子どもが何度も椅子や人にぶつかると、大人はつい「ちゃんと見て」「気をつけて」と声をかけたくなります。でも、その子は本当に見ていないのでしょうか。もしかすると、その子の中にはまだ、自分の身体がどこにあって、どれくらい動けば何に当たるのかという“身体の地図”が育っている途中なのかもしれません。
療育の現場では、「よく物にぶつかるんです」「人にぶつかってしまうんです」という相談を受けることがあります。
もちろん、中にはわざとぶつかっているケースもあります。注目してほしい、反応を引き出したい、遊びのつもりになっている。そうした場合は、子どもの行動をよく観察しながら、その背景に合わせた関わり方が必要になります。
けれど、すべてが「わざと」ではありません。
むしろ多くの場合、その子自身もまだうまく説明できないところで、身体の感覚が育ちきっていないことがあります。特に関係しているのが、固有感覚と呼ばれるものです。
固有感覚とは、簡単に言えば「自分の身体がどこにあるか」「どれくらい力を入れているか」「どの方向に動いているか」を感じ取る感覚です。目で見なくても、自分の腕が上がっていることがわかる。歩いているときに、足がどのくらい前に出ているかがなんとなくわかる。
私たちは普段、この感覚をほとんど意識せずに使っています。
たとえば、椅子と椅子の間を歩く場面を想像してみてください。「椅子にぶつからないように歩いてください」と言われたら、多くの大人は自然に身体の幅を調整し、少し肩を引いたり、歩幅を変えたりしながら通ることができます。
でも、固有感覚がまだうまく使えていない子にとっては、それが簡単ではありません。
本人はまっすぐ歩いているつもりでも、身体の幅や位置のイメージがつかめていない。椅子との距離感がわからない。自分の肩や腰がどこまで出ているのかが、身体の中でまだはっきりしていない。
だから、ぶつかってしまう。
それは「ふざけている」わけでも、「わざと困らせている」わけでもないことがあります。ただ、その子の中で身体の輪郭がまだ育っている途中なのです。
「気をつけて」と言う前に、その子の身体の中で何がまだ育っていないのかを見る必要があります。
ラブダイの普段の療育トレーニングでは、こうした子どもたちに対して、注意を増やすのではなく、感覚を育てるアプローチを大切にしています。
その一つが、ダンス領域を通したトレーニングです。
まずはタッチやボディタッチから始めます。身体のどこに触れられているのか。腕はどこにあるのか。肩、腰、足、背中。そうした身体の部位を、感覚として少しずつ確認していきます。
そこから、アイソレーションのような動きも取り入れていきます。首だけを動かす。肩だけを動かす。胸や腰を別々に動かす。こうした動きは、ただ踊るためのものではありません。
自分の身体を分けて感じるための練習でもあります。
子どもが自分の身体の位置を感じられるようになると、少しずつ「今、自分はどこにいるのか」「この幅なら通れるのか」「どれくらい動いたらぶつかるのか」がわかるようになっていきます。
もちろん、実際に空間を使ったトレーニングも行います。
最初は広いところから始めます。ぶつかる心配が少ない環境で、安心して身体を動かす。そこから少しずつ、通る幅を狭くしていきます。
いきなり難しい環境に置いて、「ほら、ぶつからないように」と求めるのではありません。
広い空間で身体を感じ、少し狭い空間で距離を感じ、さらに狭い空間で調整する。段階を踏むことで、子どもは自分の身体と周りの空間との関係を学んでいきます。
大切なのは、これを「注意される時間」にしないことです。
子どもにとって、毎回「ぶつからないで」「ちゃんとして」「見て歩いて」と言われる経験が続くと、身体を動かすこと自体が緊張や失敗の記憶になってしまうことがあります。
でも本来、身体の感覚は楽しい経験の中で育ちます。
動いてみる。触れてみる。揺れてみる。止まってみる。通ってみる。成功した感覚を積み重ねていく。
その中で、子どもは自分の身体の輪郭を少しずつ獲得していきます。
子どもは「注意」で身体を覚えるのではなく、「感じられた経験」で身体を覚えていきます。
だから私たちは、ただ「気をつけて」と言うのではなく、その子が楽しみながら感覚を身につけられるように、普段のトレーニングを組み立てています。
もちろん、すべての「ぶつかる」行動が同じ理由で起きているわけではありません。
わざとぶつかっているのか。距離感がつかめていないのか。身体の位置感覚が弱いのか。刺激を求めているのか。不安や興奮が関係しているのか。
そこは一人ひとりを見ながら丁寧に判断していく必要があります。
ただ、もしその子が何度も同じように物や人にぶつかってしまうなら、まずは叱る前に「この子は自分の身体をどのくらい感じられているだろう」と見てみることが大切です。
その視点があるだけで、関わり方は変わります。
「ちゃんと歩いて」ではなく、「身体を感じる遊びを増やしてみよう」になる。
「なんでぶつかるの」ではなく、「今は距離感を学んでいる途中なんだな」と受け止められる。
その違いは、子どもにとってとても大きいものです。
身体の地図は、一日で完成するものではありません。何度も動き、何度も感じ、何度も成功する中で、少しずつ描かれていきます。
椅子と椅子の間をすっと通れるようになることは、ただの移動の成功ではありません。
それは、自分の身体を知ること。周りの空間と関わること。そして、「できた」という感覚を自分の中に持てるようになることです。
だからこそ、私たちは注意ではなく、経験を届けたいと思っています。叱るよりも先に、身体が学べる場をつくる。困った行動の奥にある、まだ育っている途中の感覚に目を向ける。
子どもがぶつからずに歩けるようになるまでの道のりは、ただ真っ直ぐ歩く練習ではありません。
自分の身体と仲良くなっていくプロセスなのです。
療育の現場では、「よく物にぶつかるんです」「人にぶつかってしまうんです」という相談を受けることがあります。
もちろん、中にはわざとぶつかっているケースもあります。注目してほしい、反応を引き出したい、遊びのつもりになっている。そうした場合は、子どもの行動をよく観察しながら、その背景に合わせた関わり方が必要になります。
けれど、すべてが「わざと」ではありません。
むしろ多くの場合、その子自身もまだうまく説明できないところで、身体の感覚が育ちきっていないことがあります。特に関係しているのが、固有感覚と呼ばれるものです。
固有感覚とは、簡単に言えば「自分の身体がどこにあるか」「どれくらい力を入れているか」「どの方向に動いているか」を感じ取る感覚です。目で見なくても、自分の腕が上がっていることがわかる。歩いているときに、足がどのくらい前に出ているかがなんとなくわかる。
私たちは普段、この感覚をほとんど意識せずに使っています。
たとえば、椅子と椅子の間を歩く場面を想像してみてください。「椅子にぶつからないように歩いてください」と言われたら、多くの大人は自然に身体の幅を調整し、少し肩を引いたり、歩幅を変えたりしながら通ることができます。
でも、固有感覚がまだうまく使えていない子にとっては、それが簡単ではありません。
本人はまっすぐ歩いているつもりでも、身体の幅や位置のイメージがつかめていない。椅子との距離感がわからない。自分の肩や腰がどこまで出ているのかが、身体の中でまだはっきりしていない。
だから、ぶつかってしまう。
それは「ふざけている」わけでも、「わざと困らせている」わけでもないことがあります。ただ、その子の中で身体の輪郭がまだ育っている途中なのです。
「気をつけて」と言う前に、その子の身体の中で何がまだ育っていないのかを見る必要があります。
ラブダイの普段の療育トレーニングでは、こうした子どもたちに対して、注意を増やすのではなく、感覚を育てるアプローチを大切にしています。
その一つが、ダンス領域を通したトレーニングです。
まずはタッチやボディタッチから始めます。身体のどこに触れられているのか。腕はどこにあるのか。肩、腰、足、背中。そうした身体の部位を、感覚として少しずつ確認していきます。
そこから、アイソレーションのような動きも取り入れていきます。首だけを動かす。肩だけを動かす。胸や腰を別々に動かす。こうした動きは、ただ踊るためのものではありません。
自分の身体を分けて感じるための練習でもあります。
子どもが自分の身体の位置を感じられるようになると、少しずつ「今、自分はどこにいるのか」「この幅なら通れるのか」「どれくらい動いたらぶつかるのか」がわかるようになっていきます。
もちろん、実際に空間を使ったトレーニングも行います。
最初は広いところから始めます。ぶつかる心配が少ない環境で、安心して身体を動かす。そこから少しずつ、通る幅を狭くしていきます。
いきなり難しい環境に置いて、「ほら、ぶつからないように」と求めるのではありません。
広い空間で身体を感じ、少し狭い空間で距離を感じ、さらに狭い空間で調整する。段階を踏むことで、子どもは自分の身体と周りの空間との関係を学んでいきます。
大切なのは、これを「注意される時間」にしないことです。
子どもにとって、毎回「ぶつからないで」「ちゃんとして」「見て歩いて」と言われる経験が続くと、身体を動かすこと自体が緊張や失敗の記憶になってしまうことがあります。
でも本来、身体の感覚は楽しい経験の中で育ちます。
動いてみる。触れてみる。揺れてみる。止まってみる。通ってみる。成功した感覚を積み重ねていく。
その中で、子どもは自分の身体の輪郭を少しずつ獲得していきます。
子どもは「注意」で身体を覚えるのではなく、「感じられた経験」で身体を覚えていきます。
だから私たちは、ただ「気をつけて」と言うのではなく、その子が楽しみながら感覚を身につけられるように、普段のトレーニングを組み立てています。
もちろん、すべての「ぶつかる」行動が同じ理由で起きているわけではありません。
わざとぶつかっているのか。距離感がつかめていないのか。身体の位置感覚が弱いのか。刺激を求めているのか。不安や興奮が関係しているのか。
そこは一人ひとりを見ながら丁寧に判断していく必要があります。
ただ、もしその子が何度も同じように物や人にぶつかってしまうなら、まずは叱る前に「この子は自分の身体をどのくらい感じられているだろう」と見てみることが大切です。
その視点があるだけで、関わり方は変わります。
「ちゃんと歩いて」ではなく、「身体を感じる遊びを増やしてみよう」になる。
「なんでぶつかるの」ではなく、「今は距離感を学んでいる途中なんだな」と受け止められる。
その違いは、子どもにとってとても大きいものです。
身体の地図は、一日で完成するものではありません。何度も動き、何度も感じ、何度も成功する中で、少しずつ描かれていきます。
椅子と椅子の間をすっと通れるようになることは、ただの移動の成功ではありません。
それは、自分の身体を知ること。周りの空間と関わること。そして、「できた」という感覚を自分の中に持てるようになることです。
だからこそ、私たちは注意ではなく、経験を届けたいと思っています。叱るよりも先に、身体が学べる場をつくる。困った行動の奥にある、まだ育っている途中の感覚に目を向ける。
子どもがぶつからずに歩けるようになるまでの道のりは、ただ真っ直ぐ歩く練習ではありません。
自分の身体と仲良くなっていくプロセスなのです。