「読むのが苦手…」ディスレクシア(読字障害・読み書き障害)の診断・検査の内容は?

ディスレクシアは読み書き障害、難読症とも呼ばれる学習障害の一種です。まだまだ日本での認知度は低いですが、診断はどういった内容のものがあるのでしょうか?読むことに困難を抱えている子どもに気づき、支援につなげるための様々な検査方法についてもご紹介します!


ディスレクシアの症状・特徴とは?
出典:https://www.ncchd.go.jp/hospital/sickness/children/007.html文字の読み書きに限定した困難さをもつ疾患です。知的能力の低さや勉強不足が原因ではなく、脳機能の発達に問題があるとされています。
引用:ディスレクシア|国立成育医療研究センター
主な文字認識の問題は、大きく以下の2つです。
1.「文字の読み方の認識が難しい」音韻処理の不全
音韻機能とは最小の音単位を認識・処理する能力を指しますが、ディスレクシアの人の脳の特性として、音韻の処理に関わる大脳基底核と左前上側頭回という領域の機能異常があるという説が主流となっています。そのため音を聞き分けたり、文字と音を結びつけて「読む」ことが難しいと言われています。
・文字を音に変換して読むのが苦手
・単語のまとまりを理解するのが難しい
・耳から聞いて記憶するのが苦手
2.「文字の形の認識が難しい」視覚情報処理の不全
ディスレクシアの人の中には、視覚認識や眼球運動に偏りがあり、普通の文字の見え方とは違った見え方をしている人もいると言われています。
・文字がにじんだり、ぼやけた状態で見える
・らせん状に文字がゆがんだり、3Dのように浮き出て見える
・鏡に映したように文字が左右反転して見える
・文字を点で描いているような点描画に見える
以上の状態から文字が読み取りづらく、語句や行を抜かしたり、逆さ読みをしたり、音読が苦手な傾向にあります。また、読みだけでなく、読めないことで書くことにも困難があらわれる場合もあります。
ディスレクシアの人は文字が全く読めないわけではなく、文字を理解するのに非常に時間がかかるのがその特徴です。一方、音声にすると理解することが多く、会話能力は問題ないことがほとんどです。
ディスレクシアはいつ分かる?診断の年齢は?
就学前の乳幼児期には文字に興味を示さなかったり、言葉の発達が遅れるなどの症状が現れますが、専門機関に行っても経過観察になることがあります。
日本でのディスレクシアの認知度はまだまだ低く、最近になって少しずつ知られるようになりました。そのため、障害に気づかずに成長し、大人になってからディスレクシアの診断を受ける人もいます。また、ADHDや自閉症スぺクトラム障害などと合併している場合もあり、それらの診断や治療の過程でわかることもあります。
専門機関でディスレクシアの診断を受ける目安は?
ところが、本人は頑張っていても読めないのに、怠けていると思われることも多く、先生や親から叱られることもあります。そこからうつ病や不登校などの二次障害を引き起こすことがあるため、早めにディスレクシアと気づいて適切なサポートにつなげることが大切です。
今現在、ディスレクシアを医学的に根本治療する方法は確立されていません。診断は必ず受けなくてはいけないものではありません。ですが、検査によって何に困難を感じているかがわかることがあり、それが支援や解決のきっかけになることも多くあります。
ディスレクシアと思われる症状が見られたら、まずは専門機関で相談だけでも受けることをおすすめします。
ディスレクシアの診断基準
同じような症状として医療機関では世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)(※)における特異的読字障害(Specific Reading Disorder)やアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)における限局性学習障害(Specific Learning Disorder)として診断されます。
近年使用されることが多い最新の診断基準『DSM-5』では、ディスレクシアもディスグラフィア(書字障害)やディスカリキュリア(算数障害)などとともに「限局性学習症/限局性学習障害」という名称で診断されます。この診断基準に多くあてはまり、特に「読字の正確さ」「読字の速度または流暢性」「読解力」に困難がある場合は、ディスレクシアとして考えることができます。
以下が『DSM-5』の診断基準です。
出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4260019074A.学習や学業的技能の使用に困難があり、その困難を対象とした介入が提供されているにもかかわらず、以下の症状の少なくとも1つが存在し、少なくとも6ヶ月間持続していることで明らかになる:
(1)不的確または速度が遅く、努力を要する読字(例:単語を間違ってまたゆっくりとためらいがちに音読する、しばしば言葉を当てずっぽうに言う、言葉を発音することの困難さをもつ)
(2)読んでいるものの意味を理解することの困難さ(例:文章を正確に読む場合があるが、読んでいるもののつながり、関係、意味するもの、またはより深い意味を理解していないかもしれない)
(3)綴字の困難さ(例:母音や子因を付け加えたり、入れ忘れたり、置き換えたりするかもしれない)
(4)書字表出の困難さ(例:文章の中で複数の文法または句読点の間違いをする、段落のまとめ方が下手、思考の書字表出に明確さがない)
(5)数字の概念、数値、または計算を習得することの困難さ(例:数字、その大小、および関係の理解に乏しい、1桁の足し算を行うのに同級生がやるように数字的事実を思い浮かべるのではなく指を折って数える、算術計算の途中で迷ってしまい方法を変更するかもしれない)
(6) 数学的推論の困難さ(例:定量的問題を解くために、数学的概念、数学的事実、または数学的方法を適用することが非常に困難である)
B.欠陥のある学業的技能は、その人の暦年齢に期待されるよりも、著明にかつ定量的に低く、学業または職業遂行能力、または日常生活活動に意味のある障害を引き起こしており、個別施行の標準化された到達尺度および総合的な臨床消化で確認されている。17歳以上の人においては、確認された学習困難の経歴は標準化された評価の代わりにしてよいかもしれない。
C.学習困難は学齢期に始まるが、欠陥のある学業的技能に対する要求が、その人の限られた能力を超えるまでは完全には明らかにはならないかもしれない(例:時間制限のある試験、厳しい締め切り期間内に長く複雑な報告書を読んだり書いたりすること、過度に思い学業的負荷)。
D.学習困難は知的能力障害群、非矯正視力または聴力、他の精神または精神疾患、心理社会的逆境、学業的指導に用いる言語の習熟度不足、または不適切な教育的指導によってはうまく説明されない。
引用:「DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル」P.65|日本精神神経学会監修,医学書院
ディスレクシアの診断に関する相談先
子どもか大人かによって、行くべき専門機関が違うので、以下を参考にしてみてください。
【子どもの場合】
・保健センター
・子育て支援センター
・児童発達支援事業所
・発達障害者支援センター など
【大人の場合】
・発達障害者支援センター
・障害者就業・生活支援センター
・相談支援事業所 など
知能検査や発達検査は児童相談所などで無料で受けられる場合もありますし、障害について相談することも可能です。その他、発達障害者支援センターで障害についての相談ができます。
自宅の近くに相談機関が無い場合には、電話で相談に乗ってもらえることもあります。以下は小児神経学会が発表している、発達障害診療医師の名簿です。この他にも、児童精神科医師や診断のできる小児科医師もいます。
ディスレクシアの診断の流れ、必要な持ち物は?
診断の手順と内容
医療機関によっても異なりますが、まずは問診で現在の症状や困りごと、赤ちゃんの時から今までの生育・養育歴、既往症や家族歴などを調べていきます。脳波検査、頭部のCT、MRIなどでてんかんや脳の器質的な病気といった異常がないかを検査します。そして知能検査や認知能力検査などの心理検査を行います。
知能検査では「WISC-Ⅳ」が代表的です。「WISC-Ⅳ」では本人のもつIQ水準をチェックし、言語理解、知覚推理などを検査します。(3歳10ヶ月〜7歳1ヶ月の幼児の場合は「WPPSI」、5歳から16歳11ヶ月の子どもは「WISC」、16歳以上の成人の場合は「WAIS」という知的検査を受けることによって検査結果がでます。)
認知能力検査には日常生活や学校で習得できた知識や情報を認知的に処理する能力を調べ、神経心理学的な立場から認知的な処理能力と習得度を評価できる「KABC-Ⅱ」や「DN-CAS」などもあります。また、読むときの流暢性など読みに関する検査や、サッケード反応など視覚機能に関する検査が実施されることもあります。
これら様々な情報を元に、総合的に学習障害やディスレクシアがあるかを判断するのです。また、こうした過程でADHDや高機能広汎性発達障害などが合併していないかも確認します。
準備するべき持ち物
WISCやK-ABCなどの知能検査では基本的に持参するべき持ち物はありません。病院などの場合は保険証を持っていく必要があります。また、生育歴(子どもの発育記録)を聞かれることもあるため、気になった点などをメモしていくとよいでしょう。心配な方は事前に電話して必要な持ち物を聞くこともおすすめです。
検査が困りごとを解決するきっかけになります
自分の子どもは怠けている、自分の子育て方法が間違っていると思わず、ディスレクシアの特徴が現れていないか観察してみてください。少しでも兆候があるようであれば、専門機関で相談したり、検査を受けることをおすすめします。早めに気づいてあげることが、今後の学習支援や子どもの心のケアの面でも大切です。

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