母の精神的加害から逃れて10年。母に憑依した私が「夫にしていたこと」

ライター:宇樹義子
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記念日反応による突然のうつ状態に陥ってから半月ほど、何とか切り抜けたと思っていた私でしたが、思わぬところで思わぬ事態に遭遇しました。私は夫に喧嘩を吹っかけているときに奇妙な身体感覚を感じ、「私は加害者だったのだ」と気づいたのです。

被害者から加害者へ… 視点がくるりと反転した

記念日反応による心身の不安定から半月ほどたったころのことです。最悪の心身状態からは脱したものの、まだどこか不安定で過敏になっていた私は、夫のちょっとした言動にピリピリしていました。
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「記念日反応」で突然襲ったうつ症状、どう乗り越える…!?私が実践した5つのこと

その日、疲れて帰ってきた夫にささいなことで喧嘩を吹っかけた私は、夫から「疲れている、今日はもう話したくない」と拒否されてしまいます。

それでも引き下がらなかった私は、自室に引っ込もうとする夫の背中に向かって一方的に言葉を投げつけました。まるで小学校の卒業式の呼びかけみたいな感じです。もちろん夫は苦しそうな顔でよりいっそう強く拒否の態度をとります。

そのときふと、奇妙な感覚が起こりました。「自分が母に憑依する」ような感覚です。自分が母の身体に入り込んで、母の感じる不安な身体感覚を感じながら、当時の私自身≒いまの夫の背中に向かって言葉を投げつけている。

私は31歳まで実家で母と暮らしていて、母からずっと精神的な加害を受けていました。母は自分が何かのきっかけで不安になると自分でそれをどうにもできずに私に絡んできて、ときに声を荒げることもありました。

彼女は疲れて帰ってきた私に「いま聞いてほしい、いま私が満足するまで聞いてほしい、私がこんなに聞いてほしいのに聞いてくれないなんてなんてひどい」という論理で私を毎日24時間レベルで追い詰めていたのです。

…あれ? 私は今、そんな母に憑依して、実家時代の自分≒いまの夫を追い詰めている、ということは…

そこまで考えたところで心身の疲労の限界が来てその日は眠ったのですが、翌朝起きたときには考えがまとまっていました。

私は夫に加害していた。実家時代に母が私に加害していたのと全く同じ方法で。母も私も、自分は被害者なのだと思い込みながら、相手に加害していたんだ。

私は「しばらく内省して、たいへんに反省した。自分がしていたことがどんなことだったか気づいた、私は母が私にしていたのと同じことをあなたにしていた、本当に申し訳なかった」と謝りました。夫は「うん、うん」と聞いてくれました。

身体指向のトラウマ治療が私を危機から助け出してくれた

私が夫との間で抱えてきた「くすぶり続ける爆弾」は、母との関係性で経験したことの立場を逆転した再演の傾向でした。

今回私が自分のそうした傾向に気づけたのは、明らかに「自分が母に憑依する」あの奇妙な身体感覚のおかげです。そして自分があの身体感覚にはっきりと気づいたうえで、この感覚には重要な意味があると考えて自分を掘り下げることができたのは、私が最近熱心に進めていた身体指向のトラウマ治療のおかげでした。

身体指向のトラウマ治療にはいろいろありますが、自分のトラウマティックな反応に向き合うときに身体感覚に注視していくところに共通点があります。最新の研究では、PTSDの主要な症状である「フラッシュバック」は頭の中で映像や画像が再生されるものだけでなく、言語化できない感情の起伏もあるし、なんとなく胸や手足がざわざわした感じ、足が地面につかないような感じなど、身体感覚だけのものもあることがわかってきているのです。

身体感覚のフラッシュバックは耐え難い苦痛をもたらすため、患者はアルコールや薬物などの物質、ギャンブルや自傷などの行動に依存したり、再演を行ったりすることでこのフラッシュバックの苦痛から逃れようとします。しかしこうした対処の繰り返しは人生を壊してしまうことがあります。母がはまりこんでいたのも、私がはまりこみつつあったのも、こうした悪循環でした。

身体指向のトラウマ治療では、フラッシュバックに圧倒されて物質や行動に依存したり再演を行ったりする逃れようとするのではなく、落ち着いてどんな身体感覚が起きているのかにしっかり気づきながら、自分の中に「私は自分で自分を安心させることができる」というリソース、自信や技術を作っていきます。

自分で自分を安心させることができれば、ものや行為、人に依存する必要がありません。私はいろいろなトラウマ治療を受けてきました。どの治療にもそれぞれ良さがありますが、最終的に私をきちんとした精神的自立に導くのは身体指向のトラウマ治療なのではないかと思っています。

また今回、「自分が母に憑依する」感覚を体験したことで、私に加害しつづけていた時期の母がどれほどの苦しみに身を浸していたのかを初めて本当に理解できたように思います。これは母との関係性に苦しみつづけ、母を恨んできた私にとってもう一つの大きな収穫でした。

人生上の人間関係でついつい望まぬトラブルを繰り返してしまう人は、トラウマ治療、特に身体指向のトラウマ治療を試してみるのも一つの手かもしれません。

身体指向を英語で言うと「ソマティック」です。興味のある方は、「ソマティック トラウマ治療」「身体指向 トラウマ治療」などをキーワードに調べてみてください。こうした療法は発展途上で玉石混交ですし、人によって合う合わないがあるので、どの治療も過信せず、慎重に試していってみることをおすすめします。
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