こだわりをソーシャルスキルに!息子の「困った行動」への見方を変えてくれた、海外の療育法

ライター:林真紀
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発達障害があり幼少のころから興味の範囲が狭く深い息子。アニメや漫画はいつも同じものばかり見て、セリフを全部暗記してしまうほどです。そんな息子の日課は親から見たら、「また?」と思わずため息をつきたくなるもの。でも、そんな息子の特性も、うまく利用すれば「ソーシャルスキル獲得」につながるのかもしれないのです。

ちょっとうんざり!?毎週土曜にわが家に流れるテーマソング

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土曜日の朝、家族の誰よりも早起きな小学2年生の息子。朝の6時から毎週、同じアニメのオープニングソングが鳴り響きます。

ここ何年も、これが土曜日の朝の恒例です。息子が好んで見るアニメは、3つぐらいしかありません。しかも、一度見たものを録画して繰り返し繰り返し見るのです。当然、セリフは全部暗記。各シーンの絵の配置なども細かく暗記。暗記するほど何度も見たあとは、おもちゃのブロックでその場面を再現したり、絵に描いたりして楽しみます。息子にとって「好きなアニメは、1本で20回ぐらいは美味しく楽しめる」感じです。

とはいえ、家族は少しうんざりです。土曜日の静かな朝に決まって流れてくる同じ音楽。息子がテレビをつけるときの、全くバリエーションのないその選局っぷり。

「ねえ、たまにはさぁ、違うアニメ見たら?」

私はついつい息子に別のアニメを見るように促してしまいます。それは、私自身にとても自分勝手な要望があるせいです。私は息子の姿を見ていると、いつも思ってしまうのです。「もっと世界を広げてほしい」「いつも同じ番組ばかり見ているので世界に広がりがない」

私は必死に息子が好きになりそうな別のアニメを探してきては、息子に無理やり見せました。けれども、そのたびに息子は「あと何分見なきゃダメ?」「またこれ見るの?」「なんのために見るの?」と苦痛をあらわにするのでした。アニメでこれだけ苦痛な気持ちにさせて何の意味があるのだろう、と私の中で迷いが生じ始めました。

そしてある日、気づいたのです。親の意思でいろいろなものを見せて無理やり世界を広げることは、この子にとって苦痛でしかないのだと。そもそも、「同じものばかり何度も見る」ということに対して、なぜ私はそこまでネガティブに捉えていたのでしょうか。

それをネガティブに捉えること自体が、息子の「世界」を狭めてしまっていたということに、私はある映画を観て気づいたのでした。

映画に登場した両親が確立させようとしている「アフィニティセラピー」

その映画とは、2017年4月に公開されたドキュメンタリー映画『ぼくと魔法の言葉たち』。

2歳のときに突然言葉を失った自閉症の少年・オーウェンが、大好きなディズニーアニメを通じて徐々に言葉を取り戻す様子と、社会に出て自立に向かっていく姿を描いた映画です。

発達ナビでも記事になったので、ご記憶の方もいらっしゃるかもしれません。
ディズニーが異例の映像使用許可!自閉症児のドキュメンタリー映画「ぼくと魔法の言葉たち」
https://h-navi.jp/column/article/35026225
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言葉を失っている間も、オーウェンは、大好きなディズニー映画を何度も何度も観ていました。そして、数年後に再び言葉を話すようになりました。オーウェンは観ていた映画のセリフやシーンを社会と結びつけることによって、言葉や社会性を身につけていくのです。

こちらの記事でもこのように書かれています。
彼にとってディズニーの物語は、目の前の人や社会を理解するための枠組みとなりました。ディズニーアニメ特有のオーバーなアクションや豊かな表情は、自閉症の彼にとっても理解しやすい物語だったのです。
出典:https://h-navi.jp/column/article/35026225
医者から無理だと言われても、彼の特性や興味に気付き、諦めず、粘り強く語りかけていった結果、オーウェンはディズニーのセリフを使って家族とコミュニケーションを取れるようになっていきます。
出典:https://h-navi.jp/column/article/35026225
オーウェンは、「外側」から誰かが無理やり世界を広げさせたのではなく、本人が好きなものやこだわりを通して、世界と繋がっていったと言えます。

実はオーウェンの両親、ロン・サスカインドとコーネリア・サスカインドは、このやり方をセラピーとして確立させようとしています。さらに洗練させた「アフィニティセラピー」を、心理学者のダン・グリフィン博士と開発しているのです。

オーウェンはディズニーのアニメ映画がきっかけでしたが、人によって関心の高いコンテンツはそれぞれです。この方法はどのコンテンツでも適用していけるものとして考えられています。

「アフィニティ(affinity)」とは、日本語で「親しみ、親近感、一体感」という意味があります。大人が良しとしたものからその子の能力を引き出すのではなく、その子が「親近感」「一体感」を持つ対象から、言葉や社会性を獲得させるのです。アフィニティセラピーのステップについて簡単にまとめてみると、以下のようになります。

1.その子に好きなコンテンツをたっぷり見せる。セリフや動きなどを親が子どもにアイコンタクトをしながら繰り返すことによって、言葉や仕草、アイコンタクトを教えていく。
2.登場人物の表情を見ながら、「彼は悲しいのだね」「この子は嬉しいんだよ」というように、そのときの登場人物の感情を表す言葉を隣から教える。
3.登場人物の動きの真似をする。一緒にダンスをすると、自分の身体の傾きやスピード、回転を感じる「前庭覚」を刺激できる。
4.日常の中で、コンテンツの中に出てきた会話を使ってみる。そうすることで、言葉の使い方を社会生活の文脈の中で理解できるようになる。
5.何人かで役割を与えて、その子とコンテンツの内容をロールプレイで演じる。これで、他者との共同作業の中でコミュニケーションや人の気持ちを学んでいく。

現在、その有効性について、アメリカのマサチューセッツ工科大学、イエール大学、イギリスのケンブリッジ大学が共同で検証を行っている最中です。
Tapping Affinity some Techniques, Concepts and Guidelines(「アフィニティ」を利用して ~テクニック、コンセプト、ガイドライン~)
https://affinitytherapy.sciencesconf.org/conference/affinitytherapy/pages/Some_techniques_concepts_guidelines_AT_suskind_griffin.pdf
Affinity Therapy: The Return of a Psychodynamic Approach to the Treatment of Autism(アフィニティセラピー:自閉症療育への心理力動的アプローチ)
http://www.autistes-et-cliniciens.org/Affinity-Therapy-The-Return-of-a-Psychodynamic-Approach-to-the-Treatment-of

繰り返し見るアニメ、そこに成長のヒントはたくさん

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初めての人と会うとき、初めての場所で自己紹介をしなければならないときでも、息子は何の問題もなくしっかり人とコミュニケーションを取ることができます。けれども、途中で私は気づくのです。

「あれ?このセリフはどこかで聞いたことがあるぞ」と。

そうです、息子は、緊張が高まってうまく話せない状況になると、テレビや映画で暗記した言葉をうまく口に出して乗り切っていることが分かったのです。息子にとって、暗記しているテレビや映画の言葉は、緊張してうまくコミュニケーションができないときに引っ張り出す引き出しのようなものなのです。

息子は、暗記した言葉を自分なりにつくり変え、シチュエーションを理解したうえで、使いこなしていたのでした。これを社会性と言わず、なんと言うのでしょうか。まさに、オーウェンがしていたコミュニケーションと同じだと気づきました。

初めての状況、困った状況、息子はこれから親が助けられないような状況にもたくさんぶち当たっていくだろうと思います。そのときにどうしたらいいのか。相手とどうコミュニケーションを取ったらいいのか。

それが、「あのときテレビでこうやっていた!」「あのとき、あの登場人物はこう言っていた!」というように引き出しから引っ張り出してこられたら、それはどんなに素敵なことでしょう。アフィニティセラピーは、そんな視点から開発されているのだと思います。

息子が何度も何度も暗記するほど同じ番組を見て、登場人物の言葉を完璧に真似するたびに私はずっとどんよりとした気持ちになっていました。けれども、実はそれは息子にとってとても大切な「スキル」だったのです。

それを知ってからは、息子が好きなテレビや映画にこだわることについても、とてもポジティブな気持ちで見られるようになりました。

親の考えで息子から好きなものを取り上げて、ほかのものを与えるのではなく、息子の好きなものを通して世界と繋げてあげる…そんな風に取り組んでいこうと決めたのでした。
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