困っている子どもたちの「学力以前の力」を応援したい。遊び感覚で認知機能を鍛える「コグトレ・パズル」に込めた想い――児童精神科医・宮口幸治先生

2020/07/22 更新
困っている子どもたちの「学力以前の力」を応援したい。遊び感覚で認知機能を鍛える「コグトレ・パズル」に込めた想い――児童精神科医・宮口幸治先生のタイトル画像

私はこれまでの少年院での勤務や教育相談などを通して、多くの子どもたちと向き合ってきました。その中で、悩みとしてよく挙がる学習やコミュニケーション。これらの力を高めるためには、ベースとなる「認知機能」を高めることが必要だと考えています。認知機能を高めるとなぜよいのでしょうか。そしてどのようなトレーニングがあるのでしょうか。私が考案した「コグトレ・パズル」の問題を紹介しながら、子どもたちと認知機能のことについてお話ししたいと思います。

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宮口幸治
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10年以上の少年院勤務経験から

私は児童精神科医として、2009年から現在まで10年以上、少年院に勤務し、非行少年と言われる多くの少年たちに出会ってきました。勤務当初は、凶暴な子ばかりいるのではと身構えていましたが、そんなことはありませんでした。

実際には、成功体験が少ないために自信のもてない子、また、学習面では「簡単な計算ができない」「漢字が読めない」「簡単な図形を書き写せない」ということで「困っている」少年たちが大勢いたのです。
彼らは見る力、聞く力、想像する力が弱く、そのせいで勉強ができないばかりでなく、周りの状況が読めなくて対人関係で失敗し、自信を失い、被害的になり、それが非行の一因にもなっていたのでした。

生きていくために必要な『学力以前の力』

私は率直に言って、「この子たちには生きていくために必要な『学力以前の力』が備わっていない」と感じました。しかし、これは非行少年だけに限った話ではありません。

私は現在、幼稚園や小・中学校で教育相談も受けています。そこで出会う子どもたちの相談は、発達や学習の遅れに関するものが多く、その状況は非行少年たちの学校時代の様子と似ているところがあるように感じました。

そこで、今「困っている」子どもたちの今後の人生が少しでも生きやすくなるように、子どもたちが生きていくために「学力以前の力」を身につける必要性を強く感じました。そうして考案したのが、注意して見る力・聞く力、想像する力(認知機能)を鍛えていく「コグトレ」です。

認知機能を高めるトレーニング

コグトレとは、「認知○○トレーニング(Cognitive 〇〇 Training)」の略称です。○○には「ソーシャル(社会面)」「機能強化(学習面)」「作業(身体面)」が入ります。

認知機能には、「注意」「記憶」「言語理解」「知覚」「推論・判断」という5つの要素が含まれます(下図)。その5つの要素に対応する「数える」「覚える」「写す」「見つける」「想像する」力を伸ばすことが、コグトレの目的です。
5つの認知機能
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次に、認知機能の弱さがどのように勉強の苦手さにつながるか、例を出して紹介しましょう。

出された問題を解くために必要な力

たとえば、授業中に先生がこんな問題を口頭で出したとします。

「Aさんは10個の飴を持っていました。4個をあげるとAさんは飴を何個持っているでしょうか?」

これに答えるには、まず先生の話に「注意」を向けることが必要です。外を見ていたり、ノートにお絵描きをしていたりしては聞き取れません。

次に、先生の話したことをしっかり聞きとって「知覚」し、個数を忘れないように「記憶」します。また、先生の話した問題の「言語理解」も必要です。

さらに、ここから答えを考えていきますが、暗算するためにはほかに考えごとなどせずに「注意(集中)」する必要があります。

認知機能すべての力をフル稼働

最後に大切なのが、この問題では次の2通りの解釈ができることです。
「Aさんは誰かに4個の飴をあげたのか?」
「Aさんは誰かから4個の飴をもらったのか?」


いったい先生はどちらを意図したのか「判断・推論」する必要があります。
以上から、先生が口頭で出した問題を解くためには認知機能のすべての力が必要なのです。

もしその中の1つにでも弱さがあれば、問題を解くことはできません。学習につまずきを抱える子どもは、認知機能の働きのどこかに、または複数に弱さをもっている可能性があるのです。そのような弱さを見つけトレーニングしていくのが、コグトレなのです。

紙と鉛筆があれば始められるトレーニング

具体的には、「数える」「覚える」「写す」見つける」「想像する」という5つの分野を対象にしたトレーニングを行います。紙と鉛筆があれば、今日から始められます。

次に実際に、コグトレの問題をご覧いただきましょう(8月刊行の『医者が考案したコグトレ・パズル』より抜粋)。
まずは「写す」問題から。問題に取り組むことで、「見る力」の基礎力を強化していきます。下の図は、「写す」問題の一部で、「点つなぎ」「くるくる星座」です。「点つなぎ」では正確に形を見る力、「くるくる星座」は考えながら見る力をつけていきます。
「写す」問題全体を通して、漢字の書き取りや図形問題の基礎力をつけるのに役立つでしょう。

点つなぎ

見本の通りに点をつないで、上の絵を下に写します。
点つなぎ
点つなぎ(『医者が考案したコグトレ・パズル』より)
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くるくる星座

上の星座と同じ形になるように、下の★〇●を線でつないでいきます。
くるくる星座
くるくる星座(『医者が考案したコグトレ・パズル』より)
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次に「見つける」問題です。この問題では、「見る力」の応用力を強化していきます。

下の図は、「見つける」問題の一部で、「黒ぬり図形」「違いはどこ?」題です。「黒ぬり図形」では形の輪郭を見る力、「違いはどこ?」では形の違いを見つける力をつけていきます。
「見つける」問題全体を通して、広い観点で物事を見る力、図形問題の応用力をつけるのに役立つでしょう。

黒ぬり図形

ある形の影を見つけます。①~④の図を黒くぬったものを、1~10から選びます。
黒ぬり図形
黒ぬり図形(『医者が考案したコグトレ・パズル』より)
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違いはどこ?

上の絵と下の絵には、3つの違いがあります。違う部分に〇をつけましょう。
違いはどこ?
違いはどこ?(『医者が考案したコグトレ・パズル』より)
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答えはこちらです。
「違いはどこ?」の問題の答え
違いはどこ?(『医者が考案したコグトレ・パズル』より)
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子どもの心を傷つけない

課題に取り組んでみると、もしかしたら「見つける」は得意だけれども、「写す」は苦手という得意不得意が出てくるかもしれません。苦手意識が強ければ、できるところの課題から取り組んでもらえればいいと思います。

なお、テストができなくて傷つく子どもはいますが、コグトレができなくて傷ついたという話はあまり聞いたことがありません。コグトレはパズルやゲームのような課題なので、学習という感覚があまりしないのでしょう。子どもたちは楽しみながら取り組んでいます。
自然に認知機能を鍛えていけるのです。

勉強嫌いな少年たちが変わった瞬間

また、学習は楽しんで取り組める工夫があると、子どもの力を伸ばせるはずです。そう感じるのは、私の経験にもとづきます。

少年院では、勉強嫌いで授業などまともに聞いたことのない少年たちに多数、会いました。私は彼らに教えることをあきらめて、「じゃあ、私の代わりに授業をやってくれ」と、教師役を肩代わりさせたことがあります。

そうすることで、私の苦労を実感させようとしたのですが……意外な展開が待っていました。

なんと、授業をまともに受けようとせず、妨害すらしていた少年たちが「ぼくが教えます!」「ぼくがやります!」と率先して、教える役に就こうとしたのです。前に出て「教える」彼らの姿はとても楽しそうでした(実は、人に教えてみたい、頼りにされたいという気持ちを強くもっていたのです)。

教わる側の少年たちも、変わっていきました。自分と同じ立場の少年から出される問題に答えられないのでは面目がないのでしょう。まじめに取り組むようになりました。

図形の模写から知る、発達の目安

最後に、子どもの発達が遅れていないか、ちょっと不安という親御さんへ。
不安を抱えつつ、かといって、知能検査を受けさせるのも抵抗がある…そんなとき、発達の程度に目安をつける簡単な方法をお伝えします。

お子さんに次のような正方形、三角形、ひし形を、見本を見ながら書かせてみましょう。
困っている子どもたちの「学力以前の力」を応援したい。遊び感覚で認知機能を鍛える「コグトレ・パズル」に込めた想い――児童精神科医・宮口幸治先生の画像
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正方形は4~5歳、三角形は5~6歳、ひし形は7~8歳くらいまでに描けることが目安です。これらが描ければ、さらに次のような立体図や蜂の巣も書かせてみましょう。
立方体と蜂の巣
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立体図や蜂の巣は、8~9歳くらいまでに描けることが目安です。
これらの図形が、該当する年齢を超えても描けないことが明らかであれば、そのときは念のため、発達専門外来や教育センターなどで相談されることをお勧めします。

適切なサポートで子どもの力は伸ばしていける

コグトレ前後の変化
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発達や学習の遅れがあったとしても、適切なサポートをすることで、お子さんの力を伸ばしていける可能性があります。

たとえば上の絵は、コグトレ前後の変化を示すものです。学校の勉強についていくのがしんどいと訴えていた中学生が、見本の立体図を見ながら写した絵です。4ヵ月コグトレをしたところ、図の立体感が増し、かなり正確に写せるようになりました。
その子は、小学生のころから黒板を写すこと、漢字を覚えること・書くことに苦手さをもっていました。コグトレ後は、正確に形を覚える力・見る力(形の輪郭や構成も)が増したのでしょう。立体図の模写ばかりでなく、漢字の読み書きも上達しました。

紙と鉛筆があれば今日から始められるコグトレで、まずは学習の土台づくりをサポートしてみてはいかがでしょうか?

このコラムをかいた人の著書

医者が考案したコグトレ・パズル
宮口幸治 (著)
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