【体験談】「在り方」は変わらない。定型発達の赤ちゃんを預かって再確認した、25歳ASD息子の特性
ライター:立石美津子
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私はファミリーサポートの援助会員として、時折お子さんをお預かりしています。今回は、生後10か月の男の子を2時間半ほど預かった時に感じたASD(自閉スペクトラム症)の息子との違いについてお話しします。
監修: 鈴木直光
筑波こどものこころクリニック院長
1959年東京都生まれ。1985年秋田大学医学部卒。在学中YMCAキャンプリーダーで初めて自閉症児に出会う。同年東京医科歯科大学小児科入局。
1987〜88年、瀬川小児神経学クリニックで自閉症と神経学を学び、栃木県県南健康福祉センターの発達相談で数々の発達障がい児と出会う。2011年、茨城県つくば市に筑波こどものこころクリニック開院。
生後10か月の赤ちゃんと、ASD(自閉スペクトラム症)の息子を比べて
私はファミリーサポートの援助会員として、時折お子さんをお預かりしています。先日、近所に住んでいる方の生後10か月の男の子を2時間半ほど預かりました。生まれて初めて親と離れる“初デビュー”です。
それまでも何度か会ったことのある赤ちゃんでしたし、「まあ大丈夫かな」と、正直少し楽観的に考えていました。けれど、親と一緒にいる環境と、赤ちゃんだけで預けられる環境とは、やはりまったく別のものです。ずっと抱っこになる可能性もありますから、万が一に備えて、夕飯はあらかじめ下ごしらえを済ませておきました。
実際にお預かりすると、いわゆる「ギャン泣き」ではないものの、やはりよく泣きました。少しうとうとしても、「寝たかな」と思ってそっと寝かせようとすると、「背中スイッチ」が発動し、ぱっと目を覚ましてまた泣きました。
しばらく機嫌よく遊んでいても、ふと私の顔を見て、周囲を見回し、親がいないと気づくとまた泣く。その繰り返しでした。私はほぼかかりきりです。
その様子を見ながら、つくづく思いました。「ああ、息子は、やはり定型的な発達を辿る赤ちゃんではなかったのだな」と。
それまでも何度か会ったことのある赤ちゃんでしたし、「まあ大丈夫かな」と、正直少し楽観的に考えていました。けれど、親と一緒にいる環境と、赤ちゃんだけで預けられる環境とは、やはりまったく別のものです。ずっと抱っこになる可能性もありますから、万が一に備えて、夕飯はあらかじめ下ごしらえを済ませておきました。
実際にお預かりすると、いわゆる「ギャン泣き」ではないものの、やはりよく泣きました。少しうとうとしても、「寝たかな」と思ってそっと寝かせようとすると、「背中スイッチ」が発動し、ぱっと目を覚ましてまた泣きました。
しばらく機嫌よく遊んでいても、ふと私の顔を見て、周囲を見回し、親がいないと気づくとまた泣く。その繰り返しでした。私はほぼかかりきりです。
その様子を見ながら、つくづく思いました。「ああ、息子は、やはり定型的な発達を辿る赤ちゃんではなかったのだな」と。
人への関心よりも「物や音」。幼少期から現れていたASD(自閉スペクトラム症)の特性
息子が0歳の頃、まだASD(自閉スペクトラム症)だとは気づいていませんでした。当時は時々ベビーシッターさんや近所の家に預けることがありましたが、ほとんど泣くことはありませんでした。泣くのは、特定の嫌な音がしたときくらい。今思えば、かなりの聴覚過敏があったのだと思います。
私が迎えに行っても、特別うれしそうな様子はありません。遊んでいれば、そのまま遊び続ける。振り向きさえしないこともありました。
一般的には、生後6〜7か月を過ぎる頃から人見知りや場所見知りが出てくると言われています。でも、息子は違いました。今振り返ると、決定的だったのは、「人見知りをしない」だけでなく、「人そのものに社会的な関心を示さない」ことでした。
私が迎えに行っても、特別うれしそうな様子はありません。遊んでいれば、そのまま遊び続ける。振り向きさえしないこともありました。
一般的には、生後6〜7か月を過ぎる頃から人見知りや場所見知りが出てくると言われています。でも、息子は違いました。今振り返ると、決定的だったのは、「人見知りをしない」だけでなく、「人そのものに社会的な関心を示さない」ことでした。
入院中の母より「いつものジュース」。息子にとっての安心の拠り所
息子が4歳のとき、私は卵巣嚢腫の手術で5日間入院しました。入院中は、実家の母に息子を預かってもらうことにしました。すでにASD(自閉スペクトラム症)の診断は受けていたものの、どこかで「4日も親と離れたら、きっと泣くだろう」と思っていました。心配だった半面、どこかで“淡い期待”もありました。
ところが、母がお見舞いに来てくれた日、一緒に来たはずの息子はなぜか私の病室には上がってきませんでした。母に聞くと、病院の待合に自動販売機があり、息子は家でいつも飲んでいるジュースを買って飲み、「もう帰りたい」と言ってそのまま帰ったそうです。
「え?病院にジュースを買いに来ただけ?」
正直、そう思いました。私に会いたいのではなかったのか、と。
私に会いたいという欲求よりも、見慣れない環境下で「いつも通りの味」で自分の安心を確保することのほうが、彼にとっては優先順位が高かったのでしょう。退院して帰宅したときも、特別喜ぶ様子はありませんでした。そのとき改めて、「ああ、この子はやはりASD(自閉スペクトラム症)なのだ」と実感しました。
ところが、母がお見舞いに来てくれた日、一緒に来たはずの息子はなぜか私の病室には上がってきませんでした。母に聞くと、病院の待合に自動販売機があり、息子は家でいつも飲んでいるジュースを買って飲み、「もう帰りたい」と言ってそのまま帰ったそうです。
「え?病院にジュースを買いに来ただけ?」
正直、そう思いました。私に会いたいのではなかったのか、と。
私に会いたいという欲求よりも、見慣れない環境下で「いつも通りの味」で自分の安心を確保することのほうが、彼にとっては優先順位が高かったのでしょう。退院して帰宅したときも、特別喜ぶ様子はありませんでした。そのとき改めて、「ああ、この子はやはりASD(自閉スペクトラム症)なのだ」と実感しました。
息子が譲れない「ルーティン」という正義
先日の話に戻ります。赤ちゃんを預かっていたことで、日々の家事のルーティンが少し崩れました。手が離せず、夕飯の時間が遅れたため、息子に「卵を溶いておいて」と頼みました。
すると、息子は途端に不機嫌になります。「なんで僕がやるの?」「なんで卵があるの?」
見れば分かるでしょう、と思うのですが、それが許せないのです。急な役割の変更や、見通しの立たない作業への抵抗。それが、ASD(自閉スペクトラム症)の特性による混乱の表れなのです。
私は「息子はどうしたって、自分のやり方を守らないと気が済まないのだ」と、脱力するような気持ちになりました。以前、あまりに自分のやり方を曲げずにこだわりを押し通そうとするので、思わず「あんた殿様だね」といったら、比喩が通じないで「違う、立石だ」と激しいパニックになったことがあるので、今回は口には出しませんでした。
さらに、赤ちゃんが不安にならないよう、子ども向け番組をテレビで流していたことも、受け入れがたかったようです。息子には、夜6時55分になるとNHKの気象情報を見るという“絶対の習慣”があります。気象予報士の名前まで全部覚えていて、それが一日の大事なルーティンなのです。テレビはある意味、赤ちゃんに“占領”されている状態でした。「今日は赤ちゃんに譲ってあげて」と言っても、それが受け入れられません。
25歳と0歳。それぞれの「切実な事情」が、真っ向からぶつかり合っているような光景でした。
すると、息子は途端に不機嫌になります。「なんで僕がやるの?」「なんで卵があるの?」
見れば分かるでしょう、と思うのですが、それが許せないのです。急な役割の変更や、見通しの立たない作業への抵抗。それが、ASD(自閉スペクトラム症)の特性による混乱の表れなのです。
私は「息子はどうしたって、自分のやり方を守らないと気が済まないのだ」と、脱力するような気持ちになりました。以前、あまりに自分のやり方を曲げずにこだわりを押し通そうとするので、思わず「あんた殿様だね」といったら、比喩が通じないで「違う、立石だ」と激しいパニックになったことがあるので、今回は口には出しませんでした。
さらに、赤ちゃんが不安にならないよう、子ども向け番組をテレビで流していたことも、受け入れがたかったようです。息子には、夜6時55分になるとNHKの気象情報を見るという“絶対の習慣”があります。気象予報士の名前まで全部覚えていて、それが一日の大事なルーティンなのです。テレビはある意味、赤ちゃんに“占領”されている状態でした。「今日は赤ちゃんに譲ってあげて」と言っても、それが受け入れられません。
25歳と0歳。それぞれの「切実な事情」が、真っ向からぶつかり合っているような光景でした。
成長しても変わらない特性。ありのままの姿を再確認した一日
親御さんが赤ちゃんを迎えに来たあとも、息子は納得がいかない様子でした。「チャンネルがどうの」「卵をやらされた」と、自らの態度を振り返る様子はなく、思い通りの秩序が崩れたことへの不満を引きずっているのです。
親を求めて泣いていた赤ちゃんの姿と、息子の0歳の頃。そして25歳になった今の姿。すべてが重なりました。
ああ、この子はずっとASD(自閉スペクトラム症)という在り方のままなのだ、と。
だから、今赤ちゃんを育てているお母さんに伝えたいのです。親を慕って泣くのは、定型的な発達の一段階です。「なんでこんなに泣くの」と思わなくても大丈夫。もちろん性格によってさまざまですが、多くの場合は成長とともに自然と落ち着いていきます。
息子ももちろん成長し、社会人として働くようにもなりました。でも、いつまでたってもASD(自閉スペクトラム症)らしい在り方のままです。それを改めて実感した出来事でした。
親を求めて泣いていた赤ちゃんの姿と、息子の0歳の頃。そして25歳になった今の姿。すべてが重なりました。
ああ、この子はずっとASD(自閉スペクトラム症)という在り方のままなのだ、と。
だから、今赤ちゃんを育てているお母さんに伝えたいのです。親を慕って泣くのは、定型的な発達の一段階です。「なんでこんなに泣くの」と思わなくても大丈夫。もちろん性格によってさまざまですが、多くの場合は成長とともに自然と落ち着いていきます。
息子ももちろん成長し、社会人として働くようにもなりました。でも、いつまでたってもASD(自閉スペクトラム症)らしい在り方のままです。それを改めて実感した出来事でした。
執筆/立石美津子
専門家コメント 鈴木直光先生(小児科医)
ASD(自閉スペクトラム症)は、否定的な意味での障害ではなく、その子が持つ特性として捉えるべきものです。幼い頃は人見知りも少なく、むしろ育てやすいという印象を持たれることも多いのですが、一般的に定型発達と呼ばれるお子さんの場合は、人見知りで親御さんが苦労を感じることも珍しくありません。初めての子育てであれば「こういうものだ」と自然に受け入れて過ごされるものですが、成長して集団生活に入ると、周囲との違いが少しずつ顕著に現れてくるようになります。
例えば「立石君」と呼びかけても、本人は「私は立石だ」と返すような独特の反応が見られるかもしれませんが、こうした特性を小中学校の教育現場でどれだけ正しく理解し、周りに伝えていけるかが、その子の過ごしやすさを決める大きな鍵となるはずです。(監修:小児科医 鈴木直光先生)
例えば「立石君」と呼びかけても、本人は「私は立石だ」と返すような独特の反応が見られるかもしれませんが、こうした特性を小中学校の教育現場でどれだけ正しく理解し、周りに伝えていけるかが、その子の過ごしやすさを決める大きな鍵となるはずです。(監修:小児科医 鈴木直光先生)
このコラムの著者親子がモデルの本
発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年 (中公文庫)
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このコラムを書いた人の著書
立石流 子どもも親も幸せになる 発達障害の子の育て方
すばる舎
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動画でおぼえちゃうドリル 笑えるひらがな
小学館
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育ててわかった 発達障害の子の就学・就労・自立の話
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じゅもんで おぼえる ひらがなブック
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(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。