プレパレーションの具体例

治療や手術に臨む、一人で入院する子どもの不安や痛みを少しでも和らげるにはどのような方法が行われ、どのような工夫がされているのでしょうか。いくつかプレパレーションの具体例を紹介します。

注射や点滴など、痛みを伴う処置

まずはどこで受けるのか(病室か処置室か)実際部屋を見せたり、パペットやぬいぐるみを使ってどのようにするのか(どのような姿勢で受けるのか、お母さんに抱っこしてもらうのかなど)、腕のどこに刺すのか、どのような感覚か(アルコールで拭くとヒヤッとする、刺すときチクっとするなど)、 どのようなスタイルでするのか(寝るのか、お母さんに抱っこしてもらうのかなど)を順を追って視覚的に説明します。そして、子どもにしてほしいこと(泣いてもいいけど、このときは手を動かさないでね、など)も伝えます。
注射の手順
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プレパレーション人形『プレパちゃん』
プレパレーション人形『プレパちゃん』
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参考:プレパレーション人形『プレパちゃん』
https://naito-design.com/ndi_products/prepachan
監修:田中恭子
国立研究開発法人 国立成育医療研究センター こころの診療部 児童・思春期リエゾン診療科
製造・販売:㈱内藤デザイン研究所

CTやMRIなど、音の出る検査

CTやMRIを受ける前の点滴や服薬で眠くなること、機械までの移動(抱っこかストレッチャーで寝て行くか)、実際の撮影時に経験すること(ゴンゴン音がする、機械が動く、赤い点が動くなど)、子どもに協力してほしいこと(検査が終わるまでご飯が食べられないこと、「終わりだよ」と言うまでじっとしていてほしいことなど)を、子どもの気持ちに寄り添いながら説明します。このとき、CTやMRIのミニチュアモデルと小さな人形を使って視覚的に説明すると効果的です。
ぷれぱらウッド
ぷれぱらウッド
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参考:ぷれぱらウッド
http://www.horiuchiwoodcraft.com/jp/pg15.html

ぜんそくなど呼吸器系の疾患に必須の吸入

吸入中、子どもがじっと座っているのは難しいもの。また、吸入器を当てるのを嫌がる子どもも少なくありません。事前に吸入器具を口に当てる練習をしたり、ぬいぐるみに吸入器を当てて「何分間だよ」と実際にかかる時間を体感します。吸入器にキャラクターを飾るなどの工夫をしている病院もあるようです。こうしたプレパレーションを行うことで、吸入を受け入れるようになるだけでなく、ゆくゆくは自分でできるようになっていきます。

手術室の様子を人形や模型で再現

手術室は特殊な環境で、子どもの緊張や不安が高まってしまうため、手術室入室体験を行う病院もあります。手術前の麻酔や酸素投与でマスクを使うこと、点滴やチューブが入ること、子どもに協力してほしいことを、実際使う器具やプレイモービル(実際の手術室の模型)やぬいぐるみやパペット、絵本や動画を使って視覚的に伝えます。

また、子どもにとって「手術が終わる=手術前の何もない状態」という理解なので、手術が終わっても、実際は点滴がついていたり、ドレーンが入っている状態であることもしっかり伝えます。

飾りなどを施した明るい入院部屋

病室だけでなく、処置室や手術室に移動する際の廊下やエレベーターなどに親しみやすいキャラクターの模様を施したり、照明を柔らかくするなど、子どもが少しでも明るく前向きな入院生活を送れる環境をつくります。また、病院によっては子どもがのびのび遊べるプレイルームを設置したり、節句やクリスマスなど季節ごとのイベントに力を入れているところもあります。

処置終了後や退院後のプレパレーション

検査や治療、手術が終了しても、その後の経過観察や自宅で行う治療(吸入など)の訓練など、日常生活で注意しなければならないこともあります。子どもが「痛かった」「怖かった」という気持ちから処置に対する考えを歪めてしまわないよう、処置前に行ったプレパレーションを継続的に繰り返すことで子ども「頑張ろう」という気持ちを持続することができます。

また、子どもは退院後急に日常生活に戻ることに戸惑う場合もあります。医療者は入院中の頑張りをしっかり褒めつつ、家に帰ったらどのような生活をするとよいかを話します。処置や退院などで長期欠席したあと、初めて登校・登園する日は保護者が付き添い、学校や園の先生に、今の状態や気をつけるべきことなどを話すことも大切です。

保護者と医療側の連携

保護者が子どもに治療や検査について伝える際、不安を和らげるというより、「病院へ連れて行くこと」を目的とした説明が行われることが多いのが現状です。

医療者が処置に関するパンフレットや絵本などのプレパレーションツールを作成し事前に保護者へオリエンテーションを行う、実際使う器具(酸素吸入器など)や疑似ツール(聴診器のおもちゃなど)を貸し出して、自宅で触ったり遊びの中で親子で治療について話し合う機会を促すなど、「保護者ができるプレパレーション」にも重きを置いています。
参考:プレパレーションの実践に向けて 医療を受ける子どもへの関り( 神戸市看護大学 研究代表者 蝦名 美智子)
https://www.okinawa-nurs.ac.jp/wp-content/uploads/2019/07/preparationshiryou.pdf

プレパレーションの現状や課題

プレパレーションが必要だと感じながら、実施が困難と感じている病院や医師、看護師が多いのが現状です。たとえば「腎生検・心臓カテーテル検査」などの難しい検査は、子どもの発達を踏まえた特別な知識や技術が必要になってきます。特に混合病棟(さまざまな年代や科が一緒になった病棟)では、「子どもの状態を熟慮し、どのような言葉や方法で説明するかを考える」ための時間やマンパワーが不足しているのが現状です。

プレパレーションは、子どもの認知発達に関する知識に加えて、「子どもの質問に分かりやすく答える」などのコミュニケーション技術も必要であるため、医師や看護師に取ってもハードルが高い作業といえます。こうした課題を踏まえ、小児患者に対するプレパレーションの実施頻度が増えるような対策や取り組みが望まれます。
参考:「小児保健とプレパレーション--子どもの力と共に」より プレパレーションの5段階について(順天堂大学医学部 田中恭子)| 小児保健研究 = The journal of child health
https://www.jschild.med-all.net/Contents/private/cx3child/2009/006802/010/0173-0176.pdf

まとめ

プレパレーションには、「子どもの知る権利を尊重する」「子どもの自信とやる気を引き出す」という意味も込められています。
プレパレーションを行うことは、子どもの恐怖心や不安感を軽減したりスムーズに検査が受けられる環境をつくるだけではありません。たとえ何度か失敗したとしても、経験を重ねていくことで「上手に検査を受けられた」「次も大丈夫」という自信につなげるという大切な役割があります。また、子どもの成長した姿を見る親の喜びや、「今後も安心して医療措置が受けられる」という安堵感を得ることもできます。

プレパレーションを行うことによって、子ども本人だけでなく、親や医療従事者にも大きなメリットをもたらすことが予想されます。今後どの医療機関においても、プレパレーションが浸透していくことを願うばかりです。
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