「障害は一人ひとりの個性」そう思ってきたはずなのに、残っていた哀れむ気持ち

もし私が「そのまま地面においておけばいいよ」と少女に言ったなら、どうなっていたか。

少女はこのゴムは取るに足らないものなんだと恥ずかしく思ったかもしれません。勇気をふり絞って話しかけたのに突き放された気持ちがしたかもしれません。私自身が彼女の優しい心を傷つける当事者になるところだったのです。

彼女にとって、地面に落とされたものが財布であれ古いカラーゴムであれそんなものは関係なく、失くした人が困っているだろうと必死な思いで私達に託そうとしたのです。その思いを汲み取らず、次男の前で、長男と同じ知的障害のある少女の優しい心を置き去りにしようとしたことは本当に恥ずかしいことだと思いました。

わが子の自閉症が分かってから特に、障害は一人ひとりの個性であり決して恥ずかしいことではない、そう思ってきました。けれど自分の中にもやはり、障害のある子を哀れむ気持ちが残っていたことに気付かされたのです。

あの時、少女に話しかけられ、とっさに言葉につまった私とは対照的に、一緒にいたお母さんはとても自然でした。当たり前に人として訊ねられたことに人として向き合って答えた、ただそれだけのことだったのです。ただそれだけのことがいかに大変なことか。

障害者への偏見をなくそう、障害者と健常者の垣根をなくそう、そのことを意識した時点で、私の心の中にすでに大きな壁をつくっていた……。そのことに気付かされたできごとでした。
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