高次脳機能障害とは?症状・診断基準・治療法・相談先・周囲の対応法まとめ

2018/08/31 更新
高次脳機能障害とは?症状・診断基準・治療法・相談先・周囲の対応法まとめのタイトル画像

高次脳機能障害は、病気やけがによって脳に損傷を負ったために起きる障害のことです。物事が記憶できなくなったり、人間関係をうまく築けなくなったりと、あらわれる症状や程度は人によって異なります。そんな高次脳機能障害について、障害の概要や治療方法、サポート方法などを解説します。

6077ad2b372d5a152de8191d73e3e4480c620035 s
発達障害のキホン
6072 View
目次 高次脳機能障害とは 高次脳機能障害の主な症状 高次脳機能障害の診断基準 高次脳機能障害の治療方法 高次脳機能障害のある人の困りごと 高次脳機能障害のある人が受けられる支援 高次脳機能障害のある人の相談先 家族が高次脳機能障害になったときのサポート方法 まとめ

高次脳機能障害とは

人は、周囲にあるものを見たり聞いたりして情報を得て、これまでの経験も踏まえながら考え、行動をしています。このような脳の働きを、高次脳機能または認知機能と言います。

病気やけがなどによって、この脳の機能がうまく働かなくなった状態を認知障害と言います。高次脳機能障害は、そのうちの一つです

高次脳機能障害を起こす主な原因は、脳梗塞などの脳血管疾患や、事故による頭部外傷、窒息などで起こる低酸素脳症、脳炎、脳腫瘍の手術後などがあげられます。これらの病気やけがの後遺症として、高次脳機能障害が起きるのです。

高次脳機能障害の主な症状

高次脳機能障害には、主に「記憶障害」「注意障害」「遂行機能障害」「社会行動障害」の4つの症状があります。それぞれ詳しく解説していきましょう。

記憶障害

記憶障害は、物事を覚えられなくなったり、覚えていたことを忘れてしまったりする状態(=健忘)のことを言います。

この健忘には主に2種類あります。

前向性健忘:脳に障害を負った時点から後に新しい物事を覚えられなくなる状態。受傷から時間が経っていくと、受傷時に近い記憶ほど思い出せなくなる。

逆向性健忘:脳に障害を負った時点より前のことを思い出せなくなる状態。昔のことほど思い出すことができ、受傷時に近い日の記憶は思い出せない。

軽度であれば、部分的に記憶は維持されており、複雑な出来事でも思い出すことができます。中等度だと、古い記憶や学習したことは思い出せるものの、複雑な記憶や新しい出来事は思い出しにくくなります。

重度になると、前向性健忘と逆向性健忘のどちらも起こり、ほぼ全ての記憶に影響が出てしまいます。

注意障害

人は、日常生活においてさまざまな情報を選択して注意を向けたり、同時に複数のことに注意をしたりしながら、行動しています。この注意に関する機能が障害されるのが、注意障害です。

注意障害には、以下の2つがあります。

全般性注意障害:注意を向けるものを選ぶ「選択機能」、向けた注意を維持する「維持機能」、いったん向けた注意を別のものへ移す「転換機能」、複数のものへうまく注意を振り分ける「配分機能」を全般性注意と呼びます。これらが障害され、注意散漫になったり集中力が保てなくなったりする状態です。

方向性注意障害:損傷を受けた脳の反対側の空間のみ注意を向けられなくなった状態です。左側の半側空間無視が多く、左側にあるものを認識できず、食事時に右側にあるものだけを食べたり、絵を描いても右側しか描かなかったりします。

このほか、一度に1つのものにしか注意が向けられない「同時失認」もありますが、比較的珍しい症状とされています。

遂行機能障害

遂行機能障害は、物事の計画を立てて、その通りに行動することが難しくなる状態を言います。

人は何かをするときに、頭の中でその順序を決めたり、必要なものを準備したりすることができます。しかし、この遂行機能が障害されると、物事を達成するのに何が必要なのか、何をすればいいのか、その順番の組み立てはどうするのか、などの判断が難しくなってしまいます。

マニュアルや工程表などがあれば、その通りに実行するのは可能です。ただし、イレギュラーなことが起きたときに、再度その場で計画を立て直すということができないので、臨機応変な対応は難しくなります。

社会的行動障害

社会的行動障害にはさまざまな症状がありますが、それらによって社会的生活を営むことが難しくなる状態を言います。中でも代表的な5つの状態について説明します。

対人技能拙劣(せつれつ):相手の気持ちや立場を配慮することができず、人間関係をうまく築けない。

依存性、退行:まわりの人を頼る傾向が強くなったり、子どもっぽくなったりする。

意欲、発動性の低下:運動障害や精神的なうつ状態がないのに、自発的に何かをしようとしなくなる。

固執:一つの物事に対してこだわりが強くなる。

感情コントロールの低下:すぐに怒り出したり、暴力的になったりする。

そのほか、気分が落ち込んでしまう抑うつや、性的逸脱行為、食欲や物欲などを抑えられない欲求コントロールの低下などが起きることもあります。

高次脳機能障害の診断基準

国立障害者リハビリテーションセンターが作成した行政上のガイドラインでは、以下のように高次脳機能障害の診断基準が定められています。

Ⅰ.主要症状等
1.脳の器質的病変の原因となる事故による受傷や疾病の発症の事実が確認されている。
2.現在、日常生活または社会生活に制約があり、その主たる原因が記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害である。

Ⅱ.検査所見
MRI、CT、脳波などにより認知障害の原因と考えられる脳の器質的病変の存在が確認されているか、あるいは診断書により脳の器質的病変が存在したと確認できる。

Ⅲ.除外項目
1.脳の器質的病変に基づく認知障害のうち、身体障害として認定可能である症状を有するが上記主要症状(I-2)を欠く者は除外する。
2.診断にあたり、受傷または発症以前から有する症状と検査所見は除外する。
3.先天性疾患、周産期における脳損傷、発達障害、進行性疾患を原因とする者は除外する。

Ⅳ.診断
1.I〜IIIをすべて満たした場合に高次脳機能障害と診断する。
2.高次脳機能障害の診断は脳の器質的病変の原因となった外傷や疾病の急性期症状を脱した後において行う。
3.神経心理学的検査の所見を参考にすることができる。

なお、診断基準のIとIIIを満たす一方で、IIの検査所見で脳の器質的病変の存在を明らかにできない症例については、慎重な評価により高次脳機能障害者として診断されることがあり得る。
また、この診断基準については、今後の医学・医療の発展を踏まえ、適時、見直しを行うことが適当である。

出典:http://www.rehab.go.jp/brain_fukyu/rikai/
高次脳機能障害と診断するためには、脳に損傷があることを確認する必要があります。そのため、まずはCTやMRIなどの画像検査をします。

ただし、検査をしてもはっきりとした病変が確認できないこともあります。その場合には、問診やそのほかの検査などを参考に、評価を慎重に行うことになります。

また、どんな障害が起きているのか、障害の程度はどのくらいかを具体的に把握するために、神経心理学的検査を行う場合もあります。これは診断そのものには必須ではありませんが、診断書を作成する場合には必要となります。

各症状において、必要となる主な神経心理学的検査は以下の通りです。

知的機能障害:MMSE、HDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)、WAIS-III

記憶障害:WMS-R、三宅式記銘力検査、RBMT、ベントン視覚記銘力検査、Rey-Osterrieth複雑図形検査

注意障害:Trail Making Test、標準注意検査法(CAT)、PASAT

遂行機能障害:BADS、Stroop Test、ウィスコンシンカード分類検査(WCST)

高次脳機能障害と似ている疾患として、認知症が挙げられます。認知症も認知機能が低下していく病気ではありますが、全体的に機能低下していくのが特徴です。高次脳機能障害の場合は部分的に機能が障害されるため、全体的な機能低下でないことが多いとされています。

高次脳機能障害の治療方法

高次脳機能障害を起こす原因となった病気やけがの治療が終わったあとは、高次脳機能障害に対する治療を行っていくことになります。
高次脳機能障害は、発症から数年以内であれば、リハビリテーションなどの治療によってある程度改善することが期待できます。また、発症年齢が若いほうが改善の度合いはより良いとされています。

しかし、脳の損傷の程度によっては、十分な治療をしても大きな後遺症が残ってしまうことがあります。そうした場合は、日常生活や健康管理、コミュニケーションなどの面で、家族や専門職による継続した支援が必要になります。

リハビリテーション・訓練

高次脳機能障害の治療においてメインとなるのが、リハビリテーションや社会生活に対応するための訓練です。このリハビリテーションや訓練は、大きく分けて3つの種類があります。

医学的リハビリテーション:病気やけがなどの急性期の治療が終わったあと、医療機関で行われるリハビリテーション。認知リハビリテーションとも言う。認知機能の回復や、残された能力を使って生活ができるようにするために行われます。

生活訓練:日常生活を送る上で、必要な行動をできるようにするための訓練。

職能訓練:生活訓練がある程度進んだ段階で、状態にあった職業を選んだり環境を整えたりするために行われる訓練。

生活訓練と職能訓練は、障害者支援施設や障害者職業リハビリテーションセンターなどで行われます。個々の障害の種類や程度によって必要な訓練は異なるため、それぞれに合わせたゴールを定めて、訓練を行っていきます。

薬物治療

リハビリテーション以外にも、状態に応じて薬を使った治療が行われます。高次脳機能障害で注意が必要なのが、てんかん発作です。てんかん発作は脳の損傷も原因となります。その発生を抑えるために服薬することも少なくありません。

また、感情のコントロールがうまくいかずに人間関係に影響を及ぼしている場合などにも、薬物治療が行われることがあります。
てんかんとは?原因や発作の種類、発達障害との関係や支援制度について紹介します!のタイトル画像

関連記事

てんかんとは?原因や発作の種類、発達障害との関係や支援制度について紹介します!

高次脳機能障害のある人の困りごと

高次脳機能障害は、見た目には分かりにくい障害です。そのため、周囲に理解されにくいほか、障害のある本人も状態を認識できていないことが多くあります。

また、障害によって不便が生じるのは日常生活の中であるため、診察時に具体的に見てもらえません。それによって、医療機関で診察を受けても見落とされてしまう場合があります。

物事が思い出せない、感情のコントロールができないなど、生活の中でうまくいかないことがあるのに、原因が分からなかったり、周囲から理解してもらえなかったりということも珍しくありません。

高次脳機能障害のある人が受けられる支援

高次脳機能障害と診断された場合、公的支援を受けることができます。

障害者手帳の取得

高次脳機能障害は精神障害に分類されているため、障害の程度によっては精神障害者保健福祉手帳の取得が可能です。身体障害を合併している場合には身体障害者手帳、受傷した年齢が18歳未満で知的障害があると診断されれば療育手帳が、それぞれ申請対象になります。
障害者手帳とは?種類ごとの申請方法と受けられるサービスを一挙にご紹介のタイトル画像

関連記事

障害者手帳とは?種類ごとの申請方法と受けられるサービスを一挙にご紹介

障害福祉サービス

障害者総合支援法に基づき、生活の援助や生産活動の場を提供する「介護給付」、就労や自立した生活を目指す「訓練等給付」を受けられます。

利用するには、市区町村の障害福祉担当窓口へ申請します。精神障害者保健福祉手帳または自立支援医療受給者証(精神医療通院)など、詳しい必要書類についてはお住まいの自治体の福祉窓口にお問い合わせください。
障害福祉サービスとは?介護保険との違いは?支援の対象者、申請の手続き、審査基準、利用費を解説!のタイトル画像

関連記事

障害福祉サービスとは?介護保険との違いは?支援の対象者、申請の手続き、審査基準、利用費を解説!

介護サービス

年齢によっては介護保険制度を利用して、介護サービスを受けることも可能です。介護保険制度を利用できるのは、65歳以上で支援・介護が必要と認められた方、または40〜64歳で脳血管疾患などによって要支援・要介護状態となった方です。

介護サービスは、障害福祉サービスよりも優先されます。しかし、就労移行支援などは介護サービスで利用できないため、障害福祉サービスを利用することになります。

職業リハビリテーション

障害の有無に関わらず受けることができるのが、職業リハビリテーションです。職業相談や職業評価、訓練、指導、職業紹介のほか、就職してから能力を維持・向上させるためのサービスを受けることもできます。

これらのサービスは、ハローワークや地域障害者職業センターなどで提供されています。

高次脳機能障害のある人の相談先

高次脳機能障害のある人の相談は、各地域の健康福祉センターや地域包括支援センターなどで受けつけています。

また、高次脳機能障害の治療やリハビリテーションを行っている医療機関にも相談窓口が設けられています。地域によっては当事者会や家族会などがありますので、そういった場で気持ちを共有したり、情報を得たりすることも有用です。

家族が高次脳機能障害になったときのサポート方法

家族が高次脳機能障害になったとき、以前とは違う姿に戸惑ってしまうことも少なくないでしょう。まずは、以前と比べてどのように変化したのか、どのような障害を負ったのかなどを理解することが大切です。医師などの専門家に詳しく話を聞き、理解をした上で対応を検討していきましょう。

高次脳機能障害は人によって、症状は異なります。本人がどんな場面でつまずくのかを確認し、環境調整をしたり、本人の持つ能力でできるように工夫をしたりしてみましょう。

そして、家族だけで問題を抱えていると、疲弊してしまいます。相談機関や家族会などもうまく利用しながら、無理なくサポートできる体制を整えることが重要です。

まとめ

高次脳機能障害は見た目には分かりにくいため、本人が気づきにくいだけでなく、周囲にも理解されにくい障害です。しかし、まわりの人が一つひとつの行動を観察したり、自身で振り返ったりすると、どんなことで困っているのかが見えるようになります。

障害の程度にもよりますが、早い段階で治療を開始すれば、ある程度の回復も期待できます。医師やリハビリテーションスタッフ、行政の担当者などと相談しながら、対応を検討していきましょう。

参考資料

関連書籍

高次脳機能障害者の世界〜私の思うリハビリや暮らしのこと[改訂第2版]
山田 規畝子
協同医書出版社
なるほど高次脳機能障害―誰にもおきる見えない障害
橋本 圭司
クリエイツかもがわ
50シーンイラストでわかる高次脳機能障害「解体新書」―こんなときどうしよう!?家庭で、職場で、学校での“困った"を解決!
名古屋市総合リハビリテーションセンター
メディカ出版
精神障害とは?定義や種類から精神障害者手帳・障害年金・生活保護などの金銭的な支援、就労支援までまとめのタイトル画像

関連記事

精神障害とは?定義や種類から精神障害者手帳・障害年金・生活保護などの金銭的な支援、就労支援までまとめ

え、二次募集に挑戦!?LD息子の高校受験はまだ続く?高次脳機能障害の「起伏の激しさ」に翻弄されるの巻のタイトル画像

関連記事

え、二次募集に挑戦!?LD息子の高校受験はまだ続く?高次脳機能障害の「起伏の激しさ」に翻弄されるの巻

当サイトに掲載されている情報、及びこの情報を用いて行う利用者の行動や判断につきまして、正確性、完全性、有益性、適合性、その他一切について責任を負うものではありません。また、掲載されている感想やご意見等に関しましても個々人のものとなり、全ての方にあてはまるものではありません。
放課後等デイサービス・児童発達支援の求人一覧です。待遇・給与、勤務時間、研修・教育制度、職員のインタビューからあなたにぴったりの職場を探せます。
会員登録後のエントリーで1,000円のAmazonギフトカードがもらえるキャンペーンを実施中!
あわせて読みたい関連記事

あわせて読みたい関連記事

発達障害のキホンを知る

発達障害のキホンを知る

放課後等デイサービス・児童発達支援事業所をお探しの方はこちら

放課後等デイサービス・児童発達支援事業所をお探しの方はこちら

コラムに対する投稿内容については、株式会社LITALICOがその内容を保証し、また特定の施設、商品及びサービスの利用を推奨するものではありません。投稿された情報の利用により生じた損害について株式会社LITALICOは一切責任を負いません。コラムに対する投稿内容は、投稿者の主観によるもので、株式会社LITALICOの見解を示すものではありません。あくまで参考情報として利用してください。また、虚偽・誇張を用いたいわゆる「やらせ」投稿を固く禁じます。「やらせ」は発見次第厳重に対処します。