自分を楽にする仕組みを、つくってこなかった

そして、何よりこういった変化を作るにあたって大事だったのは、見守る私の余裕です。

忘れ物が増え、学校から連絡を受け、「ちゃんと見てあげられていなかったかもしれない」と落ち込みました。やるべきことを指示できていなかった。ゲームに親も頼ってしまっていたかもしれない。

仕事、2人の子ども、忙しい夫に頼ることへの後ろめたさ。気づけば頭のなかは常にいっぱいで、寝込んでしまう日もありました。多忙で、まず私自身が「これ以上はできない」と悲鳴をあげている状態でした。

そして学校からの指摘で気づいたのは、私が「どうやったら自分が楽になるか」「どうやって子どもに目を向ける余白をつくれるか」を、ほとんど考えられていなかったことでした。

ゲーム時間を規制して息子をしばるよりも、関わる私の余白づくりこそが、生活を立て直す鍵なのかもしれないと、見直すきっかけになりました。
何より失われていたのは私自身の管理する余裕
何より失われていたのは私自身の管理する余裕
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見守る側の限界を認めることから

具体的に何を変えたかというと、

まず、学校からの指摘をきっかけに、夫の意識が変わりました。「これは母親だけの問題ではない」と、子育てへの関わり方を見直してくれるようになりました。家事や子ども対応の割合を話し合い、私が抱え込んでいた部分を少しずつ分けました。

同時に、自分の体調も後回しにしないことにしました。慢性的な不調や疲れを「気のせい」にせず、病院で相談し、投薬も含めて整えていきました。

そして、仕事量も調整しました。収入の不安はありましたが、余裕がなければ生活は回らないという現実もはっきりしていました。

こうして「見守る側」の負担が軽くなったことで、子どもとの約束づくりにも落ち着いて向き合えるようになりました。

ほかの遊びにも一緒に目を向ける余裕が出たことで、結果的にゲームにハマる時間を減らす生活に繋がりました。

発達特性のある子どもと「ゲーム」

発達特性のある子どもは、強い刺激に惹かれやすいと言われています。ゲームとの付き合い方が、家庭の悩みになることも少なくありません。

わが家でも、ゲームに気持ちが向かいやすい環境がありました。けれど問題は、ゲームそのものだけではなく、過ごし方や家族の余裕のなさにもありました。その環境を家族全体で見直したことで、結果としてゲームの時間やスクリーンタイムは整っていきました。

まだ試行錯誤の途中です。それでも、禁止よりも環境づくりを優先したことは、ひとつの転機でした。

実際、ゲームをきっかけに3D編集に興味を持ったり、漢字を覚えたりと、良い影響も感じています。だからこそ、一概に悪者にするのではなく、ちょうどいい距離を探り続けたいと思っています。

わが家の事例が、どこかのご家庭のヒントになればうれしく思います。

執筆/河野りぬ

専門家コメント 新美妙美先生(小児科医)

忘れ物・情報漏れが続いているという学校の指摘に、何が本当の原因かとさまざまな視点から向き合われた過程を聞かせて下さりありがとうございます。発達特性のあるお子さんを育てていると、「うまくいかないこと」の原因がひとつの要素に還元されがちで、特にゲームや動画視聴などは、問題の原因として取り上げられやすい傾向があります。ただ実際には、小学校低学年の忘れ物や連絡漏れは、お子さんの特性に加え、学校と家庭の連携や環境の整え方によっても大きく変わるものです。「本当にゲームだけが原因なのか」と立ち止まって生活全体を見渡そうとされた河野さんの視点は、とても大切なものだったと思います。

いずれにしても、ゲームばかりになってしまわない工夫は必要です。ただ単純に制限するのではなく、「先にやることを明確にする」「見えるタイマーを使う」「代替となる活動を具体的に準備する」といった環境調整は、とても理にかなったアプローチです。発達特性のある子どもにとっては、意志の力で切り替えるよりも、環境によって行動が自然に流れる仕組みをつくるほうが現実的で、成功体験にもつながりやすいからです。

特に「禁止」ではなく「選択肢を増やす」という方向に舵を切られたことは重要なポイントだと感じました。強い刺激に惹かれやすい特性がある場合、刺激を断つことだけに注目すると対立が生まれやすくなります。一方で、身体を使う遊びや創作活動など、別の満足感を得られる活動がしやすい環境を整えることで、結果としてゲームの比重が自然に下がっていったというのはとても健全なプロセスと言えます。

そして何より大切なのは、本記事の後半で語られている「見守る側の余白」です。子どもの行動を整えようとする前に、保護者自身が限界に近づいていないかを見直す視点は、実はとても本質的です。実行機能が未熟な子どもを支えるには、大人側にも相応のエネルギーが必要です。親の余裕が削られていると、どんなに正しい方法を知っていても継続は難しくなります。

ご夫婦で役割を再調整されたこと、体調や仕事量を見直されたことは、「忘れ物対策」「ゲーム対策」という枠を超えた、家庭全体の再設計と言えるかもしれません。今回の体験談は、「ゲームをやめさせる方法」ではなく、「家庭全体のバランスを整える視点」を示してくださいました。さまざまな場面で参考になる視点だと思いました。(監修:小児科医 新美妙美先生)
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https://h-navi.jp/column/article/35030837
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。
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