医ケア児(医療的ケア児)とは?学校で医ケアをする意義と課題、保護者の深刻な負担。切れ目ない支援に必要な4つのこと【専門家監修】

ライター:発達障害のキホン
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医ケア児(医療的ケア児)とは、生きるために、日常的な医療的ケアを必要とする子どものことです。ひと言で医療的ケア児といっても、抱える障害の種類や症状の程度は幅広く、必要なケアもさまざまです。
医療の進歩と共に、広く存在を知られることになってきた医療的ケア児が学齢期に入ったとき、教育の場ではどのような状況におかれているのかを専門家監修のもと説明します。

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監修: 垂髪あかり
神戸松蔭女子学院大学 教育学部 教育学科 准教授
助産師としてNICU、教員として特別支援学校教育現場で障害の重い子どもとその家族の医療・教育を行なった経験から、障害の重い子どもの個性の広がりを〈ヨコへの発達〉として捉える視点について研究・発信している。大学では保育士・教員を目指す学生に特別なニーズのある子どもへの関わり方、支援のあり方について講義し、保育士・教員養成を行なっている。 思春期、学童期、幼児期、それぞれを生きる3児の育児にも奮闘中。

医ケアが必要な子ども(医療的ケア児)って?

医ケア児(医療的ケア児)とは、生きるために、日常的な医療的ケアを必要とする子どものことです。ひと言で医ケア児(医療的ケア児)といっても、抱える障害の種類や症状の程度は幅広く、必要なケアもさまざまです。

歩ける場合もあれば、自分で体を動かすことや移動が難しく、一日のほとんどをベッド上で過ごす場合もあり、知的障害や身体障害、その他の障害の有無や程度も違いがあります。

具体的な医療的ケアの例としては次のようなものがあります。

・気管切開部のバンド交換などの管理
・人工呼吸器による呼吸管理
・経鼻、胃ろうなどの経管栄養
・痰などの吸引
・人工肛門(ストーマ)の管理
・導尿
・血糖値測定やインスリン注射

厚生労働省の調べによると、在宅医療的ケア児の推計人数は、2005年は約1万人と発表されていました。しかし、その人数は2019年には約2万人と発表されており、14年間でおよそ2倍に増えていることが分かります。また、幼稚園~高校に在籍する医療的ケア児は約1万人、このうち8,400人は特別支援学校に在籍をしています。

医療の進歩と共に、広く存在を知られることになってきた医ケア児(医療的ケア児)。乳幼児期を経て学齢期に入ったとき、教育の場ではどのような状況におかれているのでしょうか。

医ケアが必要な子ども(医療的ケア児)と教育

学校で医療的ケアをする意義

生きていくために日常的な医療的ケアは欠かせません。学校においても、それは同様です。

学校で適切なタイミングで安全に医療的ケアを実施できる体制を保障することができれば、子どもたちも毎日安心して学校に通うことができます。また、そのなかでほかの子どもと同じように、授業に参加することができます。

毎日学校に通うことができれば、生活リズムの形成が促され、ケアを行う看護師や教員との関係ができ、そのなかで「吸引してほしい」「姿勢を変えさせてほしい」といった、自分の意思を伝える力が育まれる場合もあります。

学校生活で、仲間たちとともにさまざまな経験を重ねることで、自己肯定感や自尊感情の向上も見込め、家族以外の人との信頼関係の構築もできると思われます。通常学校であれば、他児への障害理解教育、共生教育(さまざまな違いを持つ人が一緒に学び合う)にもつながります。学校で医療的ケアを行うことには、医ケア児(医療的ケア児)の身体的・心理的な安定やコミュニケーション力の向上、人間関係の形成といったさまざまな意義があるのです。

さまざまな実態の医ケア児(医療的ケア児)と、学校現場で想定される課題

医ケア児(医療的ケア児)にもさまざまな実態の子どもがおり、一括りに「こういう配慮が必要」と言い切ることはできません。例えば、さまざまな実態のある医ケア児と、学校現場で想定される課題を考えてみると、大きく以下の3つのパターンが想定されます。

1.身体障害及び知的障害ともに重度
経管栄養や気管切開、人工呼吸器の使用といった濃厚な医療的ケアを必要とする場合が多く、よりきめ細やかで専門性の高いケアが必要です。

病気や障害の程度や種類にもよりますが、例えば経管栄養の場合は、無理のない姿勢の調整や注入時間の調整が必要です。喘鳴や嘔吐、下痢などを起こしやすい子どもには、注入中の細やかな見守りや、注入後の全身状態の確認は欠かせません。

気管切開をしている場合には、その子どもにとって最適なタイミングでの痰の吸引や、気管カニューレ部分の適切な管理が必要です。また、人工呼吸器を使用している子どもには、呼吸の状態のこまめなチェックや、呼吸器の接続の確認が必須です。車いすやバギー、ベッドでの移動がスムーズなバリアフリー環境も求められます。

2.身体障害が軽度、知的障害は軽度〜重度
自分で動くことはできるが、日常的な医療的ケアが必要な場合、気管切開や経管栄養、導尿などのケアが必要な場合などがあります。

知的障害がほとんどない場合も多く、同年代の子どもとの集団生活や、年齢相当の学習環境も求められます。知的障害の程度によっては、ケアに必要な器具や装具を適切に扱えない場合が考えられ、支援者による見守りや教育が必要です。

3.身体障害及び医療的ケアが重度、知的障害は軽度
身体障害が重く自力では身体が十分に動かせなかったり、疾患により手厚い医療的ケアが必要ではあっても、知的機能にはほとんど障害がない子どももいます。

本人の学習意欲が高い場合も多く、年齢相当の集団生活や学習環境が求められることも多いです。また、1と同様に、車いす移動なども可能なバリアフリー環境も求められます。

もちろん、上記の3パターンの中でも個人差がありますが、共通することとして、医療的ケアを安全に、衛生的に実施できる環境を確保することが必要です。そして、そのためには、医ケア児(医療的ケア児)の周囲にいる教職員や子どもたちの理解と協力が不可欠です。

どのパターンにも想定される緊急事態として、体調の急変などが挙げられます。急変時に周囲の者が迅速に対応できるよう、急変時を想定したシミュレーション訓練や研修を定期的に行うことが必要です。これらの中には自分、支援者、友達などが、管を抜いてしまう事故抜管なども考えられます。

このように、ケアを安全に行うだけでなく、体調の管理や急変時の対応や事故が起きないための工夫も必要となります。

医ケアが必要な子ども(医療的ケア児)と保育・教育現場の課題

法改正などによる医ケア児をめぐる環境の変化

近年、医ケア児(医療的ケア児)が増加する中で、保護者や教員など当事者や実践現場の声により法整備が進み、「社会福祉士及び介護福祉士法の一部改正」や「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」などによって、医ケア児(医療的ケア児)をとりまく環境も変わりつつあります。

・「社会福祉士及び介護福祉士法」の一部改正による変化(2012年)
介護職員等(介護福祉士、ヘルパー、教員、保育士等)の対応が法的に位置付けられ、医療的ケアの担い手(対応者)が拡大していく方向に進みました。例えば、これまでは保護者が付き添って行うことも多かった、痰の吸引や経管栄養の実施なども教職員が行うことができるようになりました。

・「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」の施行(2021年 6月)
国や地方公共団体などは、医ケア児(医療的ケア児)に対する教育体制の拡充をはかることが求められるようになりました。

文部科学省からは、「学校における医療的ケアの今後の対応について」(2019年)という通知が出され、各教育委員会などに向けて、すべての学校における医ケア児(医療的ケア児)への対応が示されました。

その中では、医療的ケアの基本的な考え方や、医療的ケアを実施する際に留意すべき点などがとりまとめられています。また、各都道府県に相談や情報提供等を行う医療的ケア児支援センターも設置されました。医療的ケアを行う看護職員などへの研修資料の作成や、医ケア児(医療的ケア児)の受け入れ体制に関する調査研究なども進められています。

保護者(または家族)が抱える深刻な負担

医ケア児(医療的ケア児)の家族は、就学前からずっとわが子のケアを担ってきました。

日常的に命に関わるケアを求められる家族の負担は、定型発達の子どもを育てる家庭に比べて、とても重くなります。病院ではなく家でケアを行うことで、「何かトラブルがあったら」という不安が常にあり、ケアの頻度が高ければそれだけ時間も割かれます。深夜も子どもの様子が気になって、熟睡できないことや、必要なケアが就寝時間帯にも及ぶと、家族の睡眠時間にも影響もするでしょう。

また、子どもの今後の発達や、将来への不安を感じている家庭も多いと考えられます。支援を得るための手続きが煩雑であったり、医療的ケアが可能な保育園などの預け先が見つからない、という困りごともあり、本人にとっても保護者・家族にとっても、まだまだ負担が大きい現状は見過ごせません。

医療的ケアは、痰の吸引と経管栄養の一部の行為であれば、介護福祉士や、専門の研修を修了し「認定特定行為業務従事者」として都道府県知事から認定を受けた職員もできますが、すべての行為をできるわけではありません。そのため、現場では実際に医療的ケアを行える人材が足りず、学校でケアを行う学校看護師は、慢性的に不足しています。また、看護師の配置にも地域格差があります。

学校に看護師が配置されていたとしても、医ケア児(医療的ケア児)児に対しては保護者のつき添いを求めている場合もあります。家族は就労に制限が出たり、転職や離職を余儀なくされてしまうなど、厳しい状況に立たされてきました。

これを解消するためにできたのが、「医療的ケア児支援法」(2021年)です。

本来であれば、子ども本人の自立を促す観点から考えても、保護者がつき添わず、学校の中で支援が完結されることが望ましいでしょう。医療的ケア児支援法に則って、自治体は必要であれば看護師を配置し、教員による医療的ケアを進めていく必要があります。

切れ目ない支援のために

医ケア児(医療的ケア児)とその家族を支援するための喫緊の課題は、大きく分けて4つあります。

1.教員による医療的ケアの充実
医療的ケア児のことをよく理解し、その子どもと信頼関係のある教員が、ケアを実施することで生まれる教育効果も多く報告されています。まだまだ教員が医療的ケアを主体的に担っていくには課題のある学校現場や自治体もありますが、将来的には、子どもの一番身近にいる教員が、看護師の見守りのもとで医療的ケアを行いながら、教育を保障していく形に近づいていくことが望ましいでしょう。

2.教員と看護師の連携(校内連携)
学校看護師は、学校で医ケア児(医療的ケア児)の教育を保障していく上で、なくてはならない存在です。学校看護師は、人工呼吸器の管理等や体調急変時の対応など、教員にはできない医療的ケアや処置などを率先して行いつつ、教員ができる医療的ケアを見守り、医療・保健の視点からの専門的なアドバイスを行います。教員は、看護師の見守りのもとで授業を進め、担当する子どもの健康の保持・増進を教育的に支えます。また、校内の医療的ケアや医ケア児(医療的ケア児)についての情報の管理や看護師と教員のスムーズな連携をコーディネイトする養護教諭の役割も重要です。

学校内で、医ケア児(医療的ケア児)を支えていくためには、教員、養護教諭、看護師の有機的な連携が不可欠です。

3.学校と他機関の連携
医ケア児(医療的ケア児)には、教員や学校看護師のほか、主治医やリハビリにかかわる理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、また福祉についての相談やコーディネイトを行う保健師や児童相談所相談員など、さまざまな職種が支援にあたります。それぞれの専門家がそれぞれの立場から支援を行いながら、お互いの情報を共有し、子どもと保護者が安心して生活できるような支援体制をつくっていくことが必要です。

4.特別な支援を必要とする子どもへの、切れ目ない支援体制の整備
これは医ケア児(医療的ケア児)に限ったことではないですが、幼児期、学齢期、思春期・青年期、成人期とステージが変わるごとに、支援の切れ目ができてしまうことがあります。そのため、幼稚園や保育園、療育などを受ける幼児期、学校に通う学齢期、子どもから大人へと変化を迎える思春期・青年期、そして成人後の社会参加と、切れ目ない支援を受けられるようになることが求められています。

この課題を解決していくために、個別支援計画などを活用しながら子どもの情報を共有し、教育、福祉、医療など、子どもに関わるそれぞれの施設が連携できる体制をつくることや、連携支援コーディネーターを配置すること、広く社会に向けて、特別な支援を必要とする子どもたちへの理解について、普及、啓発していくことが必要とされています。
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