高次脳機能障害とは?症状・診断基準・治療法・相談先・周囲の対応法まとめ

ライター:発達障害のキホン
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高次脳機能障害は、病気やけがによって脳に損傷を負ったために起きる障害のことです。物事が記憶できなくなったり、人間関係をうまく築けなくなったりと、あらわれる症状や程度は人によって異なります。そんな高次脳機能障害について、障害の概要や治療方法、サポート方法などを解説します。

目次

高次脳機能障害とは

人は、周囲にあるものを見たり聞いたりして情報を得て、これまでの経験も踏まえながら考え、行動をしています。このような脳の働きを、高次脳機能または認知機能と言います。

病気やけがなどによって、この脳の機能がうまく働かなくなった状態を認知障害と言います。高次脳機能障害は、そのうちの一つです

高次脳機能障害を起こす主な原因は、脳梗塞などの脳血管疾患や、事故による頭部外傷、窒息などで起こる低酸素脳症、脳炎、脳腫瘍の手術後などがあげられます。これらの病気やけがの後遺症として、高次脳機能障害が起きるのです。

高次脳機能障害の主な症状

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出典 : http://amanaimages.com/info/infoRF.aspx?SearchKey=10161012723
高次脳機能障害には、主に「記憶障害」「注意障害」「遂行機能障害」「社会行動障害」の4つの症状があります。それぞれ詳しく解説していきましょう。

記憶障害

記憶障害は、物事を覚えられなくなったり、覚えていたことを忘れてしまったりする状態(=健忘)のことを言います。

この健忘には主に2種類あります。

前向性健忘:脳に障害を負った時点から後に新しい物事を覚えられなくなる状態。受傷から時間が経っていくと、受傷時に近い記憶ほど思い出せなくなる。

逆向性健忘:脳に障害を負った時点より前のことを思い出せなくなる状態。昔のことほど思い出すことができ、受傷時に近い日の記憶は思い出せない。

軽度であれば、部分的に記憶は維持されており、複雑な出来事でも思い出すことができます。中等度だと、古い記憶や学習したことは思い出せるものの、複雑な記憶や新しい出来事は思い出しにくくなります。

重度になると、前向性健忘と逆向性健忘のどちらも起こり、ほぼ全ての記憶に影響が出てしまいます。

注意障害

人は、日常生活においてさまざまな情報を選択して注意を向けたり、同時に複数のことに注意をしたりしながら、行動しています。この注意に関する機能が障害されるのが、注意障害です。

注意障害には、以下の2つがあります。

全般性注意障害:注意を向けるものを選ぶ「選択機能」、向けた注意を維持する「維持機能」、いったん向けた注意を別のものへ移す「転換機能」、複数のものへうまく注意を振り分ける「配分機能」を全般性注意と呼びます。これらが障害され、注意散漫になったり集中力が保てなくなったりする状態です。

方向性注意障害:損傷を受けた脳の反対側の空間のみ注意を向けられなくなった状態です。左側の半側空間無視が多く、左側にあるものを認識できず、食事時に右側にあるものだけを食べたり、絵を描いても右側しか描かなかったりします。

このほか、一度に1つのものにしか注意が向けられない「同時失認」もありますが、比較的珍しい症状とされています。

遂行機能障害

遂行機能障害は、物事の計画を立てて、その通りに行動することが難しくなる状態を言います。

人は何かをするときに、頭の中でその順序を決めたり、必要なものを準備したりすることができます。しかし、この遂行機能が障害されると、物事を達成するのに何が必要なのか、何をすればいいのか、その順番の組み立てはどうするのか、などの判断が難しくなってしまいます。

マニュアルや工程表などがあれば、その通りに実行するのは可能です。ただし、イレギュラーなことが起きたときに、再度その場で計画を立て直すということができないので、臨機応変な対応は難しくなります。

社会的行動障害

社会的行動障害にはさまざまな症状がありますが、それらによって社会的生活を営むことが難しくなる状態を言います。中でも代表的な5つの状態について説明します。

対人技能拙劣(せつれつ):相手の気持ちや立場を配慮することができず、人間関係をうまく築けない。

依存性、退行:まわりの人を頼る傾向が強くなったり、子どもっぽくなったりする。

意欲、発動性の低下:運動障害や精神的なうつ状態がないのに、自発的に何かをしようとしなくなる。

固執:一つの物事に対してこだわりが強くなる。

感情コントロールの低下:すぐに怒り出したり、暴力的になったりする。

そのほか、気分が落ち込んでしまう抑うつや、性的逸脱行為、食欲や物欲などを抑えられない欲求コントロールの低下などが起きることもあります。

高次脳機能障害の診断基準

国立障害者リハビリテーションセンターが作成した行政上のガイドラインでは、以下のように高次脳機能障害の診断基準が定められています。
Ⅰ.主要症状等
1.脳の器質的病変の原因となる事故による受傷や疾病の発症の事実が確認されている。
2.現在、日常生活または社会生活に制約があり、その主たる原因が記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害である。

Ⅱ.検査所見
MRI、CT、脳波などにより認知障害の原因と考えられる脳の器質的病変の存在が確認されているか、あるいは診断書により脳の器質的病変が存在したと確認できる。

Ⅲ.除外項目
1.脳の器質的病変に基づく認知障害のうち、身体障害として認定可能である症状を有するが上記主要症状(I-2)を欠く者は除外する。
2.診断にあたり、受傷または発症以前から有する症状と検査所見は除外する。
3.先天性疾患、周産期における脳損傷、発達障害、進行性疾患を原因とする者は除外する。

Ⅳ.診断
1.I〜IIIをすべて満たした場合に高次脳機能障害と診断する。
2.高次脳機能障害の診断は脳の器質的病変の原因となった外傷や疾病の急性期症状を脱した後において行う。
3.神経心理学的検査の所見を参考にすることができる。

なお、診断基準のIとIIIを満たす一方で、IIの検査所見で脳の器質的病変の存在を明らかにできない症例については、慎重な評価により高次脳機能障害者として診断されることがあり得る。
また、この診断基準については、今後の医学・医療の発展を踏まえ、適時、見直しを行うことが適当である。

引用:高次脳機能障害を理解する|国立障害者リハビリテーションセンター
出典:http://www.rehab.go.jp/brain_fukyu/rikai/
高次脳機能障害と診断するためには、脳に損傷があることを確認する必要があります。そのため、まずはCTやMRIなどの画像検査をします。

ただし、検査をしてもはっきりとした病変が確認できないこともあります。その場合には、問診やそのほかの検査などを参考に、評価を慎重に行うことになります。

また、どんな障害が起きているのか、障害の程度はどのくらいかを具体的に把握するために、神経心理学的検査を行う場合もあります。これは診断そのものには必須ではありませんが、診断書を作成する場合には必要となります。

各症状において、必要となる主な神経心理学的検査は以下の通りです。

知的機能障害:MMSE、HDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)、WAIS-III

記憶障害:WMS-R、三宅式記銘力検査、RBMT、ベントン視覚記銘力検査、Rey-Osterrieth複雑図形検査

注意障害:Trail Making Test、標準注意検査法(CAT)、PASAT

遂行機能障害:BADS、Stroop Test、ウィスコンシンカード分類検査(WCST)

高次脳機能障害と似ている疾患として、認知症が挙げられます。認知症も認知機能が低下していく病気ではありますが、全体的に機能低下していくのが特徴です。高次脳機能障害の場合は部分的に機能が障害されるため、全体的な機能低下でないことが多いとされています。
次ページ「高次脳機能障害の治療方法」

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