急性脳症の診断/検査

急性脳症の診断基準と検査方法について紹介していきます。

診断基準

◇臨床診断
2章で紹介したけいれん、意識障害などの症状がみられる場合に急性脳症だと臨床診断されます。また重症化すると昏睡状態にともなって次の症状がみられることがあります。

・発熱を伴うインフルエンザなどの感染症に罹患している
・意識障害がある
・けいれんがある(15分以上続くけいれん重積の場合もある)
・発熱後に異常言動・行動がある(両親が分からない・急に笑い出すなど)

また上記の他には出血傾向や血圧低下、尿の排出量の低下などの全身症状をともなうこともあります。
参考:急性脳症の診断と検査
https://www.childneuro.jp/uploads/files/about/AE2016GL/5ae2016_2diagnosis.pdf
参考:インフルエンザ脳症ガイドライン|厚生労働省 インフルエンザ脳症研究班
http://idsc.nih.go.jp/disease/influenza/051121Guide.pdf
◇確定診断
急性脳症において特徴的な脳浮腫が頭部画像所見でみられる場合は、けいれん重積型急性脳症または急性壊死性脳症などの急性脳症として確定診断がなされます。

髄膜検査、血液検査などによって確定診断を行うことはできず、頭部画像所見の検査が行えない場合などは意識障害の程度や持続性を観察したうえでの臨床的・総合的な診断を行います。

診断に必要な検査

◇頭部画像検査(CT,MRI)
急性脳症の特徴である脳浮腫があるかどうかを確認するために行います。

◇髄膜検査
髄膜刺激症状と30分以上の意識障害が伴う場合には髄膜検査を行います。髄膜刺激症状とは首の硬直や膝を曲げた状態で股関節を直角に屈曲し、そのまま膝を伸ばそうとすると抵抗があることをいいます(ケルニッヒ徴候などがあります)。これは急性脳症と似た症状がある髄膜炎や急性脳炎との鑑別のために行います。

◇血液検査
発症12~24時間後、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(以下AST)の軽度上昇がみられることがあります。ASTは細胞内でつくられる酵素のひとつです。肝臓もしくは心臓や腎臓などの臓器に多く存在し、体内でのアミノ酸代謝やエネルギー代謝の過程で重要なはたらきをします。このASTが何らかの異常で肝臓にある肝細胞が破壊されることにより、血液中に漏れ出します。急性脳症が疑われる場合はこのASTの値が上昇するといわれています。

◇脳波
夜間や何らかの理由により頭部画像検査ができなかった場合、脳波検査が用いられることがあります。また症状の経時的変化を把握する上でも脳波検査は有用といわれています。急性脳症の場合に特徴的な、びまん性の脳波などを示すといわれています。

この他にも医師が必要と認めた検査を受けることがあります。
参考:重篤副作用疾患別対応マニュアル 小児の急性脳症|独立行政法人医薬品医療機器総合機構
https://www.pmda.go.jp/files/000240130.pdf
参考:インフルエンザ脳症ガイドライン|厚生労働省 インフルエンザ脳症研究班
http://idsc.nih.go.jp/disease/influenza/051121Guide.pdf

急性脳症と似ている病気って?

似ている疾患

◇熱性けいれん
熱性けいれんとは38℃以上の発熱に伴って、意識を失い全身がけいれんすることを指します。小児期にみられる一般的な発作性疾患のひとつです。よく「ひきつけ」とも呼ばれています。生後6ヶ月~5歳の乳幼児期に発症し、日本では7~11%前後の割合で発症するといわれています。発熱から24時間以内にだいたい1~3分間のけいれんが起こります。けいれんは一過性のものであることが多いですが、乳幼児期には発熱の度にけいれんを起こす場合もあります。

熱性けいれんは発熱やけいれんなど急性脳症と似ている症状が発症しますが、短時間のけいれんで治まり、発熱時に1度だけ起こるだけで治まります。急性脳症のけいれんの場合、多くは15分~1時間程度続く長いけいれんである「けいれん重積」が起き、数日後には2回目のけいれんを群発的に起こします。
熱性痙攣(けいれん)とは?原因や対応方法、てんかんとの違い、救急車を呼ぶべき状態の見極めかたなどについて詳しく解説します【医師監修】のタイトル画像

熱性痙攣(けいれん)とは?原因や対応方法、てんかんとの違い、救急車を呼ぶべき状態の見極めかたなどについて詳しく解説します【医師監修】

参考:重症・難治性急性脳症|難病情報センター
https://www.nanbyou.or.jp/entry/746
参考:「公益社団法人 母子健康協会」
https://www.glico.co.jp/boshi/futaba/no72/con05_11.htm
参考:「熱性けいれん(熱性発作)診療ガイドライン2023」一般社団法人日本小児神経学会
https://www.childneuro.jp/modules/about/index.php?content_id=33
◇髄膜炎
髄膜は脳や脊椎を覆っている膜です。髄膜が炎症することによって高熱、激しい頭痛、悪寒、嘔吐など風邪に似た症状が発症し、けいれんや意識障害を引き起こす場合も珍しくありません。

髄膜炎も急性脳症と似た症状を引き起こします。急性脳症は脳の浮腫が原因で各症状が発症しますが、髄膜炎は髄膜の炎症によって症状が発症します。症状を引き起こす原因が異なるため、髄膜炎と急性脳症は違う疾患といえます。
参考:細菌性髄膜炎とは|国立感染症研究所 NIID
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/404-bac-megingitis.html
◇脳炎
脳炎はウイルスが直接脳に感染し、炎症を起こすことによって発症する疾患です。脳症と同様に高熱やけいれん、意識障害がおこります。脳炎と脳症の違いは脳内でウイルスが増殖することによって中枢神経に障害を起こしていると考えられれば脳炎で、脳以外の場所で起きている感染が、免疫異常などにより間接的に脳へ障害を起こすものが脳症です。

◇てんかん
てんかんとは慢性的な脳の疾患(障害)で、大脳の神経細胞が過剰に興奮することで発作が起こり、てんかんによる発作が繰り返しみられる状態を言います。てんかん発作は突然倒れて意識を失い、けいれんを起こすといったいわゆる大発作だけではありません。体の一部が勝手に動いたり、会話の途中にぼんやりしたと思ったら意識を失っていたりといった症状もてんかんの発作として考えられます。

てんかんは急性脳症とは異なり慢性的な脳の疾患です。さらに発熱時以外にもけいれんや意識障害などが引き起こされます。
出典:「脳炎と脳症」|岡山大学大学院 小児医科学教授 森島 恒雄
http://medical.radionikkei.jp/kansenshotoday_pdf/kansenshotoday-121003.pdf
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急性脳症かも?と思ったときの受診先と対応

急性脳症の場合は長時間のけいれんや意識障害など分かりやすい症状が表出します。できる限り早く救急車を呼んでください。けいれんが長引くほど後遺症が残る確率も高まります。

発熱して24時間以内に長時間のけいれんが起き、発熱後4~6日の間に2回目のけいれんが起こるのが急性脳症の特徴です。しかしはじめに起こる長時間のけいれんがまれに1~2分程度で終わってしまう場合があります。その後意識障害も続かない場合は熱性けいれんであると見立てられることがあります。

その数日後に2回目のけいれんが群発して起こるようなことがあれば、急性脳症である場合が高まります。もし、熱性けいれんと診断されてから4~6日後に2回目のけいれんを起こした場合は直ちに病院を受診してください。

<救急車を呼ぶタイミング>
・5分以上けいれんが続く
・けいれんが終わったが、その後も意識障害が続く(睡眠とは別)

<病院に行くタイミング>
・はじめてのけいれんが起こって5分以内に治まった
・2回目の短いけいれんが起こった

急性脳症の専門科目は脳神経外科や神経内科なります。けいれんが群発して起こっている場合が多いため、抗てんかん薬などでけいれんを治める必要があります。ですので、できる限り早い処置を行えるように救急などを受診するようにしてください。
次ページ「急性脳症がおよぼす後遺症」

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