【臨床心理士に聞く】不登校は子どもの最終手段?子どもへの対応や学校連携のヒント、発達障害特性と不登校の関係や、回復への必要なステップとは

ライター:発達障害のキホン
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LITALICO発達ナビでは2023年1月に「発達障害のある子の不登校サポートセミナー」を開催。セミナーで特別講演を行った臨床心理士・公認心理師の初川久美子先生には、参加者から多くの質問も寄せられました。大きな反響があった不登校セミナーでの講演から一部を紹介し、さらに新たな質問と回答を加えご紹介します。このコラムでは「子どもが不登校になったときの保護者の対応、学校との連携について」のヒントをお届けします。

監修者初川久美子のアイコン
監修: 初川久美子
臨床心理士・公認心理師
東京都公立学校スクールカウンセラー/発達研修ユニットみつばち
臨床心理士・公認心理師。早稲田大学大学院人間科学研究科修了。在学中よりスクールカウンセリングを学び、臨床心理士資格取得後よりスクールカウンセラーとして勤務。児童精神科医の三木崇弘とともに「発達研修ユニットみつばち」を結成し、教員向け・保護者向け・専門家向け研修・講演講師も行っている。都内公立教育相談室にて教育相談員兼務。
目次

不登校は子どものSOS。子どもの「こころ」の状態は?家で過ごす子どもへの対応、学校との連携はどうすればいい?

2021年度の文部科学省の調査で、不登校の小中学生は約24.5万人いることが分かりました。不登校の児童生徒数は年々増加傾向にあり、ここ数年はコロナ禍などによる生活環境の変化なども背景と考えられています。
令和3年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について |文部科学省
https://www.mext.go.jp/content/20221021-mxt_jidou02-100002753_1.pdf
LITALICO発達ナビでは2023年1月に「発達障害のある子の不登校サポートセミナー」を開催しました。臨床心理士・公認心理師の初川久美子先生の特別講演では、子どもが不登校になったときの保護者の対応や、学校との連携の考え方についてお話いただきました。

このコラムでは、講演から一部を抜粋して紹介します。また、当日答えきれなかった質問についてもご回答いただきました。

「学校に行きたくない」は子どもからの「SOS」

子どもは学校が行った方がいい場所だと分かっていることがほとんどです。それでも子どもが「学校に行きたくない」と言ったとき、それは子どもからの「SOS」であると思ってください。

子どもが不登校になったとき、周りの大人はその「きっかけ」や「原因」は何だろうと探ろうとすると思います。しかし、きっかけは思い当たることがある場合もありますが、不登校の原因は、子ども自身も「うまく言葉にできない」「実は1つではない」ということがとても多くあります。

子どもたちは、学校でのさまざまな「楽しいこと」「嫌なこと・つらいこと」を持ち合わせています。「学校に行きたくない」と言い出すときは「楽しいこと」と「嫌なこと・つらいこと」を天秤にかけたときに、「嫌なこと・つらいこと」の方に大きく傾いてしまっている状態と考えると分かりやすいかもしれません。そして、その「嫌なこと・つらいこと」は1つとは限らず、「嫌なこと・つらいこと」を取り除いていくことだけでは解決しない状態なのです。
子どもの学校に対する気持ちを表したイラスト。子どもたちは、学校でのさまざまな「楽しいこと」「嫌なこと・つらいこと」を持ち合わせています。「学校に行きたくない」と言い出すときは「楽しいこと」と「嫌なこと・つらいこと」を天秤にかけたときに、「嫌なこと・つらいこと」の方に大きく傾いてしまっている状態と考えると分かりやすいかもしれません。そして、その「嫌なこと・つらいこと」は1つとは限らず、「嫌なこと・つらいこと」を取り除いていくことだけでは解決しない状態なのです。
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その中でも発達障害のある子どもの場合、「学校」という枠組みや「標準」とよばれるようなものにフィットしづらい傾向があります。能力として「できる/できない」以前に、学校生活を送るだけで消耗しやすい状態になりやすく、自分自身のコンディションによって思うような行動ができずに困りごとを抱えてしまうことも多いと考えられます。
参考:『学校の中の発達障害 「多数派」「標準」「友達」に合わせられない子どもたち』SBクリエイティブ/本田秀夫(著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4815615837

家で過ごす子どもの回復へのステップとは?「こころ」の回復のサインとは?

子どもが「学校に行きたくない」と言ったとき、それは子ども自身これまで我慢したり、解決しようとしたり、さんざん悩みに悩んだ結果のうえで、それでもどうにもならなかったから出している「SOS」です。

あらゆるエネルギーを使い果たしているような状態ですので「学校に行きたくない」と休みはじめたとき、まずは「休養」が大切になります。具体的には、家でのんびり過ごす、好きなことができるならやる、などしながら休養できるとよいでしょう。この時点では、学校に行くことや勉強のことを考える段階ではなく、まずは回復するために休むことが必要です。休養しているうちに「ひま」「つまんない」などの言葉が出てくるようになれば、回復してきた1つのサインと考えるとよいでしょう。

その際に大切にしたいのは「子どものエネルギーチャージの方法」です。大人にとっての休養というのは「ベッドで寝ている」などを想像するかもしれません。たしかに身体を休めるためには大切ですが、心が疲れ切ってしまっている子どもの休養のためには「遊ぶ」ということが必要になることもあります。
「休んでいるのに家でゲームばかりしている」「動画ばかり観ている」「1日中ブロックで遊んでいる」…など学校に行かずに家で遊んでいるだけのように見えるお子さんの様子を不安に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、休養のためにそれは必要なことかもしれません。そこで注意したいのが「楽しそうにやっているか」ということ。「休養」の段階で楽しくやれているならいいと思います。しかし、ゲームや動画視聴をしているのは、学校を休んでいることの罪悪感を覚えないようにするため、余計なことを考えないようにするために漫然とやっているような状態の場合ではないか、少し気にしてみておくとよいでしょう。

そして、もう1つ大切なのは「家の居心地を悪くしない」ということです。お子さんが少し元気になってきたように見えると「学校は行かないの?」「勉強はどうするの?」など保護者の方は心配になるかもしれません。しかし、お子さんは「SOS」を出さなければいられなかったほどつらい状態です。家の中では安心して過ごせるように、小言は控え、まずは心の休養を優先しましょう。

学校との連携のタイミングは?保護者が知っておきたい「不登校中の学校とのつながり」についての考え方

学校とは、まずは保護者が情報共有をできるとよいでしょう。学校はお子さんのことを心配し、良かれと思って学校へ誘ってくれたり、さまざま手立てを提案したりしてくださると思います。ただ、それをそのままお子さん本人に伝えると場合によっては負担に感じる場合もあります。そこで、連携を取る際に共有しておきたいことは子どもの状態です。保護者の目から見て、お子さんがどんな状況・様子なのかを学校と折々に共有できるといいでしょう。例えば、心の休養ができて「ちょっと学校行ってみようかな」と思い始めている、「休むと罪悪感」があると思っている、などであれば学校と本人とがつながることを先生と一緒に模索することを検討してみるとよいと思います。

その段階でまず大人が知っておきたいのは学校とのつながりは「教室に行くこと」だけではないということです。

例えば、配布物、学習プリントなどをポストに入れておいてもらうなど、実際に会わなくてもそれは学校とのつながりの1つと考えましょう。
また放課後に先生に会う、タブレットを使って授業に参加する、家庭で行った学習を担任などにみてもらったり質問したりする、行事や社会科見学などに合わせて参加するなど、学校とのつながりは1つではなく、グラデーションがあるのです。ただ、先生方もお忙しいので何をどこまでできるかはぜひご相談していただければと思います。
■学校との関わりで大切にしたいこと

授業には参加できないけれど、先生には放課後会ってみる、配布物だけもらいに行ける。そうしたことをやってみたときに大切にしたいのは、毎回「ハッピーエンドで終わる」ことです。子どもが疲れ切ってもう行きたくないと思うような状態にならないように、十分に余力を残してつながるということが重要です。「もうちょっとできるな」と本人が思うようなところで終える。それがポイントです。また、「先生にちょっと会いに行こう」と約束していたのに、調子がよさそうだからと予定外に授業に出席させたりすると、子どもからすると「無理やり授業に出席させられた」と感じてしまうかもしれません。結果としてであっても、子どもに嘘をついたり、騙すようなことになると子どもを傷つけてしまうため、絶対にしてはいけません。

また、担任と子どもが話す場合は、(初期の段階では特に)話題については担任と保護者で事前によく話し合っておきましょう。特に「学習」についての話をするかどうかは、子どもにとってプレッシャーになる可能性もあるため、担任と保護者の間で子どもの心の状態について認識を共有連携することは大切です。

ハッピーエンドで終わるために、「メンタルが消耗しない」関わりをすることが大切です。それはお子さん本人だけのことではありません。関わる保護者や先生が無理をしないことが大事です。関わりは一過性のものではなく、細々とでも長く続く方法を検討したいところ。
子ども、保護者、先生のみんなが無理をしないやり方で持続可能な関わり方を模索していきましょう。

ここからは、子どもが不登校になったとき保護者はどうしたらよいのか、学校との連携についてなど寄せられた質問に初川先生に具体例を交えてご回答いただきます。

Q.子どもが不登校になった場合、学校とはどのように連携したらいい?

A.連携の方針は、子どもの状態伝えつつ、学校と相談を。スクールカウンセラーや自治体の相談機関も利用してみましょう

【回答】
■学校との面談で当座の方針を確認
まずは、担任の先生と、お子さんの状態について面談などを設定してもらってお話できるといいですね。学校の先生は良かれと思って授業や行事に誘ってくださったり、頻繁にお電話くださったりすることもあります。お子さんの状態によっては、そうした働きかけが負担に感じてしまうような段階もあります。また、保護者の方の事情や心持ちによっても、学校との程よい距離感は変わってきます(お仕事されていると対応できる時間が限られたり、あるいは、保護者の方がお子さんの状況をどう考えているか・どうなってほしいかによっても学校との話の方向は変わるかもしれません)。

お子さんが直接学校に出向く、担任の先生と話すかどうかはさておき、お子さんの状態やお子さんの今の思いと保護者としての思いなどを学校に伝え、今後どのようにお子さんの不登校という状態に学校・家庭が対応するか、そのためにどのように連絡を取り合うかといった当座の方針を検討できるとよいと思います。お子さんの状態や思いは時間の経過によって変化しますし、保護者の方の気持ちも変化していくものです。永続的な方針というよりも、まずどのようにしてみるかの当座の方針を確認できるとよいでしょう。

■第三者からの提案をもらう
担任の先生もお忙しいですし、保護者の方も時間的にも気持ち的にも落ち着いて話しづらい面もあるかもしれません。そうした場合は、例えばスクールカウンセラーや自治体の教育支援センターなどの教育相談室で心理などの専門家に相談してみるのもよいでしょう。保護者の方ご自身の気持ちや、お子さんの気持ちをどう受け止めるかといったことを整理して聞いてもらい、学校とのよい連絡・協働のあり方について提案がもらえるのではと思います。
不登校にまつわる質問の回答は、初川久美子先生(臨床心理士、公認心理師、東京都公立学校スクールカウンセラー、発達研修ユニットみつばち)
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Q.不登校の子どもが毎日ダラダラしているように見える。規則正しい生活を求めてはいけないの?

【質問】
学校へ行けないなら、みんなと同じように、学校へ行く時間に起きて、時間割にそってお勉強、お給食の時間にお昼…の様な生活を送ってほしいのですが、これを望んではいけないんでしょうか?遅くまで携帯をいじり、遅く起きて、お菓子を食べて、一日中ダラダラして過ごす子どもをみているとイライラしてしまいます

A.日中に活動することがつらいという場合も。保護者の方は一人で悩まずに相談できる場を探してみましょう

【回答】
■日中活動することが苦しい場合もある
お気持ちお察しします。だらだらして、遊んでいるだけのように見え、たださぼるために休んでいるのではないか。学校を休むのは百歩譲って許しても、学習に取り組み、規律ある生活を家で送ってほしい。そう願うのは自然なことだと思います。

しかしながら、私が不登校のお子さんたちと話す中で聞くのは次のようなことです。何も予定がないのに朝起きるのはつらい。明るい中で何かちゃんとしたことに取り組めればいいけれどその意欲がわかない。みんなが学校で勉強したり友達と遊んだりしているのは分かる、でもなぜか自分にはそうしたことがつらい。勉強を一人でやろうとしてもなかなか集中できないし、教科書を読んでも全然分からない。スマホやネット、ゲームがそばにあれば手を伸ばしたくなる、だって時間があっという間に過ぎるから。夜、みんなが寝静まると心が落ち着く。こんな自分でもいていいんだと思うのは夜だけ。寝る時間が来たからといって寝ようと思っても、昼間活動的なこともしていないし、全然眠くならない。眠くなるのを待って時間をつぶしていたら朝方になってしまった。だから朝は起きづらい…。

実際、自分にとって意欲的に取り組める予定があれば朝しっかり起きる子はいます。また、一人で学習をするのはとても難しいことで、あれは学校という装置があってこそ成立している面もあると感じます(今はオンライン教育や通信教育などさまざまな方法で多少一人でも取り組みやすいですが、学校ほどの教科数を一人で毎日こなすのは至難の業だと思います。誰かに教わらずに学習内容を理解することもなかなかの困難です)。

■保護者が相談できる場や人を見つける
ただ、だからといって、お子さんに対して何も働きかけないのは保護者の方の不安が増すだけでしょうし、不安とイライラを抑えて接するにも限界があり、いずれ爆発してしまうでしょう。そういう意味で、私はまずは保護者の方はそうしたイライラや不安を話す場を確保していただきたいと思います。子どもが思うように動いてくれないイライラ、将来どうなるのかという不安。そうした気持ちを話せる場・人を見つけてほしいのです。

もちろんお子さんも一緒に相談機関につながれると何よりですが、お子さんが相談機関に出向くことはなかなかハードルが高いこともあります。そうした場合はまずは保護者の方だけでも相談に行っていただきたいと思います。相談に行き、少し軽やかな気持ちで帰宅できたなら、その変化はきっとお子さんにも伝わります。保護者のイライラが少し落ち着いたら、お子さんも過ごしやすくなるはずで、そうしたことに気づいてきたら、自分も相談に行ってみようかなと思うかもしれません。

保護者の方が行ったこともない機関に、行ってみようと言われても乗りづらいお子さんも、「その相談室にはこんな先生たちがいてね」「子どもは話すだけでもいいし、オセロとかやりながら話したりもするらしいよ」「趣味の話にも付き合ってくれるって。あなたの好きなアニメ、知ってる先生っているかな?」など誘い方にバリエーションも出るはずです。保護者の方ご自身をまず支えるためにはどうしたらいいか、それがひいてはお子さんを支えることにつながります。私は保護者の方ご自身を支える方法の1つとして、「相談する」をおすすめします。
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次ページ「Q.不登校が長期間にわたっている。保護者側もサポートに疲弊、このまま学校に行かなくていいのか、ひきこもりになるのではと将来が不安です」

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