感じ方や考え方は違っていい!「脳の多様性」を活かす社会で、どんな人も生きやすく。『ニューロダイバーシティの教科書』で知る、新しい視点
ライター:発達ナビBOOKガイド
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金子書房
ダイバーシティ(多様性)の考え方が浸透してきています。それを脳や神経のレベルで考え、その人の特性を理解・尊重し、必要な支援につなげていく。あらゆる人が生きやすい社会をつくっていく。それが「ニューロダイバーシティ」という考え方です。本書は、この「人間理解の新たな視点の世界」への入門書。支援や教育に携わる方だけでなく、発達障害の当事者やその家族の方に読んでいただきたい1冊です。
ニューロダイバーシティとはなにか?
ニューロダイバーシティは、neuro(脳・神経)とdiversity(多様性)をつないだ合成語。日本語では「脳多様性」や「神経多様性」などと表記しますが、「脳や神経、それに由来する個人レベルでのさまざまな特性の違いを多様性と捉えて尊重し、それらの違いを社会の中で活かしていこう」という考え方を含みます。
目に見えるものだけで人間をカテゴライズして理解しようとする視点の社会から、目に見えない内側のメカニズムからその人を理解しようとする、これがニューロダイバーシティ視点の社会です。
本書は、ニューロダイバーシティという「人間理解の新たな視点の世界」への入門書。支援や教育に携わる方だけでなく、発達障害の当事者やその家族の方に読んでいただきたい1冊です。
目に見えるものだけで人間をカテゴライズして理解しようとする視点の社会から、目に見えない内側のメカニズムからその人を理解しようとする、これがニューロダイバーシティ視点の社会です。
本書は、ニューロダイバーシティという「人間理解の新たな視点の世界」への入門書。支援や教育に携わる方だけでなく、発達障害の当事者やその家族の方に読んでいただきたい1冊です。
ニューロダイバーシティの教科書
金子書房
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※精神医学上の用語として通常は「自閉症スペクトラム障害」もしくは「自閉スペクトラム症」という言葉が用いられますが、本書では「自閉スペクトラム」や「自閉」という表現を、脳や神経由来の「状態像」を表す言葉として、精神医学上の疾患概念と区別して使用しています。
ニューロダイバーシティ視点で人間を理解する
ニューロダイバーシティ視点からの人間理解、神経や認知の多様性が人の体験や感覚の違いにどのような影響を与えているのでしょうか。
ソフトではなくハードの違い
人間をパソコンに例えると、これまではソフト面(思考や感情)から理解するしか方法がなかったのですが、近年はハード面(脳や神経)へのアプローチも可能になりました。
ニューロダイバーシティという視点は、ハード面から人間を理解しようとする試みでもあり、日常の感覚とは全く異なる「人間観や人間理解」をもたらしてくれるものです。
ニューロダイバーシティという視点は、ハード面から人間を理解しようとする試みでもあり、日常の感覚とは全く異なる「人間観や人間理解」をもたらしてくれるものです。
障害、才能、個性、どれにもなりうる
「違い」や「特性」という視点から考えると、障害、才能、個性という言葉に構造的な違いが実はないということになります。
違いや特性が、ある環境の下でネガティブな評価となれば「障害」、逆にまったく同じ特性が別の環境の下でポジティブな評価となれば「才能」、「障害」「才能」に評価されない場合、「個性」と認識されるかもしれません。
違いや特性が、ある環境の下でネガティブな評価となれば「障害」、逆にまったく同じ特性が別の環境の下でポジティブな評価となれば「才能」、「障害」「才能」に評価されない場合、「個性」と認識されるかもしれません。
ニューロダイバーシティ的理解
本書では神経科学や認知科学の知見をベースに、自閉スペクトラム者の特性や文化について紹介しています。例えば「詳細な情報処理が強化される」特性があり、身体感覚に影響を及ぼしていると考えられています。光や音がとても気になるという感覚は「気持ちの問題」と捉えられがちですが、これは強化された知覚に由来する「感覚過敏」から起こっている可能性が高いものです。思考や感情、行動に大きな影響を与えるという人間理解が必要になります。
当たり前だと感じる「ものの感じ方」や「価値観」が、その人の脳や神経のメカニズムに大きな影響を受けていることは、否定しがたい事実です。自閉スペクトラム当事者の人たちが持つ人間の内側にある特性の違いは、あらゆる人にとって無縁ではない「多様性の表現」なのではないでしょうか。
当たり前だと感じる「ものの感じ方」や「価値観」が、その人の脳や神経のメカニズムに大きな影響を受けていることは、否定しがたい事実です。自閉スペクトラム当事者の人たちが持つ人間の内側にある特性の違いは、あらゆる人にとって無縁ではない「多様性の表現」なのではないでしょうか。
ニューロダイバーシティはあらゆる社会領域に必要な視点
ニューロダイバーシティという視点が、私たちに身近な「教育」「職場」「家庭」において、どのような変化をもたらしてくれるのでしょうか。
「教育」×「ニューロダイバーシティ」
ニューロダイバーシティという視点は、発達障害など特別なニーズのある子どもたちだけに限らず、すべての子どもたちの教育において欠かすことのできない重要な考え方です。
本人の認知特性に配慮した工夫をすることで、「できないができる」人たちが多く存在すると考えられています。一人ひとりの「学び方の個性」を脳や神経由来の「特性」として理解し、目に見える事柄 (読める・読めない、書ける・書けないなど)によるカテゴライズから、目に見えない内側のメカニズム(認知特性)を理解し、個に合った学び方を提供することへの転換、ニューロダイバーシティ視点での学びの支援が必要なのです。
このような視点は、変化の激しい現代社会において、大人も身につけるべきものだと思います。自分の「特性」に合った学び方を身につけられるかどうかで、その人の生涯が大きく変わっていくのではないでしょうか。
本人の認知特性に配慮した工夫をすることで、「できないができる」人たちが多く存在すると考えられています。一人ひとりの「学び方の個性」を脳や神経由来の「特性」として理解し、目に見える事柄 (読める・読めない、書ける・書けないなど)によるカテゴライズから、目に見えない内側のメカニズム(認知特性)を理解し、個に合った学び方を提供することへの転換、ニューロダイバーシティ視点での学びの支援が必要なのです。
このような視点は、変化の激しい現代社会において、大人も身につけるべきものだと思います。自分の「特性」に合った学び方を身につけられるかどうかで、その人の生涯が大きく変わっていくのではないでしょうか。
「働く」×「ニューロダイバーシティ」
「学び方」と同様に「働き方」についても、脳や神経由来の多様性が存在しています。
「シリコン(バレー)症候群」という言葉をご存じでしょうか。シリコンバレーでITエンジニアとして働く人の中に自閉スペクトラム者の割合が高いことから生まれました。「障害者雇用」ではなく、「高度な詳細さ、強力な論理的・分析的思考、綿密な検査能力」などのスキルを持つ自閉スペクトラム者を、「強力な戦力」として採用していることも重要な視点です。
しかし、「自閉症だからプログラマーが向いている」というような、安易なアドバイスをされてしまうことも。本来は、自閉スペクトラムというカテゴライズではなく、詳細で具体的な理解が求められます。どんな人にも「特性の違い」があり、得意と苦手の背景要因となっていることから、ニューロダイバーシティ視点での人間理解は、すべての人が「よりよく働く」ために必要なのです。
「シリコン(バレー)症候群」という言葉をご存じでしょうか。シリコンバレーでITエンジニアとして働く人の中に自閉スペクトラム者の割合が高いことから生まれました。「障害者雇用」ではなく、「高度な詳細さ、強力な論理的・分析的思考、綿密な検査能力」などのスキルを持つ自閉スペクトラム者を、「強力な戦力」として採用していることも重要な視点です。
しかし、「自閉症だからプログラマーが向いている」というような、安易なアドバイスをされてしまうことも。本来は、自閉スペクトラムというカテゴライズではなく、詳細で具体的な理解が求められます。どんな人にも「特性の違い」があり、得意と苦手の背景要因となっていることから、ニューロダイバーシティ視点での人間理解は、すべての人が「よりよく働く」ために必要なのです。
「家族」×「ニューロダイバーシティ」
脳や神経由来の文化(特性)の違いは、家族間にも起こり得ます。本書では、夫婦間での「特性の違い」や「特性の異なる子ども」との向き合い方について解説しています。
「特性」が違う者同士の結婚は、国際結婚に似ています。しかし「特性の違い」は自覚や覚悟できていない人が多いため、「こんな人だとは思わなかった」「一緒にいることがつらい」という状態になってしまうことがありえます。
また、自分とまったく異なる「特性(文化)」を持った子どもを授かることは想像以上に大きな体験であり、わが子の特性が世の中では「障害」と呼ばれるものであった場合、その影響はとても大きなものです。
夫婦関係、親子関係ともに、お互いにとっての自然な「当たり前の感覚」の違いを理解し尊重する。そのようなニューロダイバーシティからの発想や視点が、家族内で起きる悩みを改善する一助となるのではないでしょうか。
「特性」が違う者同士の結婚は、国際結婚に似ています。しかし「特性の違い」は自覚や覚悟できていない人が多いため、「こんな人だとは思わなかった」「一緒にいることがつらい」という状態になってしまうことがありえます。
また、自分とまったく異なる「特性(文化)」を持った子どもを授かることは想像以上に大きな体験であり、わが子の特性が世の中では「障害」と呼ばれるものであった場合、その影響はとても大きなものです。
夫婦関係、親子関係ともに、お互いにとっての自然な「当たり前の感覚」の違いを理解し尊重する。そのようなニューロダイバーシティからの発想や視点が、家族内で起きる悩みを改善する一助となるのではないでしょうか。
支援者、教育者がニューロダイバーシティを学ぶ意味とは
人が集まるところには、「脳や神経由来の文化の違い」による衝突やすれ違いが生まれ、場合によっては傷つけあったり、否定、拒絶したりすることにつながってしまいます。支援者、教育者が「当たり前」の違いについて正しく理解し、脳や神経由来の文化の通訳者、翻訳者となることが、当事者の人たちにとって有益な助け手となり得るのです。
また、「脳や神経由来の特性」が社会的にマイノリティである場合、社会全体がひとつの大きな塊の敵だと思えてしまうこともあります。しかし、この社会は小さなコミュニティの集合体に過ぎません。ニューロダイバーシティは、支援者や教育者が「半径10mの社会適応」を提供する、当事者自らの力で「半径10mの社会適応」を生み出したり、見つけたりすることができるようサポートするために必要な視点、考え方でもあるのです。
また、「脳や神経由来の特性」が社会的にマイノリティである場合、社会全体がひとつの大きな塊の敵だと思えてしまうこともあります。しかし、この社会は小さなコミュニティの集合体に過ぎません。ニューロダイバーシティは、支援者や教育者が「半径10mの社会適応」を提供する、当事者自らの力で「半径10mの社会適応」を生み出したり、見つけたりすることができるようサポートするために必要な視点、考え方でもあるのです。
今こそインストールが必要なとき
日本社会はこれまでダイバーシティと向き合うことを避けてきた傾向にあり、多数派に当てはまらない人を排除する圧力が強い社会といえます。その結果、不登校、引きこもり、ニートなどとカテゴライズされる「生きづらさ」を抱えた人たちを大量に生み出してしまいました。
そして日本は今、新型コロナウイルスの影響で大きな社会変化を迎えています。「生きやすい」と感じていた人が「生きづらさ」を感じたり、「生きづらい」と感じていた人が「生きやすさ」を感じたりする事例がたくさん生まれています。
その人の内側に存在するさまざまな特性を正確に理解し、その人の特性に合った環境を提供するというニューロダイバーシティ視点を持つこと。そしてまた、自分自身も「特性」を持った人間であるという自覚を持つことで、より他人への理解を深め、多様性への柔軟な対応ができるようになっていくのではないでしょうか。支援者や教育者だけではなく、さまざまな「特性」を持ったすべての人が、ニューロダイバーシティの発想や知見をインストールするべき局面にきているといえます。
そして日本は今、新型コロナウイルスの影響で大きな社会変化を迎えています。「生きやすい」と感じていた人が「生きづらさ」を感じたり、「生きづらい」と感じていた人が「生きやすさ」を感じたりする事例がたくさん生まれています。
その人の内側に存在するさまざまな特性を正確に理解し、その人の特性に合った環境を提供するというニューロダイバーシティ視点を持つこと。そしてまた、自分自身も「特性」を持った人間であるという自覚を持つことで、より他人への理解を深め、多様性への柔軟な対応ができるようになっていくのではないでしょうか。支援者や教育者だけではなく、さまざまな「特性」を持ったすべての人が、ニューロダイバーシティの発想や知見をインストールするべき局面にきているといえます。
もっと生きやすい社会に...
筆者は「この社会に生きるすべての人が,今よりもっと生きやすい社会に近づく一助になれれば」と結んでいます。
私たち(特に日本人)は他人と違うことを恐れ、多数派になることを望むという面が、少なからずあるのは事実です。しかし、100人いれば必ず100通りの「違い」が出てきます。それを「尊重すべき違い」と捉え、それぞれが持つ特性、そしてその多様性を認め合える社会を作っていくことができれば、それがまさに「誰もが生きやすい社会」となるのです。
コロナ禍で人々の「生き方」が激変した今、「生きづらさ」を抱えている人は急増しています。生きづらさを感じている自閉スペクトラム当事者が自ら発した、深くて広い意味を持つ「ニューロダイバーシティ」という考え方は、今まさに世の中に受け入れられるときなのではないでしょうか。
「ニューロダイバーシティ」が浸透した世の中はどんなだろう...そんな想像や期待を膨らませながら読んでいただきたいと思います。
文/田崎美穂子
私たち(特に日本人)は他人と違うことを恐れ、多数派になることを望むという面が、少なからずあるのは事実です。しかし、100人いれば必ず100通りの「違い」が出てきます。それを「尊重すべき違い」と捉え、それぞれが持つ特性、そしてその多様性を認め合える社会を作っていくことができれば、それがまさに「誰もが生きやすい社会」となるのです。
コロナ禍で人々の「生き方」が激変した今、「生きづらさ」を抱えている人は急増しています。生きづらさを感じている自閉スペクトラム当事者が自ら発した、深くて広い意味を持つ「ニューロダイバーシティ」という考え方は、今まさに世の中に受け入れられるときなのではないでしょうか。
「ニューロダイバーシティ」が浸透した世の中はどんなだろう...そんな想像や期待を膨らませながら読んでいただきたいと思います。
文/田崎美穂子
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