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エンタメ療育で育てる、伝えたい気持ち

子どもが何かを伝えようとしている瞬間には、ほんの小さな火種のようなものがあります。まだ言葉になっていないけれど、目線や表情や手の動きの中に、「これを見て」「これがしたい」「聞いてほしい」という気持ちが宿っている。その火を大人が先回りして消してしまうのか、それとも言葉につながるまでそっと育てるのか。発語の支援は、実はそこから始まります。

子どもの発語やコミュニケーションについて、よく相談を受けます。
「言葉がなかなか出てこないんです」
「一語文しかないんです」
「そもそも誰かに声をかける様子があまり見られません」
こうした悩みは、とても多いです。そして、その背景にあるものは一人ひとり違います。
ただ、日々のトレーニングの中で大切にしているポイントがあります。大きく分けると、二つです。
一つ目は、子どもの興味関心を育てること。
二つ目は、「この人に伝えたい」と思う気持ちを育み、それを言える環境を作ること。
この二つは、とてもシンプルに聞こえるかもしれません。でも実際には、とても繊細で、難しい部分でもあります。
なぜなら、言葉はただ教えれば出てくるものではないからです。
まず、子どもの心が動く必要があります。
面白い。欲しい。やってみたい。見てほしい。もう一回したい。誰かに聞いてほしい。
そういう内側の動きがあって、はじめて「伝えたい」という気持ちが生まれます。そして、その気持ちが少しずつ言葉につながっていきます。
言葉の前には、必ず心の動きがあります。
いきなり文章で伝えることができなくても、最初は「ねえねえ」という呼びかけかもしれません。指差しかもしれません。視線かもしれません。手を引くことかもしれません。
そこから少しずつ、「言葉で伝えると伝わるんだ」という成功体験を重ねていく。
その積み重ねが、発語やコミュニケーションの広がりにつながっていきます。
ただ、この場面で大人がやりがちなことがあります。
子どもが何かを伝えたい気持ちを見せた瞬間に、大人や支援者が先にくみ取ってしまうことです。
「〇〇ちゃん、これがしたいんだよね」
「これ欲しいんだよね」
「はい、どうぞ」
もちろん、それは優しさから出る行動です。子どもが困らないように、ストレスが少なくなるように、先回りして助けてあげたくなる。
でも、その経験が続くと、子どもにとっては別の学習になることがあります。
「言わなくても伝わった」
「声を出さなくてもやってもらえた」
「自分から伝えなくても大人がわかってくれる」
こうした成功体験が重なると、言葉を使う必要性が育ちにくくなる場合があります。
だからこそ大切なのは、子どもの「伝えたい」という気持ちが出てきたときに、少し待つことです。
待つというのは、放っておくことではありません。
子どもが伝えようとしている気持ちを見逃さずに、その気持ちが言葉につながるように支えることです。
たとえば、子どもが何かを欲しそうにしている。手を伸ばしている。視線を向けている。
そのときにすぐ渡すのではなく、少しだけ間を作る。
そして、伝えやすい言葉をそっと前に出してあげる。
「ちょうだい、だね」
「もう一回、って言ってみようか」
「やりたい、だね」
子どもが言いやすい形にして、言葉の入口を作ってあげるのです。
そして、実際に言えたときには、しっかり受け止める。
大人が嬉しそうに反応する。周りも一緒に喜ぶ。「伝わったね」「言えたね」「教えてくれてありがとう」と返していく。
この瞬間が、とても大切です。
子どもはそこで、言葉の楽しさを知ります。
伝える楽しさ。
伝わった嬉しさ。
自分の言葉で世界が少し動いたという感覚。
この感覚があるから、次もまた伝えようとする力になります。
発語のトレーニングというと、どうしても「言葉を出すこと」そのものに意識が向きやすいです。でも本当に育てたいのは、その前にある「伝えたい」という気持ちです。
言葉は、心が外に向かって伸びていくときに生まれます。
だから、子どもの興味関心を見つけることが大切です。
何に目が輝くのか。何をもう一回やりたがるのか。どんな遊びで表情が変わるのか。誰に近づこうとするのか。
その子の心が動くポイントを見つけることが、コミュニケーションの出発点になります。
そして、その心の動きを「誰かに伝えたい」という経験につなげていく。
言葉が少ない子に対して、ただ言わせようとするのではなく、言いたくなる場面を作る。伝えたくなる関係を作る。伝えても大丈夫だと思える環境を作る。
それが、日々の関わりの中でとても大事になります。
もちろん、一度で大きく変わるわけではありません。
「ねえねえ」から始まって、指差しが増えて、少しずつ音が出て、一語が出て、やりとりが増えていく。
その一つひとつの小さな成功体験を、丁寧に積み重ねていくことが必要です。
大人にできることは、子どもの代わりに全部を言ってしまうことではありません。
子どもの中にある「伝えたい」を見つけて、それが外に出てくるまでそばで支えることです。
先回りしすぎず、でも置き去りにもしない。
待つ。促す。受け止める。喜ぶ。
その繰り返しの中で、子どもは少しずつ知っていきます。
自分の気持ちは伝えていい。
言葉にすると届く。
誰かが聞いてくれる。
その安心感が、次の言葉を生みます。
発語は、単なる音の練習ではありません。
人とつながる経験の積み重ねです。
だからこそ、私たちは言葉の前にある心の動きを大切にしたいと思っています。子どもの中に小さく灯った「伝えたい」という火を、急かすのではなく、消すのでもなく、そっと育てていく。
その火が少しずつ大きくなったとき、子どもは自分の言葉で世界に手を伸ばし始めます。
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