通級や特別支援学級、発達特性がある子どもへの「特別支援は小1の4月からがいい」理由――精神科医・本田秀夫先生

ライター:本田秀夫
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お子さんに発達の課題がある場合、どこの小学校に入学すればいいのか「就学相談」をする方も多いのではないでしょうか。私は発達障害を専門とする精神科医として30年以上、発達障害のある子どもたちをみてきました。今回は、学校・学級の選び方についてお伝えしたいと思います。

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執筆: 本田秀夫
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授
附属病院こどものこころ診療部長
発達障害に関する学術論文多数。日本自閉症スペクトラム学会会長。

悩ましい…学校・学級選び

親御さんと学校・学級の選び方について話をしていると、「通常学級にするか、通級指導教室や特別支援学級にするかを迷っています」と言われることがよくあります。小学校入学前に受ける就学相談で「通級指導教室や特別支援学級が適当」という判断が出た場合に、決断に悩む人が非常に多いのです。

判断は難しいのですが、私は基本的に、発達障害・知的障害のあるお子さんは、特別支援学校・特別支援学級・通級指導教室といった「特別な場」を利用したほうがよいと思っています。

学校・学級の4タイプ

学校・学級選びについては、「一人ひとりの教育的ニーズ」によって、次のように大きく4タイプに分けられます。

1.特別支援学校
障害のある子どもを対象として、学習面・生活面の困難の解消を目指した教育が実施されている学校。一般の学校とは別に設置されていて、多くは小学部から高等部まであります(一部、幼稚部も設置されています)。一般の学校とは教育課程が異なり、生活面の学習が充実しています。

2.特別支援学級(支援級)
一般の小・中学校の中に設置されている学級。一般的に「支援級」とも呼ばれます。特別支援学校と同様に、障害のある子に対して学習面・生活面の教育が行われています。特別支援学級では、在籍している子どもが通常学級の授業に交流という形で参加することもあります。

3.通級指導教室(通級)
一般の小学校や中学校、高校の中に設置されている教室。一般的に「通級」とも呼ばれます。通級指導教室は、通常学級に在籍している子どもが一定時間利用する教室です。子どもは普段は通常学級で授業を受け、週に数時間程度、通級指導教室に通います。通級では学習面・生活面のさまざまな課題の中で、本人が個別の指導を必要としている部分の教育が実施されます。

4.通常学級(通常級、一般級)
一般の学校に設置されている通常の学級です。一般的に「通常級」「一般級」などとも呼ばれます。通常学級でも、子どもの障害に配慮した支援が行われています。ただし、通常学級は子どもの人数が多いため、特別支援学校や特別支援学級、通級指導教室などの少人数教育に比べると、支援は少なくなりがちです。

「小1の4月」から支援を受けるのがいいと思う理由

通級指導教室でも特別支援学級、特別支援学校、いずれかの形で、個別の支援を受けられるようにしておくことをおすすめします。なぜなら、支援の選択肢を増やしておくことが、子どもにとって「保険」になるからです。こうした場を利用しないという判断をする場合は、通常学級の中でどのような合理的配慮がしてもらえるかを確かめておきましょう。

親御さんや学校の先生の中には、「最初は特別な配慮をせずに通常学級に通ってみて、支援が足りないと感じたら、通級指導教室や特別支援学級を検討すればよいのでは」と考える人もいます。そのように対応することもできるのですが、私はおすすめしていません。
理由は2つあります。

1.子どもの自己肯定感を損なう可能性がある
まず一つは、子どもに一度失敗させてから環境を調整する方法では、「子どもの自己肯定感を損なう」ということがあります。あとから検討するのでは遅いということです。発達障害のある子どもの中には記憶力が強く、つらい体験を鮮明に覚えてしまう子どももいます。そういう子どもにとっては、小1のときの挫折がトラウマ体験のようになってしまうこともあります。子どもにわざわざトラウマ体験を植えつけるようなことは、避けたほうがよいと考えます。

2.特別な場の調整は簡単ではない
そしてもう一つの理由は、「特別な場の調整は簡単ではない」ということです。通常学級に通わせてから、やはり難しいと判断した場合、年度の途中で特別な場の利用を検討することになります。しかし学校側は、年度始めにスタッフの配置を決めています(通級指導教室には「児童13人に先生1人」、特別支援学級には「児童8人に先生1人」など)。いまは各地の学校が人員不足に悩んでいることもあり、子どもに対して先生の人数がギリギリというケースも多いです。そのため、先生の人数が足りなくて、すぐには支援を受けられないという場合もあるのです。

早く支援を受けた子どもは「その後」の社会適応がよい傾向にある

発達障害や知的障害の専門家の間では、何十年も前から「教育的な支援を受けた人のほうが、社会に出たときの適応がよい」と言われています。

子どもたちを見ると、小学校から特別支援学校や特別支援学級に通って支援を受けていた子どもは、身のまわりのことなどを行う生活スキルが高いことが多いです。着替え、片づけ、掃除、家事などを自分なりのやり方で、一人でできたりします。これは、特別な場での教育によって、その子どもに合った方法で身辺自立が身につくように学べているからでしょう。

それに対して、小・中学校ともに通常学級だけで過ごしてきた子どもには、生活スキルが十分に身についていない子どもが多い印象があります。勉強はある程度してきているけれど、生活に即した知識やスキルが十分ではないという場合が多いのです。また、メンタルヘルスが損なわれていて、自己肯定感が低いという子どもも見られます。
次ページ「子どものその後をどう考えるかという二択」

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