発達障害の原因は?ASD(自閉スペクトラム症)・ADHD(注意欠如多動症)・LD・SLD(限局性学習症)それぞれ原因に違いはあるの?【小児科医監修】
発達障害の原因は、まだ解明が進んでいないことも多く研究段階ですが、かつて言われていた「親のしつけ方・育て方が悪い」「親の愛情不足」といった心因論は現在では医学的に否定されています。発達障害は、脳の機能的・器質的な違いによって生じると考えられますが、生物学的な指標や物質はまだ分かっていません。今回は、発達障害の特徴や原因に関する研究、症状の現れ方について紹介します。
小児神経専門医
てんかん専門医
子どものこころ専門医
どんぐり発達クリニック院長
発達障害とは
2005年4月に制定された発達障害者支援法では、発達障害は以下のように定義されました。
発達障害とは、発達障害者支援法において「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」と定義されています。
出典:5.発達障害について|文部科学省ホームページ
※以前は対人関係の困難、パターン化した行動や強いこだわりの症状がみられる障害の総称として「広汎性発達障害」が用いられていましたが、アメリカ精神医学会発刊の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)では自閉的特徴を持つ疾患は包括され、2022年(日本版は2023年)発刊の『DSM-5-TR』では「自閉スペクトラム症」という診断名になりました。この記事では以下、ASD(自閉スペクトラム症)と記載しています。
「注意欠陥・多動性障害」についても、2022年(日本版は2023年)発刊の『DSM-5-TR』で「注意欠如多動症」という診断名になりました。この記事では以下、ADHD(注意欠如多動症)と記載しています。
学習障害は現在、「SLD(限局性学習症)」という診断名となっていますが、最新版DSM-5-TR以前の診断名である「LD(学習障害)」といわれることが多くあるため、ここでは「LD・SLD(限局性学習症)」と表記します。
知的発達症(知的障害)は、「発達障害者支援法」では発達障害に含まれていませんが、ASD(自閉スペクトラム症)など発達障害のある人の中には知的発達症(知的障害)を伴う場合もあります。
発達障害は増えている?
◇「学習面又は行動面で著しい困難を示す」とされた児童生徒数の割合:8.8%(推定値)
※小学校・中学校、学級担任等が回答
この調査は、学級担任等の回答であり発達障害の診断率ではありませんが、前回調査(2012)よりも2.3ポイント増であることから、特別な支援が必要と思われる児童生徒が増えていることが分かります。
また、特別支援学級に在籍する児童生徒数については、2010年の14.5万人に対し2020年では30.2万人と年々増え続けています。このことから、特別支援教育を受ける子どもの数は増えていると言えるでしょう。
これらの背景には、発達障害が広く認知されるようになったことも関連していると考えられます。ほかにもさまざまな要因が重なっていると思われますが、発達障害のある人が増えているのかどうかという点は、現在のところ分かっていません。
発達障害の原因は?
発達障害の原因は研究段階
発達ナビライターのべっこうあめアマミさんも、かつて自分を責めた日々のことを以下のようにつづっています。
人への興味が薄い息子、私の育て方のせい?
当時は「歩かない」ことが息子の発達における最も重大な問題に思えました。ですが問題なのは精神的な発達の遅れのほうだったと、今なら思います。
というのも、今の息子はむしろ同年代の定型発達のお子さんより歩くんじゃなかろうか、というくらいよく歩く子ですが、指さしは7歳になった今もできません。人の真似などもほとんどしません。突然突きつけられた発達の遅れに、私の育て方が悪かったのかと何度も自分を責めました。
新連載!ASD息子は特別支援学校の2年生。発語0で指差しもできない…「私の子育てのせい?」自分を責めた日々とこれからのこと
遺伝的要因と環境的要因が影響している可能性
例えば、遺伝子研究においては、ASD(自閉スペクトラム症)に関して、一卵性双生児の研究から、遺伝的要因が強いことが示唆されていますが、多数の遺伝子が関与していると考えられ、特定の遺伝子については現在のところ分かっていません。発症を決定づける単一の遺伝子が特定される可能性は、非常に低いと考えられています。
また、生物学的な説明がされるときの「環境的要因」については、親の育て方など出生後の環境を指すのではなく、生まれる前や周産期の要因を指します。
妊娠中の影響についての研究も一部行われていますが、再現性のあるものもあればないものもあり、引き続き研究が必要であると考えられています。特定の食べ物や母親・父親の要因なども解明されていません。
脳研究なども行われているものの、研究途上であり、包括的な解明には至っていません。
ただし、社会生活を送る上でどのような困難さが生じるかという点については、「その人が過ごす環境」との相互作用であるため、同じ症状があったとしても困難の程度や内容はさまざまです。この場合の「その人が過ごす環境」とは、家庭や園・学校といった場や関わる人、使う道具や方法などを指します。
特に「親の関わり方などの家庭環境が子どもの発達に影響したのでは?」と不安に思うご家庭もあるかもしれません。家庭環境はお子さんの過ごしやすさに影響する面はあるとも考えられていますが、発達障害の原因については、先天的(生まれる前)という考えが現在の主流です。
発達障害による困りごとが生じる過程って?検査方法は?
発達障害の発症から困りごとが生じる過程
例えば、ASD(自閉スペクトラム症)では、他者の視点に立って考えることの難しさから、相手を不快にさせてしまい友人関係をうまく築けないことなどがあります。ADHD(注意欠如多動症)では、多動・衝動性の特性から、授業に集中できない・先生の指示を聞きもらしてしまうなどがあり、集団参加が難しくなる場合もあります。
特に、集団参加や社会的なふるまいが要求され始める時期に、困りごとが生じ始めることもあります。例えば、以下のようなきっかけでなんらかの支援を受けることもあります。
・1歳6か月児健診や3歳児健診などの乳幼児健康診査
・入園や入学など、新しい環境で集団生活が始まったタイミング
・子育ての大変さが大きく、医師や相談窓口に相談したタイミング など
LD・SLD(限局性学習症)については、学習に関わる困難さであるため、就学後に明らかになることが多いと言われています。しかし、就学前から音韻認識の弱さなど、読み書きに関わる力の苦手さが現れていることもあります。
また、子どもだけではなく、大人になってから検査を受け、発達障害の診断を受けることもあります。なかには、不安障害(不安症)やうつ病などの気分障害など、いわゆる二次障害と呼ばれる症状や状態となり、その診察や検査の過程で発達障害の診断となる場合もあります。
発達障害を検査する方法はあるの?
現在の医学では妊娠中の羊水検査、血液検査、エコー写真などの出生前診断で発達障害が判明することはありません。また、出生後も遺伝子検査や血液検査といった生理学的な検査では診断できません。
これは、発達障害の原因が完全には解明されておらず、またその原因も複雑で単一ではないと考えられるためです。今後も生理学的な検査方法を確立するのはかなり難しいとも言われています。
発達障害の診断は、一般的にアメリカ精神医学会の診断基準である『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)やWHOの診断基準である『ICD-11』(『国際疾病分類』第11版)に基づいて行われます。医師による問診や行動観察、心理検査や発達検査の結果や、日常生活・社会生活でどのように困難さが生じているかなどから、総合的に判断されます。
ASD(自閉スペクトラム症)・ADHD(注意欠如多動症)・LD・SLD(限局性学習症)、それぞれの原因は?
ASD(自閉スペクトラム症)の原因
ASD(自閉スペクトラム症)においては、いくつかの認知仮説があります。1つは、「心の理論」と言われるものに障害があるのではないかという仮説です。「心の理論」とは、相手の行動を見て相手の考えを予測し解釈するという心の動きを指します。
もう1つの仮説は、「中枢性統合の弱さ」です。これは、情報処理の過程において、全体を統合するのではなく部分に着目する傾向から、自分や相手の状況等を包括的に把握することが難しいのではないかという仮説です。そのために、対人関係の難しさが生じたり、社会的ふるまいが難しかったりする可能性が考えられています。
ほかにも「実行機能」という、「なにかをやり遂げる」ための認知・感情・行動を制御する力に難しさがあるのではないかという研究もあります。
ミラーニューロンの機能不全があるとする説もあります。ミラーニューロンは他人の行動を観察したときに、自分がその行動を実行しているかのように反応する神経細胞です。ASDにおいては、ミラーニューロンの機能が低下しており、他人の行動や感情を理解する能力が影響を受けているのではないかと考えられています。
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ADHD(注意欠如多動症)の原因
特に研究段階ではあるものの、ドパミン(※1)およびノルアドレナリン系(※2)の差異が関連しているのではないかと言われています。
(※1)ドパミン:神経伝達物質の一つで、快く感じる原因となる脳内報酬系の活性化において中心的な役割を果たしている。
(※2)ノルアドレナリン:交感神経の情報伝達に関与する神経伝達物質。ノルアドレナリンが放出されると、交感神経の活動が高まり、体を活動に適した状態にする。
実行機能障害は、計画、情動制御、作業記憶などの障害に関連しています。タスクの管理や時間の管理、目標達成の困難さに影響を与えます。
報酬系機能障害は、報酬を魅力的と感じる効果が持続しない、報酬が得られない時に他のことに気が逸れることに関連しています。長期的な報酬よりも、短期的な利益を優先する傾向があり、学習や計画立てが困難になることがあります。
時間処理機能障害は、時間的な長さ、段取りなどを知覚する機能の障害であり、段取りをつけて物事をこなすことが困難になることがあります。
LD・SLD(限局性学習症)の原因
中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されていますが、教育の経歴や学習環境が直接の原因となるものではないとされています。
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発達障害は治療できるの?
療育(発達支援)や教育
療育(発達支援)では、障害のあるお子さんが社会的に自立できるように、身辺自立や苦手なことを伸ばすことを意識した働きかけや、コミュニケーションなどの社会的スキルを得られるように助けます。
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薬による治療
服薬により、注意や衝動性といった特性の影響でこれまで取り組みづらかった活動へ参加しやすくなったり、行動上の困りが軽減し意欲や自尊心の向上につながったりすることもあります。
ほかに興奮などに対しては抗精神病薬や、気分の変動には気分安定薬などが使用される場合があります。
しかしながら薬には合う合わないもあり、副作用も個人差があります。薬の利用は主治医とよく相談し、納得した上で用法・用量を守って進めるようにしましょう。
ADHD(注意欠如多動症)においても、教育的支援が第一とされています。行動面や生活面、学習面において、保護者や先生、支援者と共に一人ひとりに合った支援やサポートを検討していくことが大切です。
まとめ
発達障害の原因は少しずつ明らかになってはいるものの、いまだにわからないことが多いのが現状です。また、発達障害は、複数の要因が複雑に絡み合っていると考えられるため、特定の要因については今後もわからないのではないかという考え方が主流となっています。
子どもと関わる上では、本人の困りやその背景を理解し、その子に合った環境調整や支援を検討していくことが大切です。保護者や支援者が一人で悩み考えるのではなく、地域の相談機関や専門家と連携しながら一緒に考えていけるとよいでしょう。
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