福祉の世界に実験の精神を。「異彩」を生かし新たな収益構造の実現を目指す。4周年を迎えた「ヘラルボニー」新たな挑戦を取材――美術展「The Colours!」8月7日まで開催
ライター:発達ナビ編集部
福祉実験ユニットとして活動する「ヘラルボニー」。印象的なテキスタイルのファッションプロダクトやインテリアファブリック、駅舎や工事現場の仮囲いなどを活用した作品の展示など、幅広い活躍を目にした人も多いのではないでしょうか?
障害のある人たちの生み出すアートには、障害があるからこその強み、異彩がある。その想いで歩み、さまざまなコラボを実現させ、アーティストの収益にも還元してきました。
4周年を迎えた「ヘラルボニー」は、この度新たな一歩を踏み出しました。
4周年を迎えた福祉実験ユニット「ヘラルボニー」の新たな挑戦
福祉実験ユニットとして活動する「ヘラルボニー」。印象的なテキスタイルのファッションプロダクトやインテリアファブリック、駅舎や工事現場の仮囲いなどを活用した作品の展示など、幅広い活躍を目にした人も多いのではないでしょうか?
障害のある人たちの生み出すアートには、障害があるからこその強み、異彩がある――「障害ある人の作品だから支援しよう」ではない。アート・デザインの文脈で勝負したい、「すばらしい」からコラボしたいと思う。
社会の側にある「今までの常識」をシフトさせる挑戦をしたい。
その想いで歩み、4周年を迎えた「ヘラルボニー」が、この度新たな一歩を踏み出しました。
障害のある人たちの生み出すアートには、障害があるからこその強み、異彩がある――「障害ある人の作品だから支援しよう」ではない。アート・デザインの文脈で勝負したい、「すばらしい」からコラボしたいと思う。
社会の側にある「今までの常識」をシフトさせる挑戦をしたい。
その想いで歩み、4周年を迎えた「ヘラルボニー」が、この度新たな一歩を踏み出しました。
原画展を開催――テキスタイルやライセンシー事業から一歩踏み出して
テキスタイルとして、アパレルに活かすだけではなく、魅力ある「アート作品」としてうちだしていく第一歩として、金沢21世紀美術館のキュレーター黒澤浩美氏が企画監修をつとめる美術展「ヘラルボニー4周年記念 The Colours!」を開催。
このイベントの開催直前、キュレーター黒澤浩美氏や、アーティストの一人である井口直人さんも列席してのギャラリートークが行われました。
東京・六本木にあるアートギャラリー、ANB Tokyoで2022年7月16日から開催される「ヘラルボニー4周年記念 The Colours!」には、12名のアーティストの原画が並びます。どの作品も力強く、迷いがなく、まっすぐに心の琴線に触れるものばかりです。
東京・六本木にあるアートギャラリー、ANB Tokyoで2022年7月16日から開催される「ヘラルボニー4周年記念 The Colours!」には、12名のアーティストの原画が並びます。どの作品も力強く、迷いがなく、まっすぐに心の琴線に触れるものばかりです。
黒澤浩美氏は「社会の中にある障害を低くし、メルティングし、一つの世界にしていきたい。それがこの展覧会にこめたテーマ」だと言います。アーティストたちは「あるがままに生きる中で、自由な線や色、形を発見します。自分の生きる姿の写しともいえる表現」だと言い、一人ひとりの作品を、「ヘラルボニー」の代表・松田崇弥氏と共に、丁寧に解説していきました。
トーク後は、展示アーティストの一人、井口直人氏による制作の様子も披露されました。
「ヘラルボニー」代表、松田兄弟にインタビュー
発達ナビでは、「ヘラルボニー」の共同代表の松田崇弥氏・松田文登氏に、発達ナビ編集長・牟田が話を伺いました。
「ヘラルボニー」は今まで、障害のある人のアート作品を
・ファッションテキスタイルに活用
・街をキャンパスに、工事現場の仮囲い街を美術館化
・アートライセンス事業で障害のある人たちの収益を向上
という取り組みを進めてきました。
「ヘラルボニー」は今まで、障害のある人のアート作品を
・ファッションテキスタイルに活用
・街をキャンパスに、工事現場の仮囲い街を美術館化
・アートライセンス事業で障害のある人たちの収益を向上
という取り組みを進めてきました。
ブランドの立ち上げと軌跡
「ヘラルボニー」を立ち上げた二人は、子ども時代、自閉スペクトラム症がある人のことを「スペ」と悪く言う同級生に許しがたい気持ちを抱えていたといいます。
彼らの兄には重度の自閉スペクトラム症があったこともあり「障害があっても、同じ人間なのに」と感じていました。そしていつか、この「スペ」という言葉が、差別的な用語として使われるのではなく、「スペ」だからこんなかっこいいものがつくれるんだ、という発想の転換をさせたいと考えたそうです。
アートに興味がない人に「障害のある人の作品展を見に行って」と言っても、きっと行かないだろう。その魅力を理解してもらうには、「ブランド」の傘の下で魅力あるプロダクトとすることが一つの手段なのではないか。そう考えて、ファッションテキスタイルとして活用しようと思い至ったのだそうです。
知的に障害のある人、自閉スペクトラム症の特性のある人には「同じことをくり返すこだわり」などがあることが多くあります。細かな点だけで描いたり、小さな丸でぎっしりと紙面を埋め尽くしたり。そのこだわり、くり返すという性質による「作品」は、テキスタイル化と相性がいいと気づきました。
彼らの兄には重度の自閉スペクトラム症があったこともあり「障害があっても、同じ人間なのに」と感じていました。そしていつか、この「スペ」という言葉が、差別的な用語として使われるのではなく、「スペ」だからこんなかっこいいものがつくれるんだ、という発想の転換をさせたいと考えたそうです。
アートに興味がない人に「障害のある人の作品展を見に行って」と言っても、きっと行かないだろう。その魅力を理解してもらうには、「ブランド」の傘の下で魅力あるプロダクトとすることが一つの手段なのではないか。そう考えて、ファッションテキスタイルとして活用しようと思い至ったのだそうです。
知的に障害のある人、自閉スペクトラム症の特性のある人には「同じことをくり返すこだわり」などがあることが多くあります。細かな点だけで描いたり、小さな丸でぎっしりと紙面を埋め尽くしたり。そのこだわり、くり返すという性質による「作品」は、テキスタイル化と相性がいいと気づきました。
そこから生まれたブランドコラボや、アートライセンス事業では、売上の数パーセントをアーティストに還元する仕組みをつくりました。例えばアパレルなどとのコラボで1000万の商品売上があれば、アパレル側から50万円が「ヘラルボニー」へ、30万円がアーティストに支払われます。
重度障害のある契約アーティストの場合、生活介護の事業所に通所していることも多くあります。その場合、月にもらえるお金は数百円であることも稀ではありません。それでは、アーティストたちは「福祉」の枠の中から出ては生きていけません。
「ヘラルボニー」の契約アーティストの中には、確定申告を行うほどになった人もいるそうです。
また、工事現場の仮囲いを活用した展示では、積極的に地域の事業所に通所するアーティストの作品を採用しています。身近な場所にアートを楽しむ環境をつくり、さらに地域に住む障害のあるアーティストの存在も顕在化する取り組みは、今までにありそうでなかったインクルーシブの形を見せてくれるものとなっています。
重度障害のある契約アーティストの場合、生活介護の事業所に通所していることも多くあります。その場合、月にもらえるお金は数百円であることも稀ではありません。それでは、アーティストたちは「福祉」の枠の中から出ては生きていけません。
「ヘラルボニー」の契約アーティストの中には、確定申告を行うほどになった人もいるそうです。
また、工事現場の仮囲いを活用した展示では、積極的に地域の事業所に通所するアーティストの作品を採用しています。身近な場所にアートを楽しむ環境をつくり、さらに地域に住む障害のあるアーティストの存在も顕在化する取り組みは、今までにありそうでなかったインクルーシブの形を見せてくれるものとなっています。
原画でみせるほうが魅力が伝わるアーティストの存在
しかしそのような取り組みの中で、松田兄弟は気づきます。
「とても魅力的な作品でも、アパレルのテキスタイルとしては相性がよくないこともある」
例えば、今回ギャラリーに原画が展示されている、国保幸宏さんの作品。
オイルパステルを使い、力強く塗りこめられた大胆で迫力がある作品ですが、配色や絵柄の性格上、テキスタイル化はしづらい。
「とても魅力的な作品でも、アパレルのテキスタイルとしては相性がよくないこともある」
例えば、今回ギャラリーに原画が展示されている、国保幸宏さんの作品。
オイルパステルを使い、力強く塗りこめられた大胆で迫力がある作品ですが、配色や絵柄の性格上、テキスタイル化はしづらい。
「テキスタイルが相性がいいアーティストもいる、しかし、原画で見せるほうが魅力が生きるアーティストもいる」
そうした気づき、そして今まで積み重ねてきた「ヘラルボニー」の実績を背景に、今回ブランドなどとのコラボでのテキスタイルとして人々の暮らしの中に拡がっていくだけでなく、「アート作品として勝負する」という、ヘラルボニーとしても分岐点となる試みとして、ギャラリー展を企画したのです。
そうした気づき、そして今まで積み重ねてきた「ヘラルボニー」の実績を背景に、今回ブランドなどとのコラボでのテキスタイルとして人々の暮らしの中に拡がっていくだけでなく、「アート作品として勝負する」という、ヘラルボニーとしても分岐点となる試みとして、ギャラリー展を企画したのです。
4周年の先、5年後・10年後、そしてその先の未来を見据えて
しかし、「ヘラルボニー」の挑戦は、まだまだ途上にあると言います。
「福祉施設の方から、『ヘラルボニーと契約したいという利用者さんの保護者の声が多く寄せられている』と言われることが増えたんです。収益が生まれると思っていなかったところに、実は大きな価値があることに気づけた、意識が変わったことは、革命だと思っています」
それと同時に、課題も感じています。
「障害のある人すべてがアーティストとして活躍できるわけではないし、ほかの仕事をしたい人もいます。『ヘラルボニー』はもっと事業の幅を広げて、さまざまな『ハレの場』をつくりたいし、そうした場を通じて社会の意識をもっと変え、社会の側にある障害を取り除く存在になっていきたい」
そう語る二人が、今後実現させたいと計画しているのは「福祉施設」なのだそう。
「レストランやカフェなどもやりたいですね。丸の内でも、地元の盛岡でも。街の景色の中に、あたりまえのように、障害のある人たちも働く素敵な店がある社会にしたい」
現在、障害のある人は、可視化されにくい場所で働いていることも多く、実際彼らの兄も、事業所で毎日缶つぶしの作業をしているそう。ですが、店員になりたい人だって、厨房で働きたい人だっているはず。さまざまな選択の幅が合っていいのではないかという彼らの課題意識が、新たな挑戦につながります。
「福祉施設の方から、『ヘラルボニーと契約したいという利用者さんの保護者の声が多く寄せられている』と言われることが増えたんです。収益が生まれると思っていなかったところに、実は大きな価値があることに気づけた、意識が変わったことは、革命だと思っています」
それと同時に、課題も感じています。
「障害のある人すべてがアーティストとして活躍できるわけではないし、ほかの仕事をしたい人もいます。『ヘラルボニー』はもっと事業の幅を広げて、さまざまな『ハレの場』をつくりたいし、そうした場を通じて社会の意識をもっと変え、社会の側にある障害を取り除く存在になっていきたい」
そう語る二人が、今後実現させたいと計画しているのは「福祉施設」なのだそう。
「レストランやカフェなどもやりたいですね。丸の内でも、地元の盛岡でも。街の景色の中に、あたりまえのように、障害のある人たちも働く素敵な店がある社会にしたい」
現在、障害のある人は、可視化されにくい場所で働いていることも多く、実際彼らの兄も、事業所で毎日缶つぶしの作業をしているそう。ですが、店員になりたい人だって、厨房で働きたい人だっているはず。さまざまな選択の幅が合っていいのではないかという彼らの課題意識が、新たな挑戦につながります。
「ヘラルボニー」のレストラン、おしゃれでおいしくて、その街に行くたびに立ち寄りたくなるとっておきの場所になりそうですよね。
発達ナビのユーザーに向けてのメッセージ
「『ヘラルボニー』の契約アーティストになれるように絵画教室に通わせ始めました、なんて言葉をかけていただくこともあります。そのように言ってくださるのはありがたい。ですが僕たちは、本人に”好き”に忠実でいてほしいなと考えています。社会の側がそこにアジャストして仕事にしていけばいいのだと。できないものをできるようにするという考え方は、生活の質を上げるという点では必要かもしれないけれど、才能という点ではやりたくないなと思うんです」
「ヘラルボニー」のアーティストたちの作品の中には「狙い」はありません。そこにあるのは「好き」だから、そして「おもしろいから」「やりたいから」というまっすぐな心です。
その本質を大切にしたいという「ヘラルボニー」の二人の想いに強く共感をしました。
「『ヘラルボニー』の活動をとおして、障害のある人のアートだから高いんだね、というくらいの価値観が逆転する未来をつくっていきたいと思っています。僕らが子どものころに傷ついた『スペ』という言葉すら、その内包する意味を変え、リスペクトを意味する言葉にしたい」
「ヘラルボニー」の作品を、毎日の暮らしのなかに取り込み、楽しんでみる。「そのスカーフ素敵だね」「ヘラルボニーのテキスタイルっておしゃれだよね」「あのアーティストの作品が憧れ」と、福祉の枠を超えて「素敵だから、身につけたい」「新居に飾るのが夢」と思える社会への”地続きの「今」”に、私たち一人ひとりも、楽しみながら参加してみたいと感じました。
「ヘラルボニー」のアーティストたちの作品の中には「狙い」はありません。そこにあるのは「好き」だから、そして「おもしろいから」「やりたいから」というまっすぐな心です。
その本質を大切にしたいという「ヘラルボニー」の二人の想いに強く共感をしました。
「『ヘラルボニー』の活動をとおして、障害のある人のアートだから高いんだね、というくらいの価値観が逆転する未来をつくっていきたいと思っています。僕らが子どものころに傷ついた『スペ』という言葉すら、その内包する意味を変え、リスペクトを意味する言葉にしたい」
「ヘラルボニー」の作品を、毎日の暮らしのなかに取り込み、楽しんでみる。「そのスカーフ素敵だね」「ヘラルボニーのテキスタイルっておしゃれだよね」「あのアーティストの作品が憧れ」と、福祉の枠を超えて「素敵だから、身につけたい」「新居に飾るのが夢」と思える社会への”地続きの「今」”に、私たち一人ひとりも、楽しみながら参加してみたいと感じました。