最新テクノロジーが吃音ケアを変える⁉︎疑似体験で苦手克服を目指す「VRアプリ」実用化へ
ライター:発達ナビニュース
見た目ではわかりにくい吃音症は、スムーズに話せないことを周囲に理解されず、社交不安障害などの二次障害を併発することもあります。そうした課題をデザインとテクノロジーの分野からサポートする開発がアメリカで進められています!話すトレーニングができるVRアプリや吃音を疑似体験できるツールなど、開発の中心となっている福岡由夏さんに最新動向や背景などをききました。
当事者と専門家の声をもとに、吃音の克服を目指すVRアプリ「VRbal」の開発へ
スモールステップで不安を取り除く。「VRbal」で実際のセラピーを再現
「VRbal」は、吃音によって社交不安障害を併発した人を対象にした、VR(バーチャルリアリティ)アプリです。このアプリは、苦手な場面をVRで疑似体験し、経験を積むことで、吃音の症状を軽減・克服することを目的に開発されています。
アプリの開発にあたって、吃音当事者たちに行ったインタビューでは、これまでで、もっとも苦痛を感じた瞬間として、「雇用」や「就職」が挙げられました。
また、言語聴覚士にもインタビューを行い、実際に吃音の症状を軽くするために取り組むセラピーとして用いられている暴露療法と※系統的脱感作法をVRに取り入れることにしました。
※系統的脱感作法:本人が不安を感じる場面を不安の強さ別に階層にわけ、不安を感じてこわばった体を十分にリラックスさせた状態で、階層の低い対象から徐々に暴露していく療法。
アプリの開発にあたって、吃音当事者たちに行ったインタビューでは、これまでで、もっとも苦痛を感じた瞬間として、「雇用」や「就職」が挙げられました。
また、言語聴覚士にもインタビューを行い、実際に吃音の症状を軽くするために取り組むセラピーとして用いられている暴露療法と※系統的脱感作法をVRに取り入れることにしました。
※系統的脱感作法:本人が不安を感じる場面を不安の強さ別に階層にわけ、不安を感じてこわばった体を十分にリラックスさせた状態で、階層の低い対象から徐々に暴露していく療法。
面接やプレゼンといった「緊張」の場面と、人工知能と会話しながら緊張を和らげる「緩和」の場面を交互に繰り返す方法を採用し、それらをVRで疑似体験できるようにしました。現実の社交場面における不安の対処方法を、疑似体験を通してスモールステップで身につけられるようにするのです。
アメリカでは、吃音症の人に対して、実際に体験してもらうユーザーテストも行われています。
現在は、レベルでいうと、10段階中2段階目までの開発が完了しているそうです。最終的には、吃音の二次障害として併発する社交不安障害を改善させ、吃音の症状を軽くしていくことがゴールになります。2段階目の現在は、当事者の「軽微な社会不安を軽減」させられたという段階です。
実際に体験した当事者からは、
「面接を練習するシーンでは、360°動画の中で椅子に座っている人達がこちらを眺めているので、ひどく緊張して赤面した。そのため、リアルな緊張を引き起こしながら、自己紹介するのを練習することができた」
「AIがリラクゼーションを促す場面では、深呼吸する等、瞑想に近い体験ができて本当にリラックスすることができた」
といった声も寄せられたそうです。
こちらから、VRbalを使っている人が見ている画面などの動画を見ることができます。
実際に体験した当事者からは、
「面接を練習するシーンでは、360°動画の中で椅子に座っている人達がこちらを眺めているので、ひどく緊張して赤面した。そのため、リアルな緊張を引き起こしながら、自己紹介するのを練習することができた」
「AIがリラクゼーションを促す場面では、深呼吸する等、瞑想に近い体験ができて本当にリラックスすることができた」
といった声も寄せられたそうです。
こちらから、VRbalを使っている人が見ている画面などの動画を見ることができます。
なぜ、VRなのか。メリットは?
吃音に対する治療法はまだ確立されていません。症状を軽くするために、言語聴覚士によるセラピーを利用する人は少なくありませんが、治療費が高額であったり、言語聴覚士の知識や技術が一定でないことから、かえってマイナスの影響を受けてしまうこともあるといった問題があるそうです。ほかにも、地方に住んでいる当事者にとっては、そもそも治療を受けられる機会や場所がないというケースもあるでしょう。
そこで、「このVRbakでバーチャルリアリティのアプリケーションを用いて、いつでも、どこでも誰でも受けられるようにしたいと考えた」からだと、福岡さんは言います。
そこで、「このVRbakでバーチャルリアリティのアプリケーションを用いて、いつでも、どこでも誰でも受けられるようにしたいと考えた」からだと、福岡さんは言います。
吃音のケアに新しい可能性を切り開いた、当事者としての経験
理解されなかった幼少期と学んだ技術を強みに
実は、福岡さんも8歳のときから吃音の症状があります。当時は、なぜ自分が普通に話すことができないのかがわかりませんでした。周囲の理解も得られない中、流暢に話せない自分を責め、自己肯定感も下がり続けていった経験がありました。
大学でデザインを学んだ福岡さんは、デザインにテクノロジーを掛け合わせて、新しい側面から吃音のケアに対して何か貢献できないか、と考えるようになったそうです。そして、その思いに共感した人たちが集まり、研究や開発が本格化していったのです。
大学でデザインを学んだ福岡さんは、デザインにテクノロジーを掛け合わせて、新しい側面から吃音のケアに対して何か貢献できないか、と考えるようになったそうです。そして、その思いに共感した人たちが集まり、研究や開発が本格化していったのです。
思いに共感し、集まった仲間の存在
福岡さんによると、近年、アメリカではARやVRなどのXR産業が非常に注目されているそうです。そんな中、VRbalは、福岡さんの大学院時代の論文から生まれました。
福岡さんのアイデアに共感し、コロンビア大学、ニューヨーク大学、パーソンズスクールオブデザインなどさまざまな学校から異なる背景を持ったメンバーが集まり、現在の「VRbal」開発チームができたのだといいます。
福岡さんのアイデアに共感し、コロンビア大学、ニューヨーク大学、パーソンズスクールオブデザインなどさまざまな学校から異なる背景を持ったメンバーが集まり、現在の「VRbal」開発チームができたのだといいます。
「周囲の理解」を目指して始まった開発
福岡さんはまた、VRbalに先駆けて、日本で吃音に悩む人たちへの理解を広げるために吃音の疑似体験ができる「STACHA」も開発しています。
「STACHA」では、微弱な電気を喉に流すことで、筋肉を収縮させ、発声しづらくなる状態をつくります。これは、難発、連発、伸発といった吃音の症状のうち、難発性吃音を疑似体験できるものです。
自分の意思でコントロールすることが難しい吃音について、こうしたツールを使って体験することで、当事者が感じている困難さを理解してほしい、福岡さんはそう願って開発したそうです。
「STACHA」について、福岡さんは、「SXSWのInteractive Festival」で展示やプレゼンなども行ったそうです。デバイスを体験できるようにしたので、会場ではさまざまなバックグラウンドを持つ多くの人に、吃音症の疑似体験をしてもらえる機会となったそう。
「STACHA」では、微弱な電気を喉に流すことで、筋肉を収縮させ、発声しづらくなる状態をつくります。これは、難発、連発、伸発といった吃音の症状のうち、難発性吃音を疑似体験できるものです。
自分の意思でコントロールすることが難しい吃音について、こうしたツールを使って体験することで、当事者が感じている困難さを理解してほしい、福岡さんはそう願って開発したそうです。
「STACHA」について、福岡さんは、「SXSWのInteractive Festival」で展示やプレゼンなども行ったそうです。デバイスを体験できるようにしたので、会場ではさまざまなバックグラウンドを持つ多くの人に、吃音症の疑似体験をしてもらえる機会となったそう。
テクノロジーが変えていく、当事者がより生きやすい社会って?
VRbalは今後、まずはアメリカで製品として市場に出される計画です。現在アプリで採用されている言語は英語ですが、プロダクトが完成した後に日本語に対応させていく予定もあるとのこと。日本でVRbalのセラピーを受けられる日も、そう遠くないのかもしれません。
当事者であり、デザイナーとしてつくりたい未来がある
福岡さんは「これからの未来は、テクノロジーによって人間の能力を拡張し、問題とされてきたことの解決が可能になっていく」と語ります。
そのためには、デザイナーとしての想像力や表現力、また洞察力や物事の本質を見極めて解決していくことが重要になると考えています。その上で、自身がデザイナーであることと当事者としても誰よりも吃音者の悩みのタネを理解し、共感できることが強みであるとも感じていました。
「私は自分自身が吃音症で苦しんできた経験を糧にして、誰よりも当事者に寄り添いながら、自分自身のアウトプット能力を活かせるデザイナーとして、当事者の人たちがより生きやすい社会システムをつくっていきたいです」。
吃音症へのアプローチとして、デザインとテクノロジーという新しい道が開かれたことで、これからの未来は大きく変わっていくかもしれませんね。
そのためには、デザイナーとしての想像力や表現力、また洞察力や物事の本質を見極めて解決していくことが重要になると考えています。その上で、自身がデザイナーであることと当事者としても誰よりも吃音者の悩みのタネを理解し、共感できることが強みであるとも感じていました。
「私は自分自身が吃音症で苦しんできた経験を糧にして、誰よりも当事者に寄り添いながら、自分自身のアウトプット能力を活かせるデザイナーとして、当事者の人たちがより生きやすい社会システムをつくっていきたいです」。
吃音症へのアプローチとして、デザインとテクノロジーという新しい道が開かれたことで、これからの未来は大きく変わっていくかもしれませんね。
福岡由夏さんのプロフィール
多摩美術大学で情報デザインとサービスデザインを学び、デザイナーとしてYahoo! JAPANへ就職。同時に東京大学情報学環に研究生として入学し、夜間授業に通い、”見えない障害”をテーマにしたドキュメンタリーの制作などを経験。その後、School of Visual ArtsというニューヨークにあるアートスクールのDesign for Social InnovationというMasterプログラムに入学。2018年5月に修了。現在はアメリカを拠点にデザイナーとして活躍している。
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