プールで泳がず走る?「今晩のごはんは?」で白米の写真…!?自閉症息子への伝え方は「丁寧に、具体的に、分かりやすく」がキモ
2019/09/03 更新

「こういう風に言えば、当然相手は理解して行動してくれるだろう」と思っていることが、相手には正確に伝わっていないことが日常にはゴロゴロ転がっています。息子が通っていた特別支援学校の授業参観で気づかされたことがありました。
立石美津子
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プールの中を走った生徒たち
『発達障害に生まれて』(松永正訓著/中央公論新社)ノンフィクションのモデルとなった立石美津子です。
数年前の夏、当時息子が通っていた特別支援学校高等部の学校公開、体育のプールの授業でのことです。先生がプールサイドから「今からリレーをします」と指示を出した直後、水の中を走った生徒が数人いました。私はその様子を見学していて「あの子とあの子は泳げないから、水の中を早歩きするんだ」と思いました。
ところが、しばらくしてその様子を見ていた先生が「先生の言い方がいけなかったね。水の中では泳いでください」と訂正しました。修正後、生徒達はゴールまで泳いで行きました。
息子が通っていた特別支援学校高等部では、自閉症がある生徒の占める割合が多かったのです。そして自閉症には「想像力の障害」があるので、具体的に伝えないと理解できないという特性があります。
さすが、特別支援に関わるプロ集団、泳がない子を叱るのではなく、先生自身の指示の出し方を謝り訂正していました。
数年前の夏、当時息子が通っていた特別支援学校高等部の学校公開、体育のプールの授業でのことです。先生がプールサイドから「今からリレーをします」と指示を出した直後、水の中を走った生徒が数人いました。私はその様子を見学していて「あの子とあの子は泳げないから、水の中を早歩きするんだ」と思いました。
ところが、しばらくしてその様子を見ていた先生が「先生の言い方がいけなかったね。水の中では泳いでください」と訂正しました。修正後、生徒達はゴールまで泳いで行きました。
息子が通っていた特別支援学校高等部では、自閉症がある生徒の占める割合が多かったのです。そして自閉症には「想像力の障害」があるので、具体的に伝えないと理解できないという特性があります。
さすが、特別支援に関わるプロ集団、泳がない子を叱るのではなく、先生自身の指示の出し方を謝り訂正していました。
似たようなことが、日常生活の中に転がっていた
息子がショートステイを利用したとき、どんな食事が提供されているのか知りたくて、SNSで「今晩のごはんの写真送って」と連絡しました。
すると…
白飯の写真が送られてきました。
すると…
白飯の写真が送られてきました。
後日、「今晩の献立を知りたいから、おかずもご飯も全部うつっている写真を送って」と伝えたら、献立の写真が送られてきました。
バスで「手帳だけ」見せて乗車しようとする
息子は4月から就労移行支援事業所に、電車とバスを使って1人で通っています。愛の手帳(=療育手帳)は2種なので電車は半額にはなりませんが、バスは半額で乗ることができます。
ですので、「バスに乗るときは“愛の手帳(療育手帳)”を運転手さんに見せてね」と伝えていました。
すると帰宅後、「バスの運転手さんに怒られた!むかつく!」と叫ぶのです。2日目も、3日目もずっと言い続けるので、なぜだろうと思ってバス会社に問い合わせをしてみました。
バス会社:「変ですね。愛の手帳2種は半額なので、手帳を提示すれば半額になるはずです。職員に周知徹底していますから」と言われました。
私:「????」
ですので、「バスに乗るときは“愛の手帳(療育手帳)”を運転手さんに見せてね」と伝えていました。
すると帰宅後、「バスの運転手さんに怒られた!むかつく!」と叫ぶのです。2日目も、3日目もずっと言い続けるので、なぜだろうと思ってバス会社に問い合わせをしてみました。
バス会社:「変ですね。愛の手帳2種は半額なので、手帳を提示すれば半額になるはずです。職員に周知徹底していますから」と言われました。
私:「????」
障害者手帳だけ見せればいいと思っていた
息子に詳しく聞いてみたところ、どうも手帳を見せるだけで乗車しようとしていたのでした。
私が「バスに乗るときは愛の手帳を見せて」と伝えていたので、息子は「手帳を見せるだけで良い」と判断したようです。でも、手帳を見せただけでは支払いできません。息子は、運転手さんに注意されて支払うことが続いていたようです。そして、手帳を見せればいいだけだと考えていたのに「なぜ運賃がかかるのか」と憤慨していたのです。
曖昧な言い方ではなく「バスに乗るときは愛の手帳を先に見せてから、パスモで支払って(またはお金を出して)」と具体的に言えばよかったのでした。
私が「バスに乗るときは愛の手帳を見せて」と伝えていたので、息子は「手帳を見せるだけで良い」と判断したようです。でも、手帳を見せただけでは支払いできません。息子は、運転手さんに注意されて支払うことが続いていたようです。そして、手帳を見せればいいだけだと考えていたのに「なぜ運賃がかかるのか」と憤慨していたのです。
曖昧な言い方ではなく「バスに乗るときは愛の手帳を先に見せてから、パスモで支払って(またはお金を出して)」と具体的に言えばよかったのでした。
分かりにくい指示
丁寧な説明なしに端的に伝えてしまうと、誤解してしまうことがよくあります。そしてそれは言葉かけだけでなく、さまざまな表示物でも同じことが起こりがちです。
消火器を引き抜く
息子が3歳の頃。保育園から「消火器を抜くので困っています、お母さま、一度園にいらしてください」と電話がかかってきたことがありました。保育園に行ってみると、消火器には「引き抜く」と書いてありました。
息子は、この“消火器に貼られた命令口調の用紙に書かれた文章”に素直に従っていたのです。そこで保育園の先生方と相談し、消火器の横に「火事のときは引き抜く」の貼り紙を付け加えてもらいました。
息子は、この“消火器に貼られた命令口調の用紙に書かれた文章”に素直に従っていたのです。そこで保育園の先生方と相談し、消火器の横に「火事のときは引き抜く」の貼り紙を付け加えてもらいました。
非常ベルを押す
街中にあふれる非常ベル。ここには「火事のときに押してください」と親切には書いておらず「押す」と書いてあります。「そんな前置き、いちいち言わなくても、分かるでしょ」ということが分からないのが自閉症児なのです。「押す」という指示に従って押してしまいかねません。
でもよく考えてみると、生まれ育った文化が違う外国人や、さまざまなものの見方をする人など、より多様な世の中になっていく中で、こうした表記の仕方も考えた方がいいかもしれません。
でもよく考えてみると、生まれ育った文化が違う外国人や、さまざまなものの見方をする人など、より多様な世の中になっていく中で、こうした表記の仕方も考えた方がいいかもしれません。
「はやくしなさい」の誤解
夕飯時、いつまでも玩具で遊んでいて食卓につかない子に「はやく食べなさい!」と叱ることって、ありますよね。母親にとっては「はやい」は「席に着く時刻」かもしれませんが、子どもは「ごはんを急いで食べる」と解釈することもあります。
そうなると大急ぎで口に食物を詰め込むことになり…「もっとゆっくり食べなさい」と叱られ、矛盾した指示に戸惑う子どももいます。
連呼しがちなこんな言葉…
「ちゃんとしなさい」
「いい加減にしなさい」
「ちょっと待ってて」
そうなると大急ぎで口に食物を詰め込むことになり…「もっとゆっくり食べなさい」と叱られ、矛盾した指示に戸惑う子どももいます。
連呼しがちなこんな言葉…
「ちゃんとしなさい」
「いい加減にしなさい」
「ちょっと待ってて」
でも、残念ながら子どもにその意図は正確には伝わっていないのかもしれません。その証拠に子どもは同じことを繰り返します。
そんなときは次のように言った方が断然分かりやすいです。
×「早く片づけなさい!」
〇「この砂時計の砂が全部下に落ちるまでの間に、この玩具を片づけなさい」
×「順番を守りなさい!」
〇「花子ちゃん、太郎君の次だよ」
×「整理整頓!きちんと片づけて!」
〇「積木は積木の入れ物に。電車は電車の入れ物、絵本は本棚に戻そうね」
また、このようにどこに何をしまうのか、写真を貼っておくとより分かりやすくなります。
そんなときは次のように言った方が断然分かりやすいです。
×「早く片づけなさい!」
〇「この砂時計の砂が全部下に落ちるまでの間に、この玩具を片づけなさい」
×「順番を守りなさい!」
〇「花子ちゃん、太郎君の次だよ」
×「整理整頓!きちんと片づけて!」
〇「積木は積木の入れ物に。電車は電車の入れ物、絵本は本棚に戻そうね」
また、このようにどこに何をしまうのか、写真を貼っておくとより分かりやすくなります。
相手に意図を正確に伝える工夫を
相手が自分と同じように解釈するとは限りません。
上司に「朝一で資料を提出して」と指示された部下は、9時半にメールに資料を添付して送った。しかし上司は紙に出力した資料が9時にほしかったので部下を叱った。けれども部下は不満げ――。
こういうことって日常によくありますよね。特別支援学校の水泳の授業を見学して「相手は自分と同じように解釈する」と考えないほうがよいこと、分かりやすく意図を伝える工夫が必要なことを、勉強させてもらいました。
上司に「朝一で資料を提出して」と指示された部下は、9時半にメールに資料を添付して送った。しかし上司は紙に出力した資料が9時にほしかったので部下を叱った。けれども部下は不満げ――。
こういうことって日常によくありますよね。特別支援学校の水泳の授業を見学して「相手は自分と同じように解釈する」と考えないほうがよいこと、分かりやすく意図を伝える工夫が必要なことを、勉強させてもらいました。
著者親子がモデルとなった書籍
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