心豊かな生活を送るための土台づくり。わが子の試行錯誤を支え「折れない心」を育む【青年期編】――相模女子大学教授・日戸由刈先生から

ライター:日戸由刈
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私は、発達が気になる子どもたちの幼児期や学齢期の心理的支援の仕事に長年携わってきています。1992年から在籍した横浜市総合リハビリテーションセンターでは、児童精神科医の佐々木正美先生、発達精神科医の本田秀夫先生とともに20年以上、発達障害のある子どもや大人の支援に取り組みました。その中でたくさんのご本人・ご家族との関わりから教わった、ライフステージを通じて大切にしたいことの中から、今回は青年期について、ご家族に知っておいてほしいことをお伝えします。

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執筆: 日戸由刈
相模女子大学 人間社会学部 人間心理学科教授
博士(教育学)。公認心理師。臨床心理士。臨床発達心理士。横浜市総合リハビリテーションセンター発達精神科外来に心理職として20年勤務し、同センター児童発達支援事業所「ぴーす新横浜」の園長を経て、2018年より現職。

青年期の子どもとの関わり

私は、発達が気になる子どもたちの幼児期や学齢期の心理的支援の仕事に長年携わってきています。たくさんのご本人・ご家族との関わりから教わった、ライフステージを通じて大切にしたいことの中から、今回は青年期について、ご家族に知っておいてほしいことをお伝えします。

青年期はいつごろから?

「青年期」とは、何歳ごろからを指すのでしょう?中学生?高校生?それとも、もっと大人になってから?発達心理学における青年期の定義は、研究者によって多少異なりますが、だいたい中学生以上を指すことが多いようです。

とはいえ、人は突然青年期になるわけではありません。小学校の半ばごろから、ゆっくりと時間をかけて青年期に移行していきます。身体つきが少しずつ変化するだけでなく、心も変化します。幼少期の子どもは、「みんなが自分をどう見ているか」「こんなことをしたら、周りはどう思うか」ということをあまり意識していません。しかし小学校の半ばから、子どもは「周りの目」をだんだんと意識し始めます。そして、同世代の仲間と自分を比べて、できていないことを気にしたり、自分だけが目立って注目されると不安を覚えたりします。

親子関係は変化していく:きっかけは、子どもの親離れから

周りの目を気にするようになると、子どもによっては「いつまでもお母さんに甘えていると知られたら、恥ずかしい」と思う場合もあります。いつかは親から自立する、という気持ちが強い子ほど、親に甘えることをカッコ悪いと思うのかもしれません。そして、家庭ではまだまだ親に甘えているのに、家の外では親から距離をとろうとしたりします。ついこの前まで一緒に手をつないで歩いていたのに、急に拒否したりするのです。

子どもによっては、親が自分の部屋に入ってきて、掃除をしたり物を動かしたりすることを、極端に嫌がるようになります。親からすれば「散らかっているから、ちょっと片づけてあげよう」という親切心でやっているのに、子どもから乱暴な言葉で反発されると「二度とやってやるもんか」という気持ちになりますよね。

こんなふうに、子どもが親から距離をとろうとすることを「親離れ」と言います。親離れの始まりでは、多くの親は戸惑うものです。赤ちゃんのころからずっと世話をしてきたわが子に対して「あれ?」「いつもと違う」と感じ、急に大人びて見えたり、なかには「最近、自分の言うことを聞かない」と苛立ちを覚えたりする場合もあります。こうした親御さんのちょっとした心の変化、違和感は、「子離れ」の始まりです。まず子どもの側から「親離れ」のサインがあって、それに気づいた親の側にも「子離れ」が始まる。だんだんと、親子関係が変化していくのです。

ディレクターから黒衣(くろこ)へ:親の役割も変化していく

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中学生
出典 : http://amanaimages.com/info/infoRF.aspx?SearchKey=33000003516
前回、子どもに合ったペースは一人ひとり違う、という話をしました。親離れについても、時期ややり方は、子どもによって全く違います。中学生や高校生になっても「親離れ」のサインが見えにくく、人前で親に甘える子もいますが、まったく心配はいりません。「うちの子は、こうなんだ」と思って、それぞれの個性やペースを尊重したいですね。

ただ、子どもの「親離れ」のサインが見えにくいと、親の側が「子離れ」のタイミングを逸してしまうことはあります。たとえば、高校生の子どもが鼻をぐずぐずさせているとき、お母さんがパッとティッシュを取って、「はい、チーン」と子どもの鼻をふいてしまうことがあります。お母さんにとっては、赤ちゃんのころからずっとしてきたことですから、違和感はありません。でも、電車の中など周囲の目がある場所でそれをしたら、周りはびっくりしますよね。

親離れ・子離れとは、単に距離をおくことではなく、親子双方が相手を自分と独立した一人の人間として意識することです。子どもが赤ちゃんのときは、先に親が気づいて鼻をふいてあげていた。いわばディレクター(仕切り役)の役割を、自然ととっているんです。でも、子どもを自分と独立した存在と認識すると、子どもには自分のことは自分で考え、自分でやってほしいと思うものです。そして、できないことがあれば、そっと手伝ってあげようと思う。ディレクターから黒衣へと、自然と役割の転換が起こります。ちなみに黒衣とは、舞台で役者が演技しやすいように、黒い衣を来て目立たないようにしながらサポートする役割のことです。ディレクターとは、ずいぶん違いますね。

試行錯誤が、折れない心をつくる

前回、幼少期は保護的な環境が大切、という話もしました。保護的な環境の中で、大人に手伝ってもらってできることが増えるに従って、子どもは「困ったときは、助けてもらえる」という絶対的な安心感を心の中に育んでいきます。そして家庭や学校といった、いつもの慣れた人間関係や場所だけでなく、一人でお店に入ったり、遠くまで外出したり、趣味の仲間を見つけたりと、世界を広げていきます。もちろん、失敗もたくさんします。でも、「困ったときは、助けてもらえる」という安心感があるからこそ、多少の失敗にめげることなく、自分で乗り切ろうとするのです。これを「試行錯誤」と言います。そして、試行錯誤を通じて成功体験を積むことは、子どもの折れない心(「レジリエンス」)を強くします。

青年期は、安心して試行錯誤できる環境が大切です。常にディレクターが子どもに口出しをしていると、子どもは試行錯誤の機会を持つことができません。多少の失敗を体験しないと、折れない心も育ちません。ですから親の役割は、黒衣くらいがちょうどよいのです。ちょっとハラハラするかもしれませんが、子どもがやりたいことはやらせてみる。失敗したら、どう立ち直るかを見守りましょう。どうしても難しそうだと判断したら、子どもに声をかけてみる。こうすることで、子どもの側に「人に相談する力」も育ちます。

幼児期から、学齢、青年期まで大切にしたい「子育て10か条」

ライフステージの変化に沿って、子どもも親も変化します。子育てに悩んだり迷ったりしたときは、先のライフステージにも目を向けながら考えてみましょう。この度の新刊『発達が気になる子の子育て10か条――生活スキルやコミュニケーションを伸ばすコツ』は、幼児期、学齢期、青年期のどのステージにおいても大切なことを、ギュッと詰め込んだ1冊です。それぞれのお子さんのペースに合った育て方のヒントとして、きっとお役に立つと思いますので、ぜひご一読ください。

執筆/日戸由刈

日戸先生の著書

発達が気になる子の子育て10か条: 生活スキルやコミュニケーションを伸ばすコツ
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