息子が譲れない「ルーティン」という正義

先日の話に戻ります。赤ちゃんを預かっていたことで、日々の家事のルーティンが少し崩れました。手が離せず、夕飯の時間が遅れたため、息子に「卵を溶いておいて」と頼みました。

すると、息子は途端に不機嫌になります。「なんで僕がやるの?」「なんで卵があるの?」

見れば分かるでしょう、と思うのですが、それが許せないのです。急な役割の変更や、見通しの立たない作業への抵抗。それが、ASD(自閉スペクトラム症)の特性による混乱の表れなのです。

私は「息子はどうしたって、自分のやり方を守らないと気が済まないのだ」と、脱力するような気持ちになりました。以前、あまりに自分のやり方を曲げずにこだわりを押し通そうとするので、思わず「あんた殿様だね」といったら、比喩が通じないで「違う、立石だ」と激しいパニックになったことがあるので、今回は口には出しませんでした。

さらに、赤ちゃんが不安にならないよう、子ども向け番組をテレビで流していたことも、受け入れがたかったようです。息子には、夜6時55分になるとNHKの気象情報を見るという“絶対の習慣”があります。気象予報士の名前まで全部覚えていて、それが一日の大事なルーティンなのです。テレビはある意味、赤ちゃんに“占領”されている状態でした。「今日は赤ちゃんに譲ってあげて」と言っても、それが受け入れられません。

25歳と0歳。それぞれの「切実な事情」が、真っ向からぶつかり合っているような光景でした。

成長しても変わらない特性。ありのままの姿を再確認した一日

親御さんが赤ちゃんを迎えに来たあとも、息子は納得がいかない様子でした。「チャンネルがどうの」「卵をやらされた」と、自らの態度を振り返る様子はなく、思い通りの秩序が崩れたことへの不満を引きずっているのです。

親を求めて泣いていた赤ちゃんの姿と、息子の0歳の頃。そして25歳になった今の姿。すべてが重なりました。

ああ、この子はずっとASD(自閉スペクトラム症)という在り方のままなのだ、と。

だから、今赤ちゃんを育てているお母さんに伝えたいのです。親を慕って泣くのは、定型的な発達の一段階です。「なんでこんなに泣くの」と思わなくても大丈夫。もちろん性格によってさまざまですが、多くの場合は成長とともに自然と落ち着いていきます。

息子ももちろん成長し、社会人として働くようにもなりました。でも、いつまでたってもASD(自閉スペクトラム症)らしい在り方のままです。それを改めて実感した出来事でした。
執筆/立石美津子

専門家コメント 鈴木直光先生(小児科医)

ASD(自閉スペクトラム症)は、否定的な意味での障害ではなく、その子が持つ特性として捉えるべきものです。幼い頃は人見知りも少なく、むしろ育てやすいという印象を持たれることも多いのですが、一般的に定型発達と呼ばれるお子さんの場合は、人見知りで親御さんが苦労を感じることも珍しくありません。初めての子育てであれば「こういうものだ」と自然に受け入れて過ごされるものですが、成長して集団生活に入ると、周囲との違いが少しずつ顕著に現れてくるようになります。

例えば「立石君」と呼びかけても、本人は「私は立石だ」と返すような独特の反応が見られるかもしれませんが、こうした特性を小中学校の教育現場でどれだけ正しく理解し、周りに伝えていけるかが、その子の過ごしやすさを決める大きな鍵となるはずです。(監修:小児科医 鈴木直光先生)
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(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

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