障害者を見る大人の視点が子どもたちに与える影響も気になる

和島監督
和島監督
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――監督は、この作品を撮るにあたって、新たに意識した社会課題などはありますか? 

和島:作品の中でも少し触れているんですが、大人が子どもたちに与える影響について考えますね。新たに施設をつくるときの反対運動で、反対派の人たちは「子どもたちの安全を守らなくてはならない」と主張します。そのときに、じゃあ当の子どもはどう思っているのか、ということは見えてこないんですね。もちろん、大人たちは本気で、子どもを守るという切実な思いをもっているでしょう。でも、子どもたちからすると、自分たちの存在が差別行動といわれてもおかしくないことの口実に使われている、と感じることもあるんじゃないかと思うときがあります。

偉そうなことはいえないけれども、こうした行動が、子どもに与える影響について考えてしまうんです。子どもは意外と冷静に大人たちのことを見ています。映画で描いた草太みたいにフラットな視線の子もいる一方、そうではなく偏見を強める子も出てくるかもしれない、そこが気になっています。

――私の娘は重度の障害がありますが、保育園時代の友だちは、娘のことを友だちとして自然に受け入れていました。ですが周りの大人から「あの子と一緒にいると危ない」と言われていたら、「あの子は危ない子だ」とインプットされてしまうかもしれませんね。

愛される存在として描かれた「忠さん」

塚地さんと和島監督
塚地さんと和島監督
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――ところで、撮影した中で、塚地さんにとって印象的だったシーンは?

塚地:乗馬クラブでの馬とのシーンですね。なにしろ、馬ですからねぇ(笑)、なかなか思った通りに動いてくれなくて。びっくりして逃げてほしいところで逃げなかったり、違うところでびっくりして興奮がおさまるのを待ったり、一筋縄ではいかなかった! しかも、雨の夜で、肌寒い時期に僕はパジャマ姿だったし…、このシーンの撮影は朝までかかるかもしれないと思っていました。

――(忠さんになり切って演じていたとおっしゃっていましたが)馬に「想定通りに動いて!」と思ったりする瞬間も、忠さんとして見ていましたか?

塚地:撮影中はもう考えないようにして、忠さんとしては楽しい状況なんだから、忠さんとして楽しもうとしていましたね。自分の撮影ではないときに、馬に「(走り出すのは)そっちじゃない!」と言いたくなったりはしましたけど(笑)。

――自分とは世界のとらえ方が異なる、自閉症のある人を演じるむずかしさは、どんなところにありましたか?

塚地:感情の表現です。忠さんの表情って、赤ちゃんのような喜怒哀楽なんです。うまくいかないこととか、責め立てられたことに対して怒りや憤りの感情が自分に向かうことが自閉症の方には多いと伺いました。そこはリアルに演じないとならないから、自分で自分を叩き自傷するシーンでは本気で叩きました。でもね、映画ですから何カットも撮り直しするわけでね…痛いんですよ(笑)。だけど忠さんになっていると、手が抜けないから本気で叩く。監督が納得できる絵になるまで叩き続けたのは大変だったなぁ。

――演じることのプレッシャーはなかったですか?

塚地:めちゃくちゃありました。実際に自閉症のある子どもがいらっしゃる親御さんから見たら、全然わかってないと言われる可能性は大きいし。今も、公開されてからどう思われるか不安ですよ。

僕自身がお笑い芸人で、素性も知られているじゃないですか。もしかしたら、まったく知られていない新人の俳優さんが演じたほうが、リアルに感じられるかもしれない。そういう意味で、僕でいいのだろうかという不安はありました。でも、監督からぜひと言われた熱意や、こうした作品を撮りたいという気持ちを聞かせていただいて、本気で、全力で僕のできる限りで演じ尽くした、というところです。

――監督、どうしても塚地さんに演じてほしかったのは、どういうところからですか?

和島: 取材をしていた中で、ダウン症のあるお子さんを育てるお母さんの話を聞いたときがあったんですね。その方は、「息子にはこの町の有名人になりなさい、と言い聞かせて育てた」とおっしゃっていました。それは、この町の中で生きていくために、この町の人たちに存在を認められて愛される人になりなさいということ。

それを聞いて、忠さんは愛される存在であってほしいと思い、風貌や表情のイメージから、パッと塚地さんが浮かんだんです。塚地さん、愛される方ですよね。

――愛される存在、ほんとにそうですね。私が自宅でオンライン試写を見ていた時に、隣にいた(障害のある)娘が興味津々で忠さんのことを見ていましたよ。娘が通っている特別支援学校には自閉症のあるお友達もいるので、「あれ、友だちかな?」と思っていたのかもしれません。いつもはドラマなんかには興味がないようで全然みないんですが、この映画は集中してよくみていましたね。

塚地:そうなんですか! それはほんとに、よかった。ホッとしました(笑)。

異なる立場の人たちの目線が少し変わって、歩み寄るきっかけになれば

塚地さん
塚地さんと編集長
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――最後に、LITALICO発達ナビの読者へ、メッセージをお願いします。

塚地:自閉症のお子さんをもつ方々に見ていただいた時に、少しでも肩の荷を下ろしてもらえるようなところがあるとうれしいです。ストーリーは架空だけど、嘘を描いているわけではないと思っています。また、障害のある方が身近にいらっしゃらない方には、こういう実情があるということを知ることで、少しでも目線が変わればいいなぁと思います。この映画は、映画の中だけのストーリーというより、むしろ見終わって劇場を出たときに広がっている日常の世界にある身近な話。私自身も、独身の中年男性という状況は忠さんと同じです。「およめさん、もらいます」と言っている忠さんの気持ちもわかるので(笑)。映画を見たことが、誰かにやさしくなれるきっかけになってほしいと思います。

和島:私自身、てんかんの持病があって、「ぽつラジオ」というインターネットのラジオ番組をつくっています。その中で話題になるのが、病気の開示。偏見を怖れて伏せがちなてんかんという病気を、周囲の人、学校の友達、勤務先、近所の人に対してどう開示していくか。てんかんがある人の中には車の運転が制限される方もいるので、地方に住んでいる場合は、どうしてもお隣さんの力を借りなくてはならないということもあります。病を開示したうえで、どう周りとかかわるかが課題なんです。

「梅切らぬバカ」の中では、病や障害を通して、身近な人とうまくいかないこともあるけれど、少しずつ少しずつ歩みよっていくプロセスみたいなものを、自分なりにこだわって描きました。特にお隣さんとの関係に注目してしていただきたいです。冒頭とラストで登場人物に小さな変化が起きています。

――私も自分の子どもには、地域の中で生きてほしいと願っています。親子や、先生と子どもという縦の関係、あるいは子ども達同士という横の関係だけでなく、地域の中に、さまざまな立場の人との「斜めの関係」が欲しいと思っています。そうした思いにも通じる映画だなと感じました。
またこの映画は、塚地さん、そして加賀まりこさんという誰もが知る俳優の方が演じる映画ですので、身近に障害がある人がいない方にも興味を持っていただける機会となるのではないかと思います。
お話を聞かせていただきありがとうございました。
次ページ「『梅切らぬバカ』上映情報 」

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