「特性を検査する」ってどういうこと?【LITALICO発達特性検査監修者・井上雅彦先生インタビュー】

ライター:LITALICO発達特性検査 編集部
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LITALICO発達特性検査はお子さまの特性と具体的なサポート方法を知るためのオンライン検査です。

本記事ではプロダクトのコンテンツを監修した井上雅彦先生に、「特性」を検査することの意味や、特性理解を日々のお子さまとの接し方にどのように活用してほしいかなどをお話しいただきました。

(取材:LITALICO発達特性検査編集部)

監修者井上雅彦のアイコン
監修: 井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授
LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
ABA(応用行動分析学)をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のためのさまざまなプログラムを開発している。

オンラインで特性を検査する「LITALICO発達特性検査」

公認心理師の井上雅彦です。LITALICO発達特性検査では、企画段階から参画し、多動・不注意/情緒・行動/感覚/運動(くせ)の検査結果テキストの監修を担当しました。
「LITALICO発達特性検査」で解決したい親子の困りごと、3つのハードルとは【監修者・井上雅彦先生インタビュー】のタイトル画像

「LITALICO発達特性検査」で解決したい親子の困りごと、3つのハードルとは【監修者・井上雅彦先生インタビュー】

LITALICO発達特性検査は、お子さまと保護者さまが感じている困りごとに対して、その特性の現れ方や背景、具体的なサポート方法が分かる検査です。オンラインで検査に回答するとすぐに結果が得られることも特徴です。検査結果によって、お子さまの特性の現れ方の傾向や困っている事柄への対応方法のヒントが得られます。

LITALICO発達特性検査は、医学的な診断を意味する検査ではありません。また、ほかの心理検査とは違って、発達指数や知能指数が表示されるものではありません。

ですが、お子さま本人にとって障害となる困りごとや子育ての課題を解決するためには、この、お子さま本人の特性を理解し、その特性や困りごとに応じた対応方法を保護者さまやご家族、園や学校などの周りの人が理解することが、とても重要です。今回は特性を検査するとはどういう意味を持っているのか、また、特性を検査することで、どのようにお子さまやご家族の困りごとや課題をサポートしていけるのかということをお話ししたいと思います。

「特性を検査する」とはどういうことか

LITALICO発達特性検査の監修を担当した井上雅彦先生
LITALICO発達特性検査の監修を担当した井上雅彦先生
Upload By LITALICO発達特性検査 編集部

「特性」とは何か

LITALICO発達特性検査はお子さまと保護者さまが感じている困りごとに対して、その特性の現れ方や背景、具体的なサポート方法が分かる検査ですが、そもそも「特性」とは何でしょうか。

特性は、その人の心身や脳の機能、感覚の受け取り方や考え方のくせなどの現れ方や性質です。個人の中でさまざまな特性があり、複雑に合わさって一人ひとり違うものとなり、結果として得意なことや苦手なこととして現れていると考えられます。

概念としては「個性」や「障害」と似ていますが、障害というとネガティブな印象、個性というとポジティブな印象といったように、使われることもあります。私は、特性はそれ自体にはポジティブ、ネガティブ、どちらの色もないもので、環境によって障害や困難になることも、個性や強みとなることもあると考えています。

分かりやすくいうと、「集中しやすい」という特性があった時に、ほかの人と同じ活動を一斉にしないといけない場面では、「好きなことに集中して、一緒に活動に参加できない」という困難や弱みになることもありますし、個人の趣味などでは「集中して本1冊読み切った」といった強みとなることもあります。

本人にとっては、まずはそういった個別の特性や、個人の中の苦手と得意の差が、困ったこと→障害となって現れないように考えていくことが必要になりますし、そのためにお子さまと保護者さま、周りの方にとって、どのように本人に合ったやり方にしていくのか、できることを増やしていくのかという観点で考えていくことが大切になってきます。

その意味で、まずは先入観がつかない「特性」という言葉を使うことが、その子を理解し、サポートしやすくするうえでも馴染む考え方なのではないかとも思っています。

特性理解を「診断がないと支援できない」を変えるきっかけに

「特性」をキーワードにした「診断モデル」からの脱却

LITALICO発達特性検査のように、特性をキーワードにすることは「困り」をスタート地点とする支援にもつながります。

診断のある場合は支援対象とされるけれども、診断がない場合には支援が受けにくいという現状もまだまだありますね。

ですが、「診断がないかぎり何もできないのか」というとそうではありません。先ほども言ったように、「その人に特性があって、それが本人にとって困った状況であれば変えていく」、その観点がすごく大事です。身近にいる保護者さまや周りの方が本人のもともと持っている得意や苦手に対して、できることを考えることが重要です。

「グレーゾーン」への解決策としての特性理解

診断がないが、何らかの困りごとや特性がある場合「グレーゾーン」と呼ばれることもあります。現状だと、診断があることでサポートや制度が受けやすくなる傾向があるので、こうした診断がないグレーゾーンの方に、支援が届きにくい場合が出てしまうこと、また、本人の努力不足、あるいは保護者の育て方の問題ではないかとされてしまうこともあります。

そうすると診断がないことが支援を遅らせてしまう場合もあるかもしれません。必要な支援が届かず、放置されることによって、困りごとや、生活をしていくうえでの困難が大きくなり、それぞれの特性が診断域になってしまうケースもあります。この問題は、何とかしていくべきではないかと思います。

診断名だけにとらわれず、ニーズや困難性を特性から読み解く

もう一つの課題として、診断名だけにとらわれていると、特性が合併している場合などに、診断のある症状や特性以外に困っていることがあっても、それに対しての支援が見過ごされがちになるということもあります。

特性から読み解くことのメリットとして、診断にとらわれず子どものニーズや困りを包括的に見ていくことができるということです。

ASD(自閉スペクトラム症)の診断がある人の多くは、ほかの発達障害の診断基準も満たしているという研究も出てきています。そのことから、ASDの診断だけをもとに支援を組み立ててしまうと、その子の診断名以外のさまざまなニーズや困難性を見逃してしまうというリスクや、適切な支援に繋がらないという場合もあるでしょう。

よくあるケースをご紹介すると、SLD(限局性学習症)の傾向は、学年が上がってから分かったり、困りごとが強まることもあります。それを見過ごして、ASDの診断名があることにとらわれて、コミュニケーションへの配慮や支援はしたけれども、読み書きに対するサポートがないままで、学校や勉強が嫌いになってしまったというお子さまもいます。こうしたケースでは、診断名にとらわれて、実際のお子さまの状態や困っていること、新たに出てきた課題を見つけることが、難しくなってしまうこともあるのではないかと思います。

本人の特性を理解せずに、この診断だからこの支援法、という思い込みで支援すると、実際のお子さまの状態や困っていること、新たに出てきた課題を見つけることが、難しくなってしまうこともあるのではないかと思います。そこで、今のお子さまの状態について評価し、包括的に特性や困りごとを見ていく必要があると考えています。

「診断」と「特性理解」、それぞれのメリットや目的で使い分けて

LITALICO発達特性検査は、医学的な診断を意味する検査ではありません。ですが、今言ったような観点で、この「特性を検査する」ということが、一つの方法として選択できるということは、大きな意味があると思います。

もちろん、心理検査や知能検査、診断、医学的な支援の重要性は、しっかりお伝えしたいです。LITALICO発達特性検査はそれらを否定するものではありませんし、それぞれのよさや目的、できることがあるので、必要に応じて、それぞれ、あるいは併用して使っていただくことが重要だと思います。

いずれにしても、今、支援から取り残されている人を、特性というモデルで考えることで、境目をつくらずに支援の対象としていけることを願っています。そのために、診断の有無にかかわらず、その子にどんな特性があるのか、保護者さまの視点で今どんなことに課題や困りごとがあると感じているかに気づき、理解できるというのはとてもいいと思います。
次ページ「特性を具体的な行動に読み直していく」

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