発達障害や病気、特性での「こまった!」をどう解決する?楽しみながら考えるカードゲーム「こまった課?」開発秘話を取材
ライター:発達ナビ編集部
特性のある人について、遊びながら理解していくカードゲーム「こまった課?」。タイトルも一風変わっていますが、このゲームをプロデュースしたのが福祉施設や教育関係者ではなく「デザイン会社」というところもユニークです。どんな経緯や思いがあってこのゲームが誕生したのか、LITALICO発達ナビ編集長・牟田暁子がインタビューしました。
カードゲーム「こまった課?」について
「こまった課?」は、2人以上6人までで遊ぶカードゲーム。役所の「こまった課?」の職員と、発達障害による特性や先天性・後天性の疾患などがある方をモデルとした、社会生活での困りごとがある住人に分かれてプレイします。住人カードを引いた人は、その住人になりきって、役所の職員の質問に答えます。場面カードを引き、「この場面では困ることがありますか?」と住人に聞きます。役所の人は、その答えによって、相手の住人が「誰」なのか、キャラクター名を当てます。さらに、ヒントカードを使って、その住人が困っていることの解決策を楽しく探ります。
今回は、「こまった課?」の企画・制作に携わった株式会社デジタル・アド・サービスのお二人にお話を伺いました。
竹内悠さん:ビジネスデザイン部サービス推進リーダー コピーライター・コンサルタント。企業のビジョンや理念など、組織にかかわることばづくりからその実践に向けた取り組みまで、継続的な支援を行う。
藤井さとみさん:ビジネスデザイン部 デザインリサーチャー。大学卒業後にコピーライターとして入社。現在は組織やブランド、サービスのコンセプトをユーザーやクライアントと共創するリサーチャー。
今回は、「こまった課?」の企画・制作に携わった株式会社デジタル・アド・サービスのお二人にお話を伺いました。
竹内悠さん:ビジネスデザイン部サービス推進リーダー コピーライター・コンサルタント。企業のビジョンや理念など、組織にかかわることばづくりからその実践に向けた取り組みまで、継続的な支援を行う。
藤井さとみさん:ビジネスデザイン部 デザインリサーチャー。大学卒業後にコピーライターとして入社。現在は組織やブランド、サービスのコンセプトをユーザーやクライアントと共創するリサーチャー。
発達の特性について知ることは、想像力を広げることになる
発達ナビ 牟田暁子編集長(以下――)カードゲームで人々の個性・特性を理解するという発想が新しいですが、なぜデジタル・アド・サービスさんのようなデザイン会社が、こうしたゲームをつくったのか、開発のきっかけから教えてください。
竹内悠さん(以下、竹内):私はふだん、高齢者福祉や障害福祉施設のビジョンづくり、パンフレットやホームページなどのコミュニケーションツールの制作に携わっています。そこから、障害や特性のある人々について、何か一般の人の理解につながるようなことができないか、という発想がありました。
障害福祉に最初に私が仕事で関わったのが、「こまった課?」の共同開発・監修者である、障害者支援施設 ひだまりの里きよせ(社会福祉法人東京都手をつなぐ育成会)でした。パンフレットを制作したのですが、ひだまりの里きよせが開設する前にお話を伺いに行ったときに、すごく緊張していたことを覚えています。当時は、知的障害や自閉症(当時の呼び方)といった言葉も、聞いたことはあってもよく分からなかったし、「障害者施設」ってどんな場所なんだろう、どういう人たちがいるんだろう…と思っていました。
職員の方にいろいろお話を伺うときに、「こんなこと聞いていいのかな?」という不安感、緊張感もありました。でも、一緒にお仕事をさせていただくようになって、少しずつ知っていくうちに、漠然とした不安感は、だんだんに自分の中で減っていきました。
そういう体験があったから、「よく知らなくてなんだかこわいから、関わらないでおこう」ではなく、違う視点をもてる体験を社会の中に増やせたらいいな…ということを、少しずつ考えるようになっていきました。
知るという機会を、施設の紹介パンフレットをつくるといったこと以外に、もっと違うアプローチから、何かできないかなと思うようになっていったのです。
――知る、ということは大事な一歩ですよね。藤井さんは、ご自身ではそういう視点が変わるような体験、これまでに何かありましたか?
藤井さとみさん(以下、藤井):私は、入社前は福祉とほとんど関わりのない大学生でした。入社2年目ごろから、竹内とともに福祉関係の仕事をするようになり、障害のある人について少しずつ知っていくようになりました。
あるとき、買い物をしていたら、レジ前で大人の男性が騒いでいる様子を見かけたのです。そのときに、「何か気に入らないこととか、いつもと違うことでもあったのかな」と思ったのですが、そういう風に考えられるようになったのは、障害福祉に少しでも関わる仕事をしているからだ、と気づきました。騒いでいる人を見て、「なんだかこわい」ではなく、「なぜ騒いでいるのかな」と疑問に思うのは、大学生のころの私にはなかったこと。仕事で知ったことや経験したことから、その人の背景を想像するようになっていました。
竹内悠さん(以下、竹内):私はふだん、高齢者福祉や障害福祉施設のビジョンづくり、パンフレットやホームページなどのコミュニケーションツールの制作に携わっています。そこから、障害や特性のある人々について、何か一般の人の理解につながるようなことができないか、という発想がありました。
障害福祉に最初に私が仕事で関わったのが、「こまった課?」の共同開発・監修者である、障害者支援施設 ひだまりの里きよせ(社会福祉法人東京都手をつなぐ育成会)でした。パンフレットを制作したのですが、ひだまりの里きよせが開設する前にお話を伺いに行ったときに、すごく緊張していたことを覚えています。当時は、知的障害や自閉症(当時の呼び方)といった言葉も、聞いたことはあってもよく分からなかったし、「障害者施設」ってどんな場所なんだろう、どういう人たちがいるんだろう…と思っていました。
職員の方にいろいろお話を伺うときに、「こんなこと聞いていいのかな?」という不安感、緊張感もありました。でも、一緒にお仕事をさせていただくようになって、少しずつ知っていくうちに、漠然とした不安感は、だんだんに自分の中で減っていきました。
そういう体験があったから、「よく知らなくてなんだかこわいから、関わらないでおこう」ではなく、違う視点をもてる体験を社会の中に増やせたらいいな…ということを、少しずつ考えるようになっていきました。
知るという機会を、施設の紹介パンフレットをつくるといったこと以外に、もっと違うアプローチから、何かできないかなと思うようになっていったのです。
――知る、ということは大事な一歩ですよね。藤井さんは、ご自身ではそういう視点が変わるような体験、これまでに何かありましたか?
藤井さとみさん(以下、藤井):私は、入社前は福祉とほとんど関わりのない大学生でした。入社2年目ごろから、竹内とともに福祉関係の仕事をするようになり、障害のある人について少しずつ知っていくようになりました。
あるとき、買い物をしていたら、レジ前で大人の男性が騒いでいる様子を見かけたのです。そのときに、「何か気に入らないこととか、いつもと違うことでもあったのかな」と思ったのですが、そういう風に考えられるようになったのは、障害福祉に少しでも関わる仕事をしているからだ、と気づきました。騒いでいる人を見て、「なんだかこわい」ではなく、「なぜ騒いでいるのかな」と疑問に思うのは、大学生のころの私にはなかったこと。仕事で知ったことや経験したことから、その人の背景を想像するようになっていました。
竹内:私の場合は、そうしたくっきりしたエピソードがあるわけではありませんが、福祉施設の方々やその利用者さんと接するうちに、徐々に状況のとらえ方の変化が起きていった感じです。たとえば、会話の中で「みんなが」という言葉を使うときに、自分の周りだけの視点で「みんな」と言ってしまっていないかな?というように、視点が変わっていく体験があります。
私も藤井もこういう体験を経て、多様な人がいる社会に対して、デザインで「伝える」というデザイン会社としてのアプローチで、なにかできたらと思うようになっていったことが、「こまった課?」をつくることになった背景にあります。
私も藤井もこういう体験を経て、多様な人がいる社会に対して、デザインで「伝える」というデザイン会社としてのアプローチで、なにかできたらと思うようになっていったことが、「こまった課?」をつくることになった背景にあります。
「カードゲーム」で遊ぶという体験のなかで知ってほしい
――こうした啓発活動には、いろいろなアプローチがあると思いますが、「カードゲーム」という形になったのは、どういう発想でしたか?
竹内:障害について、学ぶ・教えるという切り口よりも、遊ぶ・楽しむというアプローチがあってもよさそうと思い、それならゲームがいいのでは?という発想でした。藤井はゲームや漫画が好きで、まずは世の中にあるゲームにどんなものがあるか、いろいろなものを取り寄せてみていくうちにテーマに合った形として、カードゲームとなりました。
――キャラクター設定がよく考えられていると思いましたが、これは共同開発した「ひだまりの里きよせ」の方々の発案もありますか?
竹内:はじめは、ひだまりの里きよせのみなさんとお仕事するなかから、「こういう特性のある方がいますよ」とか、「この特性によってこういう場面が起こりやすいです」という話を聞いた中から考えました。そのほかにも本や資料、ブログなどもいろいろと読みました。それこそ、発達ナビも見ていました。そうした中から、特性をリスト化してキャラクターの名前を考えて、その段階で一度、ひだまりの里きよせの職員の方々や、臨床発達心理士の方などに相談しました。その中で、こういう住人さんもいたほうがいいのではなどのアドバイスをもらって、最終的には27人の住人になりました。
原案は、自分たちで絵を描いたりしてつくったカードを机にバーッと広げてみて、重複したり、抜け落ちていそうな住人さんの特性を考えたりしながらセレクトしました。
竹内:障害について、学ぶ・教えるという切り口よりも、遊ぶ・楽しむというアプローチがあってもよさそうと思い、それならゲームがいいのでは?という発想でした。藤井はゲームや漫画が好きで、まずは世の中にあるゲームにどんなものがあるか、いろいろなものを取り寄せてみていくうちにテーマに合った形として、カードゲームとなりました。
――キャラクター設定がよく考えられていると思いましたが、これは共同開発した「ひだまりの里きよせ」の方々の発案もありますか?
竹内:はじめは、ひだまりの里きよせのみなさんとお仕事するなかから、「こういう特性のある方がいますよ」とか、「この特性によってこういう場面が起こりやすいです」という話を聞いた中から考えました。そのほかにも本や資料、ブログなどもいろいろと読みました。それこそ、発達ナビも見ていました。そうした中から、特性をリスト化してキャラクターの名前を考えて、その段階で一度、ひだまりの里きよせの職員の方々や、臨床発達心理士の方などに相談しました。その中で、こういう住人さんもいたほうがいいのではなどのアドバイスをもらって、最終的には27人の住人になりました。
原案は、自分たちで絵を描いたりしてつくったカードを机にバーッと広げてみて、重複したり、抜け落ちていそうな住人さんの特性を考えたりしながらセレクトしました。
――場面カードも、お困りを感じるシーンがそろっていますよね。この開発はどのように?
竹内:朝から晩までの生活シーンで、ありそうな場面をピックアップしていきました。キャラクターと同じように、似たような場面ばかりにならないようにバランスを見て、ある程度「抜け」もないように調整しました。
藤井:学校と働くシーンのバランスも考えました。カードゲームで遊ぶ人が子どもたちだと、会社のシーンばかりでは想像できないですしね。
――役所が舞台というのも面白いですよね。いろいろな人が相談に来る場所だから、役所にしたんですか?
藤井:はじめは、ストーリー設定はなくて、困ってしまう可能性のある人々がいて、なんで困っているか当てるというシンプルなゲームを考えました。そこで、どうして困っているかを見つけて解決する人々に近いのは、どういう場所にいる人だろうと考えたら、市町村役場の職員という設定が近いかもと考えて、役所の文脈を追加しました。
竹内:朝から晩までの生活シーンで、ありそうな場面をピックアップしていきました。キャラクターと同じように、似たような場面ばかりにならないようにバランスを見て、ある程度「抜け」もないように調整しました。
藤井:学校と働くシーンのバランスも考えました。カードゲームで遊ぶ人が子どもたちだと、会社のシーンばかりでは想像できないですしね。
――役所が舞台というのも面白いですよね。いろいろな人が相談に来る場所だから、役所にしたんですか?
藤井:はじめは、ストーリー設定はなくて、困ってしまう可能性のある人々がいて、なんで困っているか当てるというシンプルなゲームを考えました。そこで、どうして困っているかを見つけて解決する人々に近いのは、どういう場所にいる人だろうと考えたら、市町村役場の職員という設定が近いかもと考えて、役所の文脈を追加しました。