康に成長し、地域社会の中でいきいきと生活できる時代へと確実に向かっています。

保護者や支援者によるサポートをはじめ、当事者が豊かに自律的に暮らしていける仕組みづくりも少しずつ始まり、生活の質(QOL)の向上についての取り組みも進んできています。また、就労して経済的に自立していたり、文化や芸術の分野で活躍するなど、地域の中でいきいきと暮らす、ロールモデルとなるようなダウン症のある人も増えてきています。

一方で、寿命が長くなったことにより、「親なきあと」の心配もクローズアップされています。記録ノートなどを活用して情報を整理し、支援につながる手立て準備する人も増えているようです。保護者も子どもも安心して成人期を迎え、充実した生活を送ることができるよう、少しずつ情報を集め、具体的な支援方法を準備していけるといいのかもしれません。
参考:『親心の記録』(日本相続知財センター)
https://yukari-tokyo.jp/about-us/parent/oyagokoro-no-kiroku/
参考:BRIAN SKOTKO
http://brianskotko.com/
注:記事中、医学的な内容については正式な名称である「ダウン症候群」を、それ以外の内容では「ダウン症」という略名を使用しています。
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