医学と社会の「統合モデル」としてのICF

これまでは人間の障害や生活機能を考える際に、「医学モデル」と「社会モデル」という考え方が主流でした。

「医学モデル」では、病気やけがなどが直接障害を引き起こすものとして理解されるため、障害への対応には医療が必要不可欠なものとされています。一方で「社会モデル」では、障害が周囲の環境によって作り上げられるものとされているため、社会の環境を変えることが障害をなくすことにつながるとの考え方がされています。

ICFの考え方は、これまでの「医学モデル」と「社会モデル」を統合するものということができます。つまり、障害を個人と周囲の環境双方からとらえ、人間の状況を全体的に理解することを目指しているのがこのICFなのです。

ICFを構成する要素

ICFでは人の生活機能を「心身機能・身体構造」、「活動と参加」という2つの要素から構成しています。そして、その生活機能に相互に影響を与えあう背景因子として「環境因子」と「個人因子」の2つを挙げています。

ここではそれぞれの要素がICFにおいてどのように説明されているか、そしてどのような項目のもとで分類分けされているかをご紹介します。初めに、生活機能を構成している「心身機能・身体構造」と「活動と参加」の2つの要素についてです。

生活機能と障害

生活機能は初めにも触れたように、「人が生きていくこと」を指しています。反対に生活機能が制限されているとき、人の生活にはなんらかの「障害」が伴っているということができます。

ICFでは生活機能を構成している「心身機能・身体構造」と「活動と参加」に関する項目が合わせて1,000個以上存在します。「心身機能・身体構造」は「.0:機能障害なし」から「.4:完全な機能障害」までの5段階で評価され、「活動と参加」の部分は「.0:困難なし」から「.4:完全な困難」までの5段階で評価されます。

それぞれの項目では機能や活動状況などが詳細に記載されていますが、具体的にはどのようなものがあるのでしょうか。
◇心身機能・身体構造
心身機能とは身体の生理的、心理的機能のことを指しています。見ることや聞くこと、呼吸をすることや音声を発することなどの能力がはかられるのがこの項目です。

身体構造とは、身体のそれぞれの器官や、肢体とその構成部分などのことを指します。つまり、脳や呼吸器、骨や皮膚など、身体の各部分の位置や大きさなどが分類されています。

◇活動と参加
活動とは、生活上の目的を持った具体的な行いのことを指しています。読むことや書くことに加え、コミュニケーションをとることや家庭生活を行うことなどがここに含まれます。

参加とは、家庭や社会などへの関わりのことを指しています。働くことやスポーツをすること、地域の中で何か役割を果たすことなどが、参加の中に含まれています。

ICFでは、活動と参加は「実行状況」と「能力」の2つにおいて評価することが大切だとしています。「実行状況」とは現在「している」活動であり、「能力」とはすることが「できる」活動です。

たとえば「調理」という活動に関して、それを現在の状況で実行しているかと、実行できる能力があるかは異なる場合があるでしょう。両者をそれぞれで評価し、その程度の差をはかることは、その後の活動へのヒントにもなることがあるのです。

背景因子

人がどのような状態で生きているか、どのような障害を感じながら生きているか、を判断するためには、どうしてそのような状況になっているのかを的確に判断する必要があります。ICFでは状況を作り出している要因を「環境因子」と「個人因子」に分けています。

ICFでは背景因子の中で「環境因子」のみを分類分けしていますが、評価の際にはプラスの状況とマイナスの状況どちらも評価できるようになっています。つまり、環境が生活機能に良い影響を与えている場合は「+0:促進因子なし」から「+4:完全な促進因子」の5段階で程度を評価することができ、逆に環境が生活機能にマイナスの影響を与えている場合は「.0:阻害因子なし」から「.4:完全な阻害因子」の5段階でレベルを評価することができます。
◇環境因子
環境因子は、人の生活機能に影響を与える外的な要因です。たとえば、建物の設備、交通機関のバリアフリー状況などの物的な環境が例として挙げられます。それだけではなく、環境因子には家族や友達、世間の人の目などの人的な環境や、医療や保健などのサービスも制度的な環境として含まれています。

◇個人因子
個人因子とは、その人に固有の特徴のことを指しています。この個人因子に関しては、現在のICFでは分類分けされていませんが、年齢や性別、民族などの基本的な特徴に加えて、社会的状況や人生体験なども、この個人因子として生活機能の分類に含めることができます。

ここで注意しておきたいのは、環境や個人的な要因が、生活機能にマイナスの影響を与えるものとしてのみとらえられるべきではなく、プラスの影響も与えるものとして理解される必要があるということです。

ICFの生活機能モデル

以上で説明したように、ICFは人の生活機能を的確にとらえるための分類を提供しています。しかし、ICFの考え方を最大限に活用するためには「心身機能」や「環境」の状況をバラバラに評価するだけでは十分ではありません。

それぞれの項目を独立したものとして評価するだけではなく、各項目がどのように関わりあっているのか、どこを改善すれば生活機能がよりよい状況になるのか、を考えていくことがICFの考え方では重要です。そこで、ICFの要素の関係性を分かりやすく示したのが次のICFモデルです。
生活機能、背景因子、健康状態の要素の各項目がどのように関わりあっているのかを分かりやすく示したものがICFモデルです。
ICFモデルの図
Upload By 発達障害のキホン
出典:障害者福祉研究会『ICF国際生活機能分類ー国際障害分類改訂版ー』2002年 中央法規出版/刊
https://www.amazon.co.jp/dp/4805844175
このモデルにおいて注目すべきなのは、それぞれの要素をつなぐ矢印が、すべて双方向に向いていることです。たとえば「エレベーターがない」という環境要因が「地域の活動に参加できない」という参加の制限につながる可能性がある一方で、「地域の活動に毎週参加している」という参加が「エレベーターの設置」という環境の変化につながる場合もあります。双方向の矢印はこのようなお互いが影響しあう可能性を示しているのです。

また、この関係性は必ずしも2つの要素間での関わりのみではありません。1つの要素がもう1つの要素に影響を与え、さらに他の要素にまで影響を与えるという場合もあります。

たとえば、「点字ブロックの設置」という環境の変化が「駅まで一人で行くことができるようになる」といった活動の変化につながり、やがて「隣の駅で行われている講演会に一人で参加する」といった参加を促進することもあるかもしれません。さらに参加という体験がその人自身の自身につながれば、個人因子の変化が見られるようになるということも考えられます。このように、すべての因子がすべての因子に影響を与える可能性があるというのもICFの考え方の特徴です。

しかし忘れてはならない点は、これらの要素は相互に影響しあう前にそれぞれが独立したものであるという点です。たとえば身体に疾患があった場合、その疾患がその人の能力や健康状態にどのような影響を与えるかは必ずしも予測できるものではありません。

ICFを利用する際は、1つの要素を評価したことで他の要素を決めてしまうのではなく、はじめにすべての要素をバラバラに検討してから、それぞれの関係性を見ていくことが大切なのです。
次ページ「ICFの活用方法」

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