親なきあと、障害のある子はどう暮らす?お金は足りる?行政書士・渡部伸先生×立石美津子さん対談【後編】

ライター:発達ナビ編集部
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各地で講演活動を行い、障害のある子の「親なきあと」の現状や対策について発信する行政書士の渡部伸先生と、自閉症児の母であり、発達ナビで連載コラムを執筆する立石美津子さんによる「親なきあと」についての対談企画、第二弾。

保護者の立場からわき出る、立石さんからのリアルな疑問・不安に対して、専門家の渡部先生が分かりやすく説明。前編では主に、「親なきあと」の”お金のこと”についてお伝えしました。今回は、「親なきあと」どこで暮らすのかや、サポート体制などについてお伝えします。

撮影:田島寛久

目次
各地で講演活動を行い、障害のある子の「親なきあと」の現状や対策について発信する行政書士の渡部伸先生と、自閉症児の母であり、発達ナビで連載コラムを執筆する立石美津子さんによる「親なきあと」についての対談企画、第二弾。

対談の前編、「親なきあと、障害のある子はどう暮らす?お金は足りる?」では、保護者が元気で動けるうちに、税の控除や手当なども活用しながら資産をつくる、親なきあとに障害年金がもらえるように準備したり、のこした資産を信託するなど、適切に渡していくことの準備が必要だということが分かりました。
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親なきあと、障害のある子はどう暮らす?お金は足りる?行政書士・渡部伸先生×立石美津子さん対談【前編】

「親なきあと」の暮らしはどうなる?住まいは?支援者は?「親なきあと」相談室を主宰する行政書士・渡部先生×自閉症の子を育てる立石さんの対談から

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障害のある子はどこで暮らす?幸せに暮らすために今できることは?について語る二人。
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「親なきあと」に関する保護者の方のもうひとつの懸念は、のこされた子どもが「どこで暮らすのか、その暮らしを誰がサポートしてくれるのか」ということです。

障害者支援施設といった入所施設やグループホームなどに住むのか、福祉サービスを活用しながら1人暮らしや親族と一緒に住むのか…ぼんやりと想像はできても、わが子が将来どのような暮らしをするのか、それにはどのくらい費用がかかるのかなど、分からないことが多く、不安や疑問があると思います。

対談後編の今回は「暮らし編」と銘打ち、「親なきあと」の暮らしをテーマに、お二人の対談をお届けします。

「親なきあと」、障害のある子はどこに住むのか?

立石さん(以下、立石)
お子さんがまだ小さいと、将来親がいなくなった後、どこに住むかということまでまだ考えが及ばないかもしれませんが、実際は親なき後の人生の方が長いですから、お金の問題もですが、どこで誰と住むのか考えておくことは大切だと思います。

健常の兄弟姉妹がいたとしても、独立してそれぞれの生活を歩みますから、障害のある子の面倒を託すこともできませんし…。

渡部先生(以下、渡部)
今、障害のある方の住む場所についても、法制度や社会環境が変わっている…過渡期なんですよ。今後の流れとしては、居宅介護などを充実させていくことで、特に軽度から中度の場合はできるだけ施設やグループホームに入らず自宅で暮らすことを目指す、という方向になってくと思います。大規模施設を作ってそこに障害のある方を集めて…というところから、福祉サービスを充実させて地域で暮らせるようにするという流れですね。

発達ナビ編集部(以下、編集部)
どうしてそういう流れになったんでしょう?

渡部
2003年に、それまで行政がサービスの利用先や内容を決めていた「措置制度」から、障害のある方の自己決定に基づいてサービスの利用を決定する支援費制度に変わったことが大きなきっかけだったと思います。

もうひとつ大きいのは、2014年に「障害者権利条約(障害者の権利に関する条約)」を批准したことですね。この条約を批准するために法制度を整備する必要が出てきて、「障害者総合支援法」ができたり、「障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)」ができました。

”住み慣れた地域で自分らしく暮らしていきたい”という願いにこたえていこうという流れになっているんです。2018年4月には、「自立生活援助」制度も始まります。施設やグループホーム、病院に入所している障害のある人が、1人暮らしを始める場合、一定期間、巡回したり支援するという制度です。また、そうした法制度が走り始めると、一定期間たって「自立生活援助」による支援が終了したあとをサポートするようなサービスなどが民間から出てくると思います。それによって、地域で暮らしていきやすい体制が整ってくるのではないかと期待しています

立石
本当に過渡期なんですね…。
参考:障害者の権利に関する条約 | 外務省
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinken/index_shogaisha.html
参考:障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律 | 内閣府
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/law_h25-65.html
障害者総合支援法を解説、自立支援法との違い、平成30年施行の障害者総合支援法の改正のポイントを紹介のタイトル画像

障害者総合支援法を解説、自立支援法との違い、平成30年施行の障害者総合支援法の改正のポイントを紹介

渡部
また、新しい取り組みとして、障害者とその親が一緒に住める老人ホームや、障害者のグループホームとその親が入る高齢者のグループホームがひとつの敷地内にある施設などができてきています。高齢になると、施設に入所している子どもに会いに行くことができなくなりがちですが、同じ敷地内であれば安心ですよね。

立石
そういう施設もあるんですね。

渡部
障害者の入居施設は結構定員いっぱいなことが多くて。入居できる施設は地方にあることが多いし、親も元気なうちは新幹線で1本だからすぐに会いに行けると思って入居を決めたりするのですが、いざ高齢になると、なかなか会いに行けなくなってしまう…。

立石
うちは母一人子一人なので、私がいなくなったら…、動けなくなったらと思うと心配なんですね。いざというとき、地元に入居できるグループホームもないかもしれない。子どもが路頭に迷わないようにしたい。それで、将来のことを考えて、グループホームを作りたいなと思っています。

編集部
立石さんは、実際に役所に出向かれたりして、グループホーム設立について動きはじめています。どのようなグループホームをつくられるのか、今後の発信がとても楽しみです。

障害者手帳はもつべきなのか?メリットやデメリットは?

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障害者手帳を持つことのメリットとデメリットとは?具体的に知りたいという立石さん。
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立石
いろいろお話を伺っていて、改めて思うのは、手当とか割引など活用できる制度は使って、親が元気なうちから出ていくお金を抑えられるような仕組みづくりをしておかなきゃいけないなということですね。

“日本の福祉は自己申告制”ですよね。じっと待っていても役所から案内が来るわけじゃないですから、自分から積極的に行動し、情報をとりにいかないといけませんね。

渡部
そうですね。

立石
それから、いろいろな支援をうけたり、支出を抑えたりするためには、やっぱり障害者手帳を持っていたほうがいいように思います。ちなみに、障害者手帳を取得するとデメリットになるようなことってあるんでしょうか?

渡部
私は、特段大きなデメリットはないと思っています。あるとしたら、保護者に「持ちたくない」という気持ちがある場合、持つことがストレスになるということくらいでしょうか。

立石
例えば、手帳を持っているから受験や就職で不利になるということは?

渡部
ないと思います。必要ないときは見せなければいいだけですから。

立石
逆に、手帳を持っているとメリットになることと言えば?障害年金は、手帳がなくても基準を満たせばもらえるということでしたけど…。

渡部
手帳を持って入れば法定雇用率の中で働くことができるので企業に障害者枠で一般就労しやすいというメリットや、JRや私鉄、バスなど公共交通機関の乗車料金の割引、タクシー利用券の支給、公営住宅の優遇抽選、おむつ支給などが受けられます。

デイサービスやヘルパー派遣などは、手帳がなくても申請できます。ですが、手帳があると行政側が障害状態を判断しやすい。障害の程度によって支給されるかどうか、また支給時間数などにも影響するので、手帳があったほうがスムーズにサービスを受けられるのではないかなと思います。手帳の種類・度数によっては税制面での優遇もあります。

立石
医療費の助成もありますよね?

渡部
身体障害者手帳か療育手帳の重度判定の方は、所得によって医療費が1割負担、もしくは無料になります。20歳未満は世帯主の所得が対象なので1割負担、20歳になると本人の所得が対象なので無料になる、というパターンが多いですね。市町村によっては、精神保健福祉手帳を所持している人や中度判定の方も助成対象になるところもあります。

編集部
いずれもお住まいの地域によって違いもあるので、行政の窓口で相談してほしいと思います。
参考:心身障害者医療費助成制度(マル障)| 東京都福祉保健局
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/josei/marusyo.html
立石
いろいろ伺って、やっぱり手帳は、持っていてメリットはあるけれど、デメリットはないなと思いました。

渡部
障害状態が軽いと判断され、交付されないお子さんもいます。でも申請しなければ交付されることもないわけですから、私は「まずは申請してみたほうがいいですよ」とお話しています。

立石
手帳は3種類ありますが、ボーダーのお子さんは知的障害が軽いと判断されて、療育手帳が取れないこともありますよね。知的には高くても、いろんな困難を抱えているお子さんも多い…。

渡部
発達障害に該当しているような場合は、「精神障害者保健福祉手帳」を申請してはどうかとアドバイスをしています。手帳が取れない場合でも、ドクターや児童相談所の判断で受けられる福祉サービスもあります。お住まいの地域によってもサービスは異なるので、そういう情報を得るためにも、行政の窓口に行ったり、地域の集まりに顔を出したりしておいたほうがいいと思います。自分から申請しないと、福祉サービスは受けられないですから。

立石
手帳については、母親は取りたいと思っているけれど、夫や義親が反対するケースもよく聞きます。

渡部
手帳を持たせたくない、つまり親や祖父母が、子どもや孫の障害を認めたくないということかなと思います。それぞれが障害や手帳に対して異なるイメージや感情を抱いているときは、無理に説得してもうまくいかない例が多いです。個人的には、お母さんが動いて手帳を取っておくというのも、一つの手段ではないかと思います。いざ必要になる時まで、タンスにしまっておけばいいわけですから。

立石
あぁ、なるほど。
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