「好き」と「適性」どちらを選ぶ?自閉症の息子の接客訓練を見て…

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好きな仕事をして食べていけるのは、人として幸せなことだと思います。“好きなこと=将来の職業”と一致しているのが望ましいのですが、なかなかそういう訳にはいきません。そんなミスマッチを感じた、自閉症の息子の授業参観のお話です。

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自閉症の息子が取り組むことになった、特別支援学校での接客訓練

こんにちは。『子どもも親も幸せになる 発達障害の子の育て方』著者の立石美津子です。

私の息子は特別支援学校高等部に通う2年生です。

この学校では重度の障害のある子は「園芸班」「ホームサービス班」「工芸班」「紙工芸班」。中度・軽度の子は「事務班」「接客班」「清掃班」「食品加工班」「施設管理班」に分かれて、将来の自立に向けて訓練を受けています。

前回のコラムでは事務班、清掃班での様子を書きました。今日は接客訓練の様子です。
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接客班で練習している息子を見たくて私と祖母で学校へ行きました。

授業見学というより、実際に学校内にカフェがあって一般に開放されているので、私たちは正真正銘のお客さんとして、息子の職場にお邪魔したのでした。
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頑張る息子。でも噛み合わない会話①

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ここからは、カフェに入って実際に息子に受けた接客の様子です。

店に入り私たちがテーブルへ着きます。
息子がやってきました。
テーブルに水を置きます。
息子「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか」

私は、息子がどんな対応をするのか試してみたくなり、意地悪な客を演じることにしました。
そこでわざとメニューにはないものを注文してみたのです。

(メニューはこちら。飲み物しかありません。でも全て税込みで100円均一。しかも、クッキー付。この辺でコーヒー飲んだら最低500円はかかるので、良心的なお店です。)
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私「ショートケーキを下さい」
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この質問に息子は即答してきました。

息子「ありません」

率直にこたえてしまった息子は、先生から注意されて「申し訳ございません。ショートケーキはありません」と言い直しました。

意地悪な客がさらに
「え、ないの?ショートケーキを食べたかったんだけれど・・・」と追い打ちをかけます。

すると息子は
「ジュースをお選びしますか?」

と強制的にジュースを指定してきました。
私がびっくりした顔をすると、ジュースを勧めたのが良くなかったと勘違いしたのか今度は
「コーヒーをお選びしますか?」と指定してきました。

「え!お客に強要するんだ、この店員!」と心の中で笑いをこらえながら、少し不快な顔を繕いました。
結局息子は最後まで「申し訳ありません。この中でお選びください」とは言えませんでした。

そして意地悪な客はリンゴジュース、同席した私の母はオレンジジュースを頼みました。

ジュースをテーブルに置く時も、コースターを後から出してしまう間違いをし、すかさず先生に注意されていました。こうして、とりあえず一通りの接客は完了しました。
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噛み合わない会話② それは普通のお客さんにも…

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その後1時間ほど、私と祖母はカフェに居座り、息子の様子を観察していました。
すると、60代くらいのおじさんが来店。

おじさんは座るなりメニューを見ないで「リンゴジュースください」と言いました。
どうも常連さんのようです。

しかし、息子はお客から既に注文されているのにも関わらず、その声を無視して「ご注文はなんですか?」と聞いていました。おじさんは再び「リンゴジュースください」と言ってくれていました。

その後、リンゴジュースの準備が整い、テーブルまで運びます。

おじさんが「おいしそうだね」と気を使って声をかけました。ところが、息子はその声も完全無視して、マニュアルの手順通り「お帰りの際に伝票をレジまでお持ちください」と言いました。

それなりに出来ていた接客。でも…

お客の多くは知的障害のある生徒が働いているとわかった上で来店します。さらに店員の名札にも若葉マークがついています。だからメニューにないものを要求するような無茶振りをする客は来ません。

しかし、社会に出てレストランで働いたらそういう訳にはいきません。お客の声を無視すれば“感じの悪い店員”と言われます。理不尽なクレームや、予測できないトラブルにも対応していく必要があります。

息子は一生懸命マニュアル通り動いていましたが、その場に応じて臨機応変に対応することは出来ていませんでした。「やっぱり自閉症なんだなあ。コミュニケーション力ないなあ」とつくづく感じた光景でした。

同級生のダウン症の子は息子とは違い上手に対応し、笑顔で自主的に行動していました。
その子と比べて、「息子には接客は向いていないなあ」と思いました。

それでも、家ではあり得ない態度を見て母感動!

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でも、感動しました。

家ではずっと跳ねているのに、じっと起立していました。おかしな敬語を使っていましたが丁寧語は使えていました。無茶を言う客(私)にちょっと失礼な物言いをし、間違った聞き方をしていましたが、先生に教えられた訳でもなく、自分なりの対応も出来ていました。

そして、その日の学校からの連絡帳の先生のコメント欄には次のように書かれていました。「ご来店ありがとうございました。マニュアルに沿って接客する練習をしている最中なので、とっさの返事は難しいようでしたが、接客7用語を使いながら慣れてくれればと思います。店内でときどき手を後ろで組んでしまうことがあるので、前か横と伝えています」

※接客7用語
「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」「ご注文はお決まりですか」「恐れ入ります」「少々お待ちください」「申し訳ございません」「ごゆっくりどうぞ」
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先生はきちんと息子の対応を把握し、今後の課題を親に伝えてくれました。手厚い指導を受けていることに感謝の気持ちで一杯になりました。
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新たな息子の一面を発見できて、私にとってもワクワクの体験でした。家では私に対して暴言を吐く反抗期真っ盛りですが、外では“借りてきた猫”のようでした。その様子を見て「休息の場である家庭ではストレスを発散しているんだなあ」と思ったりもしました。

好きな仕事と、向いている仕事のギャップ

帰宅後、「清掃と事務と接客の中でどのお仕事が好き?」と聞いてみたら「接客!」と即答していました。

でも、自分の適性を無視してやりたい仕事に就いてしまった場合、学校内の喫茶店では許されていたことも、お客から苦情を受け、店側からも「なんでお前はそうなんだ!」と叱られ続けることになります。努力しても出来ないことを要求されて大きなストレスを抱えることになるかもしれません。

だからといって、向いているけど好きじゃない仕事に就いても、本人にとっては辛いはずです

2年後、卒業を迎えたとき、好きな仕事と向いている仕事とのミスマッチが起こり「接客の仕事に就きたい」とまだ言っていたらどうしよう?先生と面談しながら悩む私の姿を今から想像してしまいます。

でも私としては、息子が機嫌よく毎日出かけてくれることが一番の喜びです。なので「好き」を選ぶにせよ、「適正」を選ぶにせよ、息子が笑顔で働くことができるように、親としてできることを考えようと思っています。

このコラムを書いた人の著書

立石流 子どもも親も幸せになる 発達障害の子の育て方
立石美津子(著),市川宏伸(監修)
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