黒板を写せない、漢字や計算が苦手…「頑張ってもできない」子どもたちの背景に「認知機能」の弱さがある?――児童精神科医・宮口幸治先生
ライター:宮口幸治
「勉強しても身につかない」「努力しているのにテストの点に結びつかない」という子どもたちがいます。
私は、目の前にいる、できないで困っているそうした子どもたちを、なんとかできるようにしてあげたい。ただそれだけの思いで、子どもたちの困っている原因を探り、力を伸ばす方法を考え続けました。そして、「できない」背景には、「認知機能」の弱さが関わっているのではないかと考えるようになりました。
執筆: 宮口幸治
児童精神科医
児童精神科医として、困っている子どもたちを教育・医療・心理・福祉の観点で支援する「日本COG-TR学会」を主宰し、全国で支援者向けに研修を行っている。
できないで困っている子を助けたい
私は児童精神科医として、2009年から現在まで少年院に勤務し、非行少年と言われる多くの少年たちに出会ってきました。「非行少年」というと粗暴で、周囲を「困らせる子」のイメージがあるかもしれませんが、実際に私が出会った少年たちは違っていました。ひとことでいえば、その少年自身が「困っている子」だったのです…。
下の図は、私が少年院で出会った中学生が描いた立体図です。彼は見本を見ながら「難しいなあ」とつぶやいてなんとか描き上げたのですが…。私は彼の苦労する姿を見て、この少年に今必要なのは、反省の念もさることながら、立体図がしっかり描けるような力、つまりは正しく物事を「認知する力」だと感じ入りました。
下の図は、私が少年院で出会った中学生が描いた立体図です。彼は見本を見ながら「難しいなあ」とつぶやいてなんとか描き上げたのですが…。私は彼の苦労する姿を見て、この少年に今必要なのは、反省の念もさることながら、立体図がしっかり描けるような力、つまりは正しく物事を「認知する力」だと感じ入りました。
約5年間かけて開発した認知機能強化トレーニング
立体図の模写は見る力の問題ですが、ほかにも調べてみると、聞く力が弱くて、簡単な文章も聞き取れない、復唱できないという少年たちも数多くいました。そこで少年院の「実科」(授業)では、見る力・聞く力をトレーニングする教材を使おうとしたのですが…なかなか納得できるものにめぐり合えませんでした。
だったら、「自分で納得のいくものをつくってみよう!」と思い立ち、試行錯誤の末、完成まで約5年間の歳月がかかりました。目の前にできないで困っている少年を、なんとかできるようにしてあげたい。ただそれだけの思いで、私は「コグトレ」を考案しました。コグトレとは、「認知機能に特化したトレーニング」で、Cognitive(コグニティブ:認知)とTraining(トレーニング)の頭の文字を合わせた言葉です。
だったら、「自分で納得のいくものをつくってみよう!」と思い立ち、試行錯誤の末、完成まで約5年間の歳月がかかりました。目の前にできないで困っている少年を、なんとかできるようにしてあげたい。ただそれだけの思いで、私は「コグトレ」を考案しました。コグトレとは、「認知機能に特化したトレーニング」で、Cognitive(コグニティブ:認知)とTraining(トレーニング)の頭の文字を合わせた言葉です。
認知機能の弱さが学習のつまずきにつながることも
漢字が苦手、黒板が写せない、九九や計算が苦手、文章題が苦手といった子どもたちは、「写す力」「覚える力」「数える力」「見つける力」「想像する力」(=認知機能)の弱さが背景にある可能性があります。
例えば、「覚える力」や「写す力」「見つける力」が弱いと、黒板を写せなかったり、漢字の書き取りができなかったりするかもしれません。「数える力」が弱いせいで、算数のうっかりミスにつながっているかもしれません。でも、たとえ基礎的な認知機能が弱かったとしても、あきらめてはいけません。トレーニングにより高められる可能性はあります。
例えば、「覚える力」や「写す力」「見つける力」が弱いと、黒板を写せなかったり、漢字の書き取りができなかったりするかもしれません。「数える力」が弱いせいで、算数のうっかりミスにつながっているかもしれません。でも、たとえ基礎的な認知機能が弱かったとしても、あきらめてはいけません。トレーニングにより高められる可能性はあります。