自己主張を「言葉」にする練習

お互い約束するためにも、言葉にする
お互い約束するためにも、言葉にする
Upload By 河野りぬ
仕組みを整える一方で、妹自身の「伝え方」についても、一緒に練習している最中です。

妹の「私を見て!」という強い主張に対し、つい「わがままを言わないで」とその場をおさめようとしてしまう瞬間もあります。でも、彼女が外の世界へ出たときに困らないためにも、今はコミュニケーションを学ぶチャンスなんだ、と思い直すようにしています。

具体的には、むやみに注目を求めて叫んだり横入りしたりするのではなく、「今、ママは兄の〇〇をしているから待ってね。なにをしてほしいかだけ、先に教えてくれる?」と促すようにしています。漠然とした「見て!」という欲求を、「〇〇を一緒にやってほしい」という具体的な言葉にしてもらえるよう、親子で練習しているところです。

また、伝え方についても「大きな声を出すのではなく、『次はこれをやりたい』と相談してね」と伝えています。兄に特性があるからといって、妹だけが社会的なマナーを学ぶ機会を逃してしまうのは、親として少し違うのかな、と考えているからです。兄の存在を理由に諦めてしまうのではなく、彼女自身の成長のために必要な「向き合い方」を、一歩ずつ一緒に探っています。

それぞれの「個」として向き合うために

わが家の試行錯誤を振り返ってみると、兄には「次にやるべきタスクの明示」が必要で、妹には「必ず自分の番が来るという安心感」が必要なのだと感じています。

もちろん、毎日が理想通りに進むわけではありません。兄のフリーズにどうしても手が離せなかったり、妹の「見て!」に余裕を持って応えられなかったりする日も、たくさんあります。

それでも、特定の誰かの「我慢」に頼り切りにならないよう、仕組みとして順番を作ったり、言葉での伝え方を練習したりすることは、私たちが家族として一人の個人同士でいられるための、大切なステップなのだと思っています。

「きょうだい児」という枠組みにとらわれすぎず、それぞれが必要としているサポートを、その都度わが家なりのバランスで探っていくこと。そんな日々の小さな調整の積み重ねが、いつか子どもたちが自分たちの足で歩き出すときの、確かな自信に繋がってくれたらいいな、と願っています。

執筆/河野りぬ

専門家コメント 新美妙美先生(小児科医)

発達特性のあるお子さんのきょうだいへの関わりについて、ていねいに聞かせていただきありがとうございます。
妹さんの「無意識の適応」に気づかれた視点はとても重要だと思いました。実際の臨床の場でも、きょうだい児さんが自分の気持ちを後回しにしながら家庭に適応しているケースは少なくありません。

たとえば「お兄ちゃんは弟のことがかわいいからやっているのだ」と親がそのまま受け止めすぎることで、無意識の適応を助長してしまい、ひずみが生じることもあります。河野さんのように、手のかからないきょうだいの気持ちに意識的に目を向ける視点はとても大切だと感じます。
発達特性のあるお子さんへの対応はどうしても優先度が高くなりやすく、「この子は大丈夫そう」と感じるきょうだいに我慢をさせすぎてしまうことは、多くのご家庭で繰り返し悩まれるテーマです。そのため、「問題が起きていない=満たされている」とは限らないという視点を持ち、意識的に関わりを確保することがとても大切になります。

今回実践されているように、「今はどちらの対応をしているか」「次は誰の番か」を言葉で明確にすることは、きょうだい双方にとって安心感につながります。また、発達特性のあるお子さんへの対応を優先せざるを得ない場面があっても、配偶者と協力して、きょうだいが思いきり甘えたりのびのびと過ごせる時間を意識的に確保することも重要です。
さらに、きょうだい側の不満や葛藤を「それは仕方ない」と流さず、しっかり言葉として受け止め、一緒に納得できる形を探っていくことも意識していくとよいでしょう。

また、きょうだいを「支える側」にし過ぎないことも大切です。手伝いが自然に生まれることはあっても、それが役割として固定されてしまうといつしか負担になることもあります。本人がやりたいことや興味関心を十分に尊重し、「一人の子どもとしての時間」を守るよう心がけることも大切です。
河野さんが、仕組みづくりと関わりの両面から試行錯誤されている姿勢は、とても実践的で、多くのご家庭の参考になるものだと感じました。(監修:小児科医 新美妙美先生)
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https://h-navi.jp/column/article/35031011
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。
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