【井上雅彦のつれづれ便り】「子どもの特性を知り、困りの持続性に気づいてあげること」から始めよう【新連載】
ライター:井上 雅彦
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わが子の特性を「障害」と呼ぶことに、戸惑いを感じる親御さんは少なくありません。しかし、診断名はその子の可能性を否定するものではなく、適切な支援につなげるための大切な「道具」でもあります。 この記事では鳥取大学大学院教授・井上雅彦先生が、ASD(自閉スペクトラム症)を例に、医学モデルから社会モデルへの視点の転換や、家庭でできる環境調整について解説します。子どもの「困り」に気づき、笑顔を増やすための第一歩を一緒に考えてみませんか。
執筆: 井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授
LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
ABA(応用行動分析学)をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のためのさまざまなプログラムを開発している。
LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
診断は「ラベリング」でも「可能性の否定」でもない
お子さんに「発達障害かもしれません」「ASD(自閉スペクトラム症)の傾向があります」と言われたとき、多くの親御さんは「うちの子は一生困ったままなの?」「これは“個性”なの?“障害”なの?」と大きな不安や戸惑いを感じると思います。診断はその子のラベリングでも可能性の否定でもありません。しかし「障害」についてのイメージや考え方は、いままで自分の身近な人がどのように理解し対応してきたか、どのようなメディアや情報に接してきたか、によってかなり個人差があると思います。
この記事では、「障害とは何か」、特に発達障害(神経発達症)のひとつであるASD(自閉スペクトラム症)を例に親御さん向けに書いてみました。少しでもお役に立てれば幸いです。
※「障害」は「障がい」、「障碍」などさまざまな表現がありますが、ここでは法律などで使用される表現として用いています。
この記事では、「障害とは何か」、特に発達障害(神経発達症)のひとつであるASD(自閉スペクトラム症)を例に親御さん向けに書いてみました。少しでもお役に立てれば幸いです。
※「障害」は「障がい」、「障碍」などさまざまな表現がありますが、ここでは法律などで使用される表現として用いています。
診断について
私たちはだれしも足が速い/遅い、背が高い/低い、などその人なりの特性を持っています。本人の努力で補えることができるものもありますが、いかんともしがたいものもあります。中でも不得意なものについては、「自分だけ」と思ってしまいがちですが、それらの多くは統計上、得意な人から不得意な人まで連続線上に分布しています。
例えばASD(自閉スペクトラム症)は、社会的なコミュニケーションの苦手さ、こだわり・感覚の過敏さなどの特性が発達期からみられます。これはASD(自閉スペクトラム症)の「障害特性」といわれるものですが、その強さや程度も同じように連続線上に分布しています。
精神医学での診断基準では、これらの特性の存在や程度や強さだけでなく、それによって生活や学業に大きな支障が出ているかどうか、をポイントになされます。
大事なのは、ASD(自閉スペクトラム症)が「ある/ない」の二つにパキッと分かれるものではなく、連続したグラデーションに乗っているということです。「ちょっと人付き合いが苦手」「音に敏感」「こだわりが強い」などの特性は、誰にでも少しはあります。その特性が強く、環境とうまくかみ合わないとき、そのことが日常生活の中で大きな支障が生じている場合、初めて「診断名」が付くことが多いのです。
例えばASD(自閉スペクトラム症)は、社会的なコミュニケーションの苦手さ、こだわり・感覚の過敏さなどの特性が発達期からみられます。これはASD(自閉スペクトラム症)の「障害特性」といわれるものですが、その強さや程度も同じように連続線上に分布しています。
精神医学での診断基準では、これらの特性の存在や程度や強さだけでなく、それによって生活や学業に大きな支障が出ているかどうか、をポイントになされます。
大事なのは、ASD(自閉スペクトラム症)が「ある/ない」の二つにパキッと分かれるものではなく、連続したグラデーションに乗っているということです。「ちょっと人付き合いが苦手」「音に敏感」「こだわりが強い」などの特性は、誰にでも少しはあります。その特性が強く、環境とうまくかみ合わないとき、そのことが日常生活の中で大きな支障が生じている場合、初めて「診断名」が付くことが多いのです。
子どもの特性を知り困りの持続性に気づく
かつては、障害は「その人の中にある問題」「病気や欠陥」と考えられてきました(医学モデル)。しかし、先に述べたように現在の精神医学的診断は、特性の存在だけでなく、「その特性が日常生活の中で大きな困難をもたらしていること」を加味して診断がなされます。また世界保健機関(WHO)の考え方(ICF:国際生活機能分類)でも、「障害」をからだやこころの機能、その人ができる活動(身支度、勉強、仕事など)、社会への参加(学校生活、友人関係、地域とのつながり)と、それを取り巻く環境をセットで考えるように変化してきています。
たとえば、感覚過敏性という特性があり大きな音が苦手という子に静かな場所やヘッドホンが用意されていない場合、予定の変化が苦手なのにいきなりの予定変更が多いというような場合があるでしょう。こうしたとき、「困っている状態」は、子どもの特性だけではなく、それを取り巻く環境の“組み合わせ” から生じているといえるでしょう。つまり、精神医学診断や「障害」とは、その子の特性と、今の環境との“ミスマッチ”によって、生活や学び、社会参加に困難が持続的に生じている状態と考えることができます。
子どもの診断や障害を考える意味のひとつは、「その子どもの特性を知り、困りの持続性に気づいてあげること」ではないかと思います。子どもに合った環境を整え「困りの持続性」を減らしていくことで、本来の子どもの成長を助けることができるのです。これは診断や障害の有無によらず、すべての子どもに必要なことかもしれませんが、「特性」のある子どもたちには特に大切なことです。「まずは障害受容を」とか、「早期療育を」といった声もありますが、障害かどうかや療育(発達支援)をするかしないかではなく、その前にまず大事なものは「その子どもの特性を知り、困りの持続性に気づいてあげること」だと思います。
ASD(自閉スペクトラム症)を含む多くの精神疾患は疾患部位が特定されないので、専門の医師はその症状の存在を観察したり聞き取ったりして診断します。これには主観的であいまいな部分がないとはいえません。医師によって診断名が異なった、ということが起こるのはこのためで親御さんの中には不安の中で、何人もの医師に診断を求める人もいます。診断は医学的な治療のための「ラベル」を貼るためだけではなく、社会制度の中で支援を行っていく中で、困りごとを整理する、必要な支援につなげる(療育、学校での合理的配慮、福祉サービスなど)ための 道具 と考えていくとよいのではないかと思います。
たとえば、感覚過敏性という特性があり大きな音が苦手という子に静かな場所やヘッドホンが用意されていない場合、予定の変化が苦手なのにいきなりの予定変更が多いというような場合があるでしょう。こうしたとき、「困っている状態」は、子どもの特性だけではなく、それを取り巻く環境の“組み合わせ” から生じているといえるでしょう。つまり、精神医学診断や「障害」とは、その子の特性と、今の環境との“ミスマッチ”によって、生活や学び、社会参加に困難が持続的に生じている状態と考えることができます。
子どもの診断や障害を考える意味のひとつは、「その子どもの特性を知り、困りの持続性に気づいてあげること」ではないかと思います。子どもに合った環境を整え「困りの持続性」を減らしていくことで、本来の子どもの成長を助けることができるのです。これは診断や障害の有無によらず、すべての子どもに必要なことかもしれませんが、「特性」のある子どもたちには特に大切なことです。「まずは障害受容を」とか、「早期療育を」といった声もありますが、障害かどうかや療育(発達支援)をするかしないかではなく、その前にまず大事なものは「その子どもの特性を知り、困りの持続性に気づいてあげること」だと思います。
ASD(自閉スペクトラム症)を含む多くの精神疾患は疾患部位が特定されないので、専門の医師はその症状の存在を観察したり聞き取ったりして診断します。これには主観的であいまいな部分がないとはいえません。医師によって診断名が異なった、ということが起こるのはこのためで親御さんの中には不安の中で、何人もの医師に診断を求める人もいます。診断は医学的な治療のための「ラベル」を貼るためだけではなく、社会制度の中で支援を行っていく中で、困りごとを整理する、必要な支援につなげる(療育、学校での合理的配慮、福祉サービスなど)ための 道具 と考えていくとよいのではないかと思います。