【実体験】お金より「孤立」が怖い。発達障害の息子の「親なきあと」自立へ向けた3つの準備

ライター:立石美津子
【実体験】お金より「孤立」が怖い。発達障害の息子の「親なきあと」自立へ向けた3つの準備のタイトル画像
出典 : http://amanaimages.com/info/infoRF.aspx?SearchKey=66438009172

障害のある子を持つ親なら誰しも不安に思う「親なきあと」。実はお金や制度以上に怖いのは「孤立」です。25歳になった知的障害(知的発達症)を伴うASD(自閉スペクトラム症)の息子の姿から見えてきた、今からできる準備と「本当の自立」についてお話しします。

監修者渡部伸のアイコン
監修: 渡部伸
行政書士
親なきあと相談室主宰
社会保険労務士
慶應義塾大学法学部卒後、出版社勤務を経て、行政書士、社会保険労務士、2級ファイナンシャルプランニング技能士などの資格を取得。現在、渡部行政書士社労士事務所代表。自身も知的障害の子どもを持ち、知的障害の子どもをもつ親に向けて「親なきあと」相談室を主宰。著作、講演など幅広く活動中。

お金や制度以上に怖い「孤立」と、特性ゆえの壁

親なきあとについて考えるとき、多くの人は「お金」や「制度」を心配します。しかし、実際に一番怖いのは、そこではないのではないかと私は感じています。

本当に怖いのは、孤立してしまうことです。

障害のある人が一人で生きていくためには、周囲の理解や支えが欠かせません。誰にも相談できない環境になってしまったとき、生活は一気に不安定になります。

  • 困ったときに助けてくれる人がいない(自分の状況をうまく説明できない)
  • 体調が悪くても気づいてもらえない(感覚の鈍麻などで自覚しにくい)
  • トラブルが起きても守ってくれる人がいない(パニックになってしまう)
  • お金の管理ができなくても相談できない

こうした特性ゆえの困難は、制度だけでは完全には防げません。だからこそ大切なのは、人とのつながりをつくっておくことです。相談支援専門員、支援員、グループホームの職員、地域の人、福祉関係者。そうした人たちと、親が元気なうちから関係を築いておくことが必要です。

親がいなくなったあとも、見守ってくれる人がいる。声をかけてくれる人がいる。相談できる人がいる。それだけで、生活の安心感は大きく変わります。

親としての本音と、あえてプロに「丸投げ」する覚悟

親なきあとの未来を考えると心配は尽きませんが、正直に言えば、親としての本音はとてもシンプルです。

息子が、安心して生きていければそれでいい。それだけです。立派な生活でなくてもいい。特別な成功をしなくてもいい。ただ、毎日を穏やかに過ごしてほしい。

ごはんを食べて、安心して眠れて、困ったときに助けてもらえて、笑って生活できる。それだけで十分なのです。

現在、息子は一般企業で障害者雇用で働いており、障害基礎年金と合わせて生活基盤を築きつつあります。息子の社会人生活を支えるため、私たちは「就労定着支援制度」を利用しました。月に一度、担当者が会社を訪問し、その様子は関係者で共有され、書面で私の手元にも届きます。

実は、私は会社に同行することも、仕事の様子を見学することも、あえてしませんでした。息子も25歳。「いつまでも親が前に出るのは過保護だ。トラブルが起きても、プロフェッショナルにお任せしよう」と、専門家の方々にすべてを「丸投げ」する覚悟を決めたのです。親が抱え込まず、彼を社会のセーフティーネットに委ねることこそが、親なきあとを見据えた最大のサポートだと考えたからです。

日中の居場所は委ねられても、「暮らしの場」を見つける難しさ

このように、「働くこと(日中の居場所)」については、少しずつプロに委ねる体制ができてきました。しかし、親なきあとの要となる「暮らし(住まい)」については、実はまだまだ不安が尽きません。

いざ生活の場を社会に委ねようと思っても、その受け皿を見つけるのがとても難しい現状があるからです。

制度はあっても、現場は足りていない。支援はあっても、人が足りていない。住まいはあっても、数が足りていない。

この現実を前にすると、親として不安になるのは当然です。信頼して任せられる支援者や居場所は、一朝一夕にすぐ見つかるものではないからです。

では、親は今、何をしておけばよいのでしょうか。私は、特別なことをする必要はないと思っています。大切なのは、現実的な準備を少しずつ進めていくことです。

まず、支援者とのつながりをつくることです。相談支援や福祉サービスを利用し、親以外にも関わる人を増やしていくことが大切です。

次に、住まいについて考えることです。将来、どこで暮らすのか。グループホームに入るのか、それともヘルパーさんなどのサポートを受けながら一人暮らしをするのか。早めに見学や情報収集をしておくことが安心につながります。

そして、お金の管理です。信託や後見制度、家族での管理方法など、複数の選択肢を知っておくことが必要です。

すぐに結論を出す必要はありません。しかし、何も知らないままでは不安だけが大きくなってしまいます。知ること、つながること、準備すること。この3つが、親なきあとを考える上で大切なのだと思います。
仕事ナビバナー

未来への不安は、今の生活を整えることで減らしていく

親なきあとの問題は、決して家庭だけの問題ではありません。障害のある人が地域で生きていくということは、社会全体で支えていくということです。

  • 住まいを整える企業・団体の役割
  • 制度をつくる行政の役割
  • 支援を続ける福祉現場の役割
  • 理解を広げる地域社会の役割

それぞれがつながっていかなければ、親なきあとの問題は解決しません。すべて共通しているのは、一人の親が背負う問題ではないということです。社会の仕組みとして、支えていく必要があるのです。

親なきあとを考えるというと、暗い未来を想像してしまいがちです。しかし、本当はそうではないのかもしれません。

親なきあとを考えるということは、今の生活を整えることでもあります。

支援者とつながること。住まいを考えること。制度を知ること。地域と関わること。これらはすべて、今の生活を安定させることにつながります。そして、その積み重ねが、親がいなくなったあとの安心につながっていくのです。

自立とは「何でも一人でできること」ではない

親なきあとの問題に、完璧な答えはありません。どの家庭も状況が違い、子どもの特性も違い、支援環境も違います。

だからこそ、大切なのは「正解」を探すことではなく、できる準備を一つずつ進めていくことなのだと思います。

制度だけに頼らない。家族だけで抱え込まない。社会とつながりながら、未来をつくっていく。それが、親なきあとを考えるということなのではないでしょうか。

子どもにとって自立とは、何でも一人でできるように育てることではなく、頼れる力を育てておくこと。そして親が子どもにできることは、親がいなくなったあと、助けてくれる人たちとのつながりを、たくさんつくっておくことだと思います。

私はこれからも、息子が安心して生きていける社会を願いながら、できることを一つずつ続けていきたいと思っています。
執筆/立石美津子

専門家コメント(行政書士・親なきあと相談室主宰・社会保険労務士 渡部 伸先生)

『自立』とは、子ども自身がすべてのことを自分でするという意味ではありません。それは障害があってもなくても一緒です。『自立』とは、一人でできないことや、困ったことがあったときに、適切な手段や支援してくれる制度や仕組みを使えることではないかと、私は考えています(障害のある子が将来にわたって受けられるサービスのすべて 自由国民社、2019年、はじめに)。以前このような文章を著書に書いたことがあります。立石さんと同じ意見です。親が将来のことをすべてお膳立てする必要はありません。障害者にはたくさんの公的支援、民間も含めたサポート制度があります。就労や福祉など日中活動の場、住まいの場や一人暮らしの支援、相談支援事業者や民生委員、インフォーマルなサービス等々、さまざまな地域の社会資源を利用できるようにしておけば、「あとはよろしく」とお任せしていいと考えています。
私も重度知的障害のある子どもの親なので、まだ道半ばではありますが、地域に託すためのつながりづくりを少しずつ進めています。皆さんも一緒に、焦らず頑張りましょう!(監修:行政書士・親なきあと相談室主宰・社会保険労務士 渡部 伸先生)
前の記事はこちら
https://h-navi.jp/column/article/35031094

このコラムの著者親子がモデルの本

発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年 (中公文庫)
発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年 (中公文庫)
Upload By 立石美津子
発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年 (中公文庫)
松永正訓 (著)
中央公論新社
Amazonで詳しく見る

このコラムを書いた人の著書

立石流 子どもも親も幸せになる 発達障害の子の育て方
立石流 子どもも親も幸せになる 発達障害の子の育て方
Upload By 立石美津子
立石流 子どもも親も幸せになる 発達障害の子の育て方
立石美津子
すばる舎
Amazonで詳しく見る
動画でおぼえちゃうドリル 笑えるひらがな
動画でおぼえちゃうドリル 笑えるひらがな
Upload By 立石美津子
動画でおぼえちゃうドリル 笑えるひらがな
立石美津子
小学館
Amazonで詳しく見る
育ててわかった 発達障害の子の就学・就労・自立の話
育ててわかった 発達障害の子の就学・就労・自立の話
Upload By 立石美津子
育ててわかった 発達障害の子の就学・就労・自立の話
立石美津子
第三文明社
Amazonで詳しく見る
じゅもんで おぼえる ひらがなブック
じゅもんで おぼえる ひらがなブック
Upload By 立石美津子
じゅもんで おぼえる ひらがなブック
立石 美津子 (著), チャンキー松本 (イラスト)
高橋書店
Amazonで詳しく見る
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
仕事ナビバナー


年齢別でコラムを探す


同じキーワードでコラムを探す



放課後等デイサービス・児童発達支援事業所をお探しの方はこちら

放課後等デイサービス・児童発達支援事業所をお探しの方はこちら

コラムに対する投稿内容については、株式会社LITALICOがその内容を保証し、また特定の施設、商品及びサービスの利用を推奨するものではありません。投稿された情報の利用により生じた損害について株式会社LITALICOは一切責任を負いません。コラムに対する投稿内容は、投稿者の主観によるもので、株式会社LITALICOの見解を示すものではありません。あくまで参考情報として利用してください。また、虚偽・誇張を用いたいわゆる「やらせ」投稿を固く禁じます。「やらせ」は発見次第厳重に対処します。