【移動支援】発達障害の息子を育てて12年、ガイドヘルパーになり「支える側」に。親だから見えた支援の形と現場の課題
ライター:立石美津子
12年間、息子の放課後等デイサービスを通じて支えられてきた私が、今度は「ガイドヘルパー」として支援する側に立ちました。現場で見えてきたのは、資格制度の課題や支援の難しさ。しかし、保護者としての経験が、特性への深い理解に繋がることも実感しています。将来の備えとしても欠かせない「移動支援」。その現場のリアルと、保護者だからこそできる支援の形をお伝えします。
監修: 鈴木直光
筑波こどものこころクリニック院長
1959年東京都生まれ。1985年秋田大学医学部卒。在学中YMCAキャンプリーダーで初めて自閉症児に出会う。同年東京医科歯科大学小児科入局。
1987〜88年、瀬川小児神経学クリニックで自閉症と神経学を学び、栃木県県南健康福祉センターの発達相談で数々の発達障がい児と出会う。2011年、茨城県つくば市に筑波こどものこころクリニック開院。
12年間の感謝を込めて。私が移動支援の道を選んだ理由
現在、私は息子が通っていた放課後等デイサービスを運営する事業所で、ガイドヘルパー(移動支援)の仕事をしています。
この道を選んだ理由は大きく分けて二つあります。一つは、自分のライフスタイルに合わせて柔軟に働ける点。そしてもう一つは、息子が小学校から高等部を卒業するまで12年間お世話になった事業所へ、恩返しをしたいと考えたからです。知的障害(知的発達症)を伴うASD(自閉スペクトラム症)の息子が社会人として歩みだした今、育児の経験を生かして今度は支援する側として現場に関わる。それは私にとって、非常に意義のある新たな挑戦となりました。
この道を選んだ理由は大きく分けて二つあります。一つは、自分のライフスタイルに合わせて柔軟に働ける点。そしてもう一つは、息子が小学校から高等部を卒業するまで12年間お世話になった事業所へ、恩返しをしたいと考えたからです。知的障害(知的発達症)を伴うASD(自閉スペクトラム症)の息子が社会人として歩みだした今、育児の経験を生かして今度は支援する側として現場に関わる。それは私にとって、非常に意義のある新たな挑戦となりました。
「見通しのつく安心」を守るために。支援現場に求められる専門性と一貫性
現場に立って感じるのは、ガイドヘルパーという資格のあり方と、実際の支援の難しさのギャップです。というのも、現在の制度では、数日間の研修を受ければ資格が取れるのです。研修を受けたあとに、内容を正しく理解しているかどうかを確認する試験があるわけではありません。研修を受講さえすれば、障害者の支援についての深い理解がない状態でも資格が取れてしまうわけです。
※ガイドヘルパーになるための研修カリキュラムや受講資格等は、自治体によって異なります。
ですから、支援者の知識量や経験値にはどうしても差が生まれてしまいます。例えば、ダウン症とASD(自閉スペクトラム症)の特性の違いも十分に把握しないまま、現場に出ているケースも見受けられます。
また、支援のスタイルも、ヘルパー個人の裁量に委ねられがちです。あるヘルパーは本人のこだわりを尊重し、別のヘルパーは社会的なルールを優先して厳しく接する。ASD(自閉スペクトラム症)の特性がある方にとって、人によって対応が変わる「一貫性のなさ」は、見通しの立てにくさを生み、強い不安やパニックの原因にもなり得ます。
利用者の皆さんが安心して外出を楽しむためには、個人の力量に頼るのではなく、事業所全体、さらには利用者さんに関わる支援者全員で共通の支援方針を持つことが不可欠だと痛感しています。
※ガイドヘルパーになるための研修カリキュラムや受講資格等は、自治体によって異なります。
ですから、支援者の知識量や経験値にはどうしても差が生まれてしまいます。例えば、ダウン症とASD(自閉スペクトラム症)の特性の違いも十分に把握しないまま、現場に出ているケースも見受けられます。
また、支援のスタイルも、ヘルパー個人の裁量に委ねられがちです。あるヘルパーは本人のこだわりを尊重し、別のヘルパーは社会的なルールを優先して厳しく接する。ASD(自閉スペクトラム症)の特性がある方にとって、人によって対応が変わる「一貫性のなさ」は、見通しの立てにくさを生み、強い不安やパニックの原因にもなり得ます。
利用者の皆さんが安心して外出を楽しむためには、個人の力量に頼るのではなく、事業所全体、さらには利用者さんに関わる支援者全員で共通の支援方針を持つことが不可欠だと痛感しています。
安全の確保と尊厳の維持。移動支援の現場が抱える構造的課題
また、移動支援の現場では、性別の異なる利用者さんをサポートする際、特にデリケートな場面に直面することがあります。
例えば、成人男性の利用者さんと女性ヘルパーが外出している際のお手洗いの問題です。一瞬でも目を離せば、予期せぬ行動による事故や迷子のリスクがあるので、安全を確保するためには常に視界に入れておく必要がありますが、一方で、ご本人のプライバシーや尊厳をどう守るかという、非常に難しい判断を迫られます。
周囲の理解を得ながら安全な場所で見守りをお願いするなど、現場では日々模索が続いています。これは、どこの事業所でも悩んでいる問題のようです。個々のヘルパーの努力だけではなく、社会全体で考えていかなければならない構造的な課題だと感じます。
例えば、成人男性の利用者さんと女性ヘルパーが外出している際のお手洗いの問題です。一瞬でも目を離せば、予期せぬ行動による事故や迷子のリスクがあるので、安全を確保するためには常に視界に入れておく必要がありますが、一方で、ご本人のプライバシーや尊厳をどう守るかという、非常に難しい判断を迫られます。
周囲の理解を得ながら安全な場所で見守りをお願いするなど、現場では日々模索が続いています。これは、どこの事業所でも悩んでいる問題のようです。個々のヘルパーの努力だけではなく、社会全体で考えていかなければならない構造的な課題だと感じます。
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30年後の未来を見据えて。保護者の経験が支援の現場にもたらすもの
子どもが小さいうちは、移動支援を使う人は少ないかもしれません。しかし、子どもが30歳、40歳になり、親も70代、80代と高齢になると、作業所に行かない土日の余暇活動をサポートする移動支援は、本人や家族の生活の大きな支えとなります。
実際、移動支援の仕事をして感じることはさまざまありますが、最も大切なのは、「知識があるかないか」よりも、その人の特性に寄り添おうという想いの強さだと思います。特に、発達障害のある子を育てた経験を持つ保護者がヘルパーになることには、大きな価値があると感じています。ひと口に発達障害といっても、その特性は人によってさまざまですが、わが子を試行錯誤しながら育ててきた経験は、ほかの利用者さんの特性を感覚的に理解する助けになります。「なぜ今、この行動をしているのか」を想像できる力は、きっと利用者さんに大きな安心感を与えられるはずです。
週末のひととき、利用者さんが笑顔で外の世界を楽しめるように。そして、ご家族が安心して休息を取れるように。温かな支援の輪が、これからも広がっていくことを願っています。
執筆/立石美津子
実際、移動支援の仕事をして感じることはさまざまありますが、最も大切なのは、「知識があるかないか」よりも、その人の特性に寄り添おうという想いの強さだと思います。特に、発達障害のある子を育てた経験を持つ保護者がヘルパーになることには、大きな価値があると感じています。ひと口に発達障害といっても、その特性は人によってさまざまですが、わが子を試行錯誤しながら育ててきた経験は、ほかの利用者さんの特性を感覚的に理解する助けになります。「なぜ今、この行動をしているのか」を想像できる力は、きっと利用者さんに大きな安心感を与えられるはずです。
週末のひととき、利用者さんが笑顔で外の世界を楽しめるように。そして、ご家族が安心して休息を取れるように。温かな支援の輪が、これからも広がっていくことを願っています。
執筆/立石美津子
専門家コメント(小児科医 鈴木直光先生)
医療や療育の現場では、神経発達症に限らず、大切なお子さんを病気で亡くされた経験を持つ保護者の方が、その後の「恩返し」として支援の道に進まれる姿を拝見することがあります。同じ「親」という立場を経験されたからこそ、今まさに不安や悩みの中にいるご家族の心に、誰よりも深く寄り添える部分があるのだと感じます。ご自身が経験したことを分かりやすく説明できる点では、これ以上の支援者はいないのではないでしょうか。
一方で、特性や障がいのあるお子さんの支援には、専門的な「センス(知識と経験)」が不可欠です。お子さんに寄り添い、その真のニーズを汲み取るためには、温かな想いだけでなく、裏づけとなる知識が支えになります。
現在、ガイドヘルパーの資格取得が比較的短期間で行える背景には、深刻な人材不足という課題があります。早急に人員を確保しようとするあまり、研修が簡略化され、結果として支援の現場で専門性を維持することが難しくなっている側面も否定できません。これは教員不足の問題とも通じるところがあります。福祉・教育に関わるさまざまな専門職の質を守り、さらに高めていくためには、適切な評価制度や試験の導入などの工夫も必要だと考えます。
一方で、特性や障がいのあるお子さんの支援には、専門的な「センス(知識と経験)」が不可欠です。お子さんに寄り添い、その真のニーズを汲み取るためには、温かな想いだけでなく、裏づけとなる知識が支えになります。
現在、ガイドヘルパーの資格取得が比較的短期間で行える背景には、深刻な人材不足という課題があります。早急に人員を確保しようとするあまり、研修が簡略化され、結果として支援の現場で専門性を維持することが難しくなっている側面も否定できません。これは教員不足の問題とも通じるところがあります。福祉・教育に関わるさまざまな専門職の質を守り、さらに高めていくためには、適切な評価制度や試験の導入などの工夫も必要だと考えます。
このコラムを書いた人の著書
発達障害に生まれて
中央公論新社
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立石流 子どもも親も幸せになる 発達障害の子の育て方
すばる舎
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動画でおぼえちゃうドリル 笑えるひらがな
小学館
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育ててわかった 発達障害の子の就学・就労・自立の話
第三文明社
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じゅもんで おぼえる ひらがなブック
高橋書店
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(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
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