それなりに出来ていた接客。でも…

お客の多くは知的障害のある生徒が働いているとわかった上で来店します。さらに店員の名札にも若葉マークがついています。だからメニューにないものを要求するような無茶振りをする客は来ません。

しかし、社会に出てレストランで働いたらそういう訳にはいきません。お客の声を無視すれば“感じの悪い店員”と言われます。理不尽なクレームや、予測できないトラブルにも対応していく必要があります。

息子は一生懸命マニュアル通り動いていましたが、その場に応じて臨機応変に対応することは出来ていませんでした。「やっぱり自閉症なんだなあ。コミュニケーション力ないなあ」とつくづく感じた光景でした。

同級生のダウン症の子は息子とは違い上手に対応し、笑顔で自主的に行動していました。
その子と比べて、「息子には接客は向いていないなあ」と思いました。

それでも、家ではあり得ない態度を見て母感動!

でも、感動しました。

家ではずっと跳ねているのに、じっと起立していました。おかしな敬語を使っていましたが丁寧語は使えていました。無茶を言う客(私)にちょっと失礼な物言いをし、間違った聞き方をしていましたが、先生に教えられた訳でもなく、自分なりの対応も出来ていました。

そして、その日の学校からの連絡帳の先生のコメント欄には次のように書かれていました。「ご来店ありがとうございました。マニュアルに沿って接客する練習をしている最中なので、とっさの返事は難しいようでしたが、接客7用語を使いながら慣れてくれればと思います。店内でときどき手を後ろで組んでしまうことがあるので、前か横と伝えています」

※接客7用語
「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」「ご注文はお決まりですか」「恐れ入ります」「少々お待ちください」「申し訳ございません」「ごゆっくりどうぞ」
先生はきちんと息子の対応を把握し、今後の課題を親に伝えてくれました。手厚い指導を受けていることに感謝の気持ちで一杯になりました。
新たな息子の一面を発見できて、私にとってもワクワクの体験でした。家では私に対して暴言を吐く反抗期真っ盛りですが、外では“借りてきた猫”のようでした。その様子を見て「休息の場である家庭ではストレスを発散しているんだなあ」と思ったりもしました。

好きな仕事と、向いている仕事のギャップ

帰宅後、「清掃と事務と接客の中でどのお仕事が好き?」と聞いてみたら「接客!」と即答していました。

でも、自分の適性を無視してやりたい仕事に就いてしまった場合、学校内の喫茶店では許されていたことも、お客から苦情を受け、店側からも「なんでお前はそうなんだ!」と叱られ続けることになります。努力しても出来ないことを要求されて大きなストレスを抱えることになるかもしれません。

だからといって、向いているけど好きじゃない仕事に就いても、本人にとっては辛いはずです

2年後、卒業を迎えたとき、好きな仕事と向いている仕事とのミスマッチが起こり「接客の仕事に就きたい」とまだ言っていたらどうしよう?先生と面談しながら悩む私の姿を今から想像してしまいます。

でも私としては、息子が機嫌よく毎日出かけてくれることが一番の喜びです。なので「好き」を選ぶにせよ、「適正」を選ぶにせよ、息子が笑顔で働くことができるように、親としてできることを考えようと思っています。

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