発達が気になる子どもの通院から帰宅までをサポート!診察や治療を嫌がる子どもの心の準備を促せる「心理的プレパレーション」を解説

ライター:発達障害のキホン
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人は「知らない」「分からない」状況に置かれると、大きな不安を覚えたり、何も受け入れたくないという心理が働くことがあります。しかし状況や何がどのように行われるのかを理解することで、恐怖心や不安を最小限に抑えることができます。医療における「プレパレーション」とは、検査や治療、手術を受や入院する際、その人の特性や理解度に合わせて行う説明や配慮のこと。今回は、医療におけるプレパレーションの役割や必要性、発達障害がある子どもにはどのようなプレパレーションが必要なのかを、具体例を挙げながら解説します。

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監修: 井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授
LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
ABA(応用行動分析学)をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のためのさまざまなプログラムを開発している。

心理的プレパレーションとは?

プレパレーションとは?
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心理的プレパレーションとは、心理的ストレスを軽減し、自分にされる処置を受け入れるための心理的準備、環境づくりのことを指します。分かりやすい言葉や道具を使って心理的プレパレーションを行うことで、子どもが治療や検査を受けやすい状況や環境をつくることができます。

・子どもに対して、認知発達に応じた方法で病気・入院・手術・検査・その他の処置について説明を行い、不安・恐怖・混乱を最小限にすること

・年齢や理解力に応じて、おもちゃ・絵本・紙芝居などのツールを使用

・子どもや親の対処能力を引き出すような環境および機会を与えること

・海外では「チャイルドスペシャリスト」という専門家が担当

プレパレーションの意義と役割

プレパレーションには、

・子どもに情報を正確に伝えること(嘘はつかない)

・情緒的表出を後押しすること(子どもの気持ちを表出できる機会をつくること)

・病院スタッフと信頼関係を築くこと(一緒に頑張ろうとする気持ちを伝えること)

の3要素が重要であるといわれています。

言葉だけでなく、おもちゃやジェスチャーなど視覚的なツールを用いながら、子どもの発達段階に応じた理解しやすい方法でコミュニケーション取っていきます。子どもの不安や恐怖心を和らげるだけでなく、「頑張ろうと思う気持ち」を引き出すような環境を与えることができます。また、もし不安や痛みで泣いたり叫んだとしても(これも大切な自己表出)、自分が「頑張れた、乗り越えられた」という自己肯定がその後の生活に活かされることも、プレパレーションの大切な役割だといわれています。

プレパレーションはなぜ必要なの? どんなことをするの?

まだ医療に対する知識もなく、言葉の理解もあまり進んでいない子どもに対してなぜ十分なプレパレーションが必要なのでしょうか。ここでは、プレパレーションの必要性や行うにあたって心がけるべきこと、手順などを解説します。

なぜ必要なのか?

子どもは、自分の身に突然知らないことが起こると、恐怖に怯えたりパニックに陥る場合があります。特に病院という特殊な環境の場合、普段は大丈夫なはずの子どもでも恐怖心が強くなるものです。子どもがパニックに陥ると、たいていの場合暴れたり叫んだり、逃げ出そうとします。

大人数人が取り押さえて検査を行っても、データが上手く取れない、暴れすぎて適切な治療ができないなどの結果に終わることもあります。また、失敗・恐怖体験だけが残ったり、再度痛い思いをしなければならないなど、不安が増すことにもなりかねません。十分なプレパレーションを行い、子どもがしっかり理解し納得したうえで検査に臨むことで、検査をスムーズに行えるだけでなく、子どもの成功体験にもつなげていけます。特に繰り返し医療処置を受けなければならない慢性疾患を持つ子どもには、プレパレーションはとても重要となります。

子どもの認知発達に合わせることが大切

子どもの認知発達に合わせた対応を
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3歳前後~6、7歳くらいまでの子どもは、見立て遊びやごっこ遊びを通して物事を理解するため、ぬいぐるみやおもちゃを使ったごっこ遊びの中で説明していきます。ぬいぐるみと自分を同化させ、「ぬいぐるみも頑張ったから自分も頑張る」と子どものやる気を引き出すことにもつながります。この時期の子どもは自分自身の立場からしか物事を見ることができないため、子どもの視点に立った内容の説明をする必要があります。

7歳前後~11歳くらいになると多くの子どもはごっこ遊びなどをしなくても物事を理解することができるようになります。しかしまだ仮定の話が理解しにくいため、未体験のことを言葉だけで理解するのは難しい時期です。この場合、点滴をつけた人形を見せたり、紙芝居や絵本あるいは動画を利用すると理解しやすくなります。

また、プレパレーションをしている中で、子どもは「嫌だ」「痛い」などの思いを表出します。それに対し「嫌じゃない」と否定したり、「痛くない」と嘘をつくのではなく、「嫌だね、でも元気になるためにするんだよ。だから一緒に頑張ろう」「チクッと痛いけど、病気を治すためには大切で必要なんだよ」など、共感しながら嘘をつかず話すことが大切です。

プレパレーションは5段階ある

プレパレーションは処置前に行う説明や配慮だけではありません。来院前から帰宅後まで順序立てて継続的に行われ、これを「プレパレーションの5段階」といいます。

ステージ1
来院前に、親が子どもに情報を与えます。効果的なプレパレーションを行うためには、医師や看護師と保護者の情報共有や協力が重要となります。

ステージ2
入院や処置などの説明(オリエンテーション)をする中で、子どもの状態を観察したり理解度を知ることで、その子に適したプレパレーションの方法を模索します。

ステージ3
実際にプレパレーションを行い、医療行為の説明を行うだけでなく、励ましや安心感を与えます。

ステージ4
実際に医療行為をする中で、おもちゃや人形などのツールを使って遊びながら子どもの気を紛らわせます。

ステージ5
治療後や退院後の時期に、外来や自宅での遊びを通した支援によって、子どものケアをします。
参考:「小児保健とプレパレーション--子どもの力と共に」より プレパレーションの5段階について(順天堂大学医学部 田中恭子)| 小児保健研究 = The journal of child health
https://www.jschild.med-all.net/Contents/private/cx3child/2009/006802/010/0173-0176.pdf
参考:プレパレーションの実践に向けて 医療を受ける子どもへの関り( 神戸市看護大学 研究代表者 蝦名 美智子)
https://www.okinawa-nurs.ac.jp/wp-content/uploads/2019/07/preparationshiryou.pdf
参考:プレパレーションについて(筑波大学発達支援看護学研究室)
https://shouni-kazoku.jp/update/research/51

発達障害がある子どもの場合

定型発達児を対象としたプレパレーションは少しずつ浸透してきているものの、発達障害がある子どもに対するプレパレーションについては医療現場にもあまり周知されず、診察や治療に苦慮しているという現状が多く見受けられます。発達障害がある子どもにはどのようなプレパレーションが必要なのかを考えていきます。

視覚的な手掛かりを多く使う

文字が読めない、発語がないなど、口頭説明では対応できない子どもに対しては、視覚的なツールが有効です。たとえば各検査をミッションと見立て、写真入りの手順カードとミッションカードを使います。「今日は大切な任務があります。これを見て、ミッションをクリアしてきてね(できたらシールを貼る、など)」と伝えます。このような工夫をすることで、文字や言語が分からなくても写真やイラストで理解しながらすべてのミッション(検査)を終えることができます。また、終えたら親や医師、看護師から賞賛と激励を得ることができるという流れをつくることで、「処置を受けてみよう」という子どもの動機づけにもなります。

見通しを示す

発達障害がある子どもは、物事の見通しを持ちにくかったり、慣れないことへの不安が大きく、パニックを起こすケースが多く見られます。見通しを持たせるためのプレパレーションが必須ですが、抽象的な説明では理解できない場合もあります。たとえば注射をする際、「注射をする意味」「針を刺してから終わるまで何秒程度かかるのか(具体的な数字で)」「たくさん予告してから針を刺す」など、分かりやすく具体的な言葉で説明し、かつ終わりを明確に伝えること大切です。

感覚過敏への対応

発達障害のある子ども多くは、感覚過敏を持っているといわれています。注射や点滴など痛み、あるいは心電図などひんやりする感覚を伴う処置は、過敏性が感じ方に影響したり、不安の高まりから過敏性がより増して処置そのものを嫌がるようになります。
口頭やツールを使った説明だけでなく、「なるべく細い針で行う」「麻酔クリームやパッチ使用する」「温めたタオルで肌を拭いてから行う」など、感覚が増すことを極力抑えるやり方を本人に選択させる方法もあります。

保護者とのやり取りで「拒否や興奮」を避ける方法を見つける

こだわりや過敏性などから、処置中に動いたり、起きて歩き回ったり、突如暴れだすなどのリスクがつきものです。「こういう状況になると興奮してしまう」「見通しが立ちすぎると不安になるので、最小限の説明でいい」など、子どもが不安を覚えやすい、あるいは怒りのスイッチが入ってしまう状況をその都度医療者に伝えることも大切です。医療者と保護者のやりとりの中で「子どもの拒否・興奮を避ける方法の模索」をしていきます。

発達障害は個々によって特性が異なるため、本来なら詳細なアセスメント行い個々に合ったプレパレーションを行うことが理想的ですが、現在の医療現状からは困難であると考えられます。しかし、具体的で簡潔な言葉で説明する(難しければマニュアルなどで対応)、視覚的なツールや痛み・苦痛を軽減できる器具を使うなどの支援を中心とした汎用性の高いプレパレーションであれば、医療関係者の負担も少ない方法で行えるかもしれません。
参考:小児科外来における発達障害児へのプレパレーションの現状とその効果に関する検討(鳥取大学 鳥取大学大学院 医学系研究科 井上 雅彦)|厚生労働科学研究成果データベース (MHLW GRANTS SYSTEM)
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2017/172091/201717019B_upload/201717019B0009.pdf
次ページ「プレパレーションの具体例」

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