すぐ実践したい31のワークが掲載!発達支援プログラムの虎の巻『発達障害の子の気持ちの聞き方・伝え方』

ライター:発達ナビBOOKガイド
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合同出版
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多くの人たちが自然とできるようになることが、発達障害のある人にとっては難しいことがあります。そのため、日常生活や社会生活を送るうえで困る場面も多くあります。でも、状況に合わせて「うまくいくスキル」を身につけていけば、楽しく過ごすことができる。それは自立・就労にもつながっていきます。
『発達障害の子の気持ちの聞き方・伝え方』(合同出版)は、場面や子どもの状態に合わせた「できること」を身につけられるように工夫されたワークブック。家庭や特別支援学校、療育機関などさまざまな現場で役立ちそうです。

楽しく生きるためのスキルを身につける31のワーク

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出典 : http://amanaimages.com/info/infoRF.aspx?SearchKey=10230001653
多くの人たちが自然とできるようになることが、発達障害のある人にとっては難しいことがあります。例えば、人とのコミュニケーションもそのひとつです。

コミュニケーションと一口にいっても、「相手との距離」「声の大きさ」「表情」など、さまざまな要素が含まれ、さまざまな要素が絡み合っています。でも、「この場面ではこうする」というように、状況に合わせて「うまくいくスキル」を身につけられれば、楽しく過ごすことができるようになるでしょう。それは自立・就労にもつながっていきます。

ではそのために、どんな風にスキルを教えていけばいいのでしょう?『発達障害の子の気持ちの聞き方・伝え方』(合同出版)では、31のワークを通し、スモールステップで、子どもたちの「困った」「分からない」を「できる!」へと変化させてく方法が紹介されています。それでは、具体的にどのようなワークが紹介されているのかを、見ていきましょう。
発達障害の子の気持ちの聞き方・伝え方 (6歳児から使えるワークブック 2)
アスペエルデの会 (編集), 辻井 正次 (監修)
合同出版
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「どうしたらいいかわからないこと」を対応可能なことに

発達障害のある人は、どうしたらいいかわからないから、その場の行動や対応に困ってしまいます。本書では、日常でよくある行動の例をあげながら、「できないことを対応可能にしていく」スキルを、具体的でわかりやすい31のワークにまとめています。

イラスト中心で子どもが取り組みやすいワークのつくり

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たとえば、発達障害のある子どもは「適切な大きさの声で話すためにはどうすればいいか」わからないときがあります。そこで、”話す声の大きさのワーク”では、場面によってふさわしい声の大きさは違うことを知り、ちょうどよい声を自分の体の感覚でつかむ練習をします。

・身につけたいこと
①話すときの適切な声の大きさや姿勢
②場面にあった声の大きさ


このスキルを身につけるために、次のようなワークに取り組みます。
・自分の声はどのくらいかを知る…声の大きさを5段階で示し、自分の声はどのくらいかイメージする。それをもとに、さまざまな場面ごとに声の大きさを練習してみる
・適切な声を出すための姿勢を知る…よい姿勢をつくるための具体的な方法、よい姿勢かどうか確認しやすいチェックポイント
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また、困っているのにどう振る舞えばいいのかわからず、不適切な行動をとってしまうということも多くあります。困った場面で誰になにを言えばいいか知っておくだけでも、安心感につながり、パニックを避けることができます。

・身につけたいこと
①困ったときに助けを求める方法を知る
②場面や相手に応じた表現の仕方がわかる


このスキルを身につけるために、次のようなワークに取り組みます。
・誰に助けてもらうか、相手への言い方を知る…場面に合わせて助けてもらう相手を選ぶ、助けてもらう相手に合った言い方を選ぶ
・助けを求めるバリエーションを増やす…生活の中のさまざまな困ったシチュエーションを提示し、誰にどう助けを求めるか考える

どのワークでも、生活の中で想定できるいろいろな場面で「こうしたら、困ることも少なく対応できる」というノウハウが、イラストつきでわかりやすく解説されています。すぐに実践できて身につきやすい練習方法もあるので、支援する方も子どもも取り組みやすくなっています。
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また、子ども自身が記入するワークもたくさん盛り込まれています。

「この子の話しかけ方はどこが間違っているかな?」「話しかけられた子はなぜ驚いているのかな?」などの質問に答えたり、「練習した後の感想」を書くなど、子ども自身が記入していくワークは、学校の授業などで実践した場合の後の振り返りなどに応用することもできそうです。

かき込み式のワークについても、「表情」「話す速さ」「あいづちの打ち方」など日常生活の場面から、「手紙やメールでの伝え方」「報告・確認の大切さを知る」など、項目は多岐にわたっているので、それぞれの子どもが今身につけたいスキルに合わせて活用することができます。

大人向けの「指導のポイント」や「こんなときはどうする?Q&A」ページも

「指導のポイント」では、実践的なアドバイスが掲載されており、どのようにスキルを育めばいいかが分かりやすくまとまっています。

たとえば、”言葉で表しにくいあるいは伝えにくいことは、ジェスチャーで伝える”ことを学ぶワークでは、
・「大きさを表そう」ではなく「ペットの大きさを表してみよう」など、何を表すのか具体的に決める
・子どもがジェスチャーで表現しているところを写真や動画で撮影することで、一緒に確認でき、「上手にできた」という成功体験にもつながる

といった具合に、ワークに取り組む際、子どもに伝えたいポイントや指導上の注意点なども詳しく紹介しています。
「こんなときどうする?」Q&Aコーナーも設けられ、迷いやすいシチュエーションについて、どうすればいいかが解説されています。

例えば、”話し合いで意見をまとめよう”というワークでは、3~5人のグループで話し合い、全員の意見をひとつにまとめることを学びます。そのワークの中で「すぐに自分の意見を取り下げてしまう子がいるときに、どうすればいいか」という質問に対して、「本人にとって主張する意味がある話題を選ぶ、話し合いのグループのメンバーを変えるなどの配慮をする」など、どのようにしたらいいのかについて詳しく回答されています。

著者に聞く、スキルにつながる「ヒント」を詰め込んだ1冊ができるまで

本書出版のきっかけは、「アスペ・エルデの会」(※)が出版していたさまざまなワークブックがとてもユニークかつ実用的だったことから、合同出版が「ボリュームアップして、一般市販化したい」とお願いしたことでした。このシリーズは全6巻として企画され、現在2巻目まで刊行されています。
※1992年に専門家と発達障害の子を持つ保護者が設立した、子どもへの支援の仕組みを作る会

今回は、著者の水間宗幸先生と小倉正義先生(アスペ・エルデの会)に、どのような背景でこの本がつくられたのか、どう使ってほしいと考えているのか、本に込めた思いなどをお聞きしました。

実践や話し合いを重ねて選定された「身につけたいこと」

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著者の一人である、水間宗幸先生(九州看護福祉大学看護福祉学部社会福祉学科 専任講師)
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――書籍では、項目ごとにどのようなことをすればよいのか、身につけたいことが紹介されています。この項目は、どのように選定したのか教えてください

水間:基本的には、アスペ・エルデの会が主催する“日間賀島合宿”で作成したプログラムをもとにつくっています。気持ちを含めた「やり―とり」が苦手なお子さんたちに、どのようなコミュニケーションの「型」があれば、少しでも上手になるだろうかという視点でプログラムを作成しました。選定した項目を見てみても、それだけいろいろな「型」や表現形態があるということです。

小倉:先行研究や臨床経験にもとづきながら、発達障害がある子どもたちがコミュニケーションスキルを伸ばしていくために必要な段階を、スモールステップで項目化していくところから始めました。また、何から紹介すると理解しやすいかなどを話し合いながら、順番を整理したり、伝わりやすい表現や取り組みやすいワークになるよう、まとめていきました。

――ほぼすべての項目をワーク形式にした背景を教えてください。

水間:抽象的な方法を文章で説明よりも、支援する人にとっても分かりやすくやりやすいように、支援方法もまた具体的な「型」にしたんです。スキルをあくまでもひとつの「ひな型」として提示し、各家庭や現場、お子さんの個性などに合わせて、それぞれ取り組みやすい「型」をつくることができるようにしました。

コミュニケーションスキルは、楽しんで身につけるもの

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著者の一人である、小倉正義先生(鳴門教育大学大学院学校教育科 准教授)
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――本書では、さまざまなスキルをゲーム感覚で楽しみながら身につけられるようつくられています。書籍化の前に子どもたちに実践したことや、どんなフィードバックがあったか、参考になったことを教えてください。

水間:コミュニケーションに関するトレーニングについては、「楽しく取り組めること」という考えをいちばん大切にしています。「嫌だな」「やりたくないな」と感じてしまったら、どんなに大切なスキルトレーニングでも、取り組んでもらえないでしょう。本来コミュニケーションスキルは、遊びなどの楽しい「やり―とり」の中で発達していくもの。それこそが、コミュニケーションの基盤を育てることにつながります。

本書で紹介しているのは31項目ですが、実際にはもっとたくさんの項目をピックアップし、ワークも作成しました。そして、“日間賀島合宿”などで、支援者と子どもたちに実際に取り組んでもらいました。その結果、子どもたちがスキルを身につけやすかったワークを中心にまとめました。

小倉:そうですね。この本で扱われているワークは、アスペ・エルデの会の合宿や日ごろの子どもたちのニーズに合わせて実践してきた一部をまとめたもので、いろいろな先行研究の知見やそれぞれの著者の臨床経験をもとにつくられています。

これまでのやり方では子どもたちにうまく伝わらない、あるいはモチベーションがあがらないことも、こうすればうまく伝わったという具体的な方法や、興味ややる気をもって取り組んでくれた点などをすべて参考にしながら、ワークとして載せました。さらに、ポイント別に詳しく説明も加えています。

――この本を、どんなふうに使ってもらえたらと思っていますか。

水間:この本のコンセプトは、「必要な子どもに、必要なスキルを、どのように伝え教えるか」というもので、いわゆるヒント集です。最初から順番にやっていかなくてはならないというものではなく、目の前にいるお子さんに合わせて、必要だと思われる項目を選んで実践してほしいと思います。

また、本書はお子さんがどのようなスキルが苦手なのか、ということに支援者が気づけるものでもあります。そして、うまくいった、うまくいかなかったと、お互い笑いながら、「気がつくと前よりちょっと上手になってるよね、楽しいね」という場面が増えていけばいいな、と思っています。

小倉:この本で紹介しているスキルやワークは、あくまでも「ひな型」であり、書いてあるままやればすべての子どもがうまくいくわけではありません。ただ、使ってもらいやすいような工夫は随所にされているので、この本を「ヒント」に、子どもたちや保護者、支援者の方に活用していただければと思います。

また、全6巻シリーズで、ほかにもさまざまなスキルについてのワークを紹介しています。どれも相互に関係しているので、たとえば本書のワークの意味を理解してもらうためにも、1巻『気持ちのコントロール』を参考にしてもらえたらと思います。

輝けるスキルを身につけて、素敵な大人になる日はしっかりやってくる

最後に、発達ナビユーザーへ向けて、著者の水間先生と小倉先生からメッセージをいただきました。

水間:私も困り感を持つ、発達が気になる子どもたちと長い時間を過ごしてきました。関わってきた子どもたちはいい感じの大人に成長し、仕事にもつき、時には私も一緒にお酒を飲んだりしています。保護者の方が困ったり、苦労したりして、手をかけた分、きっとおいしいお酒になっていくと思うのです。そういう時間が、いつの日かしっかりとやってくる。支えあいながら、その日をみんなで楽しみにしましょう。

小倉:「この本に書いてあるとおり教える」書籍というよりは、一人一人のニーズに合わせることができるために多くのヒントを詰め込んだ書籍になっていると思います。一人一人が輝けるスキルを身につけるために、本書を役立てていただければと願っています。

最後に、この本のポイントをおさらいしてみましょう。

●相手の気持ちを正しく読み取ったり伝えたりするための実践的なワークが掲載されています

●イラスト主体のつくりで、子どもたちにも分かりやすいよう工夫されています

●指導する大人向けの教え方のコツや、疑問に感じやすいことがらはQ&Aで解説されています


スキルをコツコツと積み重ねていくことで、発達が気になる子どもたちの「できた!」を増やしていくときの、パートナーになってくれる一冊となりそうです。
発達障害の子の気持ちの聞き方・伝え方 (6歳児から使えるワークブック 2)
アスペエルデの会 (編集), 辻井 正次 (監修)
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文/田崎美穂子
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