ダウン症のある友人のために立ち上がったある高校生の話ーー3月19日「バディウォーク東京」開催を前に

ライター:黒木 聖吾
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今年もバディウォーク東京が開催される。初開催から10年目のアニバーサリーイヤーだ。
2012年、NPO法人アクセプションズがスタートしたバディウォーク東京は、ダウン症への理解と受容、社会的な平等を促進するチャリティイベント。そんなバディウォーク東京という体験を通じて、ある行動を起こした高校生のエピソードを紹介したい。

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監修: 井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授
LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
ABA(応用行動分析学)をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のためのさまざまなプログラムを開発している。

バディウォーク東京

2019年バディウォーク東京(渋谷)
2019年バディウォーク東京(渋谷)
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今年もバディウォーク東京が開催される。初開催から10年目のアニバーサリーイヤーだ。

2012年、NPO法人アクセプションズがスタートしたバディウォーク東京は、ダウン症への理解と受容、社会的な平等を促進するチャリティイベント。

開始当初からダウン症のある当事者とその家族だけではなく、さまざまな企業や学生などのサポートを受け、ダウン症をキーワードに参加者全員が楽しむイベントだった。現在のバディウォーク東京はNPO法人SUPLIFEが主催し、規模も広がり、より多くのサポーターが参加して、インクルージョンな1日を楽しむ素晴らしいイベントに成長した。

そんなバディウォーク東京という体験を通じて、ある行動を起こした高校生のエピソードを紹介したい。

ある高校生の決意

「次のフリードレスデイをわたしに企画させてください。ダウン症のある人たちを理解するイベントにしたいんです」

高校1年生のエレナは自分の通う学校の校長先生をじっと見据え、こう切り出した。これから校長先生を前に、たった一人でプレゼンテーションをしなければならない。こんなに大胆な行動を自分が起こせるなんて、少し前までは考えてもみなかった。緊張する。でも、「大事な友人」のために勇気を振り絞る決意は変わらなかった。

フリードレスデイとは、エレナの通うインターナショナルスクールで月に2回行われるチャリティイベント。生徒たちが自ら社会課題をテーマに選び、それに合わせた色や形の私服を着て登校し、校内で募金活動をする。

エレナはこのフリードレスデイで、ダウン症を理解するための「バディウォーク・フリードレスデイ」を企画したいと考えた。バディウォークとは、自分も参加したことのあるダウン症啓発のためのウォーキングイベントの名前で、1995年からアメリカで開催されるようになり、2012年から東京でも開催されるようになった。

エレナの考えた企画では、このバディウォーク東京のイメージカラーである「黄色、青色、オレンジ色」の服を生徒たちに着てきてもらい、ダウン症とは何か、どんな人たちで、わたしにできることはどんなことなのか、そういったことをみんなに知ってもらおうと思った。
校長先生へのプレゼン資料。「ダウン症とはなにか」「バディウォーク東京」「わたしたちに何ができるのか」について記されている
校長先生へのプレゼン資料。「ダウン症とはなにか」「バディウォーク東京」「わたしたちに何ができるのか」について記されている
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しかし、新しいフリードレスデイを企画するのは、校内行事といえども簡単なことではなかった。
これまでのフリードレスデイは「東北大震災支援」や「がん患者支援」「ホームレス支援」といったテーマで、長年ずっと変わらずに開催されてきていて、新しいテーマが提案されること自体が珍しい。

そのうえ企画申請の手順は社会人さながらの難しさで、校長先生へのプレゼンテーション、生徒全体への趣旨説明、ニュースレターの送信など多岐にわたった。単なる思いつきでできることではない。

「それでも成し遂げたい、ダウン症のある友人ナナのために」

エレナはふうっと深呼吸してから、校長先生へのプレゼンテーションをはじめた。
インタビュー中のエレナ
インタビュー中のエレナ
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ダウン症のある友人ナナ

2015年の家族旅行、右が10歳のエレナ、左が7歳のナナ
2015年の家族旅行、右が10歳のエレナ、左が7歳のナナ
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ナナとの出会いは、エレナが7歳、ナナが4歳のときだった。母親同士が友人だったことから、ナナとは小さいころからよく遊ぶ仲良しで、いっしょに旅行にいったり、テニスで遊んだりもした。友人であるナナにダウン症があることは知っていたが、楽しい時間を過ごすのに、ダウン症であることはまったく関係なかった。

だから2014年、エレナが9歳のときに初めてバディウォーク東京に参加したときも、ダウン症に関するイベントだとはまったく思わず、たんに3歳年下の小さな「ナナ」といっしょにウォーキングをする楽しいイベント、ぐらいにしか思っていなかった。お揃いの旗を振って歩いたり、楽しい音楽に合わせて口ずさんだり、風に乗ってたくさんのシャボン玉が飛んでいくのを見て、二人とも楽しくてしかたがなかった。

それから毎年のようにエレナは、渋谷や新宿で開催されたバディウォーク東京に参加した。年齢と共に、これがダウン症の啓発活動で、参加者が街中を歩くことでダウン症の理解につながるのだと分かり、少しずつ意識が変わっていった。

そして2020年、決定的にエレナを変える出来事が起こる。

新型コロナ感染症の流行。

それまで普通に遊んでいたナナと、会えなくなったことに気がついた。学校の同級生とは毎日のようにSNSでやりとりしていたが、リアルなコミュニケーションを主としていたナナとは、コロナの流行を境に会うことがなくなってしまった。

ナナはコロナに罹っていないだろうか? 

ニュースでは基礎疾患のある人は重症化しやすいと言っているけど、ダウン症のある子はどうなんだろう?

急にナナが遠い存在になってしまったようで、動揺した。わたしはナナについて何も知らなかったんじゃないか、と。
次ページ「わたしにできることは何か。行動を起こした高校生エレナ」

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