自閉症きょうだいの「ちょうどいい」関係って?特性がぶつかり合った日々が変わったきっかけ

ライター:かし りりあ
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かしりりあです。
知的障害(知的発達症)を伴うASD(自閉スペクトラム症)の長男・次男、発達ゆっくりな三男、そして夫の5人家族で、日々慌ただしくも楽しく過ごしています。
今回は息子たち3人のきょうだい仲やそれぞれの関わりについて書いていこうと思います。

監修者藤井明子のアイコン
監修: 藤井明子
小児科専門医
小児神経専門医
てんかん専門医
どんぐり発達クリニック院長
東京女子医科大学大学院修了。東京女子医科大学病院、長崎県立子ども医療福祉センターで研鑽を積み、2019年よりさくらキッズくりにっく院長に就任。2024年より、どんぐり発達クリニック院長、育心会児童発達部門統括医師に就任。お子様の個性を大切にしながら、親御さんの子育ての悩みにも寄り添う診療を行っている。 3人の子どもを育児中である。

3歳差の兄と弟。発達の遅れが気になるきょうだいの関係は?

長男りーは次男かーの頬の感触が好きでした。
長男りーは次男かーの頬の感触が好きでした。
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長男りーが3歳になる年に次男かーが生まれました。最初こそ、かーの存在を怖がっていたりーでしたが、自分の気分が向くと、かーの頬を触ったり、手を指でツンツンしてみたりと、彼なりの方法で弟を可愛がるようになりました。それまでは一人で遊ぶことが多かったりーですが、かーが自分で動けるようになる頃には、かーが近づいてきても嫌がらずに一緒に過ごしていることが増えていきました。

その当時の私は、子どもたちの発達の遅れは感じつつも、まだ二人とも診断がはっきりと出ていない時期だったので、「時々けんかもしながらも、仲の良いきょうだいになっていくのかな」と思っていました。

思って、いたのですが……。

成長につれて、きょうだいそれぞれの特性がぶつかるように

特性がぶつかり、お互いを避けるように
特性がぶつかり、お互いを避けるように
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その後しばらくして、長男りー、次男かー共に、知的障害(知的発達症)を伴うASD(自閉スペクトラム症)と診断されました。成長するにつれて、きょうだいはお互いを避けるようになっていきました。

長男りーは、次男かーのスキンシップを過剰に感じ、かーが発する大きな声も苦手な様子でした。一方のかーも、りーがパニックになった時に泣き叫ぶのが苦手なようでした。

かといって、大きなケンカをするわけでもなく、またそれぞれの遊びも違ったため「この子たちはそれぞれの世界があるのかな」「仲がいいわけではないけれど、ケンカしていないなら、いいのかな?」と考えていました。しかし……。

3歳過ぎまでほとんど発語がなかったかーが、ある程度話せるようになってきたときのことです。ある日突然、「りー、●●(二人が通っている放課後等デイサービス、児童発達支援の多機能事業所の名称)ノー」と言うようになったのです。
泣きながら必死に訴えてきました
泣きながら必死に訴えてきました
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その日はりーとかーが一緒に発達支援事業所を利用する日。「りーと一緒だよ」と伝えても、「りー、ノー!!」と怒るようになりました。

実際、発達支援事業所のお迎えが来る頃には気持ちを切り替えることができて、二人で一緒には行くのですが、りーと一緒に利用する日には決まって、迎えが来るまでは機嫌が悪くなるようになりました。

情報共有として発達支援事業所には伝えたのですが、そちらでは支援のプログラムも違うため、接点もあまりない様子。かーは気持ちの波が大きく、好き嫌いもハッキリしているため、いまは時間が過ぎるのを待つしかないのかな、とあきらめていました。

険悪なきょうだい関係……そこに救世主が現れた!?

そんななか、状況を変えてくれる救世主?が現れたのです。
救世主!?は三男おーでした
救世主!?は三男おーでした
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それは……三男おーでした。りーとは5歳差、かーとは2歳差で、現在3歳のおー。彼も発達ゆっくりですが、性格が二人の兄とは少し違いました。

彼は末っ子だからか、兄たちの遊びに入っていくのが好きなのです。例えば、兄たちがブロック遊びなどに熱中している時、おーは積極的に遊びに入っていっては、兄たちのつくっていたものを自分で使おうとします。しかし、小さな弟に対して二人の兄は怒ることはなく、弟に譲って新たにせっせとつくり直しているのです。

そしておーも次男かーと同じくスキンシップが好きです。ただし、かーはべったりと相手にくっついて離れないのが好きなのですが、おーは軽く触れるのが好きなようで、りーのところへタッチ、かーのところへタッチと、兄二人の間を行ったり来たりしています。

やがておーも兄たちと同じ発達支援事業所に通うようになりました。かーと同じ曜日に利用することになったため、かーは率先しておーのお世話をするようになりました。

そうしているうちに、3人の関係に少し変化が出てきました。
少しずつですが3人で過ごす時間が増えていきました
少しずつですが3人で過ごす時間が増えていきました
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ある日、ソファでタブレットを見ていたりー。そこへかーとおーが、ぞろぞろとやってきたのです。いつもであれば、りーは人との距離が近いとその場から逃げ出すことが多かったのですが、その時は逃げませんでした。

その日を境に、少しずつ3人がタブレットを一緒に見る時間が増えていったのです。おーにタッチされることによって、りーにも少しずつ耐性ができてきたのかもしれません。

そしてかーもある日、寝る前にわが家みんなの名前を呼び、「かぞくー」「かぞく、だいっきー(大好き)」と言ったのです。
家族全員の名前を呼び、「かぞく、だいっきー(大好き)」と言ったかー
家族全員の名前を呼び、「かぞく、だいっきー(大好き)」と言ったかー
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私は感激し、「そうだね」と同調しながらたくさんほめると、かーは照れてうれしそう。基本的に人のことが大好きなかー。きょうだいたちの存在が近すぎて嫌だと感じることもあったようですが、少しずつお互いを認める気持ちが育っているのかなと思いました。

それから上の二人は仲良しとまではいきませんが、なんとなくお互いが気になる存在になってきたようです。特にりーをノー!と言っていたかーは、一緒に発達支援事業所へ行く際に、自分からりーの手を取るようになりました。

私は子どもたちに「仲良くならなくてもいいから、嫌いにはならないでほしい」と思っています。これからもちょうどいい関係が続くように3きょうだいを見守っていきたいと思っています。

執筆/かしりりあ

(監修:藤井先生より)
コラムから、3きょうだいの関係の変化がとても丁寧に書かれていて、かしりりあさんの温かな見守りが伝わってきました。発達特性を持つお子さん同士でも、きょうだいという安心・安全な関係の中で少しずつ対人への意識が広がっていくことがあります。三男おーさんの誕生をきっかけに、長男りーさん・次男かーさんの間にも新たな関わりの芽が育ったのは、とても素敵な変化だと思います。きょうだいは必ずしも「仲良くしなければならない」わけではなく、お互いが無理なく過ごせる距離感を見つけることが、結果的に長く安定した関係につながります。その距離を押しつけず、見守りながら支えられている姿勢が、とても心に残りました。
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https://h-navi.jp/column/article/35030663
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(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
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