障害者の就労スキルを評価する画期的な『発達障害の人の就労アセスメントツール』で、働く障壁を把握・適切な支援につなげよう【著者・梅永先生インタビュー付】

2021/02/13 更新
障害者の就労スキルを評価する画期的な『発達障害の人の就労アセスメントツール』で、働く障壁を把握・適切な支援につなげよう【著者・梅永先生インタビュー付】のタイトル画像

発達障害がある人は、仕事自体はできるのに、生活の基本ルールを守る、あるいは良好な対人関係を保つなどのソフトスキルが低いことが就労に支障をきたす場合があります。「就労アセスメントツール」(BWAP2)は、仕事のハードスキルだけではなく、ソフトスキルが把握でき、障害の程度や課題、支援ニーズを明確に見出せるツールです。『発達障害の人の就労アセスメントツール』(合同出版)は、誰でもできる簡易なアセスメントで、職場や作業所など多様な現場で活用でき、個々の能力・特性にあった支援を行う手助けとなる1冊です。

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BWAP2ってなに?どんな特長があるの?

『発達障害の人の就労アセスメントツール』は、職場や作業所など多様な現場で活用でき、個々の能力・特性にあった支援を行う手助けとなる1冊です。

BWAPとはベッカー職場適応プロフィール(Becker Work Adjustment Profile=BWAP)の略称で、元々は知的障害がある人の就労課題を評価するものでした。本書第1章・第2章では、改訂版であるBWAP2はどのようなものか、どのようなことを評価するのかをわかりやすく解説しています。
発達障害の人の就労アセスメントツール: ◎BWAP2〈日本語版マニュアル&質問用紙〉
梅永雄二 (監修, 翻訳)
合同出版

ソフトスキルの評価項目が多い

働くということは、単に「限られた仕事だけができればいい」ということではありません。生活するうえでの基本的マナー、他者との関わりなど、さまざまなソフトスキルが求められ、それが就労に大きな影響を与えています。BWAP2は、ハードスキル(作業能力)だけではなくソフトスキルが把握できるという特長があります。

ソフトスキルの評価項目を多くすることで、就労上の対人関係やコミュニケーション、日常生活などにおいてトラブルが多くみられるというASDのある人たちへの具体的な支援や、適した職場環境づくりを行うことができます。

具体的な評価方法は?

実際に仕事を行っている行動や状況を観察しながら、4つの領域の就労スキルを評価していきます。従来の職業適性検査とは異なり、4つの領域それぞれにソフトスキルの項目が多く導入され、対象者の特性や傾向も明確に把握できるようになっています。
BWAP2で評価される4領域とBWAの内容(p.8より)
BWAP2で評価される4領域とBWAの内容(p.8より)
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・仕事の習慣/態度(HA)
衛生面の管理や身だしなみ、時間の順守など、仕事以前の基本的な生活習慣。

・対人関係(IR)
同僚や上司に対する礼儀正しい接し方、同僚と良好なコミュニケーションがとれる能力、破壊的行動の有無など。

・認知能力(CO)
読み書きや計算能力などの知的能力の項目が中心だが、電話を使うスキルや上司に自分の要求を伝えるコミュニケーションスキルなども含まれる。

・仕事の遂行能力(WP)
安全規則を守れているか、仕事のミスを上司に報告できるかなど、職場のルールやマナーの項目が含まれる。

全部で63項目あり、それぞれ0点(もっともスキルが少ない)~4点(もっともスキルがある)の5段階で測定され、実施時間はおよそ15分です。検査結果は、各領域と4領域を合わせた「総合的職場適応能力(BWA)」で評価されます。

アセスメントの対象者と実施者はどんな人?

・対象者
12歳から成人までの知的障害、学習障害、情緒障害、自閉スペクトラム症、てんかん、身体障害などがある人。

・実施者
障害のある人に携わる人であれば、だれでも実施できます。主に就労移行支援事業所の職員、障害者就業・生活支援センターの職員、大学・高校の進路指導担当者、保護者など。

BWAP2の活用場所としては、企業、大学、就労移行支援事業所、就労継続支援事業所A型・B型、障害者就業・生活支援センターなどが挙げられます。

うまく仕事ができるための「プロフィールシート」

BWAP2の結果から作成されたプロフィールシートは、発達障害のある人が、現在あるいは新たな職場環境でうまく仕事をしていくための「マニュアル」のようなものです。本書第3章では、プロフィールシートの見方や活用方法を詳しく解説しています。

強みと弱みを把握する

発達障害のある人が職場で仕事をきちんと達成するためには、その人に合った適切な支援(ワークサポート)が必要です。全体的な数値を見るだけでなく、たとえば“「認知能力」の数値は低いものの「対人関係」の数値は高い。よって、コミュニケーション能力は高いが、金銭管理や記憶することが困難”というように、「強みと弱み」の観点で解釈をすることが個々の能力を引き出す支援につながっていきます。

ワークプレイスメントを5つのレベルで導き出す

ワークプレイスメントとは、現在の職業能力レベルのことで、「デイケア」から「一般就労」 まで、仕事の遂行力や熟達度のレベルによって5つに分類されています。自分あるいはわが子がどこに就労すればいいのか、どのような職場環境が合っているのかについては、最も頭を悩ませることといっても過言ではありません。

プロフィールシートの「総合的職場適応能力スコア」は、すべての検査項目に基づいています。そこから導き出されたワークプレイスメントは統計的にもっとも信頼性のある推定値と考えられています。

具体的にどのような支援がされているの?

本書第4章では、具体的にどのような支援が行われているのか、代表的なものを4つの領域ごとに詳しく紹介しています。その中からいくつか例を挙げます。

【仕事の習慣/態度】の領域
適切な服装
・汚れた服でもよい仕事の場合、仕事に応じた服装の指導を行います。
トイレのマナー
・トイレの衛生的な使用法や、病気の感染を防ぐための手洗いの重要性を指導します。

【対人関係】
同僚への協力
・仕事に関連する問題について同僚と話し合う機会を持ったり、そのほかの時間で同僚との間で雑談ができるように指導(支援)したりします。
感情の安定
・対象者の能力とフラストレーションの耐性を考慮した仕事を探します。

【認知能力】
記憶力
・視力語彙(目で見てわかる単語)を増やすために、フラッシュカード (単語や絵が描かれているカード)を使います。
・職場では機器に名前を書いた単語カードを付けます。機器の名前を読めるようになるたび、褒めてモチベーションを高めます。
金銭管理
・対象者にお金の価値や買い物スキルなどを指導する上で、実際の現場で経験させます。
・通帳のつくり方や家計簿のつけ方も指導します。

【仕事の遂行能力】
仕事のとりかかり
言われなくても自発的に仕事を始められるように、対象者を励まします。自発的に始めることを学んだ対象者は褒めてモチベーションを高めます。
細かい作業能力
多くの職場では、目と手の協応動作が必要とされる細かい作業が要求されます。握りやすい道具から始め、徐々に小さいものに移行し、褒めて指導(支援)していきます。

本書第5章では、大学や放課後等デイサービス、就労支援センターなど、実際にBWAP2を実施した事例を9つのプロフィールシートを用いてわかりやすく紹介しています。
プロフィールシートの例(p.25より)
プロフィールシートの例(p.25より)
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梅永雄二先生に聞く「発達障害の人の就労アセスメントツール」の一冊ができるまで

本書を手がけたのは、障害者職業総合センター研究員を経て、多くの障害者就労問題・課題に関わってきた梅永雄二先生。本書をつくられたきっかけや背景などをお聞きしました。
著者の梅永雄二先生
著者の梅永雄二先生
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「知的障害を伴わない発達障害者の就労」が抱える課題

――はじめに、先生のこれまでの活動について教えてください。

梅永:大学卒業後、障害者職業センターに就職し、障害者職業カウンセラーとして15年ほど働いていました。当時は知的障害を伴う自閉症者の就職がかなり難しい状況でした。いろいろ調べたところ、米国ノースカロライナ大学で実施されているTEACCH Autism Programでは多くの自閉症者の働く支援をされていることを知りました。

近年、大学に在籍する高機能自閉スペクトラム症者の就労支援に関するスーパーヴァイズの依頼が多く、さまざまな大学を訪問しています。また、企業を訪問しコンサルテーションも実施しています。
就労移行支援事業所や障害者就業・生活支援センター、発達障害者支援センター等では、アセスメントや支援方法についての研修依頼が多く、現在は高機能自閉スペクトラム症者の就労支援に関する海外の文献を収集したり、実際に訪問して支援技法を研究したりしています。

――大学に在籍している発達障害のある学生の就労課題は、具体的にどのようなものが多いのでしょうか。

梅永:発達障害者支援法における発達障害にはSLD(限局性学習症)、ADHD(注意欠如多動症)、ASD(自閉スペクトラム症)などが示されていますが、大学に在籍している発達障害のある学生の7~8割はASDということが報告されています(日本学生支援機構、2019)。
ASDのある人の就労上の課題は、実行機能の弱さから生じる就職プロセス(履歴書、エントリーシート、企業訪問、面接)の困難さ、社会的コミュニケーションがうまくできないために同僚・上司との間にトラブルが生じる可能性があることなどが海外の研究で数多く報告されています。また、適切なジョブマッチングがなされていないことも就労課題の一つになっています。

学校教育では、発達障害に特化した合理的配慮がなされていないことや、教師が発達障害を理解していないといった声が聞かれます。

発達障害のある人たちの離職理由の多くがソフトスキルの問題という現実

――日本の就労アセスメントの活用状況について教えてください。

梅永:まず、企業や就労支援機関で特性に合った職種や職務が検討されていない。また仕事以外の生活上の問題が就労に影響を与えてしまっていることが多い状況であるにもかかわらず、企業や就労支援機関はそこまでの支援は限界があるといわれています。

そして就労のアセスメントについてですが、実際の企業ではなく学校や支援機関内で行うことが多く、環境の影響を受けやすい発達障害のある人たちの正確なアセスメントにはなっていないと考えています。

また、職場実習など実際の企業でアセスメントが行われたとしても、狭い範囲の作業理解や作業スピード、巧緻性などの評価が中心で、仕事に影響を与えるソフトスキルのアセスメントはほとんどありませんでした。ソフトスキルは、身だしなみや時間順守、金銭管理、挨拶や援助要求などの対人関係などが含まれますが、仕事と直接関係する内容ではないので、我が国では重要視されていませんでした。
しかし、発達障害のある人たちの離職理由の8割がソフトスキルの問題であったことが米国で報告されており、BWAP2ではこのような項目が多数導入されているため、極めて貴重なアセスメントとなっています。


――ほかに、BWAP2の特徴はどのようなものでしょうか。

梅永:発達障害、中でもASDのある人の就労においては、仕事そのものよりも職場環境が大きな影響を与えるといわれています。その環境要因の具体例としては、目に入ってくる視覚刺激、音や人の話し声などの聴覚刺激、匂いなどの嗅覚刺激、暑い・寒いなどの温覚・冷覚刺激などがあります。このような外部の刺激によって集中的に作業に取り組むことができないのであれば、それらを遮断するための合理的配慮を行う必要があります。  

BWAP2では、合理的配慮をどのように行えばいいかを把握することができるだけでなく、4つの領域のそれぞれにソフトスキルの項目が導入されており、行うべき支援方法が明確に示されます。さらに、4つの領域の下位項目で1点、2点のところは芽生え段階といわれ、指導・支援により3点(合格)に持っていくことができます。0点(不合格)の項目は、状況によってはその項目は援助を受けて行ってもかまわない、あるいは集中的な支援が必要であるか、などの判断材料になります。対象者の年齢や所属によって異なりますが、さまざまな障害特性に応じて使い分けが可能で、今後の指導目標を具体的に設定することができます。
対人関係アセスメントシート(質問用紙より)
対人関係アセスメントシート(質問用紙より)
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対人関係の評価項目(p.33より)
対人関係の評価項目(p.33より)
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梅永:この点が知能検査のようなIQ値で分類されるアセスメントと異なり、知的障害を伴うASDに特化した就労移行アセスメントであるTTAPと同様、個別の移行計画を設定することができます。さらにTTAPでは把握できなかった知的に高いASDのある人にも使用できるよう、範囲が拡大されています。

BWAP2は、発達障害のある人が幸せになる状況をつくりだすための有効なツール

――どのようにBWAP2を活用すると理想的でしょうか。

梅永:まずは基本的なやり方について研修を受講することが望まれます。アセスメントの実施は非常に簡易で短時間でできるので、初級段階として実施法を学習した後、中級段階でプロフィール分析から支援法を見出す解釈を学ぶ必要があります。そして、上級段階で、実際に関わっている利用者のアセスメントを自分で実施し、専門家のスーパーヴァイズを受けることにより、BWAP2を有効に活用できるようになります。

――最後に、発達ナビユーザーへメッセージをお願いします。

梅永:発達障害のある人たちが社会参加で困難があるのであれば、それが何なのかを知り(アセスメント)、その課題を解決していくこと(合理的配慮)によって、大人になって幸せな生活を送れるように援助することが我々支援者の役目だと考えています。

BWAP2は、発達障害のある人たちが社会参加、職業的自立を果たし、大人になって幸せになれるような状況を支援する上で、とても有効なアセスメントの一つだと強く信じています。
職場における支援不足からうまく働けない、同僚の理解不足がいじめに発展するなどで離職…発達障害のある人の就労課題はまだまだ多いのが現実です。本書および付録の「BWAP2の質問用紙」を活用し、発達障害のある人が働きやすい環境をつくっていくための「合理的な配慮」や「適切な支援」を行う一助にしていただければ幸いです。

取材・文/田崎美穂子

著者

梅永 雄二
早稲田大学教育・総合科学学術院教育心理学専修教授。博士(教育学)。臨床心理士、自閉症スペクトラム支援士Expert、特別支援教育士SV、公認心理師。
1983年、慶應義塾大学卒業後、障害者職業カウンセラーとして、地域障害者職業センターに勤務。障害者職業総合センター研究員を経て1998年、明星大学人文学部専任講師、2000年助教授。2003年宇都宮大学教育学部教授。2015年4月より現職。
発達障害の人の就労アセスメントツール: ◎BWAP2〈日本語版マニュアル&質問用紙〉
梅永雄二 (監修, 翻訳)
合同出版
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