回避性パーソナリティ障害(回避性パーソナリティ症)とは?診断や症状【医師監修】

ライター:発達障害のキホン
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回避性パーソナリティ障害(回避性パーソナリティ症)とは、傷つくことや失敗を極度に恐れ、仕事や恋愛など生活に支障をきたす障害です。症状の特徴は日本人の性格によくみられるものですが、自分には逃げ癖があると自己肯定感が下がってしまったり、社会生活が困難になるほど悩みを抱えている場合、専門機関からの適切な支援が必要です。この記事では、回避性パーソナリティ障害(回避性パーソナリティ症)の症状や症状を克服するためにできること、治療法、本人や周囲の心がけについて解説していきます。

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監修: 染村宏法
精神科医
産業医
大手企業の専属産業医として勤務後、昭和大学精神医学講座へ入局、昭和大学附属烏山病院での勤務を経て、現在は精神科外来診療と複数企業の産業医活動に従事。また北里大学大学院産業精神保健学教室において、職場のコミュニケーション、簡易型認知行動療法、睡眠衛生等に関する介入研究や教育に携わった。
目次

回避性パーソナリティ障害(回避性パーソナリティ症)とは

回避性パーソナリティ障害(回避性パーソナリティ症)は、過度に自尊心が低く、他人からの評価を気にするあまり社会的な活動にも支障をきたすパーソナリティ障害(パーソナリティ症)の一つです。

回避性パーソナリティ障害(または回避性人格障害)は現在、「回避性パーソナリティー症」という診断名となっていますが、最新版『DSM-5-TR』以前の診断名である「回避性パーソナリティ障害」といわれることが多くあるため、ここでは「回避性パーソナリティ障害(回避性パーソナリティー症)」と表記します。

診断にあたっては、以下のような症状が4つ以上みられるか、その症状が成人期早期までにあらわれているかが確認されます。
・批判や拒絶されることに強い恐怖心を抱きほかの人との接触が生じる活動(仕事を含む)を避ける
・好かれているかわからなければ対人関係を持ちたがらない
・恥をかくのを恐れ親しい相手に対しても遠慮をしがち
・社会的に批判、拒絶されないかとても気にする
・自信がなく新しい対人関係を築こうとしない
・自分自身に長所がないと思い込んでいる
・異常なほど引っ込み思案で、新しい行動をすることなどを恐れる
参考:『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』 American Psychiatric Association (原著), 日本精神神経学会 (監修, 著), 高橋 三郎 (監修), 大野 裕 (監修)
https://www.amazon.co.jp/dp/4260052187
こうした回避的な思考は、多かれ少なかれ多くの人が持っているものです。回避性パーソナリティ障害(回避性パーソナリティ症)といえるのは、これらの傾向に柔軟性がなく、持続的で、社会生活が困難になるほどの苦痛を引き起こす場合に限ります。

回避的パーソナリティの傾向は、日本特有の奥ゆかしさや恥の文化と重なります。他人の評価や反応を必要以上に気にして人前にあまり出たくないというパーソナリティを持つ日本人は多く、これらの基準に当てはまるからといって必ずしも「障害」とはいえないこともあります。

例えば、診断基準である『DSM-5-TR』はアメリカの基準であるため、日本の社会の仕組みや文化的背景を考慮しないと必ずしも治療を必要としない人にまで治療をしてしまうかもしれません。
しかしこれは裏を返せば、日本では回避性パーソナリティ障害(回避性パーソナリティ症)は理解されやすく、受け入れられやすい土壌があるということも意味しています。
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パーソナリティ障害とは?分類と症状、原因や具体的な治療法、周囲の接し方について徹底解説!

回避性パーソナリティ障害(回避性パーソナリティ症)に向いている仕事とは? 症状を克服するためにできることは?

回避性パーソナリティ障害(回避性パーソナリティ症)は、失敗や批判を恐れたり、人との衝突を極度に避ける特性から、仕事への影響も少なくはありません。ただ、自立した生活を送るうえで、自分に合った仕事を見つけることは非常に重要です。障害特性の理解を深めることで、無理なく、自分らしく働ける「向いている仕事」が見えてくるはずです。

回避性パーソナリティ障害回避性パーソナリティ障害(回避性パーソナリティ症)に向いている仕事とは

回避性パーソナリティ障害(回避性パーソナリティ症)の人は、人との関わりにストレスを感じやすい傾向があります。接客業や営業職のほか、チームで協働することが求められる仕事は、心理的負荷が高く、向いていないと感じることが多いかもしれません。
反対に、個人の作業が中心の仕事は、コミュニケーションによるストレスが少なく、回避性パーソナリティ障害(回避性パーソナリティ症)の人にとっても取り組みやすいものといえるでしょう。
プログラマー、デザイナー、ライター、データ入力などの仕事は、在宅でできるものも多く、スキルを積めばフリーランスとして独立することも可能です。
また、ポスティング、ビルメンテナンス、清掃、在庫管理などの仕事も、比較的、他者との関わりが少なく、仕事の手順を覚えれば失敗のプレッシャーにさらされることも少ないことから、不安を感じずに仕事に集中することができる可能性があります。

□個人作業の割合の多い仕事
□大きな責任を問われない仕事
□在宅勤務やバーチャルオフィス活用など、柔軟な働き方ができる職場

こうした条件で仕事探しをしてみると、働きやすい仕事が見つかりやすくなるかもしれません。

本人が心がけることは?

回避性パーソナリティ障害(回避性パーソナリティ症)の人は、親の期待のもとで形成された「理想的な自己」のイメージと、その理想に届かない「劣等的な自己」のイメージの両方を持っていますが、中間にある「等身大の自己(ありのままの自分)」のイメージが持てていないと考えられています。そのため、何か行動を起こして失敗したときに自尊心が傷つくことに過敏になってしまっているのです。

「等身大の自己」を形成するためには、どんなに小さなことでも自らチャレンジして、成功体験を積み重ねることが必要です。不安や恐れ、迷いは一度横に置いてみて、チャンスが巡ってきたときはまず実行してみましょう。小さなことでもチャレンジを続けることで、失敗の恐れや不安は次第に消えていくはずです。

また、うまくいく経験ばかりを求めないことも大切です。失敗は成功より価値のある体験で、次につながる学びだと考えましょう。「失敗してもまたやってみればいいや」と気楽に構えてみてください。

どうしても一歩を踏み出せないときは、背に腹は代えられない状況を作ってみるというのも一つの方法です。これまでの自分を守ってくれるものがなくなると、一歩踏み出して動き出したというケースは多いようです。

例えば、引きこもりの青年が、その子をずっと心配していた父親が亡くなるとその年のうちに仕事をはじめ、以来ずっと仕事を続けているというケースもあるそうです。

まずは自分が「やってみたい」と思うことから、少しずつチャレンジを重ねていきましょう。
◆小さなことでも褒めて自信につなげさせる
回避性パーソナリティ障害(回避性パーソナリティ症)の人は、「自分は何をやってもダメだ」という否定的な自己イメージを持っています。他者からの評価にも非常に敏感であるため、周囲の人は言葉のかけ方に配慮する必要があります。けなしたり、否定したり、拒絶したりといった対応は、自信を喪失させ、症状の悪化を招くため、避けなければなりません。

逆に、小さなことでも何かに成功したときは、良かった点を褒めることが本人の自信につながります。結果だけでなく、その過程や意欲、姿勢自体を褒めるのがよいでしょう。

◆本人の主体性を尊重する
誰にとっても、自分が望まないことをさせられるのは気が重いものです。ましてや、それがうまくいかずに叱責されたりしたら、怒りが湧くこともあるでしょう。回避性パーソナリティの人は、こうした場合にも「自分がいけなかったんだ」「私に能力がないから」と、意思に無関係なことをさせられたことよりも、自分を責める傾向があります。こうしたことが続けば、自尊心は深く傷つき自己肯定感が失われてしまいます。

回避性パーソナリティ障害(回避性パーソナリティ症)を持つ人は、積極的にチャレンジをしたり、自分から率先して挙手をするタイプではありません。だからといって、周りが先回りして本人の意思決定を横取りするのは考えものです。主体性や気持ちを尊重し、本人が意思表示をするのを待つことが大切です。自分の人生に決定権と責任を持つことが自立へとつながります。本人が行動や意思決定を躊躇している場合は、周りは第三者のような距離で程よく背中を押すとよいでしょう。

◆回避の慢性化・全般化を防ぐ
回避はストレスや傷つきに対する自然な反応です。極限まで頑張らせようと無理強いすると回避行動が全般化してしまうことがあります。全般化とは、回避があらゆる場面にまで及ぶことです。たとえば、慣れた仕事は着実にこなせていた人に、次のステップとなる新しい業務を強要した結果、これまでしっかりできていた日常業務にまで回避行動が見られるようになったりするのも、全般化の一例です。趣味や好きなことにまで後ろ向きになって引きこもってしまったり、親や友人など親しい人との関わりまで断とうとしたり、全般化が進むと、回避行動が長引き、慢性化していく悪循環に陥ってしまいます。
全般化を防ぐには、「疲れたときは休めばよい」ということを伝え、適度に逃げ場をつくってあげることが大切です。

回避の反応が長引いている人に対しては、第三者の力を借りて風穴を開けたり、本人がやりたいと思っていたことを突破口にしてみることが有効です。失敗やつまずいたことにはこだわらず、うまくいかなかったらまた考える、というようなおおらかなスタンスでじっくり焦らず取り組むのがよいでしょう。
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回避性パーソナリティ障害(回避性パーソナリティ症)の原因は? 発達障害との関連は?

遺伝的要因と環境的要因

パーソナリティ障害(パーソナリティ症)の原因は、遺伝的要因と環境的要因の2つに分けられると考えられています。
遺伝的要因についてはまだ解明途上で、詳しいことはよく分かっていません。
消極的な性格や不安が強い性格が遺伝していることも考えられますが、かつては活発な子どもだったにもkaわらず、あることをきっかけに回避性パーソナリティ障害(回避性パーソナリティ症)となることもあるため、環境要因も大きく影響していると考えられます。

環境的要因については、幼少期の親との関わり方や過去の社会的体験などの影響が指摘されています。

発達障害とパーソナリティ障害(パーソナリティ症)の関連は?

発達障害がある子どもにとって、周囲からの適切な支援や理解は非常に重要です。障害の特性を誤解されて注意ばかりされたり、いじめのターゲットになったり、友達から孤立したりといったことが続けば、社会的体験はつらいものになり、自己肯定感も損なわれてしまうかもしれません。こうした経験の積み重ねは、当然、将来のパーソナリティの形成に大きく影響することもあります。

発達障害自体がパーソナリティ障害(パーソナリティ症)へと発展するのか、それとも発達障害の抱える困難がパーソナリティ障害(パーソナリティ症)になりやすい要因となるのかは未だ解明されていません。

ですが、発達障害がある人に対しては、本人の特性を理解し、できるだけポジティブな社会心理体験が積めるように配慮することが特に重要だといえるでしょう。
次ページ「回避性パーソナリティ障害(回避性パーソナリティ症)とほかの障害との関連」

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